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2-4:始まりは終わり、動き出す
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研究所を潰しきって、天月博人がゴーグル型携帯端末と花の髪留めを回収した後、解放した仲間たちを率いて物資を持てるだけ担いで最初に潰した研究所I13へと戻る。
そこで天月博人を含めて12人で一夜を明かす。迎えに来た楽善二治に案内されて大きな木の根元にできた大きな巣穴のような穴を通る。進めば進むほど道は広がっていき、最終的には教室くらいの大きさを誇る空間にたどり着いた・
「これで総勢32名ですか」
楽善二治は人数を確かめ、全員の顔を叩き込む様に見つめる。いざ1人でも欠けた時。誰が欠けたかがわかるように。
「なぁなぁ。その集団行動って俺も会わせねぇといけねぇのか?」
そんな中、大柄な男が一瞬で楽善二治の頭が痛くなるようなことを言う。どう答えようか、そもそも名前を尋ねるべきかと色々と考えた結果。
「最大の敵の敵が味方になったはずなのに敵に回ったなんてことになっても良いなら」
とりあえず釘を刺して牽制しておくことにした。大柄な男は「何でそうなんだよ……」と不服そうな表情になる。
「そもそも何故、単独行動を希望するのですか?」
「んなもん、ロロ=イアの奴等を1人でも多くぶっ殺すためだ。潰して壊して抉って殺しつくすためだ」
「それならさらに単独行動は困ります。私たちは物資を必要としています。それを貴方が壊す可能性、独占する可能性が有る以上は闘う自由を制限して協調していただきたく思います。
また。やる事が多い現状では、ただでさえ有限な時間は貴重なのです。貴方が襲撃し終わったロロ=イア施設を私たちが知ることが出来ずに襲撃に向かってしまえば時間の無駄な消費となります」
不服そうな状態を放置してもそれこそ敵の敵に敵対される可能性が出て来るので、どうにか納得してもらうため、会話の中で理由を組み立てていく。大柄な男はそれでも「ぐむむむ」と納得しきれていない様子。
「仕方ありませんね。では、必ず貴方をロロ=イア襲撃に参加させます。これで、どうかご理解を」
もともと希望、志願で募るつもりだったことを、さも妥協して譲渡するかのように語る。出来れば望んでほしくはないのだけれど。戦いを望むのであれば、基本誰もがやりたがらない以上、喜びたくはないが喜んで受け入れるしかないだろう。
「なら……いいや。わかったよ」
「ありがとうございます」
大柄な男がこれを受け入れたことに深く、心の底から安堵して、感謝の言葉を贈る。
「話は終わった?」
大柄な男の後ろからひょっこりと女が顔を出す。
「一段落は着きました。はぁ……お腹が減りました。体内時計的にお昼ご飯にしましょうか…………おや? 天月君はどこに?」
「天月君? 天月君ならさっき出って行ったけど」
お帰り楽善二治の頭痛。この場にいる皆にとって恩人であり、闘いのきっかけとなった始まりの人。天月博人も自由に動くのである。
「ふぅ……ふぅ……おぇ」
天月博人は外に出て拠点から少し離れた場所で吐いて居た。頭の中に合った予定が終わったために、気が緩み、多くの命に関わる事実に吐き気を催したのだ。
命を奪った時の感触を思い出す。銃の引き金を引いた。とても軽かった。刃物を押し付けるように撫でた。それだけで終わった。命とは何においても大切にしなければいけないもののはずなのに命を奪えたあの道具はとても軽く、動作は単純であった。
命を奪われた時のことを思い出す。銃弾が自身の体の中に沈んでいく感触を、刃が体の中に入った時に感じる鉄の冷たさと痛みの熱を。意識戟得るその寸前には寒くて仕方がないことを。そして、命を奪われたのは天月博人だけではない。
「はぁ……はあ……なんで……何でこんなことになったんだ……なっちゃん……なっちゃん……あぁ……畜生、結局ジブンは何もしてあげられなかった!…………あぁ……あああ……」」
天月博人とは違って甦る事は無い命。井矢見懐木である。井矢見懐木は天月博人にとって元家族に匹敵するほど大切な人であった。
だが、彼女はもういない、ロロ=イアにとっての知恵になり、天月博人にとっての無限の命となったのだ。
多くの命が無くなったことと向き合うことで頭の中はもうグチャグチャで、叫び、苦しみ、気分は悪く、咽び泣いた。湧き出すハチャメチャな物を吐き出して、吐き続け、吐き出すものが無くなってようやく静かに向き合うと。
「はぁ……はぁ………………なっちゃんは……人が苦しむのを嫌がっていたっけ…………すぅーふぅー……よし、わかった。ジブンが苦しんでいる人を助けよう。目に映って助けるべきだとジブンが思った人を……まずは、ロロ=イアに虐げられている人たちからだ」
命はジブンの以外は帰らない、恐らく、少なくとも現状どうしようもないことだ。では、もう何もかも背負うか投げ捨てるか二つに一つだと思う。投げ捨てられたらもう後は楽だっただろう。だけれど、天月博人自身これをなかったことにはしたくなかった。
死を背負おう、目に映った助けたいと思った今ある命を救おう。そんな結論に至った。思考から逃げる選択にしてははるかに重く、極論ではあるのだろうが、天月博人はそんなものは気にしなかった。
そのありようは定まった。吐き出しきって気分は落ち着いた。個人的な整理はついた。もう離れている理由はなくなり、天月博人は拠点に戻った。
「それで? いつ襲う? 俺の準備はできている」
「まだです。今日は殲滅完了したロロ=イア研究所から食糧、武器、資料を基本とする物資を回収。また天月博人君を筆頭に、戦闘面から中田文兵さん、拠点面から通堂進さん、これらのメンバーに私を含めこの集団、仮称、ロロ=イア抵抗軍の規則。今後の方針、予定をどうするのかを話し合いたいと考えております」
「会議するの? 僕は拠点を広げる作業しながらになるけどそれでもいい?」
「もちろんいいですよ。お2人もよろしいですか? いつ襲撃するか、襲撃部隊をどう編成するかも話し合いたいと思って居るのですが」
「いつ襲うのかを決めるのか。よし、それなら俺は参加する」
「ありがとうございます。天月君はどうしますか?」
「ジブンが参加する意義は何所に?」
「きっかけの人であると共に実質的なリーダーであると皆、少なくとも私は思っています。リーダーは拠点を左右するであろう会議には参加するべきかと。せめて内容を把握するだけでも良いので……」
「リーダーって器ではないと思うんですが。それにジブンはまだ中学生ですし皆さんの事はまとめきれないかと」
「そう……ですか」
天月博人は決してリーダーという役割が嫌なわけではない、だが自身の人生経験は密度はあれど、それでも大人になる過程で得られるであろう経験は大いに足りて居ない。組織的動きはその1つであり、経験が足りない、それ即ちどう動かすかの判断が鈍く、それだけ率いることになる皆んなを破滅に導く可能性が高くなると、自身を客観的に観察した結果の判断である。
だけれど、楽善二治が肩を落とす様子がとても弱々しく見えて少しだけ気分が揺れる。揺れに揺れて、天月博人は妥協することにして1つため息を吐いた。
「そんなに落ち込むことですか……良いですよ」
「えっ?」
「だーかーらー、皆んなが納得するなら、ジブンがリーダーで良いですよ。ですが、実際にまとめるのは楽善さんがやってください。聞いてる限り、ジブンよりもできそうなので」
楽善二治は顔を上げてキョトンとした後に「はい! 私、楽善二治。リーダーの代行をやらせていただきます」と言って喜んだ。天月博人は何でジブンをリーダーにしたいんだかと思うつつ「ジブンがリーダーを名乗るのは皆んなが納得するならの話であってだね。まぁ……この場に全員いるし聞いちゃう……かとりあえずジブンがリーダーで良いと思う人は手を上げて」と拠点にいる全員に尋ねた。
通堂進は「僕は良いと思うよー」と手を挙げ。中田文兵は「そんなもん誰でもいい」とやる気なさそうに手を挙げ。屋宮亜里沙は暫く考えた様子を見せた後に手を挙げた。
楽善二治を除く30人、下手な火の粉が降りかからないようにしたいがためか、それとも楽善二治や中田文兵の様に自身なりの考えがあって手を挙げたのかは定かではないが、過半数が手を挙げた事により、天月博人は形だけではあるがリーダーとなった。
「よしっ。それでは皆さん、今日の予定をこなしましょうか」
天月博人は苦笑いしつつ、それを受け入れた。
「あー、やっと終わった。とりあえず明日。他に参加したい奴がいないから俺と天月……あー、リーダーとだけでI55を襲いに行く形になったな! いやー明日が楽しみだ。飯食おうぜ飯、俺は昨日食ったレーション以外なら何でもいい」
「ジブンが昨日に食べた堅い肉の保存食ならありますよ」
「僕、はあんまり堅いのは嫌だねぇ。なんか歯が折れそうで怖くてね」
通堂進が特急で作り上げた狭い会議室代わりの空間から天月博人、通堂進、中田文兵が出て行き。楽善二治だけがその部屋で疲れたように研究室から運んできた机に突っ伏する。そんな楽善二治の下に屋宮亜里沙が顔を出した。
「どうもー。今暇かなー?」
「えっと確か……屋宮さんでしたね」
「おー、ウチなんかが忙しそうな代行に名前を覚えてもらえるなんて、光栄だねー」
「一応、現状この抵抗軍にいる人たちの名前と顔を把握しているつもりですから。なんだか一夜漬けの感覚がありますけどね……それで、私に何か用ですか?」
「天月君をリーダーにするって言う話。そこまで必要性は高くないように思えるけど? もっと、なんと言うか感覚的で悪いんだけど。君、個人的なもので天月君をリーダーの立場に押し上げたりしてない?」
屋宮亜里沙の問いに楽善二治はしばらく黙った後。突っ伏していた体を起こす。
「私はね。始まりの人、きっかけの人、恩人なんて以前に。彼が彼として気楽に物を言える環境を作ろうと思ったんです」
「んー?」
屋宮亜里沙は顔をしかめて意味がわからなそうにすると、楽善二治は言葉を続けた。
「まずは自分の意思を持って自分の意見を言いやすいそんな立ち位置を。物を言いやすいのはリーダーが一番無難かと考え、でもそのままにリーダーとすると他の人達に不安や反感を買いかねないとも考えました。 ですからとりあえず今はリーダーであってリーダーではない、そんな立ち位置に落ち着いてもらいました。これなら皆さんに萎縮されにくく、妬まれにくい中で大きな声で発言しやすいと思いますが……さて、どうなってどう調節するべきかを、考えないといけませんね」
「んー……あー……うわっ、天月君のあのやり取りは君の掌の上だったの!? 怖っ」
楽善二治はジッと屋宮亜里沙を見つめ、「別に髪の毛が無いからと怖がられたことが多々あったので。今更怖いと言われてもなんとも思ってませんよ」と言った。その様子を見て聞いた屋宮亜里沙は「声が低いよ。何か思うところがあるみたいだよその声色……それに、外見的な怖いと、内面的の怖いは違うと思うなーウチ」と苦い笑みを浮かべた。
そこで天月博人を含めて12人で一夜を明かす。迎えに来た楽善二治に案内されて大きな木の根元にできた大きな巣穴のような穴を通る。進めば進むほど道は広がっていき、最終的には教室くらいの大きさを誇る空間にたどり着いた・
「これで総勢32名ですか」
楽善二治は人数を確かめ、全員の顔を叩き込む様に見つめる。いざ1人でも欠けた時。誰が欠けたかがわかるように。
「なぁなぁ。その集団行動って俺も会わせねぇといけねぇのか?」
そんな中、大柄な男が一瞬で楽善二治の頭が痛くなるようなことを言う。どう答えようか、そもそも名前を尋ねるべきかと色々と考えた結果。
「最大の敵の敵が味方になったはずなのに敵に回ったなんてことになっても良いなら」
とりあえず釘を刺して牽制しておくことにした。大柄な男は「何でそうなんだよ……」と不服そうな表情になる。
「そもそも何故、単独行動を希望するのですか?」
「んなもん、ロロ=イアの奴等を1人でも多くぶっ殺すためだ。潰して壊して抉って殺しつくすためだ」
「それならさらに単独行動は困ります。私たちは物資を必要としています。それを貴方が壊す可能性、独占する可能性が有る以上は闘う自由を制限して協調していただきたく思います。
また。やる事が多い現状では、ただでさえ有限な時間は貴重なのです。貴方が襲撃し終わったロロ=イア施設を私たちが知ることが出来ずに襲撃に向かってしまえば時間の無駄な消費となります」
不服そうな状態を放置してもそれこそ敵の敵に敵対される可能性が出て来るので、どうにか納得してもらうため、会話の中で理由を組み立てていく。大柄な男はそれでも「ぐむむむ」と納得しきれていない様子。
「仕方ありませんね。では、必ず貴方をロロ=イア襲撃に参加させます。これで、どうかご理解を」
もともと希望、志願で募るつもりだったことを、さも妥協して譲渡するかのように語る。出来れば望んでほしくはないのだけれど。戦いを望むのであれば、基本誰もがやりたがらない以上、喜びたくはないが喜んで受け入れるしかないだろう。
「なら……いいや。わかったよ」
「ありがとうございます」
大柄な男がこれを受け入れたことに深く、心の底から安堵して、感謝の言葉を贈る。
「話は終わった?」
大柄な男の後ろからひょっこりと女が顔を出す。
「一段落は着きました。はぁ……お腹が減りました。体内時計的にお昼ご飯にしましょうか…………おや? 天月君はどこに?」
「天月君? 天月君ならさっき出って行ったけど」
お帰り楽善二治の頭痛。この場にいる皆にとって恩人であり、闘いのきっかけとなった始まりの人。天月博人も自由に動くのである。
「ふぅ……ふぅ……おぇ」
天月博人は外に出て拠点から少し離れた場所で吐いて居た。頭の中に合った予定が終わったために、気が緩み、多くの命に関わる事実に吐き気を催したのだ。
命を奪った時の感触を思い出す。銃の引き金を引いた。とても軽かった。刃物を押し付けるように撫でた。それだけで終わった。命とは何においても大切にしなければいけないもののはずなのに命を奪えたあの道具はとても軽く、動作は単純であった。
命を奪われた時のことを思い出す。銃弾が自身の体の中に沈んでいく感触を、刃が体の中に入った時に感じる鉄の冷たさと痛みの熱を。意識戟得るその寸前には寒くて仕方がないことを。そして、命を奪われたのは天月博人だけではない。
「はぁ……はあ……なんで……何でこんなことになったんだ……なっちゃん……なっちゃん……あぁ……畜生、結局ジブンは何もしてあげられなかった!…………あぁ……あああ……」」
天月博人とは違って甦る事は無い命。井矢見懐木である。井矢見懐木は天月博人にとって元家族に匹敵するほど大切な人であった。
だが、彼女はもういない、ロロ=イアにとっての知恵になり、天月博人にとっての無限の命となったのだ。
多くの命が無くなったことと向き合うことで頭の中はもうグチャグチャで、叫び、苦しみ、気分は悪く、咽び泣いた。湧き出すハチャメチャな物を吐き出して、吐き続け、吐き出すものが無くなってようやく静かに向き合うと。
「はぁ……はぁ………………なっちゃんは……人が苦しむのを嫌がっていたっけ…………すぅーふぅー……よし、わかった。ジブンが苦しんでいる人を助けよう。目に映って助けるべきだとジブンが思った人を……まずは、ロロ=イアに虐げられている人たちからだ」
命はジブンの以外は帰らない、恐らく、少なくとも現状どうしようもないことだ。では、もう何もかも背負うか投げ捨てるか二つに一つだと思う。投げ捨てられたらもう後は楽だっただろう。だけれど、天月博人自身これをなかったことにはしたくなかった。
死を背負おう、目に映った助けたいと思った今ある命を救おう。そんな結論に至った。思考から逃げる選択にしてははるかに重く、極論ではあるのだろうが、天月博人はそんなものは気にしなかった。
そのありようは定まった。吐き出しきって気分は落ち着いた。個人的な整理はついた。もう離れている理由はなくなり、天月博人は拠点に戻った。
「それで? いつ襲う? 俺の準備はできている」
「まだです。今日は殲滅完了したロロ=イア研究所から食糧、武器、資料を基本とする物資を回収。また天月博人君を筆頭に、戦闘面から中田文兵さん、拠点面から通堂進さん、これらのメンバーに私を含めこの集団、仮称、ロロ=イア抵抗軍の規則。今後の方針、予定をどうするのかを話し合いたいと考えております」
「会議するの? 僕は拠点を広げる作業しながらになるけどそれでもいい?」
「もちろんいいですよ。お2人もよろしいですか? いつ襲撃するか、襲撃部隊をどう編成するかも話し合いたいと思って居るのですが」
「いつ襲うのかを決めるのか。よし、それなら俺は参加する」
「ありがとうございます。天月君はどうしますか?」
「ジブンが参加する意義は何所に?」
「きっかけの人であると共に実質的なリーダーであると皆、少なくとも私は思っています。リーダーは拠点を左右するであろう会議には参加するべきかと。せめて内容を把握するだけでも良いので……」
「リーダーって器ではないと思うんですが。それにジブンはまだ中学生ですし皆さんの事はまとめきれないかと」
「そう……ですか」
天月博人は決してリーダーという役割が嫌なわけではない、だが自身の人生経験は密度はあれど、それでも大人になる過程で得られるであろう経験は大いに足りて居ない。組織的動きはその1つであり、経験が足りない、それ即ちどう動かすかの判断が鈍く、それだけ率いることになる皆んなを破滅に導く可能性が高くなると、自身を客観的に観察した結果の判断である。
だけれど、楽善二治が肩を落とす様子がとても弱々しく見えて少しだけ気分が揺れる。揺れに揺れて、天月博人は妥協することにして1つため息を吐いた。
「そんなに落ち込むことですか……良いですよ」
「えっ?」
「だーかーらー、皆んなが納得するなら、ジブンがリーダーで良いですよ。ですが、実際にまとめるのは楽善さんがやってください。聞いてる限り、ジブンよりもできそうなので」
楽善二治は顔を上げてキョトンとした後に「はい! 私、楽善二治。リーダーの代行をやらせていただきます」と言って喜んだ。天月博人は何でジブンをリーダーにしたいんだかと思うつつ「ジブンがリーダーを名乗るのは皆んなが納得するならの話であってだね。まぁ……この場に全員いるし聞いちゃう……かとりあえずジブンがリーダーで良いと思う人は手を上げて」と拠点にいる全員に尋ねた。
通堂進は「僕は良いと思うよー」と手を挙げ。中田文兵は「そんなもん誰でもいい」とやる気なさそうに手を挙げ。屋宮亜里沙は暫く考えた様子を見せた後に手を挙げた。
楽善二治を除く30人、下手な火の粉が降りかからないようにしたいがためか、それとも楽善二治や中田文兵の様に自身なりの考えがあって手を挙げたのかは定かではないが、過半数が手を挙げた事により、天月博人は形だけではあるがリーダーとなった。
「よしっ。それでは皆さん、今日の予定をこなしましょうか」
天月博人は苦笑いしつつ、それを受け入れた。
「あー、やっと終わった。とりあえず明日。他に参加したい奴がいないから俺と天月……あー、リーダーとだけでI55を襲いに行く形になったな! いやー明日が楽しみだ。飯食おうぜ飯、俺は昨日食ったレーション以外なら何でもいい」
「ジブンが昨日に食べた堅い肉の保存食ならありますよ」
「僕、はあんまり堅いのは嫌だねぇ。なんか歯が折れそうで怖くてね」
通堂進が特急で作り上げた狭い会議室代わりの空間から天月博人、通堂進、中田文兵が出て行き。楽善二治だけがその部屋で疲れたように研究室から運んできた机に突っ伏する。そんな楽善二治の下に屋宮亜里沙が顔を出した。
「どうもー。今暇かなー?」
「えっと確か……屋宮さんでしたね」
「おー、ウチなんかが忙しそうな代行に名前を覚えてもらえるなんて、光栄だねー」
「一応、現状この抵抗軍にいる人たちの名前と顔を把握しているつもりですから。なんだか一夜漬けの感覚がありますけどね……それで、私に何か用ですか?」
「天月君をリーダーにするって言う話。そこまで必要性は高くないように思えるけど? もっと、なんと言うか感覚的で悪いんだけど。君、個人的なもので天月君をリーダーの立場に押し上げたりしてない?」
屋宮亜里沙の問いに楽善二治はしばらく黙った後。突っ伏していた体を起こす。
「私はね。始まりの人、きっかけの人、恩人なんて以前に。彼が彼として気楽に物を言える環境を作ろうと思ったんです」
「んー?」
屋宮亜里沙は顔をしかめて意味がわからなそうにすると、楽善二治は言葉を続けた。
「まずは自分の意思を持って自分の意見を言いやすいそんな立ち位置を。物を言いやすいのはリーダーが一番無難かと考え、でもそのままにリーダーとすると他の人達に不安や反感を買いかねないとも考えました。 ですからとりあえず今はリーダーであってリーダーではない、そんな立ち位置に落ち着いてもらいました。これなら皆さんに萎縮されにくく、妬まれにくい中で大きな声で発言しやすいと思いますが……さて、どうなってどう調節するべきかを、考えないといけませんね」
「んー……あー……うわっ、天月君のあのやり取りは君の掌の上だったの!? 怖っ」
楽善二治はジッと屋宮亜里沙を見つめ、「別に髪の毛が無いからと怖がられたことが多々あったので。今更怖いと言われてもなんとも思ってませんよ」と言った。その様子を見て聞いた屋宮亜里沙は「声が低いよ。何か思うところがあるみたいだよその声色……それに、外見的な怖いと、内面的の怖いは違うと思うなーウチ」と苦い笑みを浮かべた。
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