自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-1 :クリア、頑張ってね。

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 天月博人が拠点に帰ると。中田文兵が待ち構えていた。

「待ってたぜぇ博人ぉ。いや、リーダーって呼んだ方がいいか?」
「ジブンを覚えているのか?」

「何でかな、俺以外の奴らはことごとく忘れてるから能力の一部が消えたってわけじゃあなさそうだ」
『ニコが今思った可能性としては。
 1つ。ナカタニさんの耐性能力が対応してきた。
 2つ。ヒロの能力の忘却効果は1人につき3回まで。
 こんな感じだけど。ちょっとデータが足りないかな』

「そうか、まぁいいか。拠点に戻ってきたってことはテメェが甦る事がバレるって割り切っとけ。
 鉄田の野郎とテメェが死んだところを俺らは見てたんだからな」
「見られてたのか……誤魔化しようはなさそうだな。ウイ、了解した」

拠点の中に入ると誰もが見覚えのない天月博人の顔を見た。数度、天月博人の素性を確認する声が飛び交った後。楽善二治が駆け寄って天月博人を抱擁した。嗚咽おえつが聞こえるのは、天月博人関連のことか、それとも鉄田大樹関連のことか。もしくは両方か、天月博人には分らない。

「ひ、博人君……どうして……」

 天月博人の存在を思い出し始めた頃、屋宮亜里沙が困惑めいた声で何かを尋ねる。天月博人は「諸々の事情説明は後でやります」と答えて中田文兵に「武器庫に行きますよ」と言った。
 楽善二治が「何をするつもりなのですか?」と心配そうに尋ねると中田文兵が「ハッ」と笑い飛ばし「そんなの決まってんだろ。あのピエロに鉄田大樹の言葉を親切丁寧に教えてやんだよ」とどこか怒りを感じさせる声色で告げた。



「拠点の場所を移動した方が良いだろうね。ここは可哀想だけど桑原真司君の例が出来てしまったから次から救出した人たちの在中する場所として有効活用しようね」

 天月博人と中田文兵が鉄田大樹の教えを思い出しながら整備をしていると通堂進が今後の動きを楽善二治に提案していた。

「おう、そこら辺の話はそっちで詰めといてくれ。おう、そんじゃあ博人。我が物顔のロロ=イアどもから俺たちの世界を勝ち取りに行くぞ」
「ウイ。それは良いんだが……あれは一体どうしたのですか? 倒さなくていいんですか?」

 天月博人は桑原真司が用いた箱の隣に座り込んでいる少女、中田文兵が倒して以来、何度倒しても明日には沸くようになった少女に何があったのかを聞く。
 すると中田文兵は「アイツも何も知らなかったんだよ。ロロ=イアが何のための存在かも、この世界が消滅していくこともな。まぁ、行く前に一応倒しておくけどよ」と答えた。

少女を処理し、拠点からピエロたちがいた場所へと向かうために出発した時。出入り口には今まで誰も欠けなくて忘れかけていたロロ=イアに殺されるかもしれないと言う現実とを思い出し、心配が多数。
 自分には何もできないからこれくらいはと言う視線がちょっと。
 残りは天月博人の存在に困惑と言ったところだろうか、多くの見送り人がいた。
 天月博人は「帰ってくるから」と一言言って中田文兵とともに戦いへと赴く。

「マジックショー。やっていたんですか?」
「あぁ」

「あの箱の中にあったテレビ見たいので」
「見てた。鉄田とテメェが死ぬのを」

「そうですか……」


「鉄田が作るチャーハン。美味かったよな」
「ウイ」

「色んな事、教えてもらったよな」
「ウイ」

「それは、鉄田の真似か?」
「ウイ……」

「そうか……忘れてやるなよ。アイツから聞いたことを全部、血肉にするんだ。それでさ……拠点に帰ったら泣こうや」
「ウイ……ありがとう」

『2人とも、着いたよ』

 ロロ=イアから奪った地図には載って居ない建物。天月博人達は問答無用に侵入し、中を散策する。
 もう逃げたのか、そもそもいないのか。ロロ=イア人員は居ない。

「これは……桑原さんが着けてたのっぺらぼうの仮面か」
『えっ、着けるの?』

「着ける。…………鉄田さんに負けないくらい死んでほしくなかった人なんだ。桑原さんって」

 天月博人は、かつて2Cu_4。桑原真司が利用していたと思われる部屋からのっぺらぼうのお面を複数発見し、その一つを装着した。

「うわ、こっわ」
『だよね? ヒロ、ナカタニさんでもどうかと思う奴なんだよそれ』
「そんなに? 結構嫌いじゃないんだが……」

『えー……』
「まぁ、俺はそこらへん口出しはしねぇよ。
 ところでニコさんよ。ナカタニさんでもってどういうことだコラ」

 道中、探索を終えた中田文兵と合流し、雑談交じりにお国へと進むと部隊広間に出た。そこで3何やら段ボールを運んでいる3Cu_59、ゴスロリと相対した。
 ゴスロリは天月博人達を見つけ次第、「2Cu_9兄さん! もう来たよ!と叫んで跳躍ちょうやくし、張られている糸から糸へと飛び移って、はりにたどり着くとそこから段ボールに向かって手を掲げ、糸を伸ばす。伸ばした糸がダンボールにたどり着くとダンボールの中から勢いよく大人ほどの大きさを持つ男女の人形が飛び出した。
 人形が飛び出て着地するタイミングとは少しずれて、天月博人達がやってきた方角から向かい側にある通路から、巨大な熊が走ってやって来て吠えたと思えば姿が消えた。

「こんなに早くやってくるとはねん。仲間思いみたいで僕は感激したよん。でも残念ながら今日は不完全燃焼で終わって貰うよん。今日君達を相手するのは3Cu_59と透明大隈のミケちゃんだよん! 楽しんでってねん!」

 ピエロの声がアナウンスの様にそれだけ告げると。天井に張られている糸が激しく振動を初めて音楽が部隊広間に響き渡る。

「クソピエロが、演出のつもりかよ……上等だこの野郎。おい、リーダァー! どうすんのか指示をよこせ!」
「ウイ、アンタにはピエロのほうを探してもらう。その間ジブンがこっちを対応しよう。だけれど行く前にあのゴスロリをあそこから叩き落しておいてくれ」

「あいよ」

 天月博人が指示したその瞬間、中田文兵は瞬間移動を行い、ゴスロリの隣に出現する。、中田文は「上から見物とはいい身分じゃねぇか」と悪態をつきながら拳銃を向ける。ゴスロリは「ひゃっ」と声をあげて防護体制を取りながら打たれる前に自ら落下する。
 落下するゴスロリを追いかける様に、天月博人と中田文兵は拳銃を向けて発砲するが、天月博人女の人形が立ちふさがり放たれた銃弾の身代わりとなり着弾。その間、中田文兵の放ったっ銃弾は大きく外れ、落下していくゴスロリは男の人形に受け止められた。

(ジブンのもどの道外れたのに、わざわざ身代わりとは有難い……)
『女の人形損傷。動作に異常なし。普通に攻撃しても効果は薄いみたいなんだよ』

「ウイ、わかった。ナカタニさん落としてくれてありがとう。この状況なら問題なく戦える」
「おう、先行ってるぜ?」

中田文兵の姿が消えのを合図に1.4倍速に加速しながらゴスロリとの間合いを詰めようとする。

「アハ、はやーい」

ゴスロリは天月博人との狭間に1着のドレスをセコセコと着替えている女の人形を向かわせて、クルクルと躍らせた。
風を切る音が聞こえる。警戒し遠回しようとするとしたところで強い衝撃に襲われて天月博人は吹き飛んだ。

『大丈夫!?」
「あ、あぁがぁ! あぁあああ…………はぁ……はぁ……なんとか、なってない……あばら骨がぁ…」

 反射的に反撃できなかったことに自信の戦闘能力の不足を実感する。反撃できていれば。噴出する血液にしろ、体内に残る銃弾にしろ透明熊の居場所を居ることができたかもしれないのにと。

「アハハ! おいでおいで、私はここよ。私を捕まえてみて仮面ゴーグルの人。もっともっと遊ぼうよ」

 ゴスロリはあおるように踊って響き渡る音楽の中の地震の声と重なるように歌う。勝利を確信したのだろう。
 天月博人はそれを無視して、どう攻めるかを組み立てる。熊の倒し方は早々に思いk浮かんだが激痛と時間という対価を払わなければならないために「やりたくないなぁ」と声が漏れる。動こうとするが肋骨が容赦なく痛みを走らせる。

「どうしたの? 痛い? ねぇ痛い? アハハ!」
「こんな、早々にか……今日は二度目だぞ……」

 痛みによって動くことを拒否する身体。どこかには目に見えぬ透明の熊。天月博人は一旦の敗北を悟り、大きくため息ををついて『えっ、ヒロ何をしようとしてるの!?』と声を発する花の髪留めが取り付けられたゴーグル型携帯端末、のっぺらぼうのマスクをコートに包んで。抱える。

「熊公、たんまりと食べるといい」

 天月博人が覚悟を決めていると。少しの間をおいてゴスロリから笑みが消える。

「えっ元凶君……どうして」

 天月博人はゴスロリの言葉から、自信の能力の一部を把握する。天月博人と相対するのが思い出すきっかけではなく。天月博人の素顔を見ることでようやく思い出すのだと。
 もう、思い出していると踏んでいたので、意外な収穫、それでいてやってしまったと。天月博人が死んでもこうして生きているところを認識されたからだ。

「ミケ!  止まって!」
「は、はは……よく教育されているな。鼻息が背後で止まったぞ……はぁ、元々ガブリって予定だったかぁ腹の中から元気なジブンが生まれる作戦は阻止されたなぁ……じゃあこうしよう」

 天月博人は仮面とゴーグル型携帯端末を再装着して。自信に拳銃を突きつけた。

「なっ!?」
『本当に何してるのかな!?』
「忘却されしゾンビ戦法だ」

 引き金を、後ろに向けてkら引い。背後で獣が叫ぶ声と共に自信が大きく損傷する前に自決した。
 損傷部位は少ない。自身の死から甦るまでの経験から、損傷が大きければ大きいほどに甦るまでに時間がかかることを天月博人はしっている。脳天に銃弾を1発。これならば1時間もしないうちに甦るだろう。肋骨が損傷していることも踏まえれば1時間ちょっとで甦ることができるだろうか。そう思いながら、天月博人は意識を手放した。
 天月博人を近くにまで迫っていた糸が、引っ込んでみゴスロリは「どういう状況なのこれ」とつぶやく。
 上半身裸で倒れ伏す仮面の少年と、目では見えない何かが血を吹き出している。自信は人形を2体動かしている。天月博人に関する記憶が欠如したために困惑しているとふと中田文兵の存在を思い出す。

「はっ! 侵入者が居るんだった……でもさっきの人瞬間移動を……あっミケ! ……食べちゃった……まっいっか。瞬間移動のやつを相手しないと。ミケ、お昼の時間でお腹が減ってるのはわかるけど、さっさと食べて。瞬間移動するやつを追いかけるよ。……暇、ちょっと傷を見せて。私の糸で塞いであげる」

 記憶を失ったことによって。天月博人の当初の作戦通りとなった。問題があるとするのなら部位的損傷が増えるために甦る時間が長くなることだろう。





(裏口発見……開いてんな。身内置いて先に逃げたか? はぁ……一通り探してこれじゃあ、どうしようもねぇかな……そんじゃあ、博人と合流して存分に探索するかねぇ…………倒してんのかな……もしくは逆に倒されてたり……あいつ、くっそ早いのと、少し腕に覚えがあるだけだからなぁ。どっちも普通にあり得るか)

 中田文兵、ピエロ捜索の末に発見できず。諦めて天月博人と合流しようと考える。一応どこかで見かけるかもしれないと考え、瞬間移動は用いず歩いて向かう。
 その道中、廊下でプラスチック製品が擦る音そ少女の「ラ」だけの唄声が聞こえ、獣臭と血生臭さが混じったかのような深い極まる匂いが香る。中田文兵はゴスロリと再び相対したのだ。

(後者の方か……負けたと言う事は死んだとみるが……とすると俺はやっぱり忘れてねぇのな…………まぁ良いや。とりあえず。ピエロの居所、その心当たりを吐かせてやる)

「ふふふ、見付けたわ」
「よう、また会ったな」

「ねぇねぇ、大きくて怖いお兄さん、私と遊そぼうよ」
「あん? 遊ぶぅ? へぇ、そうかそうか、俺等との戦いは命がけでも遊びかクソが…………いいぜぇ、遊んでやる。ガキのの鬼ごっこに本気出すアスリート選手が如く。最高の理不尽を見せてやる」

 男女の人形が中田文兵の前に躍り出る。2体の人形は先ほどと違って服を纏っている。女の人形がくるくると回るように踊り。男の人形が更に接近し、刃物だらけの服の袖に通した腕を振るった。

「おぉ、若干速いしオレの服を簡単に切ったところから切れ味も悪くない……だがまぁ効かねぇんじゃあ攻撃なんてものは意味がねぇよなぁ!」

 拳を握り邪魔なものをどかすように、殴り飛ばす。

「テメェは俺に勝てない。テメェ如きの攻撃は効かねぇし。こうやって相対している以上、どこに居ようが逃げられない。いやぁテメェにとっては絶望的って奴だねぇ」

 ゴスロリは悲しそうに「貴方、踊らないのね。つまらない」と口にして指を動かす。すると殴り飛ばされた男の人形の首がねじれ口が開く。開かれた口の中からは無数の針が中田文兵に降り注ぐ。

「だから効かねぇんだって……お?」

 中田文兵の身体がピクリと勝手に動き出す。身体を糸によって乗っ取られたのだと自身の耳に向かって男の人形を通して伸びている細い糸が照明によってキラリと見えたことに気が付く。

(成程、マリオネットって奴か? 体の中に糸が入っていると言う事は)

 中田文兵は瞬間移動を行って、肩を回し自身の体の調子をうかがう。

「俺ならこうやって抜けられる」
「む、むぅ! 踊らないならお人形さんになってよ!」

「誰がなるかそんなもの」

 中田文兵は余裕綽々の態度で、一歩一歩ゴスロリに近づく。

「もう降参しちまえば? テメェは仲間に置いて行かれてるしよ。薄情な仲間何て裏切っちまえ」
「む、むむむぅぅう! 煩い煩い煩い!」

「そうか。いやぁ、それでも闘おうなんてもはや健気とすら思えてくるねぇ」

 ゴスロリの罵倒を浴びながら阻むクルクルと回る女の人形を、服に取り付けられた刃物に自身の服をズタボロにされつつ蹴り倒し、女の人形の両足を踏みつぶし、胴を踏みつぶし、腕を踏みつぶし、頭を踏みつぶし、ゴスロリへと着実に近づく。

「だが俺はテメェを倒す。真正面からな」

 服がズタボロになっていくため体の大きい中田文兵にサイズの合う服を探すのもつくろうのも面倒だから服を大事にしてと抗議を後で受けそうだと、今更ながらに真正面から受け止める選択肢をとったことに後悔し始めながら。ゴスロリに手を伸ばす。

「悪あがきって奴だな」

 後ろから、首がねじれた男の人形が、中田文兵を羽交い絞めにした。拘束も瞬間移動を用いれば脱出できると見せようとするが。その前にゴスロリが叫んだ「ミケ!」と。次の瞬間。中田文兵は強い衝撃を受けて壁際へと男の人形ごと叩き付けられた。何度も、何度もゴスロリが「やっちゃえ! やっちゃえ!」と連呼する中で何かに殴りつけられる。

「あぁ、そういやぁ見えねぇ熊がいるんだったな……近くで女の子を守ってたか、賢いねぇ……でもよ」

 次の瞬間、中田文兵はゴスロリの目の前にいた。

「余裕で拘束何て抜けられるし、熊公の猛攻なんぞクソほども効かねぇよ。こちとらそっちが作った耐久実験で、大気圏から落っことされたりしてんだぞ。いやぁ服は途中で燃え尽きてよ。俺が1人素っ裸で落ちるだけだったなぁ。瞬間移動能力獲得した瞬間そんな実験はなくなったがよ……でだ、もう詰みに見えるが、テメェはまだ何かあるか?」

 中田文兵が顔を覗き込むとゴスロリの目が震えているのが分かる。中田文兵はそれを何度も見た事がある。恐怖し、心が折れた目だ。

「ねぇな。そんじゃあ俺の勝ちだ。捕まえたぞ情報源」

 遊びであった。まさにゴスロリは真正面から遊び、玩具にしようとした中田文兵に遊ばれ、膝から崩れ落ちて「こんなの、どうやって勝つの?」と震える言葉を発して敗北した。
 闘いが決し、中田文兵がゴスロリを担ぐと。突如熊がうなり始める。なんだなんだ眺めていると熊は色を取り戻し、悶絶している姿を見せ。そしていつしか動かなくなった。熊の中で何かがうごめき、腹を異様に膨らませてそして、破裂した。

「あー、腹の中に居たのかジブン……胃袋丈夫だなオイ。そのまま潰されるかと思ったぞ……ん? あぁ、ナカタニさん、終わったみたいですね」

「お、おう…………博人テメェ食われてたのか。まぁ、あの人形程度なら糸で取っ捕まるか。透明熊だよなぁ……しっかしえげつねぇもの見せやがって」
「いやー、悪い悪い。わざとじゃないから許してくれ」

 天月博人が熊の腹の中から出現した。

「え、あっ……君は……」
「よう、ナカタニさんと一緒に状況説明してもらうぞ」

 ゴスロリの瞳が一層、震えた。
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