自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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4-4 :やあ。

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「ところでき君の名前って何? 私は2Hl_44って言うんだ。この子は弟分の3Hl_38ね」
「よろしく、お願いします」

 歩いて居ると、女がそう言って少年が挨拶をする。そりゃあ来るよなぁと観念して手を下す決心に背を押されそうになると、先ほどからどこか嫌がっているのを見越したのかニコがメモツールを開いて『これ以上先延ばしにすると辛いのはヒロなのにまったく……名前は、今ニコが適当にサイコロを振って決めた3Ag_70で行こう? これで不都合が出たら、もう諦めて倒してほしいんだよ』と文字列を並べる。

「ジブンの名前は3Ag_70です」
「あぁ、他の家でもやっぱりそんな感じの名前なんだねー。お父様やお手伝いさんみたいな名前の兄弟姉妹は中々いなのかなー」
「僕たちの家ではお父様に気に入られたりしないと、名前はもらえないから。3Ag_70の所も?」

「うん、ジブンの所もそんな感じ」

 天月博人は女たちの発言を参考に、天月博人は自身の偽装背景を即興で組み立てて対応する。ゴーグル型携帯端末には今までの話がニコの手によって記録されている。

「やっぱりかー、期待はしてないけれど面白味が無いなー、3Ag_70も退屈だったりしない?」
「退屈?」

「そう、退屈。私ねーいつもいつも同じような事を繰り返す日々に飽き飽きしてんの。面白い事が起きないかなぁって思いながら無為に過ごしてるの」
「では、襲撃者が出てきた時は嬉しかったのでは?」

 会話の流れから、少し危険な探りを入れる。

「襲撃者?」

 ダメだったかと心構えをしてると少年が女の袖を引っ張った。

「一昨日の朝礼でお手伝いさんが言ってた僕たちロロ=イアのことだと思う。2Hl_44姉ちゃん、また寝てた?」
「あー、そんな話あったようななかったようなー……そんな目で見ないでよ、だって聞いててつまんないと言うかあの人の声が眠気を誘うのが悪い……しっかし敵かぁ……もしかして君がそれだったり!」

 突然の大正解発言にビクリと反応してしまう。(よし、もうダメだ)と思った時、少年がまた口を挟む。

「やっぱり朝礼きいてなかった。襲ってくるのは2人だって。3Ag_70がビックリしちゃってるからやめてあげて」
「アハハ、ジョーダンだって。君見たいな子が敵とか嫌だしね。それに私は面白い事起きないかなぁとは言ったけど、命を貼るようなのは面白くないかなぁ」

 最悪な可能性が脳裏に横切ってもお気楽にそれは無いだろうと判断され、天月博人は飛びかかる機会を奪われた。

「そろそろ、集まったかな。ちょっと休憩しよっか」

 女がそう言って立ち止まらせ手を鳴らす。すると虫の羽ばたく音が多重になって近づいてくる。

「きたきた。3Ag _44は口を開けて上を向いて。ほらこうやって食べるの」

 女が口を開けて上を向くと、女の真上に蜂が集い、蜜を吐き出した。
 虫が吐き出した蜜を口に中に直送かよと、女が隣で虫が吐き出し切った蜜を「甘くて美味しー」と感想を言うまでの食事工程を眺めて驚愕し、後ずさる。すると少年が「気持ちはわかるよ……でも慣れたら平気だから。一緒に食べよ?」と後押しして口を開き、女が「ほらほら、美味しいから遠慮しないで食べて食べて」と自身の上唇に残った蜜を舐めとり、太陽のようにきらめく笑みを浮かべ天月博人の背中を押す、すると天月博人は観念してええい、ままよと口を開けて上を向く。

 ゆっくりと落ちてきた蜜が優しく舌に乗り、甘味とともに口の中へと広がっていく。

「美味しい……」
「でしょー?」
「だよね、こんなに甘い蜜が食べられるから僕は3Hl_44と一緒にいるの」

「あ、3Hl_38ひどーい! そんなこと言うと蜜あげないぞー? あっそんな悲しそうな顔しないで。ゴメンて、ちゃんとあげるから」
「うん、ありがと……冗談でもひどいこと言ってごめんね」

「いいよー」

 女が「自分で冗談いうのに人の冗談がわからない子だからあんまりひどい冗談言わないであげてね」と短い付き合いになるであろう天月博人に体を傾けて耳打ちした。

 雑談をしながら生い茂る木々の間を通る。その間天月博人は思うのだ。ロロ=イアに所属していると言うだけでやはり個性を確立した人なのだと。そして悪い人では無いのだと思い至る。そう思い至ったから最終的に倒さねばならないと考えるとだんだん辛くなっていく。
 どうして、こんな人たちと戦わなければいけないのだろう、それもこれもロロ=イアという組織がやっている日人道的なことが悪いのだと考えているとふと思い至る。
 そもそも、ロロ=イアは一体何を目的にして動いているのかと。レジスタンスの行動原理は大きく見て2つ、生きたいから、苦しんだ分を報復したいからとわかりやすい理由がある。だが対峙しているロロ=イアは、得体が知れない。レジスタンスは、ジブンは、一体何と戦っているのだろう。と天月博人は考えれば考えるほどに頭が痛くなりどこと無い恐怖を感じた。

「あ、2Hl_44姉ちゃん。僕、ここ見た事ある! 家が近いよ!」
「あっ本当!? あっでも3Ag_70が……お手伝いさんに連絡してもらえればいかなー……なー…………3Ag_70?」

 女が手を叩いて体全体で喜びを表し天月博人を見る。するとそこには先ほどまで手を繋いで一緒に話をしていたはずの天月博人の姿が無かった。

「3Ag_70……居なくなってる……どうして?」
「僕を見てもわかんないよ。あっ2HL_44姉ちゃん、探しに行こうとしないで。探しに行くにしても一旦帰って家の皆に助けてもらった方が良いよ」

「うーん……うん、そうだね。一帰ろっか。もしかしたら能力が関係しているのかもだしね。そう言うのも調べてもらえばわかるよね」

 女は少年の意見を取り入れて、少年の記憶の地図を頼りに家に帰ることにした。
 しばらく歩けば、女が「あっ、ここは私も分かる!」と既視感を覚えた言葉を口にしてすぐに、家と呼ばれる建築物、その建築物の形状から育成施設と思わしき場所が木々の隙間から垣間見えた。

「皆! みんなー!」

 女は安堵あんどからくる笑顔を浮かべて少年の手を引いて駆け戻ろうと走る。

「はぐれちゃってごめーん! 2Hl_44と3Hl_38だよー、誰かドア開けて―!」

 駆け寄った扉を叩き、自身の存在を主張しようとしたもう少しの所で、その手がか細い何かによって止められた。

「あえ?」
「アハハハハハ!」

 困惑する女の声を塗りつぶす様な裏返るほどに甲高い男の高笑いが響き渡る。

「愉快だなぁ……何が愉快かって? そりゃあもう一目瞭然でしょ? 現状だよん」
「え、何々!?」

 女は周囲を見渡す。だが声は四方八方から聞こえてくるだけでどこから聞こえてきているにかがわからない。

「僕の担当区域、そこでまさか湧いてきた玩具の原因と我らが人材の2人が仲良く歩いていたらん。現状への無知っぷりに思わず笑えてくるでしょう? 今回は玩具の方はともかく何も分かっていない我らが人材の方さ。接して仕舞えば接するほどに自身の死がどうあれ近づいているのに気が付きもしないのん。偶然が生み出したショーとはこの事だよねん」
「ちょっと。何これ!? どこから喋ってるの!?」

「音が振動に乗って運ばれるのを知らないのかなん? もし次の時に機会があるのなら糸電話というものを作ってみるといいよん。きっと楽しいだろうからさ。
 それじゃあ、3Cu_59? もうとっくに着いてるよねん?」
「はあい、2Cu_9兄さん」

 ゴスロリな見た目の褐色、赤毛の少女がどこからでも聞こえるその声に返事をして木々の影から出てくる。

「だ、誰?」
「2Hl_44君はもう知らなくていい、何故なら? それは簡単。僕がおしゃべりに飽きたから! 単純でわかりやすくていいね! それじゃあ、仲良しごっこは終わりだよん。色々と警戒心もなく仲良くしちゃってた子は処刑しようねぁ」

 処刑の言葉にどこかの草木が揺れる音が聞こえ、クスリと笑い声が前方から漏れる。

「元凶さんは見てるだけでいいのかなん? あっでも敵だったかぁ。それなら仲良くなっても死んでもらったほうが楽だもんねぇ。それじゃあ3Cu_59。元凶さんが後につっかえてるから、さっさと処刑して。僕好みな槍かは分かってるね?」
「はぁい、勿論でーす。それじゃあ、チョンチョンっと」

 赤毛の少女が笑みを浮かべて指を動かすと少年が驚愕の声を上げ、次の瞬間。少年が突如口を開けて舌をカエルが如く発車して女の背中に突き刺した。

「痛!? な、なんで……3Hl_38」
「ひ、ひがうちがう! からはがかっへにからだがかってに!」

「はい、ごくごくー」

 少女がまた指を動かすと、少年が「オェ」と吐き気を模様した様な声を漏らす。痛い痛いと泣いていた女は次第に元気を失っていき。へこんで行く。

「やめ、やめてぇ……な、なんでかわかんないけど。ごめんなさい、ごめんなさい」

 吐き気を催している少年は喋る余裕もなさそうにしている中、女が痛みからか涙を流して救いを乞う。

「3Hl_38ごめん!」

 すると天月博人が耐えきれず草木の影から飛び出して、女を突き刺し何かを吸っていた舌が切り裂いた。

「あらら出ちゃった」
「出ちゃったねぇ。元凶さん。でも、ちょっと遅かったんじゃないかなん? 激痛によって気付けされていた意識が今ので解放されたわけだからねん」

 全方向から聞こえる声に、女に目をやった。女らそれで拘束されていたのであろう細い、いくつもも糸に体重を預けて肉を食い込ませて切り割かれながら息絶えていた。
 天月博人はいつもは眠たげな目を限界まで開いて少女を睨む。

「こわーい。そんな怖い人は……」

 少女がちょいちょいと指を動かしたので少年を警戒して少年を見るが、天月博人が振り返る前に天月博人の体は自由に動かなくなり、後方で何かが倒れた音が聞こえた。

「つーかーまーえーた」

 倒れる音、少女の声で。天月博人は少年が息絶え、自身が拘束されたのを悟った。






 拠点の外。ドラム缶に詰めた土を廃棄する際。どこからとも無く声が聞こえる。

「彼らの拠点はどこかいい加減に教えてん? お前はこっち側でしょん?」

 迷って何も言えない。

「いつものどっちつかず? まぁ、もういいやん。それより面白いことになったから。誰か2人だったのを1人にして早速決行してねん」

 どこからか聞こえた声はそれだけ言って途切れた。結局、何も言えず一方的に指示されただけ、つまりこれからの行動に、自身意思は無い。そう、自身に思って楽になろうとした。
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