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5-2 :クリア、頑張ってね。
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「ふー、サッパリした」
施設内の探索にて発見していた個室の風呂で血を洗い落とし、自身の残骸から服、ゴーグル型携帯端末、のっぺらぼうの仮面を回収して身に着ける。
「テメェが此処に居るのに、テメェの死体が在るのは変な感じだなぁ」
「あー、そこらへんジブンも見た事無い現象だから断言はできませんけど……耳元でめっさ怒鳴るニコに可能性を聞きましょうか」
『あー! もう! 後で楽善に言いつけてやるんだよ! で、可能性? とりあえず思いつくのは。
1つ、あのミケとかいう巨大熊に食べられた部分が残った残骸の部分よりも多くて、ヒロの物量が多い方が優先された。
2つ、ミケが食べた部位の中にヒロの能力が発動する際に中心点となる核のようなものがあった。
これ位かな』
怒った顔のニコが天月博人の異能力、その可能性を提示する。それを中田文兵は興味深く聞いて居た。
「なるほどねぇ。そこらへん試行錯誤して明確にしておきたいな。2つ目の可能性が当たったら使いやすそうだ。例えば核が心臓なら敵陣の施設に放り投げとけば数時間後に起爆する人間爆弾になるな」
『ニコは、ヒロが自分から死にに行くの何て一切許容してないから。そんな事やったら全身全霊で嫌がらせするんだよ』
「ニコを敵には回したくないな……それにジブンはなるべく死にたくない。言葉通り、死ぬほど苦しかったり痛かったりするから」
『その割にはあっさり自分の頭を撃ちぬいたんだよ。どう言う事かな?』
ニコに責められるような視線を向けられ、天月博人はバツが悪そうに視線を逸らす。
「いやー、アレはあばら骨折れてまともに動けなくなってたし。まだ頭撃ち抜けば損傷的に速く甦って後ろから不意打ちできると思ってな。状況的にまだ受け入れられた」
『その受け入れ思考も大概にするんだよ!?』
「あ、あはは。前向きに考えておく……それで、ナカタニさん。あの子は?」
ニコに圧倒されて目を泳がせながら、天月博人は逃げるように話題を逸らす。ニコの怒りに我関せずと言わんばかりに会話に入らなかった中田文兵が、苦笑いをしながら口を開いた。
「縛って廊下に転がしてるよ。この部屋から少し出たら……存在を確認できる。もう着換えたんだから尋問始めようぜ?」
「よし、始めようか」
中田文兵が天月博人の狩医師の言葉と共に瞬間移動、そしてゴスロリかかえて出現する。中田文兵が乱暴に手放し、ゴスロリが転びそうになったところを天月博人が受け止めて地面に座らせた。
「よう、暇だったろ。お話ししようぜ? ちなみに素直に吐くことをお勧めする。じゃないとテメェらが俺等のリーダーにやった事をそっくりそのままやり返してやる。目を抉り、爪を剥ぎな」
テレビから見えた天月の状態を思い出しながら、脅しの材料を引き出す中田文兵の言葉に、ゴスロリは顔をはにかむ様に赤くしてチラリと青ざめる天月博人を見る。
「おう、何だこの反応」
中田文兵が天月博人を見ると、天月博人は目をそらした。
「あの時、体を傷つけたのは主にクソピエロの方です。その子は、自分からやっていたのは最初だけで、殆どはクソピエロに命令されてやってました」
「ふーん。それでその反応とこの反応の説明にはなってなくね?」
「えーとですね。その子は傷つけるというより、ジブンから色々奪ったんですよ……これも最初は苦悶してたしピエロの命令だと思うけど」
「奪う……? 最初は苦悶……?」
中田文兵は再びゴスロリを見る。顔を真っ赤にして熱っぽい視線を天月博人に向けている。
「あーそっか。そういう事か。それでこの表情ってことは……まぁ見た目年齢的に覚えちまって猿になっちまったって感じか。
でもよぉ。残念ながら俺たちのリーダーには想い人が居るんだよ。今じゃあテメェらの餌食になったが居るんだよ。
簡単に忘れらんねぇしだ好きな人ってのは。今、テメェがリーダーの心に入り込む余地はねぇし。只々気持ち悪いだけだ。
それでも突っ込まれてぇなら。テメェの下腹部にナイフ突っ込んでやろうか」
中田文兵に青筋が浮かび上がる。中田文兵にとってその辺りを踏みにじるのはひどく面白くないことであったのだ。
ナイフを取り出しチラつかせ、明確に何処へ刺すかを口にされ、想像してしまったのかゴスロリは恐怖に目を震わせた。
「突っ込む前にムード作りと行こうか。質問していくぞ。だから答えろ。1分、何も言わなきゃあキャンキャン喘がせてやる」
ピエロに虐げられていたのは知っている。桑原真司というギリギリながらにロロ=イアに反旗をひるがえす存在を知っている。
だが身内の女と少年を笑いながら殺す様な子だと知っている。とてもレジスタンスへ来いなどと手を差し伸べる気にはならないし。生かすつもりは毛頭ない。
だが、脳裏にゴスロリの言葉が響いて仕方がなかった。捨てないで、処分しないで、役に立つから。と縋って救いを求めるかのような声。人の上で眠ってはでたうわ言の声が。だから、天月博人は中田文兵のナイフを持つ手をどかした。
「あん、どうした?」
「そこまでしなくて良いです。この人がやったことはトラウマになりそうですけど。そこまでするほどもう憎悪しているというわけではありませんから」
救いを求めるほど震える心があるとわかったのなら。敵だとしても僅かに救いってあげたいと思ったのだ。
「ナカタニさん。代わりに問いたださせてください」
「良いぜ。俺よりもリーダーにはその権利がある」
「ありがとうございます」
中田文兵と交代して。ゴスロリと話し合いをする立ち位置になる天月博人はかがんでゴスロリを見る。
「アンタは多分もうわかってるだろう。君は死んだも同然だという事を。どのみち助からない」
「うっ……うぅ」
ゴスロリの目が震える。
「ナカタニさんは痛みからの解放を条件にアンタから問い正そうとした。では。ジブンは飴をあげよう。
生きたい、縄を解いて。……アレがしたい。そんな要求は聞けないから、要求されたらその都度に駄目だというけれど。肉が食べたい。体を洗いたいとかそんな要求を聞いてあげよう。その代わり1つ叶えるにつき2つは前払いで答えてほしい。どうかな?」
そんな彼女に、救いの兆しを差し出す。どうせ最期だからと飴を得るか。何らかの誇りを最大限守るために鞭を得るかはゴスロリ次第である。
ゴスロリの目は震えたままだがそれはしばらくして、別の感情が灯る。
「な、なにも聞かず。殺し、て」
「何も聞かない、君の願いによってアンタを殺す。前払い4つ。他のを要求するようにおススメするけどこれでいい?」
ゴスロリは息を飲んで、口を噤んだ。
「我慢しなくていいよ。アンタがやりたい事を口にするといい。言いたい事を言ってもいいんだ。どうする?」
「じゃ、じゃあキスしてほしい」
「テメェ」
「ナカタニさん、別にいいから」
天月博人の顔が青ざめ、中田文兵の顔が強張るが。天月博人は「前払い2つ。それでいいのか」と言った。それはすなわちこのナチュラルボーンサキュバスなゴスロリの「キスがしたい」と言う要求が通ったと言う事である。
ゴスロリは、生唾を呑んで赤くなった顔をコクリと頷いて動かした。
「質問1つ。ピエロ、2Cu_9は何所へ行った?」
ゴスロリが一瞬目をそらしそうになるが。天月博人が頬を触れて目を合わせさせ「答えるんだ」とせかす。
「O地点の……通信施設……」
天月博人のゴーグル型解体端末が地図を開き、o地点というものを割り出し、絞り込む。
「ウイ、ではその情報の確実性の証明、もしくはこの世界が消滅するという話がどれだけロロ=イア内で浸透しているか」
「えっと……お手伝いさんはほとんど知らない。兄弟姉妹たちもほとんど知らされていない……と思う」
要求して得られたのは不確定な2つの情報。中田文兵が「情報2つとするには不完全すぎねぇか?」と意見するが。天月博人は「それでも参考になったから別にいいです」と中田文兵を抑え、そしてゴスロリ少女に「顔をあげて」と言って口づけした。
ゴスロリは驚いた表情をした後に、舌を出して天月博人の構内をむさぼる。中田文兵が後ろで「何で口なんだ。頬かデコでいいだろ」と引いた。
「えっキスって口以外でもキスになるの?」
天月博人は中田文兵の言葉に驚いて押し込まれている舌を押し出し、中田文兵に自信の知識の確認を取らせた。中田文兵が「一応な……知らなかったのかリーダー……」と答えたことによって、知識不足であることが判明した。天月博人的にはいろいろと損をした気分である。
「まぁ、次だ。次の要求はなんだ?」
「も、もう一回……キスを……口どうしで……」
熱っぽく、艶やかにゴスロリはキスを要求した。
それも、口どうしのキスは天月博人は許容の範囲内だと先ほどの事から理解し、却下されにくいとみて。
「おぉう。味をしめてやがる。おう、そんな代わりにやるかみたいな顔されても、俺は絶対にやんねぇぞ。リーダーが差し出した飴なんだからしっかり与えろ」
「はぁ……そう言われると確かに……。言った以上は呑み込むか……それで、本当に同じ内容のものでいいのか? ……そうか、では前払いだ。まず1つ。アンタ達、ロロ=イアはどうやって連絡を取っている。アンタ達なら知っているんじゃあないのか?」
少々青ざめながらも、他の誰かがこんな思いをするのならば幾分、自分だけが汚れていく状況の方がマシだと受け入れ始めている天月博人が尋ねる。ゴスロリはもはや癖なのか目を背けようとするがすぐに天月ヒロトに顔の向きを修正される。
「えっと……」
「どうせ死ぬんだ。最期くらい正直になってもいい。最期くらい良い思いをしてもいい。最期くらい憎い相手を思い浮かべて不都合になるようなことを口走ってもいい。今のアンタにはそれが許されている」
飴をコロコロと手のひらで転がして見せつけるように言葉を投げかけたぶらかす。すると口の中に溜まっていた生唾をゴスロリは飲んで。口を開く。
「地点毎に。通信施設があって2CU_9兄さんのような通信手段として応用できる能力を持った兄弟姉妹が配属されるの。この島での通信手段はそんな彼らの連携にあるよ」
「なるほど……では、2つ目、そんな手間がかかりそうな手段で連絡網を作っている理由は? 通信端末を各施設に設置したらいい話では?」
「それは私にはわからない。でもお父様たちが電波が邪魔になるとか言ってたのを聞いたことがあるけど……えっと。答えたことにならない?」
「いや。ちゃんと情報になる。アンタの発言でこっちは絞り込むことも諦めることもできるから。……はぁ、おいで」
再び、口付けを行う。ことこれに関しては天月博人は問いただす側だというのに貪られることになる。数を重ねるほどに奥へ、深くへと目指す彼女の貪欲さに呼吸が難しくなっていく。息が当たる。熱い。苦しい。それはゴスロリも感じているはずなのに「もっと」と譫言の様に口にしながら貪り続ける。
ようやく解放されると。天月博人もゴスロリも息が上がっていた。頭がしびれていた。天月博人は純粋な酸素不足から。そしてゴスロリは……出来上がってしまっているがゆえに。
「なんか長くねぇ? 」
「気にしないでください」
天月博人も最初は軽くして終わらせるつもりではあったが。ゴスロリの口内から糸が侵入し身体が操られたために終わらせることができなかった。これを中田文兵に言えば自身の立場を無視した行動だと判断して相応以上に痛めつけただろうが。解放したということはそれすなわち純粋にキスだけを求めたということなので、天月博人はそれを受け入れて許すことにした。
「顔色が悪いぞ」
「気にしないでくださいって。さて次だ。要求はなんだ?」
「えっと。キス……以上……さ、最後まで……」
ゴスロリの要求に、天月博人はもはや呆れ果て、コツンとその額を叩いた。
「高揚のままに調子に乗るなサキュバスめ。アレはダメだって言ったろ。キス以上のことをアンタにしたら。
痛いって言ってもやめないアンタに全部持ってかれて枯れ果てることになる。
そうしたら自動的にナカタニさんに問いただす役割が移って苦痛を伴うだけの時間を過ごす事に成るぞ……コホン、別のを要求しなさい」
「えっと……じゃあ、キ……」
飽きもせずまたキスかと天月博人が顔を青ざめさせていると。ゴスロリがお腹を鳴らした。
「ス……じゃなくて、御飯、食べさせて」
「唾液じゃあお腹は満たされないからな。ウイわかった。ナカタニさん。代わりに前払い分を何か聞きだしておいてください。ジブンは厨房で何か作ってきます」
「おう、任された」
天月博人が食事を作りにその場から離れると。中田文兵は手を鳴らした。
「ひっ」
そしてゴスロリは、天月博人が食事をもって戻ってくるまで。どこからどう見ても不愉快そうな中田文兵に震えたのだった。
「支払いは?」
「1つ、そいつらロロ=イアの落とし子が何で正解消滅の事を知ったのか。そいつの話によるとピエロの奴がある日、突然言い出したんだってよ。そんでそいつ曰く、ピエロが普段から「真に笑うピエロは嘘を吐かない」と豪語するほどに嘘つかないから信じているんだとさ。
2つ、具体的なピエロの能力は何か。全身から視認が難しいほどにか細く頑丈な糸を出して操れるんだとさ。近くなら切り離して動かすことも可能なのだそうだ」
「なるほど。ありがとうございます。それじゃあ、食事を持ってきたのでナカタニさんは先に食べてください」
「おーう。おっ親子丼じゃねぇか良いねぇ」
盆の上の丼とお茶をナカタニさんに渡してから、少し震えているゴスロリの前に(ナカタニさんが何かやったんだろうなー)と思いながら座る。
「ほら御飯だよ。アレルギーとか聞いてなかったからアンタにとってのアレルギー源が入ってたらゴメンなさいな。ほら口を開けて」
「えっ?」
「拘束されている状態で食べれるのなら、置いてジブンも食事するんだが……1人で食えるのか?」
「え、えっと。無理……だよ。糸を出しても箸を持つの難しいくらいか弱いから」
(なんで、あの人形動かせたんだよ……マリオネットじゃなくて脳みそみたいなのを刺激して操っていたのか?)と疑問を浮かべながら「だから、口を開けな。たべさせてやるから」と言った。
ゴスロリは、親子丼を口にして「おいしい……」と呟いた。それから、ゴスロリの要求は頭を撫でて、褒めて、元凶くんの名前を教えて、お話して。と穏やかなものになって居た。天月博人が思いつくだけの聞きたい事が無くなっていく。そして中田文兵からも問いただすべきものの意見を貰ったりもして。そしてついにゴスロリに問うべきことは無くなった。
「終わりだな。もう夜か。眠いだろう? おいで、膝を貸してあげる」
天月博人はゴスロリの頭を膝に乗せ、撫でる。
「寝るといい。寝てる間に全部終わるから」
「うん……でも私、まだ死にたくないよ……まだお話ししたいよ……」
ゴスロリの瞼からこぼれ出た雫が、天月博人の膝を濡らしていく。
「寝なさい。今日は悪い日だったんだ。だから寝て明日を待つといい。3Cu_59にとって明日と言う日は善い日になるって自分も祈ってあげるから。ほら目をつぶって」
頭を撫でられ、子守歌の鼻歌を聞きながら。ゴスロリはいつの間にか寝息を立てていた。
天月博人がゴスロリが、少女が年相応で無防備な顔を覗き込んで確認すると。中田文兵に拳銃を手渡すように言って借りた拳銃をゴスロリに突き付け。「お休み。いい明日を」と言って撃ち抜いた。
施設内の探索にて発見していた個室の風呂で血を洗い落とし、自身の残骸から服、ゴーグル型携帯端末、のっぺらぼうの仮面を回収して身に着ける。
「テメェが此処に居るのに、テメェの死体が在るのは変な感じだなぁ」
「あー、そこらへんジブンも見た事無い現象だから断言はできませんけど……耳元でめっさ怒鳴るニコに可能性を聞きましょうか」
『あー! もう! 後で楽善に言いつけてやるんだよ! で、可能性? とりあえず思いつくのは。
1つ、あのミケとかいう巨大熊に食べられた部分が残った残骸の部分よりも多くて、ヒロの物量が多い方が優先された。
2つ、ミケが食べた部位の中にヒロの能力が発動する際に中心点となる核のようなものがあった。
これ位かな』
怒った顔のニコが天月博人の異能力、その可能性を提示する。それを中田文兵は興味深く聞いて居た。
「なるほどねぇ。そこらへん試行錯誤して明確にしておきたいな。2つ目の可能性が当たったら使いやすそうだ。例えば核が心臓なら敵陣の施設に放り投げとけば数時間後に起爆する人間爆弾になるな」
『ニコは、ヒロが自分から死にに行くの何て一切許容してないから。そんな事やったら全身全霊で嫌がらせするんだよ』
「ニコを敵には回したくないな……それにジブンはなるべく死にたくない。言葉通り、死ぬほど苦しかったり痛かったりするから」
『その割にはあっさり自分の頭を撃ちぬいたんだよ。どう言う事かな?』
ニコに責められるような視線を向けられ、天月博人はバツが悪そうに視線を逸らす。
「いやー、アレはあばら骨折れてまともに動けなくなってたし。まだ頭撃ち抜けば損傷的に速く甦って後ろから不意打ちできると思ってな。状況的にまだ受け入れられた」
『その受け入れ思考も大概にするんだよ!?』
「あ、あはは。前向きに考えておく……それで、ナカタニさん。あの子は?」
ニコに圧倒されて目を泳がせながら、天月博人は逃げるように話題を逸らす。ニコの怒りに我関せずと言わんばかりに会話に入らなかった中田文兵が、苦笑いをしながら口を開いた。
「縛って廊下に転がしてるよ。この部屋から少し出たら……存在を確認できる。もう着換えたんだから尋問始めようぜ?」
「よし、始めようか」
中田文兵が天月博人の狩医師の言葉と共に瞬間移動、そしてゴスロリかかえて出現する。中田文兵が乱暴に手放し、ゴスロリが転びそうになったところを天月博人が受け止めて地面に座らせた。
「よう、暇だったろ。お話ししようぜ? ちなみに素直に吐くことをお勧めする。じゃないとテメェらが俺等のリーダーにやった事をそっくりそのままやり返してやる。目を抉り、爪を剥ぎな」
テレビから見えた天月の状態を思い出しながら、脅しの材料を引き出す中田文兵の言葉に、ゴスロリは顔をはにかむ様に赤くしてチラリと青ざめる天月博人を見る。
「おう、何だこの反応」
中田文兵が天月博人を見ると、天月博人は目をそらした。
「あの時、体を傷つけたのは主にクソピエロの方です。その子は、自分からやっていたのは最初だけで、殆どはクソピエロに命令されてやってました」
「ふーん。それでその反応とこの反応の説明にはなってなくね?」
「えーとですね。その子は傷つけるというより、ジブンから色々奪ったんですよ……これも最初は苦悶してたしピエロの命令だと思うけど」
「奪う……? 最初は苦悶……?」
中田文兵は再びゴスロリを見る。顔を真っ赤にして熱っぽい視線を天月博人に向けている。
「あーそっか。そういう事か。それでこの表情ってことは……まぁ見た目年齢的に覚えちまって猿になっちまったって感じか。
でもよぉ。残念ながら俺たちのリーダーには想い人が居るんだよ。今じゃあテメェらの餌食になったが居るんだよ。
簡単に忘れらんねぇしだ好きな人ってのは。今、テメェがリーダーの心に入り込む余地はねぇし。只々気持ち悪いだけだ。
それでも突っ込まれてぇなら。テメェの下腹部にナイフ突っ込んでやろうか」
中田文兵に青筋が浮かび上がる。中田文兵にとってその辺りを踏みにじるのはひどく面白くないことであったのだ。
ナイフを取り出しチラつかせ、明確に何処へ刺すかを口にされ、想像してしまったのかゴスロリは恐怖に目を震わせた。
「突っ込む前にムード作りと行こうか。質問していくぞ。だから答えろ。1分、何も言わなきゃあキャンキャン喘がせてやる」
ピエロに虐げられていたのは知っている。桑原真司というギリギリながらにロロ=イアに反旗をひるがえす存在を知っている。
だが身内の女と少年を笑いながら殺す様な子だと知っている。とてもレジスタンスへ来いなどと手を差し伸べる気にはならないし。生かすつもりは毛頭ない。
だが、脳裏にゴスロリの言葉が響いて仕方がなかった。捨てないで、処分しないで、役に立つから。と縋って救いを求めるかのような声。人の上で眠ってはでたうわ言の声が。だから、天月博人は中田文兵のナイフを持つ手をどかした。
「あん、どうした?」
「そこまでしなくて良いです。この人がやったことはトラウマになりそうですけど。そこまでするほどもう憎悪しているというわけではありませんから」
救いを求めるほど震える心があるとわかったのなら。敵だとしても僅かに救いってあげたいと思ったのだ。
「ナカタニさん。代わりに問いたださせてください」
「良いぜ。俺よりもリーダーにはその権利がある」
「ありがとうございます」
中田文兵と交代して。ゴスロリと話し合いをする立ち位置になる天月博人はかがんでゴスロリを見る。
「アンタは多分もうわかってるだろう。君は死んだも同然だという事を。どのみち助からない」
「うっ……うぅ」
ゴスロリの目が震える。
「ナカタニさんは痛みからの解放を条件にアンタから問い正そうとした。では。ジブンは飴をあげよう。
生きたい、縄を解いて。……アレがしたい。そんな要求は聞けないから、要求されたらその都度に駄目だというけれど。肉が食べたい。体を洗いたいとかそんな要求を聞いてあげよう。その代わり1つ叶えるにつき2つは前払いで答えてほしい。どうかな?」
そんな彼女に、救いの兆しを差し出す。どうせ最期だからと飴を得るか。何らかの誇りを最大限守るために鞭を得るかはゴスロリ次第である。
ゴスロリの目は震えたままだがそれはしばらくして、別の感情が灯る。
「な、なにも聞かず。殺し、て」
「何も聞かない、君の願いによってアンタを殺す。前払い4つ。他のを要求するようにおススメするけどこれでいい?」
ゴスロリは息を飲んで、口を噤んだ。
「我慢しなくていいよ。アンタがやりたい事を口にするといい。言いたい事を言ってもいいんだ。どうする?」
「じゃ、じゃあキスしてほしい」
「テメェ」
「ナカタニさん、別にいいから」
天月博人の顔が青ざめ、中田文兵の顔が強張るが。天月博人は「前払い2つ。それでいいのか」と言った。それはすなわちこのナチュラルボーンサキュバスなゴスロリの「キスがしたい」と言う要求が通ったと言う事である。
ゴスロリは、生唾を呑んで赤くなった顔をコクリと頷いて動かした。
「質問1つ。ピエロ、2Cu_9は何所へ行った?」
ゴスロリが一瞬目をそらしそうになるが。天月博人が頬を触れて目を合わせさせ「答えるんだ」とせかす。
「O地点の……通信施設……」
天月博人のゴーグル型解体端末が地図を開き、o地点というものを割り出し、絞り込む。
「ウイ、ではその情報の確実性の証明、もしくはこの世界が消滅するという話がどれだけロロ=イア内で浸透しているか」
「えっと……お手伝いさんはほとんど知らない。兄弟姉妹たちもほとんど知らされていない……と思う」
要求して得られたのは不確定な2つの情報。中田文兵が「情報2つとするには不完全すぎねぇか?」と意見するが。天月博人は「それでも参考になったから別にいいです」と中田文兵を抑え、そしてゴスロリ少女に「顔をあげて」と言って口づけした。
ゴスロリは驚いた表情をした後に、舌を出して天月博人の構内をむさぼる。中田文兵が後ろで「何で口なんだ。頬かデコでいいだろ」と引いた。
「えっキスって口以外でもキスになるの?」
天月博人は中田文兵の言葉に驚いて押し込まれている舌を押し出し、中田文兵に自信の知識の確認を取らせた。中田文兵が「一応な……知らなかったのかリーダー……」と答えたことによって、知識不足であることが判明した。天月博人的にはいろいろと損をした気分である。
「まぁ、次だ。次の要求はなんだ?」
「も、もう一回……キスを……口どうしで……」
熱っぽく、艶やかにゴスロリはキスを要求した。
それも、口どうしのキスは天月博人は許容の範囲内だと先ほどの事から理解し、却下されにくいとみて。
「おぉう。味をしめてやがる。おう、そんな代わりにやるかみたいな顔されても、俺は絶対にやんねぇぞ。リーダーが差し出した飴なんだからしっかり与えろ」
「はぁ……そう言われると確かに……。言った以上は呑み込むか……それで、本当に同じ内容のものでいいのか? ……そうか、では前払いだ。まず1つ。アンタ達、ロロ=イアはどうやって連絡を取っている。アンタ達なら知っているんじゃあないのか?」
少々青ざめながらも、他の誰かがこんな思いをするのならば幾分、自分だけが汚れていく状況の方がマシだと受け入れ始めている天月博人が尋ねる。ゴスロリはもはや癖なのか目を背けようとするがすぐに天月ヒロトに顔の向きを修正される。
「えっと……」
「どうせ死ぬんだ。最期くらい正直になってもいい。最期くらい良い思いをしてもいい。最期くらい憎い相手を思い浮かべて不都合になるようなことを口走ってもいい。今のアンタにはそれが許されている」
飴をコロコロと手のひらで転がして見せつけるように言葉を投げかけたぶらかす。すると口の中に溜まっていた生唾をゴスロリは飲んで。口を開く。
「地点毎に。通信施設があって2CU_9兄さんのような通信手段として応用できる能力を持った兄弟姉妹が配属されるの。この島での通信手段はそんな彼らの連携にあるよ」
「なるほど……では、2つ目、そんな手間がかかりそうな手段で連絡網を作っている理由は? 通信端末を各施設に設置したらいい話では?」
「それは私にはわからない。でもお父様たちが電波が邪魔になるとか言ってたのを聞いたことがあるけど……えっと。答えたことにならない?」
「いや。ちゃんと情報になる。アンタの発言でこっちは絞り込むことも諦めることもできるから。……はぁ、おいで」
再び、口付けを行う。ことこれに関しては天月博人は問いただす側だというのに貪られることになる。数を重ねるほどに奥へ、深くへと目指す彼女の貪欲さに呼吸が難しくなっていく。息が当たる。熱い。苦しい。それはゴスロリも感じているはずなのに「もっと」と譫言の様に口にしながら貪り続ける。
ようやく解放されると。天月博人もゴスロリも息が上がっていた。頭がしびれていた。天月博人は純粋な酸素不足から。そしてゴスロリは……出来上がってしまっているがゆえに。
「なんか長くねぇ? 」
「気にしないでください」
天月博人も最初は軽くして終わらせるつもりではあったが。ゴスロリの口内から糸が侵入し身体が操られたために終わらせることができなかった。これを中田文兵に言えば自身の立場を無視した行動だと判断して相応以上に痛めつけただろうが。解放したということはそれすなわち純粋にキスだけを求めたということなので、天月博人はそれを受け入れて許すことにした。
「顔色が悪いぞ」
「気にしないでくださいって。さて次だ。要求はなんだ?」
「えっと。キス……以上……さ、最後まで……」
ゴスロリの要求に、天月博人はもはや呆れ果て、コツンとその額を叩いた。
「高揚のままに調子に乗るなサキュバスめ。アレはダメだって言ったろ。キス以上のことをアンタにしたら。
痛いって言ってもやめないアンタに全部持ってかれて枯れ果てることになる。
そうしたら自動的にナカタニさんに問いただす役割が移って苦痛を伴うだけの時間を過ごす事に成るぞ……コホン、別のを要求しなさい」
「えっと……じゃあ、キ……」
飽きもせずまたキスかと天月博人が顔を青ざめさせていると。ゴスロリがお腹を鳴らした。
「ス……じゃなくて、御飯、食べさせて」
「唾液じゃあお腹は満たされないからな。ウイわかった。ナカタニさん。代わりに前払い分を何か聞きだしておいてください。ジブンは厨房で何か作ってきます」
「おう、任された」
天月博人が食事を作りにその場から離れると。中田文兵は手を鳴らした。
「ひっ」
そしてゴスロリは、天月博人が食事をもって戻ってくるまで。どこからどう見ても不愉快そうな中田文兵に震えたのだった。
「支払いは?」
「1つ、そいつらロロ=イアの落とし子が何で正解消滅の事を知ったのか。そいつの話によるとピエロの奴がある日、突然言い出したんだってよ。そんでそいつ曰く、ピエロが普段から「真に笑うピエロは嘘を吐かない」と豪語するほどに嘘つかないから信じているんだとさ。
2つ、具体的なピエロの能力は何か。全身から視認が難しいほどにか細く頑丈な糸を出して操れるんだとさ。近くなら切り離して動かすことも可能なのだそうだ」
「なるほど。ありがとうございます。それじゃあ、食事を持ってきたのでナカタニさんは先に食べてください」
「おーう。おっ親子丼じゃねぇか良いねぇ」
盆の上の丼とお茶をナカタニさんに渡してから、少し震えているゴスロリの前に(ナカタニさんが何かやったんだろうなー)と思いながら座る。
「ほら御飯だよ。アレルギーとか聞いてなかったからアンタにとってのアレルギー源が入ってたらゴメンなさいな。ほら口を開けて」
「えっ?」
「拘束されている状態で食べれるのなら、置いてジブンも食事するんだが……1人で食えるのか?」
「え、えっと。無理……だよ。糸を出しても箸を持つの難しいくらいか弱いから」
(なんで、あの人形動かせたんだよ……マリオネットじゃなくて脳みそみたいなのを刺激して操っていたのか?)と疑問を浮かべながら「だから、口を開けな。たべさせてやるから」と言った。
ゴスロリは、親子丼を口にして「おいしい……」と呟いた。それから、ゴスロリの要求は頭を撫でて、褒めて、元凶くんの名前を教えて、お話して。と穏やかなものになって居た。天月博人が思いつくだけの聞きたい事が無くなっていく。そして中田文兵からも問いただすべきものの意見を貰ったりもして。そしてついにゴスロリに問うべきことは無くなった。
「終わりだな。もう夜か。眠いだろう? おいで、膝を貸してあげる」
天月博人はゴスロリの頭を膝に乗せ、撫でる。
「寝るといい。寝てる間に全部終わるから」
「うん……でも私、まだ死にたくないよ……まだお話ししたいよ……」
ゴスロリの瞼からこぼれ出た雫が、天月博人の膝を濡らしていく。
「寝なさい。今日は悪い日だったんだ。だから寝て明日を待つといい。3Cu_59にとって明日と言う日は善い日になるって自分も祈ってあげるから。ほら目をつぶって」
頭を撫でられ、子守歌の鼻歌を聞きながら。ゴスロリはいつの間にか寝息を立てていた。
天月博人がゴスロリが、少女が年相応で無防備な顔を覗き込んで確認すると。中田文兵に拳銃を手渡すように言って借りた拳銃をゴスロリに突き付け。「お休み。いい明日を」と言って撃ち抜いた。
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