上 下
231 / 237
《裏技》マスター、記憶を失う

一人の勇者 ③

しおりを挟む
「ふっはぁー!」

 あの後も沢山の人に言い寄られながら、パーティーが終わり、私は家に帰ってベットに勢いよく横たわった。

「疲れたー……」

 流石にあの短時間にあの量の人から言い寄られると疲れるわね……。

 しかもその都度ちゃんとした受け答えをしなきゃだし……。

「取り敢えず、寝るとしましょ……」

 シャワーとかは明日で良いわよね……。

「……グゥー」

 そして私は意識を落とした。

「……あれ?」 

 ところが、落ちた〝先〟があった。

「ここは……森……?」

 あっ、これ夢ね。

 夢って分かるって事は……明晰夢めいせきむってやつよね。

 やったー! 私明晰夢見るの初めてー!

 明晰夢を見たらやってみたい事あったのよねー!

「んー! 私ー、飛べー!」

 そう、空を飛ぶ事!

 やっぱ空をスイスイ飛ぶのって夢よねー。

「……あれ?」

 でも、飛べなかった。

 おかしいわねー……明晰夢なら飛べる筈なんだけれど。

 もしかして……明晰夢じゃない……!?

 ……そんな訳ないか。だって今私は寝てるはずだもの。

「ええそうです。現実の貴方は寝ております」

「!?」

 突如、森林の影から一人の女性が現れてそう言った。

「だ、誰!?」

「私は、リリーフィアと申します。種族は精霊種スピリットです」

「ス、精霊種!?」

 この対応からは精霊種とはとても思えない。

「はい、今回私は勇者である貴方に用があってこの場に貴方が見る筈だった夢を利用して呼び出しました」

「は、はあ……それで、用って何なんです?」

「私達の森の奥にある勇者の剣の話は聞いたでしょうか?」

「はっ、はい。でもどうしてそれを……あっ、もしかして貴方が……!」

「そうです。私があの方に勇者の剣の情報をお渡ししたのです」

 リリーフィアさんだったんだ……。

「それで、その情報をお渡しした理由ですが、貴方にその剣を抜いて頂きたいのです」

「わ、私に?」

「ええ、だって貴方は、勇者でしょう?」

「まあ、そうですけれど……」

「勇者の剣は、勇者にしか抜けません。ですから貴方が抜く以外の方法で抜く事は出来ません」

「な、何故剣を抜いて欲しいんですか?」

「貴方も知っているでしょう? 魔王が強力な軍を作って侵略して来ている事を」

「はい」

「その軍勢が、我々の森を侵略しようとして来ているのです。そして我々の力でも数が多すぎて倒せないと分かり……そこで勇者である貴方にどうか止めて欲しいのです」

「あのー……勇者が言っちゃいけないセリフだと思うのだけれど、それ私にメリットなくない?」

 私は出来る限り安全に魔王を討伐したいのだけれど……。

「メリットはございます。そう、貴方が抜く勇者の剣こそが、貴方にとってのメリットなのです」

「どういう事ですか?」

「貴方が抜く勇者の剣は、別に私達の森に迫っている軍勢を倒したら返せなんて言いません。むしろ持って行って頂いて構いません。世界を救うためですから」

「なるほど……」

 勇者の剣を手に入れられるのは相当良いわね。

 やっぱり魔王に対しては勇者の剣が有効だってのはお決まりだし。

 手に入れて損どころかメリットしかない……よし、決めたわ!

「ならばやるわ!」

「おお! そう言って頂けて幸いです!」

「では、貴方の脳内に私達の森への地図と、その勇者の剣のありかの場所までの地図を……何というんでしょうか、インプット……だと貴方は分かりませんよね……えーと……記憶させます」

「は、はあ……」

 何となく言っている意味は分かった。

「それじゃあ、そろそろ起きる時間ですよ」

「え?」

「では、また森で会いましょう」

「うわっ!?」

 その瞬間、私の体は浮かび上がり、ヒューッと後ろの方へと飛んでいった。

 そして、段々と視界が白くなっていったのだった。

「はっ!」

 目覚めると、朝日が目に入った。

「あうっ」

 目を抑えて、ジンジンするのが治るのを待つ。

「よいしょっと」

 ジンジンするのが治ると、着替えをして剣を腰に差した。

 そして……

「精霊種の森へ、行きましょうか!」

 そう言って私は部屋を飛び出したのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!

uni
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:674pt お気に入り:246

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:191pt お気に入り:802

手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,793pt お気に入り:2,510

カフェへの依頼

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:726pt お気に入り:11

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:2,967pt お気に入り:2,423

凄い人を決めよう

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:832pt お気に入り:2

処理中です...