30 / 92
4-5 :やあ。
しおりを挟む
「ねぇ、博人君は3日以内に帰って来るって言ったんだよね」
「はい、その筈です」
「予定より2日超えてるねぇ。……僕たち視点の話、博人君は迷わない。嘘を吐かない。なら考えられる可能性は……あんまりいい予感がしないハプニングが起きたとみるべきだね」
助けてくれたリーダーが帰ってこないかもしれない。天月博人不在が原因で暗く重くなってる拠点で誰かが言った言葉が脳裏によぎり、楽善二治が歯を食い縛って震えていると中田文兵が肩を叩いた。
「今まで俺と一緒に襲撃を続けてきた奴だ。死に切る訳がねぇ。なら、どっかで生きてるはずだ。生きてんなら……あとは探し出して連れ帰ればいい」
通信手段が無い為に天月博人の場所の特定は絶望的なため、その言葉はただの慰めでしかない。だが、楽善二治は天月博人は死んでも甦る事を思い出し、震えは弱くなった。
「中田君……」
「あぁ畜生、ここ最近うまい事いってんなぁ、なんて思ってたがこんなレジスタンスに居る状況になってる時点で世の中どうにもなんねぇってのを想い知ってんだった。はぁ、今の俺としては襲撃してぇんだがな……しばらくは博人捜索に時間を費やすかねぇ」
「わかりました。では、当分は襲撃時の戦利品が無くとも問題なくレジスタンス維持できるように物資の生産、消費を調節します」
中田文兵の意思表示に楽善二治はようやく現状を受け止め、腹を据えた。
「桑原兄ちゃんが手品やるんだって! ショウ君、見に行ってみようよ!」
「おっマジで!? もしかして昨日言ってた本格的な奴?! 行く行く!」
子供たちの声が聞こえる。張り詰めていた気持ちが緩んで中田文兵が「気楽でいいねぇ」と軽口を叩く。屋宮亜里沙が「まぁいいじゃない。暗くなるよりは断然ね。たぶん、桑原君なりの気遣いじゃないかな?」と笑い声を肯定した。
「どうする? 気晴らしに見に行く?」
「俺はパス。なんとかショーとかの見世物系ってのは見た事もねぇからかもだがあんまり興味がわかねぇんだ」
「僕も、おじさんにショーを楽しむ感性は残ってないからね。その間は仕事させてもらうかな」
「ちぇー。通堂さんは感性を死なせないために見た方が良いと思うけどなー。中田君も食わず嫌いならぬ見た事が無いからって別にいっやってのも悲しくない? 無理強いはしないけど。楽善君は?」
「私は……そうですね。見て見ますよ。息抜きはしておきたいですしね」
楽善二治と屋宮亜里沙、そして気まぐれにやってきた屋宮亜里沙、鉄田大樹、霜下太郎と居合わせ、他数人とレジスタンス内ほとんど全員の兄弟と共に桑原真司のマジックショーを見る。
手作りのトランプでのマジック、布でのマジック。拠点の外で捕まえた烏を使ったマジックをを見せた。子供たちは喜んだ。大人たちはこの環境でよくここまで仕上げたと感心した。
「それでは皆様。これよりお見せするは。僕が自身をもって……お送りするボックス系マジックでございます。どうか、目を逸らさないようお願いします。それでは、ボックス系マジックと言う事で今回限りの助手を誰かにお願いしたく思います」
子供たちが元気よく手をあげる、霜下太郎が「だ れ に し ま しよ う か な ー」とお道化るように客席を見定め「決めました!」と1人を指さした。
「お、俺で御座るか?」
「はい、鉄田さんが……一番いいのです」
桑原真司が休憩時間に拵えた木箱の中へと鉄田大樹を入れてマジックを行う。木箱を横に3個重ね、「ほ、本当に大丈夫でござるよね!?」と不安の声を漏らす鉄田大樹に容赦なく刃物を用いた切断マジック。切断マジックの際に鉄田大樹が頭を出して居た穴から中にいないはずの烏の出現したりと観客たちを十分に驚愕させた。
「それでは皆様。これよりお見せするのは人間消滅のマジックでございます。箱の中に居る鉄田さんを見事、消して見せましょう」
そう言って桑原真司は鉄田大樹の入った箱を占めて観客たちに見えないようにし、10から数字をリズムよく減らし0になった時に連結して扉の様になっている木箱の蓋を開ける。するとそこには人間消滅のマジックと題するにふさわしく、鉄田大樹の姿は何所にも居なかった。
「おやおや、鉄田さんは何所に行ったのでしょう?」
桑原真司は箱に入り、地面を踏んだり蓋となって居る部分以外の壁を押してどこにも逃げ場がないことを観客たちに見せつける。そして次の瞬間、箱の扉が触れられることもなく勢いよく閉じ、桑原真司を閉じ込める。観客たち衝撃音に圧倒され空気が張り詰める中で、ゆっくりと扉がひらく。中には桑原真司の姿はない、これだけなら二番煎じであったが観客たちは驚きの声をあげる。なぜなら、箱の中には桑原真司の代わりにテレビが入っていたのだ。
テレビは独りでに電源が入り、ここではない何処かを映して、軽快な愉快さの中に何所と無い狂気を感じるバイオリンの音を響かせた。
携帯端末を奪われ、外的要因によって勝手に瞳を閉じたまま動く足でやってきたどこかで腰掛けたところで、漸く瞳が自身の意志で開くことが出来た。
「やあ。僕は元気だよん。君はげーんきぃ?」
無機質な灰色の空間、ベッドのようなものに寝かされ縛り付けられているのが分かった中で、左右対称に黒と白だけで顔全体に化粧した道化師のような男が覗き込んできたその隣には、先ほど少年を使って女を殺し、そしてついでの様に少年を処理した褐色赤毛の少女がいる。
ピエロは「ごめんごめん。喋れないんだったねん。それじゃあコミュニケーションと行こうかなん」と言って一冊の本を手に取る。
「さーてさて、どうやってあそぼーか。記録よーると…………」
「おほー、2Cu_9兄さん。何するのー?」
「いつも通りおもちゃの鑑定だよん…………これとか怪しいかなぁ?」
ピエロはゴスロリを適当にあしらいながら、ゴスロリが手に持っていたゴーグル型携帯端末、その電源ボタンを押した。「やめろ!」と耐え切れずに叫ぶがピエロは歯牙にもかけず携帯端末を本を読みながら弄る。
「つまーんないん」
ピエロはそう言ってついには起動しなかった携帯端末を乱雑に後ろへと投げ捨てた。煽っているつもりなのなら大成功と言えるだろう。今の行動で天月博人が向ける憎悪は深くなる。
「痛いのは慣れっこだろうしねん……どこまで我慢できるかやってみるとか?」
「もー2CU_9兄さん、またお父様たちに怒られるよ!」
「いいのいいの。だからって僕が面白くないことするのも嫌だしねん。うん、3Cu_59の発言できーめた。痛いの我慢しようねん」
その後、天月博人はピエロが気の向くままの玩具となった。
まずは手始めにと言わんばかりに串カツを目の前で食べ、持ち手の鉄串で全身の爪と肉の間、そこにゆっくりとねじ込まれ、肉を土台にテコの原理を利用して全身の詰めを丁寧に一枚ずつはがされた。
次は片目にゆっくりとなぞるようにスプーンを充てる。金属製の冷たさが瞼の上に乗り。目玉の向こう側へと行こうとする。だが、スプーンは向こう側に行けない。瞼の肉が大いに邪魔をするのだ。それならばと強引に目玉を傷つけながらスプーンを押し込み。掻き出すように目玉を抉り出し。水を流し、綺麗な穴を作った。
「目玉……つぶれちゃったん……3Cu_59……これ食べて。どんな味か教えて」
「えっ……」
「ほら、あーん」
「あ、あー…………ん……オエ゛」
「吐かないで咀嚼して味わって……どんな味?」
「と、トロっとしてて……中に硬いのがあって…………味らしい味は……血以外……ないよ」
「ふーん、なんか不味そう。食べなくてよかったー。よし休憩時間だよん」
痛みが引いてきたころに、感覚のマヒが治まってきたころにピエロは口無博人の両手足の親指と小指をペンチで潰し、グルリと何回転もさせてねじ切った。
「血は止まってきたかなん? いやあ、汚れちゃったねんごめんごめん。それじゃあ掃除してあげよっかーな? 僕はシーツを取り換えて体を拭いてあげるよん。3Cu_59は……耳かき合ったでしょ? アレでふっかーくまでは耳と鼻を掃除してあげてん?」
「あ、あの耳かき私のおきに……何でもない。わかったやる」
全身を脱がされ、タワシで擦られ。耳と鼻の奥がえぐられ匂いも音も分からなくなる。もう、何時間経ったのだろう、もしかしたらもう日にちを跨いでいるかもしれない。……体を無理やり動かされて生きた虫が詰まった生々しい何かを食事させられた回数から考えて……朝、昼、晩の三食出されているのならば……2日経っているだろうか。
「拷問、あーきた。2Cu_4の奴遅いなー……元凶くんはもう3Cu_59に管理任せちゃおかっなーん…………そうしようかな …………んー? ……3Cu_59は何見てるのん?」
「わっ、え……と。家から持ってきた……日本の……列島か群島か忘れたけど……そこに売ってるらしい漫画って本だよ」
「ちょっと見せてん……………………口と口を…………えっ、なんで裸………………これ面白いの?」
「わ、私は……面白い……と言うかドキドキするというか………」
「ふーん。じゃあちょっと、アレにやってみて」
「えっあの、それは……2Cu_9兄さんのお願いでも……嫌」
「なんで?」
「え、えっと……私、やった事無いから……:
「やった事無いから……何? それだけ? それだけならやれるでしょ? 食べた事無いのに嫌いだった人参食べたら好きになったとこ前例が有るんだし。その程度で僕の言うこと聞けないなら 力の手に入れ方と使い方。両方教えて3Cu_59を廃棄処分になるところだったのを止めて上げたこの恩人の指示に従わないなら。3Cu_97と3Cu_66みたいに処分するよ?」
「しぉ、処分……」
扉が開けられ誰かが入る気配を感じる。身を開け片方だけになった視線をやるとゴスロリとピエロが居た。
今回はどんな痛いことをするのだろう。叫びすぎた結果、喉を痛めてまともに叫べなくなったジブンにどんな反応を求めるのだろう。終りの見えない現状は、いったいいつになったら終わるのだろう。そう思いながら……天月博人はまた今を耐えきろうと考えていた。いつか見せるかもしれない隙を信じて、いつか来るかもしれない助けを希望して。ただ耐えるだけの今を受け入れてた。
ゴスロリは指から何か、細長い物を伸ばし、天月博人の体内に入れて全身の自由、もがく自由を奪う。苦しいだけの時間が始まる。天月博人がそう思っているとゴスロリの顔が近づく。ぼんやりとした思考で何をするのだろうかと思っていると。唇に、唇が触れた。
行動の意味がわからず困惑していると。ゴスロリはピエロを見た。ピエロは興味深そうに「その程度のじゃあ、無かったよねん?」と口にすると。ゴスロリは物怖じしてから唇を触れさせた。
あぁ、それさえも奪うのかと理解して突きとばし拒もうという思いとは裏腹に、口が開き、ほのかに暖かく艶めかしい生き物めいたものの侵入を許してしまった。
「あーきた」
ゴスロリが痛みからくる苦悶の表情から溶けるように艶やかで、恍惚とした表情になってきた頃。ピエロがそう言った。
当初は戸惑いくすぶっていたくせして、徐々に我が家のように踊り狂っていたそれが|人の脳髄に音と感触を響かせていたそれが、ようやく出て行き、糸を引きながらピエロを見た。
「もう、終わりなの?」
「うん、僕がもう面白く無いと感じたからねん。それとなんか気持ち悪くなってきたし。僕はもういいや。それじゃ、3Cu_59は元凶くんはを監視、管理しておいてねん」
そう言ってピエロは欠伸をして出て行くのを見届けるとゴスロリは天月博人を見た。しばらく悩むように見つめて唾を飲み、ピエロから終わりと聞いて掴んだ自身の服を、再び手放した。
ある時、時間があれば永遠と体のあらゆる先っぽから根元まで、いくつもの方法、いくつもの意味で熱を感じさせ、咀嚼し、嬲り、舐り貪っては。糸で天月博人を操って自信を犯させていたゴスロリが「はい、これ君の」と言って天月博人にゴーグル型携帯端末を首にかけさせて連れ出し。どこか舞台広間のような場所に移動させられる。
舞台の上にある二脚の椅子の一脚に縛り付けられ待機させられていると。ピエロと笑みが張り付いているかのような男が大きな箱を持って舞台広間へとやってきた。
笑みが張り付いた男が箱の中から三脚とカメラを出して天月博人が恥に映るようにセットし、ピエロに向かってサムズアップする。
すると次はピエロが箱からバイオリンを取り出して舞台の上で構え、ピエロに倣う様にゴスロリが配置に着く。
次に箱の中からマジシャン の格好をしたのっぺらぼうな仮面の男が這い出てくる。這い出た奇術師の男に引き上げられるようにしてふくよかで、見覚えのある男が次に出てくる。
「なんて……なんて痛ましい姿に……リーダー……」
天月博人はふくよかな男と目があって驚愕し絶望した。その人が鉄田大樹だと理解したからだ。無駄だということを忘れてもがき助けようとするがやはりビクともしない。
マジシャン に押される形で鉄田大樹が舞台に上がり。天月博人の隣に用意された椅子に縛られた。マジシャン はしっかり固定したのを確認するとマスクを少しずらして、シルクハットから明らかに入っているわけがないトランペットを取り出して待機した。
笑顔の張り付いた男がカメラを構えて3本の指を立ててリズムよく減らし0本になると演奏が始まった。
ゴスロリとピエロが歌い、マジシャン とこれまたピエロが演奏しながら飛び跳ねる様に踊る。
軽快で愉快の中に狂気を感じる音楽が終わるとピエロが「アハハハハハ!」と笑う。
「どーも! はあじめましてん皆様! こおれよりお見せするは人間消滅マジックの続き。タネも仕掛けもあるからよおく見ておくよおにねん」
ピエロはそう言って、糸で拳銃を滑らせる様に出現させる。
「止めろ! やるならジブンに……」
何をするのかを理解した時、気がつけば枯れ果てた喉から叫び声が振り絞り出ていた。
「んー? わかったよん」
ピエロはそう言って、鉄田大樹の膝を撃ち抜いた。鉄田大樹痛みによる叫びが耳をつんざく。
「元凶くんは、自分が意見する立場ではないってのをわかってないことがねん。ほんっとさあ。やめてほしいよねえ、興が冷めるからん」
「でも……でも、やめてほしいです」
「はい、また意見」
ピエロがまた鉄田大樹の膝を撃ち抜く。
「なんでかなあ。どおしてそんなに頑張ろおなんて思うのかなん? ああ、もしかして意味がないのをわかってない? それならごめんねん? 僕は君たちがそんなに情弱だなんて知らなかったのん」
ピエロは愉快そうに笑う。どういうことがわからず天月博人と鉄田大樹はその様子を睨む。
「いい事を教えてあげるん。意味がない。それが指すのは現状あがいても死ぬ事じゃあないん。この世の生きとし生けるものの価値は意味が無いから。どうせ終わるからねん」
「ど、どうせ死ぬから意味がないと。そういうのですかな?」
「バーカ、そんな幼稚な事じゃあないよん。えーとそうだねん。はるか昔のある日ある時。服が虫に食べられて沢山の穴が開きました。穴は今でも広がっています。服は最後にどうなるでしょん? はい、2Cu_4は答えてん!」
そう言われて指さされたマジシャン はほんの少しの間を置いて「無くなる」と答えた。
「はい、せいかいん。穴だらけになって広がって最後には無くなるから。服が? 違う違う。この世界がだよん。博士たちの予想では確か74年後? くらいに」
「は?」と困惑の声を漏らす鉄田大樹とは打って変わって、天月博人は顔を青くした。想像できてしまったのだ世界の消滅が。世界が穴だらけなのを知っているが故に。
「そんな突拍子の無い話信じるわけがない!」
「ない?」
ピエロは鉄田大樹の肩を撃ち抜きながら、天月博人の前に立って顔を覗き込んだ。
「その割には元凶くんは。君がリーダーって言った人には覚えがあるみたいだけど?」
「ほ、本当なんですかリーダー!」
「本当だ。世界には穴が空いてる。そして増えて広がっているんだ。……2Cu_9……さん。もしかして止め方をロロ=イアが探していたり」
希望を無理矢理見出してすがるがピエロは嘲笑う様に首を振った。
「なわけないでしょん。その逆で世界が滅ぶ運命を保護してるのん。なんで? って答えられる前に答えてあげるん。
これは焦土作戦を成功させるためなの。ボス曰くこの世界はすべての世界から一番離れていない。ボス曰く中心世界とも言えるこの世界を別世界への足掛かりとして、他の世界の支配者は欲しがった。そしてボス曰く、世界に入り込むことは成功したものの能力不足によって世界が世界と隔たるために必要な膜を傷つけてしまった。
ボス曰く、世界に入ることがやっとだったボスの世界の支配者たちは、他の世界の支配者たちに修復され横取りされるくらいなら。破壊し切ってしまおうと思い至るん。以上! わかったん?」
「そんな……勝手な!」
ピエロは笑う。「勝手も何もこれは自然淘汰。それだけの話なのよん。ボスにとってこの世界の生きとし生けるものなんて弱い存在は外敵に抵抗するための兵器素材でしかないよん」と。それを聞かされて呆然としていた天月博人に鉄田大樹がスッと吹っ切れた様な声で問いかける。
「あぁ、こんな感覚だったのかな……リーダー。君は今でも救いたいと思えますかな?」
天月博人はその問いが何を意味しているのかもわからず。自身で定めたあり様に従って「うん」と答えると鉄田大樹は「ウイウイ、それでは申し訳ないですがお付き合いをば」と言った。
「弱い? この世界の生命体が弱いとな? 外から来ておいてその評価だとはいやはや。舐め腐るな。いいことを教えてもらったそのお礼にいいことを教えてやる」
「はあん?」
絶対的に有利なピエロに向かって鉄田大樹は笑っていた。この場で死ぬかもしれない現実に不敵な笑みを突きつけていたのだ。
「過去から命を繋げ続けて来た今の命が弱いわけがない。未来へ命を繋ごうとする命が強く無いわけが無いんだ。証拠はない。だが俺が見た。この目で少なくとも3人見て来た! ピエロ! 君は直ぐに思い知ることになる。この世界は強いぞ」
鉄田大樹がそう言い切ると。ピエロはつまんなそうに引き金を鉄田大樹の頭部に撃ち込んだ。
「死んでもいい何て思った人質ほど面白くないものはないねん。さて次々」
鉄田大樹は自身の死に恐怖していた。なのにその死に際に見せた横顔は笑っていた。
痛み苦しみによって意気消沈しかけていたそんな場合ではないと鉄田大樹がかつて渡された命のバトンを受け取って魂に、火種がついた。
「それ以上、動かないでください」
「何のつもりかなん? 2Cu_4?」
天月博人に拳銃を向けようとするピエロの首にマジシャン が横から立ち塞がった。。
「僕はね、知らなかったんです。世界がなくなるなんて知らなかったんです。
やりたくもない戦うための訓練の意味を知らなかったんです。
ロロ=イアという大きな家意外にも大きな社会を全然知らなかったんです。
本で知った誰にでもできる手品が、特殊能力の方がすごいと足蹴にされず。笑われるのが嬉しい事だって知らなかったんです」
マジシャン の正体を声から。天月博人は桑原真司だと確信した時。そうか、嬉しかったのかと。穏やかな気持ちで彼の存在を受け入れていた。
「何が言いたいのん?」
「鉄田大樹の言葉で決めました。僕はこの世界の一部になりたい。この世界と共にありたいです」
「あっそん」
「すいませんリーダー。僕、リーダーが死ぬ事を遅らせることしかできません」
桑原真司を螺旋状に囲む様に糸が伸びる。
「でも、限定的とは言え瞬間移動能力者何てロロ=イアから居なくなって欲しいですよね? これで勘弁してください」
桑原真司、何かを迷っていた男は最後にロロ=イアを辞めて、自身の力は使わせないとこの世界の為に。ピエロに首から下を輪切りにされた。彼が今までどういう人生だったのかはわからない。鉄田大樹と針城誠子の見解通りロロ=イアの一員ではあったが、彼の最期を見て、言葉を聞いて天月博人は、せめてジブンだけは彼はこの世界の一員だと受け入れた。
魂に寄り添った種火が強くなり、新しい種火によって燃え上がった。
「元凶くんもそんな顔するんだねん」
「地獄の底から足をひっつかんでやる」
「あっそ」
ピエロはつまんなそうに天月博人の頭部を撃ち抜いた。
ロロ=イア。死体処理場にて。山積みにされていた死体の中で一人、天月博人が甦り立ち上がった。服がボロボロだったために。自身の下敷きになっていた死体から上着、コートとついでの帽子を貰う。
「ニコ、壊れてないか?」
首にかけられた携帯端末を起動する。
『うん……生きてるよ』
「よかった。早速で悪いけどあのクソピエロがいた場所、それと拠点の場所はわかる?」
『うん、勿論』
「よし、それじゃあ先ずは拠点に帰って最大戦力を連れてくるぞ。あのお遊びクソピエロを必ずぶち殺す」
天月博人は、初めて誰かを殺すと口にし。鉄田大樹の帽子を深くかぶって心から誓ったのだった。敵を倒し、世界を救うと。
「はい、その筈です」
「予定より2日超えてるねぇ。……僕たち視点の話、博人君は迷わない。嘘を吐かない。なら考えられる可能性は……あんまりいい予感がしないハプニングが起きたとみるべきだね」
助けてくれたリーダーが帰ってこないかもしれない。天月博人不在が原因で暗く重くなってる拠点で誰かが言った言葉が脳裏によぎり、楽善二治が歯を食い縛って震えていると中田文兵が肩を叩いた。
「今まで俺と一緒に襲撃を続けてきた奴だ。死に切る訳がねぇ。なら、どっかで生きてるはずだ。生きてんなら……あとは探し出して連れ帰ればいい」
通信手段が無い為に天月博人の場所の特定は絶望的なため、その言葉はただの慰めでしかない。だが、楽善二治は天月博人は死んでも甦る事を思い出し、震えは弱くなった。
「中田君……」
「あぁ畜生、ここ最近うまい事いってんなぁ、なんて思ってたがこんなレジスタンスに居る状況になってる時点で世の中どうにもなんねぇってのを想い知ってんだった。はぁ、今の俺としては襲撃してぇんだがな……しばらくは博人捜索に時間を費やすかねぇ」
「わかりました。では、当分は襲撃時の戦利品が無くとも問題なくレジスタンス維持できるように物資の生産、消費を調節します」
中田文兵の意思表示に楽善二治はようやく現状を受け止め、腹を据えた。
「桑原兄ちゃんが手品やるんだって! ショウ君、見に行ってみようよ!」
「おっマジで!? もしかして昨日言ってた本格的な奴?! 行く行く!」
子供たちの声が聞こえる。張り詰めていた気持ちが緩んで中田文兵が「気楽でいいねぇ」と軽口を叩く。屋宮亜里沙が「まぁいいじゃない。暗くなるよりは断然ね。たぶん、桑原君なりの気遣いじゃないかな?」と笑い声を肯定した。
「どうする? 気晴らしに見に行く?」
「俺はパス。なんとかショーとかの見世物系ってのは見た事もねぇからかもだがあんまり興味がわかねぇんだ」
「僕も、おじさんにショーを楽しむ感性は残ってないからね。その間は仕事させてもらうかな」
「ちぇー。通堂さんは感性を死なせないために見た方が良いと思うけどなー。中田君も食わず嫌いならぬ見た事が無いからって別にいっやってのも悲しくない? 無理強いはしないけど。楽善君は?」
「私は……そうですね。見て見ますよ。息抜きはしておきたいですしね」
楽善二治と屋宮亜里沙、そして気まぐれにやってきた屋宮亜里沙、鉄田大樹、霜下太郎と居合わせ、他数人とレジスタンス内ほとんど全員の兄弟と共に桑原真司のマジックショーを見る。
手作りのトランプでのマジック、布でのマジック。拠点の外で捕まえた烏を使ったマジックをを見せた。子供たちは喜んだ。大人たちはこの環境でよくここまで仕上げたと感心した。
「それでは皆様。これよりお見せするは。僕が自身をもって……お送りするボックス系マジックでございます。どうか、目を逸らさないようお願いします。それでは、ボックス系マジックと言う事で今回限りの助手を誰かにお願いしたく思います」
子供たちが元気よく手をあげる、霜下太郎が「だ れ に し ま しよ う か な ー」とお道化るように客席を見定め「決めました!」と1人を指さした。
「お、俺で御座るか?」
「はい、鉄田さんが……一番いいのです」
桑原真司が休憩時間に拵えた木箱の中へと鉄田大樹を入れてマジックを行う。木箱を横に3個重ね、「ほ、本当に大丈夫でござるよね!?」と不安の声を漏らす鉄田大樹に容赦なく刃物を用いた切断マジック。切断マジックの際に鉄田大樹が頭を出して居た穴から中にいないはずの烏の出現したりと観客たちを十分に驚愕させた。
「それでは皆様。これよりお見せするのは人間消滅のマジックでございます。箱の中に居る鉄田さんを見事、消して見せましょう」
そう言って桑原真司は鉄田大樹の入った箱を占めて観客たちに見えないようにし、10から数字をリズムよく減らし0になった時に連結して扉の様になっている木箱の蓋を開ける。するとそこには人間消滅のマジックと題するにふさわしく、鉄田大樹の姿は何所にも居なかった。
「おやおや、鉄田さんは何所に行ったのでしょう?」
桑原真司は箱に入り、地面を踏んだり蓋となって居る部分以外の壁を押してどこにも逃げ場がないことを観客たちに見せつける。そして次の瞬間、箱の扉が触れられることもなく勢いよく閉じ、桑原真司を閉じ込める。観客たち衝撃音に圧倒され空気が張り詰める中で、ゆっくりと扉がひらく。中には桑原真司の姿はない、これだけなら二番煎じであったが観客たちは驚きの声をあげる。なぜなら、箱の中には桑原真司の代わりにテレビが入っていたのだ。
テレビは独りでに電源が入り、ここではない何処かを映して、軽快な愉快さの中に何所と無い狂気を感じるバイオリンの音を響かせた。
携帯端末を奪われ、外的要因によって勝手に瞳を閉じたまま動く足でやってきたどこかで腰掛けたところで、漸く瞳が自身の意志で開くことが出来た。
「やあ。僕は元気だよん。君はげーんきぃ?」
無機質な灰色の空間、ベッドのようなものに寝かされ縛り付けられているのが分かった中で、左右対称に黒と白だけで顔全体に化粧した道化師のような男が覗き込んできたその隣には、先ほど少年を使って女を殺し、そしてついでの様に少年を処理した褐色赤毛の少女がいる。
ピエロは「ごめんごめん。喋れないんだったねん。それじゃあコミュニケーションと行こうかなん」と言って一冊の本を手に取る。
「さーてさて、どうやってあそぼーか。記録よーると…………」
「おほー、2Cu_9兄さん。何するのー?」
「いつも通りおもちゃの鑑定だよん…………これとか怪しいかなぁ?」
ピエロはゴスロリを適当にあしらいながら、ゴスロリが手に持っていたゴーグル型携帯端末、その電源ボタンを押した。「やめろ!」と耐え切れずに叫ぶがピエロは歯牙にもかけず携帯端末を本を読みながら弄る。
「つまーんないん」
ピエロはそう言ってついには起動しなかった携帯端末を乱雑に後ろへと投げ捨てた。煽っているつもりなのなら大成功と言えるだろう。今の行動で天月博人が向ける憎悪は深くなる。
「痛いのは慣れっこだろうしねん……どこまで我慢できるかやってみるとか?」
「もー2CU_9兄さん、またお父様たちに怒られるよ!」
「いいのいいの。だからって僕が面白くないことするのも嫌だしねん。うん、3Cu_59の発言できーめた。痛いの我慢しようねん」
その後、天月博人はピエロが気の向くままの玩具となった。
まずは手始めにと言わんばかりに串カツを目の前で食べ、持ち手の鉄串で全身の爪と肉の間、そこにゆっくりとねじ込まれ、肉を土台にテコの原理を利用して全身の詰めを丁寧に一枚ずつはがされた。
次は片目にゆっくりとなぞるようにスプーンを充てる。金属製の冷たさが瞼の上に乗り。目玉の向こう側へと行こうとする。だが、スプーンは向こう側に行けない。瞼の肉が大いに邪魔をするのだ。それならばと強引に目玉を傷つけながらスプーンを押し込み。掻き出すように目玉を抉り出し。水を流し、綺麗な穴を作った。
「目玉……つぶれちゃったん……3Cu_59……これ食べて。どんな味か教えて」
「えっ……」
「ほら、あーん」
「あ、あー…………ん……オエ゛」
「吐かないで咀嚼して味わって……どんな味?」
「と、トロっとしてて……中に硬いのがあって…………味らしい味は……血以外……ないよ」
「ふーん、なんか不味そう。食べなくてよかったー。よし休憩時間だよん」
痛みが引いてきたころに、感覚のマヒが治まってきたころにピエロは口無博人の両手足の親指と小指をペンチで潰し、グルリと何回転もさせてねじ切った。
「血は止まってきたかなん? いやあ、汚れちゃったねんごめんごめん。それじゃあ掃除してあげよっかーな? 僕はシーツを取り換えて体を拭いてあげるよん。3Cu_59は……耳かき合ったでしょ? アレでふっかーくまでは耳と鼻を掃除してあげてん?」
「あ、あの耳かき私のおきに……何でもない。わかったやる」
全身を脱がされ、タワシで擦られ。耳と鼻の奥がえぐられ匂いも音も分からなくなる。もう、何時間経ったのだろう、もしかしたらもう日にちを跨いでいるかもしれない。……体を無理やり動かされて生きた虫が詰まった生々しい何かを食事させられた回数から考えて……朝、昼、晩の三食出されているのならば……2日経っているだろうか。
「拷問、あーきた。2Cu_4の奴遅いなー……元凶くんはもう3Cu_59に管理任せちゃおかっなーん…………そうしようかな …………んー? ……3Cu_59は何見てるのん?」
「わっ、え……と。家から持ってきた……日本の……列島か群島か忘れたけど……そこに売ってるらしい漫画って本だよ」
「ちょっと見せてん……………………口と口を…………えっ、なんで裸………………これ面白いの?」
「わ、私は……面白い……と言うかドキドキするというか………」
「ふーん。じゃあちょっと、アレにやってみて」
「えっあの、それは……2Cu_9兄さんのお願いでも……嫌」
「なんで?」
「え、えっと……私、やった事無いから……:
「やった事無いから……何? それだけ? それだけならやれるでしょ? 食べた事無いのに嫌いだった人参食べたら好きになったとこ前例が有るんだし。その程度で僕の言うこと聞けないなら 力の手に入れ方と使い方。両方教えて3Cu_59を廃棄処分になるところだったのを止めて上げたこの恩人の指示に従わないなら。3Cu_97と3Cu_66みたいに処分するよ?」
「しぉ、処分……」
扉が開けられ誰かが入る気配を感じる。身を開け片方だけになった視線をやるとゴスロリとピエロが居た。
今回はどんな痛いことをするのだろう。叫びすぎた結果、喉を痛めてまともに叫べなくなったジブンにどんな反応を求めるのだろう。終りの見えない現状は、いったいいつになったら終わるのだろう。そう思いながら……天月博人はまた今を耐えきろうと考えていた。いつか見せるかもしれない隙を信じて、いつか来るかもしれない助けを希望して。ただ耐えるだけの今を受け入れてた。
ゴスロリは指から何か、細長い物を伸ばし、天月博人の体内に入れて全身の自由、もがく自由を奪う。苦しいだけの時間が始まる。天月博人がそう思っているとゴスロリの顔が近づく。ぼんやりとした思考で何をするのだろうかと思っていると。唇に、唇が触れた。
行動の意味がわからず困惑していると。ゴスロリはピエロを見た。ピエロは興味深そうに「その程度のじゃあ、無かったよねん?」と口にすると。ゴスロリは物怖じしてから唇を触れさせた。
あぁ、それさえも奪うのかと理解して突きとばし拒もうという思いとは裏腹に、口が開き、ほのかに暖かく艶めかしい生き物めいたものの侵入を許してしまった。
「あーきた」
ゴスロリが痛みからくる苦悶の表情から溶けるように艶やかで、恍惚とした表情になってきた頃。ピエロがそう言った。
当初は戸惑いくすぶっていたくせして、徐々に我が家のように踊り狂っていたそれが|人の脳髄に音と感触を響かせていたそれが、ようやく出て行き、糸を引きながらピエロを見た。
「もう、終わりなの?」
「うん、僕がもう面白く無いと感じたからねん。それとなんか気持ち悪くなってきたし。僕はもういいや。それじゃ、3Cu_59は元凶くんはを監視、管理しておいてねん」
そう言ってピエロは欠伸をして出て行くのを見届けるとゴスロリは天月博人を見た。しばらく悩むように見つめて唾を飲み、ピエロから終わりと聞いて掴んだ自身の服を、再び手放した。
ある時、時間があれば永遠と体のあらゆる先っぽから根元まで、いくつもの方法、いくつもの意味で熱を感じさせ、咀嚼し、嬲り、舐り貪っては。糸で天月博人を操って自信を犯させていたゴスロリが「はい、これ君の」と言って天月博人にゴーグル型携帯端末を首にかけさせて連れ出し。どこか舞台広間のような場所に移動させられる。
舞台の上にある二脚の椅子の一脚に縛り付けられ待機させられていると。ピエロと笑みが張り付いているかのような男が大きな箱を持って舞台広間へとやってきた。
笑みが張り付いた男が箱の中から三脚とカメラを出して天月博人が恥に映るようにセットし、ピエロに向かってサムズアップする。
すると次はピエロが箱からバイオリンを取り出して舞台の上で構え、ピエロに倣う様にゴスロリが配置に着く。
次に箱の中からマジシャン の格好をしたのっぺらぼうな仮面の男が這い出てくる。這い出た奇術師の男に引き上げられるようにしてふくよかで、見覚えのある男が次に出てくる。
「なんて……なんて痛ましい姿に……リーダー……」
天月博人はふくよかな男と目があって驚愕し絶望した。その人が鉄田大樹だと理解したからだ。無駄だということを忘れてもがき助けようとするがやはりビクともしない。
マジシャン に押される形で鉄田大樹が舞台に上がり。天月博人の隣に用意された椅子に縛られた。マジシャン はしっかり固定したのを確認するとマスクを少しずらして、シルクハットから明らかに入っているわけがないトランペットを取り出して待機した。
笑顔の張り付いた男がカメラを構えて3本の指を立ててリズムよく減らし0本になると演奏が始まった。
ゴスロリとピエロが歌い、マジシャン とこれまたピエロが演奏しながら飛び跳ねる様に踊る。
軽快で愉快の中に狂気を感じる音楽が終わるとピエロが「アハハハハハ!」と笑う。
「どーも! はあじめましてん皆様! こおれよりお見せするは人間消滅マジックの続き。タネも仕掛けもあるからよおく見ておくよおにねん」
ピエロはそう言って、糸で拳銃を滑らせる様に出現させる。
「止めろ! やるならジブンに……」
何をするのかを理解した時、気がつけば枯れ果てた喉から叫び声が振り絞り出ていた。
「んー? わかったよん」
ピエロはそう言って、鉄田大樹の膝を撃ち抜いた。鉄田大樹痛みによる叫びが耳をつんざく。
「元凶くんは、自分が意見する立場ではないってのをわかってないことがねん。ほんっとさあ。やめてほしいよねえ、興が冷めるからん」
「でも……でも、やめてほしいです」
「はい、また意見」
ピエロがまた鉄田大樹の膝を撃ち抜く。
「なんでかなあ。どおしてそんなに頑張ろおなんて思うのかなん? ああ、もしかして意味がないのをわかってない? それならごめんねん? 僕は君たちがそんなに情弱だなんて知らなかったのん」
ピエロは愉快そうに笑う。どういうことがわからず天月博人と鉄田大樹はその様子を睨む。
「いい事を教えてあげるん。意味がない。それが指すのは現状あがいても死ぬ事じゃあないん。この世の生きとし生けるものの価値は意味が無いから。どうせ終わるからねん」
「ど、どうせ死ぬから意味がないと。そういうのですかな?」
「バーカ、そんな幼稚な事じゃあないよん。えーとそうだねん。はるか昔のある日ある時。服が虫に食べられて沢山の穴が開きました。穴は今でも広がっています。服は最後にどうなるでしょん? はい、2Cu_4は答えてん!」
そう言われて指さされたマジシャン はほんの少しの間を置いて「無くなる」と答えた。
「はい、せいかいん。穴だらけになって広がって最後には無くなるから。服が? 違う違う。この世界がだよん。博士たちの予想では確か74年後? くらいに」
「は?」と困惑の声を漏らす鉄田大樹とは打って変わって、天月博人は顔を青くした。想像できてしまったのだ世界の消滅が。世界が穴だらけなのを知っているが故に。
「そんな突拍子の無い話信じるわけがない!」
「ない?」
ピエロは鉄田大樹の肩を撃ち抜きながら、天月博人の前に立って顔を覗き込んだ。
「その割には元凶くんは。君がリーダーって言った人には覚えがあるみたいだけど?」
「ほ、本当なんですかリーダー!」
「本当だ。世界には穴が空いてる。そして増えて広がっているんだ。……2Cu_9……さん。もしかして止め方をロロ=イアが探していたり」
希望を無理矢理見出してすがるがピエロは嘲笑う様に首を振った。
「なわけないでしょん。その逆で世界が滅ぶ運命を保護してるのん。なんで? って答えられる前に答えてあげるん。
これは焦土作戦を成功させるためなの。ボス曰くこの世界はすべての世界から一番離れていない。ボス曰く中心世界とも言えるこの世界を別世界への足掛かりとして、他の世界の支配者は欲しがった。そしてボス曰く、世界に入り込むことは成功したものの能力不足によって世界が世界と隔たるために必要な膜を傷つけてしまった。
ボス曰く、世界に入ることがやっとだったボスの世界の支配者たちは、他の世界の支配者たちに修復され横取りされるくらいなら。破壊し切ってしまおうと思い至るん。以上! わかったん?」
「そんな……勝手な!」
ピエロは笑う。「勝手も何もこれは自然淘汰。それだけの話なのよん。ボスにとってこの世界の生きとし生けるものなんて弱い存在は外敵に抵抗するための兵器素材でしかないよん」と。それを聞かされて呆然としていた天月博人に鉄田大樹がスッと吹っ切れた様な声で問いかける。
「あぁ、こんな感覚だったのかな……リーダー。君は今でも救いたいと思えますかな?」
天月博人はその問いが何を意味しているのかもわからず。自身で定めたあり様に従って「うん」と答えると鉄田大樹は「ウイウイ、それでは申し訳ないですがお付き合いをば」と言った。
「弱い? この世界の生命体が弱いとな? 外から来ておいてその評価だとはいやはや。舐め腐るな。いいことを教えてもらったそのお礼にいいことを教えてやる」
「はあん?」
絶対的に有利なピエロに向かって鉄田大樹は笑っていた。この場で死ぬかもしれない現実に不敵な笑みを突きつけていたのだ。
「過去から命を繋げ続けて来た今の命が弱いわけがない。未来へ命を繋ごうとする命が強く無いわけが無いんだ。証拠はない。だが俺が見た。この目で少なくとも3人見て来た! ピエロ! 君は直ぐに思い知ることになる。この世界は強いぞ」
鉄田大樹がそう言い切ると。ピエロはつまんなそうに引き金を鉄田大樹の頭部に撃ち込んだ。
「死んでもいい何て思った人質ほど面白くないものはないねん。さて次々」
鉄田大樹は自身の死に恐怖していた。なのにその死に際に見せた横顔は笑っていた。
痛み苦しみによって意気消沈しかけていたそんな場合ではないと鉄田大樹がかつて渡された命のバトンを受け取って魂に、火種がついた。
「それ以上、動かないでください」
「何のつもりかなん? 2Cu_4?」
天月博人に拳銃を向けようとするピエロの首にマジシャン が横から立ち塞がった。。
「僕はね、知らなかったんです。世界がなくなるなんて知らなかったんです。
やりたくもない戦うための訓練の意味を知らなかったんです。
ロロ=イアという大きな家意外にも大きな社会を全然知らなかったんです。
本で知った誰にでもできる手品が、特殊能力の方がすごいと足蹴にされず。笑われるのが嬉しい事だって知らなかったんです」
マジシャン の正体を声から。天月博人は桑原真司だと確信した時。そうか、嬉しかったのかと。穏やかな気持ちで彼の存在を受け入れていた。
「何が言いたいのん?」
「鉄田大樹の言葉で決めました。僕はこの世界の一部になりたい。この世界と共にありたいです」
「あっそん」
「すいませんリーダー。僕、リーダーが死ぬ事を遅らせることしかできません」
桑原真司を螺旋状に囲む様に糸が伸びる。
「でも、限定的とは言え瞬間移動能力者何てロロ=イアから居なくなって欲しいですよね? これで勘弁してください」
桑原真司、何かを迷っていた男は最後にロロ=イアを辞めて、自身の力は使わせないとこの世界の為に。ピエロに首から下を輪切りにされた。彼が今までどういう人生だったのかはわからない。鉄田大樹と針城誠子の見解通りロロ=イアの一員ではあったが、彼の最期を見て、言葉を聞いて天月博人は、せめてジブンだけは彼はこの世界の一員だと受け入れた。
魂に寄り添った種火が強くなり、新しい種火によって燃え上がった。
「元凶くんもそんな顔するんだねん」
「地獄の底から足をひっつかんでやる」
「あっそ」
ピエロはつまんなそうに天月博人の頭部を撃ち抜いた。
ロロ=イア。死体処理場にて。山積みにされていた死体の中で一人、天月博人が甦り立ち上がった。服がボロボロだったために。自身の下敷きになっていた死体から上着、コートとついでの帽子を貰う。
「ニコ、壊れてないか?」
首にかけられた携帯端末を起動する。
『うん……生きてるよ』
「よかった。早速で悪いけどあのクソピエロがいた場所、それと拠点の場所はわかる?」
『うん、勿論』
「よし、それじゃあ先ずは拠点に帰って最大戦力を連れてくるぞ。あのお遊びクソピエロを必ずぶち殺す」
天月博人は、初めて誰かを殺すと口にし。鉄田大樹の帽子を深くかぶって心から誓ったのだった。敵を倒し、世界を救うと。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる