自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-3 :クリア、頑張ってね。

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 ゴスロリを処理し、今の内に運び出せそうな物の確認をするために再度、通信施設の探索を始めると地下への道を発見。強い獣臭がする。あぁ、此処にミケという大熊を飼っていたのかと思いつつ先へ進むと。何かを待つ小熊がいた。
 小熊が目に入った時、天月博人は心底から溜息を吐いた。ミケには子供がいたのだと悟ったからだ。

「あぁ、そうか……おいで、お腹が減っただろう。ご飯をお母さんの代わりに食べさせてやる」
 
 子熊と目線を合わせて頭を撫で、敵意がない事を伝える。子熊はたったそれだけで気を許したのか、それとも元々人懐っこいのか、自身の頭を撫でてくる天月博人の手にお押し付けて、擦り付ける。その仕草は、天月博人にとって強い罪悪感を煽った。
 結果的にとはいえ自分がこの子の親を奪った。目かけた瞬間、1匹では生きてはいけないだろうと、ここで倒す選択肢が脳裏によぎったが、天月博人にはそれを選ぼうとはとても思えなかった。親を殺した挙句、運命さえも摘み取るのかと、自然ではなく、恐らく人の都合で戦わされた親の子を手にかけるのかと思うと、可哀想に思えて仕方がなかった。
 
『ヒロはその熊をどうするつもりなのかな?』
「育てるつもりだ。罠の可能性やらを考えると別の拠点に住んでもらうことになるけど」

『まーたそうやって……むー!』

 文句ありげに頬を膨らませるニコに、天月博人は「怒るなって」と困り顔で笑いながら小熊を撫でる。
 
「良いじゃないか。
 親を奪い、運命を奪った人に育てられるのは理不尽でしかないだろうが。
 ジブンとしてはせめて、エゴ的偽善思考ではあるが、せめてこの子の命は奪いたくはないと考えてしまったんだ。
 だからと言ってこの島の自然へと返すなんて訳にはいかない。
 親を失った子供が辿る道なんて物はジブンの経験上で語らせてもらうけれど、険しい事に成る。
 それに帰してもその先は自然界だ。理不尽に淘汰されるのが簡単に思い描ける。
 そしてジブンは昔にお世話になった人の言葉を思い出し、こうも思う。
 親子がいて、親を殺してしまったのなら殺害者は子に対し、責任を負わなければならない。
 責任の取り方は色々とあるとは思うけれど、ジブンとしてはさっきも言ったように見逃す選択肢はない。では子供だけが生き残るのは苦しみの始まりでしかないからここで殺し切ろう。これも最初に言ったようにその選択肢は今のジブンには選ぼうとは思えないない。だから、その命を育てることで責任をとろうってね。
 ニコ的には受け入れて救いたがるジブンを見て来たから今の説明で納得できると思うけど、どう?」
『ぐ、ぐぅ……ちょっと納得したけど。納得したくなーい!』

「はは、まだまだ生まれて13年、苗字が朽無の時から出会う人たちに癖があるジブンの人生観だから。相容れないところはあるかもな。それじゃあそこらへんは今は置いておいて、行こうか」

 まだまだ抗議したそうなニコに苦笑しつつ、天月博人は小熊を連れて中田文兵と合流へと向かった。


「そっちには何かなかったかって聞くまでもねぇや。それは?」
「拾いました。育てる」
『すごいね、言い回しが猫を拾った時のそれなんだよ』

「元居た場所に戻して閉じ込めて来い」
「ニコ、このお母さんが血も涙もないんですけど」
『言い方はひどいけど、割と妥当なことを言ってはいると思うんだよ』

「誰がお母さんだこの野郎。それで、本気で言ってんのか?」
「ウイ。勿論何畏まれている可能性も考えたから移動した先の拠点とは別の場所で……移動前の拠点の中で育てようかなと思っています」
「そうかー。お前がそう言うのなら俺はどうでもいいや。楽善さんあたりには話し通しとけよ」

「勿論」
『はぁ……じゃあ育てるとしても、熊の名前はどうするのかな?』

「名前? あー、じゃあこの子はジブンの背負う業の一旦と言う意味合いを込めてカルマで」

 拾われた子熊は、カルマと名付けられた。




 
 鉄田大樹の終りを皆が見ていた。鉄田大樹の啖呵たんかを皆が聞いて居た。死を知るのが嫌で目をそむき、耳をふさぐ人もいたけれど。それでも全てが皆に伝わった。
 死ぬのは怖い。苦しむのは嫌だ。できれば逃げ出したい。戦いたくないと自身の想いを再確認する中で。飛び散った種火はおおよそ皆の中で、燃え上がる闘志を芽生えさせた。
 レジスタンスが生まれ落ちたあの日、どこに居るかわからないロロ=イアの影に怯えるくらいなら闘うと言った楽善二治は勿論。帰る手段を手に入れたならばそのままここから脱出すると言っていた通堂進にも。

「雨宮君、だから言ったじゃないか。僕は一度関わったらどこまでも首を突っ込むんだって。
 君が僕なんかに助かってほしいなんて言うから保身に走っていたけどね。鉄田君に焚きつけられてしまったよ」

 鉄田大樹の誰かに救われた意思は。確かにバトンされたのだ。

 引っ越し前に居た拠点に、案内の為にと残った仲間に連れられて、中田文兵が新たな拠点へとやってきた。もう暫くして、ゴーグルを首にぶら下げ、のっぺらぼうな仮面を頭にかぶった少年が、天月博人がやってきた。
 その場にいた誰もが少しの間をおいて、天月博人の記憶を蘇らせ、屋宮亜里沙が想い極まり天月博人に抱きついた。

「色々、話を聞いてもいい?」
「ウイ、勿論」
 
 天月博人は自身の能力、そのわかっている部分の説明をした。
 自信が死んでも甦る事が、死ぬ度に皆んなの記憶から天月博人に関する記憶が抹消される事が皆んなに知れ渡った。
 今まで接戦して戦って居たために、お前が戦えなどと言ったような非難は無かったが、屋宮亜里沙が尋ねた。
 
「それって、つまり今まで何度も博人君は死んだって事だよね」
「そうなります」
 
 屋宮亜里沙が、天月博人を強く抱きしめ「もう少し、自分を大事にしてよ。ウチは君に苦しんで欲しくないよ」と声を震わせた。天月博人はこれにどう返せばいいのかわからずただ「ごめんなさい」とだけ言った。
 
 その後、敵陣地に居た子熊を保護した事を報告。
 天月博人が皆んなの居る拠点から定期的に出かける旨を伝える。
 この話を許可しレジスタンスの皆んなに納得してもらえるように話しを通すのと併用して、楽善二治はレジスタンスの仲間たちに今後、救い出した者達は桑原真司の件を踏まえて、引っ越し前の拠点に住んでもらおうと言う旨を伝えた。
 
 その日の夜。燃えて居た火が落ち着いた頃。天月博人は銃を分解しては組み立て、有り合わせの材料で銃パイプを製造し、銃パイプに用いる弾の製造をし、鉄田大樹から得た知識を、思い出を繰り返す。
 どこを間違えても隣で「今、間違えましたぞ」と指摘する声が無く。心に生きて居ても、隣にいる事はない事を実感し、天月博人は静かに泣いた。鉄田大樹は、彼は、天月博人と確かな絆を繋いでいたのだ。
 
 
 翌日、襲撃地点が決定される。
 それはゴスロリが語って居たピエロが逃げたであろうO地点。今回は逆に天月博人が地図に載っている施設を中田文兵に入れてもらってから襲撃を行い。襲撃中に中田文兵が地図に乗らない通信施設を探すのだ。
 これならば天月博人が再び捕まっても、場所が確定しているために中田文兵が助け出せる。また中田文兵ならば捕まる事はあってもその能力上、容易に抜け出し対処が可能だとの判断だ。
 
「ナカタニさんが来ないなら、救出対象の保護が厳しい、だからまずは生産施設か育成施設になります。まずはジブンは育成施設を襲撃」
「その間に俺が通信施設を探すと。任せろ」
 
 全ては、ピエロを倒すため。そして。
 
「さぁ、世界を救いに行こうぜ」
「はい」
 
 そして、世界の消滅を食い止める足掛かりとするために。
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