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2-3:始まりは終わり、動き出す
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「拠点を作った方が良いと私は思います。この建物に居続ければいつか襲撃されるのは目に見えているからです」
「確かに敵の建物にとどまり続けるのは危険ですね。ですがここから移動するにしても、どうするんですか?」
「通堂さんのお力を使います。ロロ=イアに発見されにくいように地下に拠点を築くのです。
物置の様な場所から、埃は被って居ましたけれど発電機を3台とポリタンクを発見しました。電気……もとい光源は確保可能です」
「今は早く作った方が良いと考えれば構造は単純な物になるかな。土を溶かして固めても強度に不安があるからこの建物の壁を素材に使うとして。発電機が3台か……。まずは最低でもこの場にいる全員が雨風凌いで眠ることが出来る場所を確保してから。第2拠点、第3拠点を作った方が良いかな。同じ場所にとどまり続けるのも危険だと思うしね。それと……ダミー用の穴も作ろうか」
方針状、とりあえず戦いの下地を作り闘いに備える。拠点を作るその間。天月博人は「ロロ=イアの目を引かせる為に適当な施設を襲ってくる。明日にはこの研究所の休憩室に寝ているから迎えに来て、拠点に案内してくれ」と言って刃物を1本、拳銃を1丁を手に持って出向こうとするが。それは楽善二治が立ちふさがる形で阻まれた。
「天月君、君に異能力? が有るのは聞いたよ。それはここを壊滅できたことから本物だと思う。でもね、私はだからと言ってみすみす行かせるのは違うと思うんです。武器を手に取るべきなのは私の様な大人であるべきだと。そう思うんです」
「ジブンの代わりに戦いに行きたいと? 死にますよ」
「うっ……でも、いや、だからです。死んでしまうかもしれない。そんな場所に君の様な子供を行かせるのは間違っている筈なんです。……すいません、断言します。それは間違っています。私的な見解で申し訳ございませんが言わせてもらいます」
楽善二治は真っ直ぐ、それでいて真剣な目を、天月博人の目に合わせた。
「子供は未来を担う尊い宝なんです。そんな子供を死から護ろうとせずして何が大人ですか。天月君、君だって子供なんです。だから、君が危険に身を投じるくらいなら、代わりに大人である私に命を張らせてください」
「うはー、楽善君がまるで昭和に取り残された子供好きの正義漢みたいなく青っさいこと言ってるねー……茶化すなって感じだね。はいはい、僕みたいなオジサンは黙ってるよ」
先達が過去から奮闘し走り抜けてつなげた今を生きる大人が、子供を自身が先達にしてもらったように護り、土台を作り、導きたい、そう言った思いが感じられた。なるほど未来ある子供たちは尊い存在なのだと楽善二治の言葉から理解して、天月博人はその言葉を受け入れた。だが。
「複数ある問題として……とりあえずわかりやすいのを1つ。楽善さんはジブンの代わりになることはできません。何故か、筋肉の着き方、骨の歪み方からアンタとジブンの単純な戦闘力差があると見えました。……貴方は、喧嘩もしたことが無い様な優しく、善い人だ」
「えっ、どうして……」
「ジブンが言っても納得はできないでしょう。だから楽善さんはそのまま立ち塞がったまま本気で止めにかかってください。ジブンはそれを倒して進みますので」
ほんの少し、骨を歪めてしまう事に成るのを申し訳なく思いながら歩みだす天月博人とする楽善二治は身構えるが天月博人に接触した瞬間、腕をつかまれて強く引っ張られる。思い通りになる物かと抵抗すると、後ろ足首を蹴られ、自身を引っ張っていた腕は自身の腹を押し、床に倒されていた。
終りの無い闘いに身を投じることを決めた男の初戦は、敗北に終わった。
「今のは地面に踏ん張らなきゃ、引っ張り合って拮抗させようとするとは。そりゃあそういう風に力を利用されるよ」
「煩いですよ……はぁ、少年に見えて実は青年だったりしないでしょうか」
「どうだろうね……君はそれで求めていただろうけどよ。ほれ、初対面の子供相手に泣きそうになっていないで立ちなさい。僕たちは僕たちで仕事だよ」
「青年だってまだまだ子供ですからね……あぁ、私は無力だ」
「さてと」
一枚の地図を手に携帯端末を目に装着して起動させる。電池は大丈夫だ日光をレンズを当てて居れば太陽光発電により充電される。遠慮はしなくていい。
『やっほー、ニコだよ! で、なんでずっと起動してくれなかったの!? ニコは暇で暇でしょうがなかったんだよ!』
プンプンと怒るニコを尻目に、カメラツールを使用して地図の記録をとると地図をしまい、移動しながらメモツールを起動記憶の限りの資料を記録していく。
『んぅ? 世界地図と比較。該当なし、無人島の可能性……博人の書き込みを確認……有人の可能性上昇。ロロ=イアに関する情報を個人データベースから検索、該当無し……なにこれどういうこと?』
「落ち着いたら頃合いを見て後で話す。……あの人たちと信頼関係を築けたら、ニコを紹介しないとなぁ」
『何で予防線を幾つも張ったのかな!?』
「ははは、予防線大好きな人なんていっぱいいるだろ。だから気にするな……さて、そろそろ電源を切るぞ」
『えっちょっと待っ____」
天月博人は視界にロロ=イアの施設が入ると、携帯端末の電源を切って、鼻の髪留めを携帯端末のベルトに通して1つにし。一輪の花が目印になりそうな茂みの中に隠す。万が一でも壊れない様に。
「行くか」
軽い準備運動をした後、拳銃を握りしめて、扉の前に立った。
(出入口に鍵はなく、見張りも居ない。まるで、此処で動けるのは自身らの味方の実と思っているかのように。あまりにずさんすぎないか? こちらとしては楽でいいけれども)
これから始まる闘いには、ほんの少しだけ天月博人にとって大事な意味がある。
「誰か来る予定有ったか?」
「いや? なかったと思うけど…………子供!?……何だ君は!?」
「どうも、初めましてと言うべきか組織単位で見て、また会いましたねと言うべきか……とりあえず。たとえどれだけ崇高な目的、もしくは犠牲を積み重ねた果てにある大きな善行の為に動いているかもしれないロロ=イアへ。ジブンはアンタたちの敵対者です。よろしく」
拳銃を両手でしっかり持って構え、とりあえず撃つ。1発目失敗。2発目、成功。3発目、失敗。4発目、成功、5発目、成功、6発目、頭部に命中。ロロ=イア人員その1人は死亡した。
激情して居ないこの頭で考え、確かな自分の意志で殺したのだ。後戻りはできないというのに何か元に戻る希望を抱いていた自分に「もう無理だ」と心の底から理解し、覚悟させる為に。これで、心だけはロロ=イアの真の敵になれた。
弾丸の無くなった拳銃を腰のベルトに差し込む様にして、目の前で仲間が殺されたことで腰が抜け、何処かに逃げようとするロロ=イア人員に加速しながら、メスの様な刃物を手に持ち、走り寄り、言葉も出ないくらい取り乱しているロロ=イア人員の喉元に、刃物を引っ掛け、押し込みながら引く。
(銃の反動で腕が痛いし、血の匂いが酷いし、目の前に自分が凝りした死体と息ができず苦しみ死に行く人がいるしで…………はぁ、気分が悪くて吐きそうだ)
目の前にある死体と、喉元を抑え死にゆく人から身包みを剥ぐ。どこかに引きずって隠そうかとも思ったが血痕があってどうせ見つかると判断したため放置する。
多くを殺した。天井から降って肩に乗り流れるままに首を切って殺した。転ばせて頭を踏みつぶして殺した。自分の意志で殺した。殺した人の中には心根が善い人もいただろう。だけれどそんなものは敵という関係上、善も悪もないし。そもそも天月博人にはそれを知る由もない。
「9、10……最後の檻には1人だけだから合計11か中々かな」
地下牢を歩く、牢の鍵束をてに中にいる人間を確認する。人数は11人。印象に残ったのは最奥の檻にに1人だけいた。首と四肢に枷を付けた傷だらけで大柄な男だった。
「おい、何だ……お前?……子供が何でこんなとこに居やがる。ロロ=イアの子供たちかなんかか?」
「ロロ=イアの子供たち? 何だそれは……いや、ごめん。ジブンが何かと言う問いに答えてから聞こうか。ジブンは天月博人、ロロ=イアの敵だ」
「へぇ……そりゃあいいこと聞いた。俺は中田文兵だ。鍵は……持ってるみたいだな。なら出してくれよ。ロロ=イアの敵ってんなら。俺は、役に立つぜ?」
男、中田文兵はにたりと笑い、天月博人を戦意に満ちた目で見つめた。
「イヤァハァ! 天月博人! 残滅せずに地下牢獄に来たのはアレか? 俺の為に残してくれたのか!? いいねぇいいねぇ! そんじゃあ! やろうか!」
「あの、あまり大きな声は…………あれどこ行った?」
中田文兵ともう1人、着いて行きたいと言った屋宮亜里沙と名乗った女性を開放し、何も言わなかった者たちは地下牢獄に居て固まった方が安全だからと枷だけ外して置いて行ったところで、警戒態勢のロロ=イア人員の集団を発見する。
身を隠し、様子を伺っていると。突如として中田文兵は姿を消した。人が姿を消した。そのことに天月博人は屋宮亜里沙と共に困惑し、どこに居るのかと、当てもなく視線を左右に動かして居ると。ロロ=イア人員を発見した方角から絶叫。振り返れば、顔をへこませ突っ伏する1人の職員と、今しがた人殴った姿勢の中田文兵がそこに居た。
「よぉ、殺してやる」
そこに居たと思っていた中田文兵は、また瞬時に姿を消す。その次の瞬間にロロ=イア人員の頭上に出現し全体重を乗せたこぶしをロロ=イア人員の頭部に叩き付け、姿を消失。また別のロロ=イア人員の後ろに出現、首を折られる。1人、また1人、そしてまた1人と中田文兵に死角に入られ、攻撃され、絶命する。
「天月ー! 屋宮ー! 終わったぞー」
人を殺すのに躊躇の無い中田文兵に少々思うところがあって難しい顔をしていると。中田文兵はそこに居たロロ=イア人員を全員倒して天月博人と屋宮亜里沙を呼んだ。
「瞬間移動か、確かに役に立ちそうだ」
「だろぉ? 触れてないもんは瞬間移動させることが出来ないがな。それでも便利っちゃあ、便利だ。そんでな、俺にはもう1つ、力があってよ」
楽し気に、自身の力を言葉にしてひけらかす中田文兵に耳を傾けていると、突っ伏しているロロ=イア人員の1人が頭をあげて、屋宮亜里沙に銃を向けたのが見えた。天月博人はとっさに屋宮亜里沙を庇おうとするが、その前に中田文兵がロロ=イア人員の前に瞬間移動し銃口を手の平で包んで握った。
「おまっ馬鹿!」
止めようとする間もなく引き金は引かれ、銃声が鳴り響いた。仲間にした人が怪我をする。志願しているのだから本人は死傷を覚悟しているとしても、天月博人は血の気が引いた。
「思った通りに動いてくれてありがとうさん。死ね」
そんな天月博人の状態も知らず。中田文兵はロロ=イア人員の頭部を鷲掴みにして何度も床に打ち付けた。ロロ=イア人員が幾度かの経連の後に動かなくなると中田文兵はこちらに向き直り、銃口をふさいだ手を開いて見せた。弾丸が一発転がるその手には傷はなかった。
「熱、寒さ、毒、電撃、打撃、斬撃、衝撃。そんなあらゆるものに強い耐性を持つ力も持ってんだよ俺」
中田文兵はそう言いながら、笑っていた。
中田文兵が生半可な事では死なないことがわかり、自由に動いて良い。残滅したら出入口で集合。と命令して暴れさせる。
「中田さんは好戦的だなぁ……よっぽどひどい目に合ったのかな」
中田文兵が暴れたその後を、なぞるように探索していると屋宮亜里沙が「えぇ、ほんっとうに酷い目に合ったわよ中田君は」と答えた。
「屋宮さん、知っているんですか?」
「まぁね。具体的な事は知らないけどね」
ほんの少し、辛そうな表情になりながら屋宮亜里沙は語る。中田文兵が居た檻には、交わしていた会話の内容から、同郷から連れて来られた1人の女の話を。
佐々木鵺、中田文兵より幾つか年が上の女性で、中田文兵からは「ヌェちゃん」と呼ばれていた。
連れてこられた当初、日に日に弱っていく中田文兵を元気づけていた彼女だったが、いつの日か場が逆転していた。お腹を抱え、やつれた体を震わせながらいつもの檻の中へと戻る。
中田文兵は、何も聞かず元気づけながら寄り添って居たが。ある日、佐々木鵺が泣きながらこう言った。「もう、耐えられない。お願い、ブンちゃん……私を、殺して……お願い」と。翌朝、首を絞められ窒息死した佐々木鵺が発見され、連行されていく中田文兵の横顔には、涙の痕があったそうだ。
「お隣の牢だったから。あの2人の励まし合う声は、本当に勇気をもらって、耐えていたのに……本当、最悪な結末だよね」
黙って聞いて居た天月博人は「確かに、最悪ですね」と感想を述べた。しばらく時間をおいて、気分が落ち着いたところで天月博人は屋宮亜里沙に尋ねる。「どうしてついて来たのか」と。すると屋宮亜里沙は「ウチも中田君と似たり寄ったりな理由だよ。何か手伝えないかなって思いの裏腹にあいつらが倒される様を見たらちょっとはスッキリするかなーって思って着いて来たの。けっかはスッキリどころか……気分が悪くなっちゃったけどね」と、辛そうな顔になり。天月博人は話してくれたことにお礼を言って、今はこれ以上突くべきではないと判断した。
「確かに敵の建物にとどまり続けるのは危険ですね。ですがここから移動するにしても、どうするんですか?」
「通堂さんのお力を使います。ロロ=イアに発見されにくいように地下に拠点を築くのです。
物置の様な場所から、埃は被って居ましたけれど発電機を3台とポリタンクを発見しました。電気……もとい光源は確保可能です」
「今は早く作った方が良いと考えれば構造は単純な物になるかな。土を溶かして固めても強度に不安があるからこの建物の壁を素材に使うとして。発電機が3台か……。まずは最低でもこの場にいる全員が雨風凌いで眠ることが出来る場所を確保してから。第2拠点、第3拠点を作った方が良いかな。同じ場所にとどまり続けるのも危険だと思うしね。それと……ダミー用の穴も作ろうか」
方針状、とりあえず戦いの下地を作り闘いに備える。拠点を作るその間。天月博人は「ロロ=イアの目を引かせる為に適当な施設を襲ってくる。明日にはこの研究所の休憩室に寝ているから迎えに来て、拠点に案内してくれ」と言って刃物を1本、拳銃を1丁を手に持って出向こうとするが。それは楽善二治が立ちふさがる形で阻まれた。
「天月君、君に異能力? が有るのは聞いたよ。それはここを壊滅できたことから本物だと思う。でもね、私はだからと言ってみすみす行かせるのは違うと思うんです。武器を手に取るべきなのは私の様な大人であるべきだと。そう思うんです」
「ジブンの代わりに戦いに行きたいと? 死にますよ」
「うっ……でも、いや、だからです。死んでしまうかもしれない。そんな場所に君の様な子供を行かせるのは間違っている筈なんです。……すいません、断言します。それは間違っています。私的な見解で申し訳ございませんが言わせてもらいます」
楽善二治は真っ直ぐ、それでいて真剣な目を、天月博人の目に合わせた。
「子供は未来を担う尊い宝なんです。そんな子供を死から護ろうとせずして何が大人ですか。天月君、君だって子供なんです。だから、君が危険に身を投じるくらいなら、代わりに大人である私に命を張らせてください」
「うはー、楽善君がまるで昭和に取り残された子供好きの正義漢みたいなく青っさいこと言ってるねー……茶化すなって感じだね。はいはい、僕みたいなオジサンは黙ってるよ」
先達が過去から奮闘し走り抜けてつなげた今を生きる大人が、子供を自身が先達にしてもらったように護り、土台を作り、導きたい、そう言った思いが感じられた。なるほど未来ある子供たちは尊い存在なのだと楽善二治の言葉から理解して、天月博人はその言葉を受け入れた。だが。
「複数ある問題として……とりあえずわかりやすいのを1つ。楽善さんはジブンの代わりになることはできません。何故か、筋肉の着き方、骨の歪み方からアンタとジブンの単純な戦闘力差があると見えました。……貴方は、喧嘩もしたことが無い様な優しく、善い人だ」
「えっ、どうして……」
「ジブンが言っても納得はできないでしょう。だから楽善さんはそのまま立ち塞がったまま本気で止めにかかってください。ジブンはそれを倒して進みますので」
ほんの少し、骨を歪めてしまう事に成るのを申し訳なく思いながら歩みだす天月博人とする楽善二治は身構えるが天月博人に接触した瞬間、腕をつかまれて強く引っ張られる。思い通りになる物かと抵抗すると、後ろ足首を蹴られ、自身を引っ張っていた腕は自身の腹を押し、床に倒されていた。
終りの無い闘いに身を投じることを決めた男の初戦は、敗北に終わった。
「今のは地面に踏ん張らなきゃ、引っ張り合って拮抗させようとするとは。そりゃあそういう風に力を利用されるよ」
「煩いですよ……はぁ、少年に見えて実は青年だったりしないでしょうか」
「どうだろうね……君はそれで求めていただろうけどよ。ほれ、初対面の子供相手に泣きそうになっていないで立ちなさい。僕たちは僕たちで仕事だよ」
「青年だってまだまだ子供ですからね……あぁ、私は無力だ」
「さてと」
一枚の地図を手に携帯端末を目に装着して起動させる。電池は大丈夫だ日光をレンズを当てて居れば太陽光発電により充電される。遠慮はしなくていい。
『やっほー、ニコだよ! で、なんでずっと起動してくれなかったの!? ニコは暇で暇でしょうがなかったんだよ!』
プンプンと怒るニコを尻目に、カメラツールを使用して地図の記録をとると地図をしまい、移動しながらメモツールを起動記憶の限りの資料を記録していく。
『んぅ? 世界地図と比較。該当なし、無人島の可能性……博人の書き込みを確認……有人の可能性上昇。ロロ=イアに関する情報を個人データベースから検索、該当無し……なにこれどういうこと?』
「落ち着いたら頃合いを見て後で話す。……あの人たちと信頼関係を築けたら、ニコを紹介しないとなぁ」
『何で予防線を幾つも張ったのかな!?』
「ははは、予防線大好きな人なんていっぱいいるだろ。だから気にするな……さて、そろそろ電源を切るぞ」
『えっちょっと待っ____」
天月博人は視界にロロ=イアの施設が入ると、携帯端末の電源を切って、鼻の髪留めを携帯端末のベルトに通して1つにし。一輪の花が目印になりそうな茂みの中に隠す。万が一でも壊れない様に。
「行くか」
軽い準備運動をした後、拳銃を握りしめて、扉の前に立った。
(出入口に鍵はなく、見張りも居ない。まるで、此処で動けるのは自身らの味方の実と思っているかのように。あまりにずさんすぎないか? こちらとしては楽でいいけれども)
これから始まる闘いには、ほんの少しだけ天月博人にとって大事な意味がある。
「誰か来る予定有ったか?」
「いや? なかったと思うけど…………子供!?……何だ君は!?」
「どうも、初めましてと言うべきか組織単位で見て、また会いましたねと言うべきか……とりあえず。たとえどれだけ崇高な目的、もしくは犠牲を積み重ねた果てにある大きな善行の為に動いているかもしれないロロ=イアへ。ジブンはアンタたちの敵対者です。よろしく」
拳銃を両手でしっかり持って構え、とりあえず撃つ。1発目失敗。2発目、成功。3発目、失敗。4発目、成功、5発目、成功、6発目、頭部に命中。ロロ=イア人員その1人は死亡した。
激情して居ないこの頭で考え、確かな自分の意志で殺したのだ。後戻りはできないというのに何か元に戻る希望を抱いていた自分に「もう無理だ」と心の底から理解し、覚悟させる為に。これで、心だけはロロ=イアの真の敵になれた。
弾丸の無くなった拳銃を腰のベルトに差し込む様にして、目の前で仲間が殺されたことで腰が抜け、何処かに逃げようとするロロ=イア人員に加速しながら、メスの様な刃物を手に持ち、走り寄り、言葉も出ないくらい取り乱しているロロ=イア人員の喉元に、刃物を引っ掛け、押し込みながら引く。
(銃の反動で腕が痛いし、血の匂いが酷いし、目の前に自分が凝りした死体と息ができず苦しみ死に行く人がいるしで…………はぁ、気分が悪くて吐きそうだ)
目の前にある死体と、喉元を抑え死にゆく人から身包みを剥ぐ。どこかに引きずって隠そうかとも思ったが血痕があってどうせ見つかると判断したため放置する。
多くを殺した。天井から降って肩に乗り流れるままに首を切って殺した。転ばせて頭を踏みつぶして殺した。自分の意志で殺した。殺した人の中には心根が善い人もいただろう。だけれどそんなものは敵という関係上、善も悪もないし。そもそも天月博人にはそれを知る由もない。
「9、10……最後の檻には1人だけだから合計11か中々かな」
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「おい、何だ……お前?……子供が何でこんなとこに居やがる。ロロ=イアの子供たちかなんかか?」
「ロロ=イアの子供たち? 何だそれは……いや、ごめん。ジブンが何かと言う問いに答えてから聞こうか。ジブンは天月博人、ロロ=イアの敵だ」
「へぇ……そりゃあいいこと聞いた。俺は中田文兵だ。鍵は……持ってるみたいだな。なら出してくれよ。ロロ=イアの敵ってんなら。俺は、役に立つぜ?」
男、中田文兵はにたりと笑い、天月博人を戦意に満ちた目で見つめた。
「イヤァハァ! 天月博人! 残滅せずに地下牢獄に来たのはアレか? 俺の為に残してくれたのか!? いいねぇいいねぇ! そんじゃあ! やろうか!」
「あの、あまり大きな声は…………あれどこ行った?」
中田文兵ともう1人、着いて行きたいと言った屋宮亜里沙と名乗った女性を開放し、何も言わなかった者たちは地下牢獄に居て固まった方が安全だからと枷だけ外して置いて行ったところで、警戒態勢のロロ=イア人員の集団を発見する。
身を隠し、様子を伺っていると。突如として中田文兵は姿を消した。人が姿を消した。そのことに天月博人は屋宮亜里沙と共に困惑し、どこに居るのかと、当てもなく視線を左右に動かして居ると。ロロ=イア人員を発見した方角から絶叫。振り返れば、顔をへこませ突っ伏する1人の職員と、今しがた人殴った姿勢の中田文兵がそこに居た。
「よぉ、殺してやる」
そこに居たと思っていた中田文兵は、また瞬時に姿を消す。その次の瞬間にロロ=イア人員の頭上に出現し全体重を乗せたこぶしをロロ=イア人員の頭部に叩き付け、姿を消失。また別のロロ=イア人員の後ろに出現、首を折られる。1人、また1人、そしてまた1人と中田文兵に死角に入られ、攻撃され、絶命する。
「天月ー! 屋宮ー! 終わったぞー」
人を殺すのに躊躇の無い中田文兵に少々思うところがあって難しい顔をしていると。中田文兵はそこに居たロロ=イア人員を全員倒して天月博人と屋宮亜里沙を呼んだ。
「瞬間移動か、確かに役に立ちそうだ」
「だろぉ? 触れてないもんは瞬間移動させることが出来ないがな。それでも便利っちゃあ、便利だ。そんでな、俺にはもう1つ、力があってよ」
楽し気に、自身の力を言葉にしてひけらかす中田文兵に耳を傾けていると、突っ伏しているロロ=イア人員の1人が頭をあげて、屋宮亜里沙に銃を向けたのが見えた。天月博人はとっさに屋宮亜里沙を庇おうとするが、その前に中田文兵がロロ=イア人員の前に瞬間移動し銃口を手の平で包んで握った。
「おまっ馬鹿!」
止めようとする間もなく引き金は引かれ、銃声が鳴り響いた。仲間にした人が怪我をする。志願しているのだから本人は死傷を覚悟しているとしても、天月博人は血の気が引いた。
「思った通りに動いてくれてありがとうさん。死ね」
そんな天月博人の状態も知らず。中田文兵はロロ=イア人員の頭部を鷲掴みにして何度も床に打ち付けた。ロロ=イア人員が幾度かの経連の後に動かなくなると中田文兵はこちらに向き直り、銃口をふさいだ手を開いて見せた。弾丸が一発転がるその手には傷はなかった。
「熱、寒さ、毒、電撃、打撃、斬撃、衝撃。そんなあらゆるものに強い耐性を持つ力も持ってんだよ俺」
中田文兵はそう言いながら、笑っていた。
中田文兵が生半可な事では死なないことがわかり、自由に動いて良い。残滅したら出入口で集合。と命令して暴れさせる。
「中田さんは好戦的だなぁ……よっぽどひどい目に合ったのかな」
中田文兵が暴れたその後を、なぞるように探索していると屋宮亜里沙が「えぇ、ほんっとうに酷い目に合ったわよ中田君は」と答えた。
「屋宮さん、知っているんですか?」
「まぁね。具体的な事は知らないけどね」
ほんの少し、辛そうな表情になりながら屋宮亜里沙は語る。中田文兵が居た檻には、交わしていた会話の内容から、同郷から連れて来られた1人の女の話を。
佐々木鵺、中田文兵より幾つか年が上の女性で、中田文兵からは「ヌェちゃん」と呼ばれていた。
連れてこられた当初、日に日に弱っていく中田文兵を元気づけていた彼女だったが、いつの日か場が逆転していた。お腹を抱え、やつれた体を震わせながらいつもの檻の中へと戻る。
中田文兵は、何も聞かず元気づけながら寄り添って居たが。ある日、佐々木鵺が泣きながらこう言った。「もう、耐えられない。お願い、ブンちゃん……私を、殺して……お願い」と。翌朝、首を絞められ窒息死した佐々木鵺が発見され、連行されていく中田文兵の横顔には、涙の痕があったそうだ。
「お隣の牢だったから。あの2人の励まし合う声は、本当に勇気をもらって、耐えていたのに……本当、最悪な結末だよね」
黙って聞いて居た天月博人は「確かに、最悪ですね」と感想を述べた。しばらく時間をおいて、気分が落ち着いたところで天月博人は屋宮亜里沙に尋ねる。「どうしてついて来たのか」と。すると屋宮亜里沙は「ウチも中田君と似たり寄ったりな理由だよ。何か手伝えないかなって思いの裏腹にあいつらが倒される様を見たらちょっとはスッキリするかなーって思って着いて来たの。けっかはスッキリどころか……気分が悪くなっちゃったけどね」と、辛そうな顔になり。天月博人は話してくれたことにお礼を言って、今はこれ以上突くべきではないと判断した。
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婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
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