自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-4 :クリア、頑張ってね。

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「何で博人のやつ徹夜で戦闘準備してんだよ。はえーよ全く」

 襲撃地点を決めたその日、中田文兵は自身の装備を整えていた。

「それだけ極まった思いをしてるんだろうなぁってのは想像に難くないけどよ。俺だって想うところはあるし……というか仲が良かれ悪かれ、関わってきた奴が死んじまって想うことがねぇってのはどうかって話だけどさ……よし、準備完了。どうよ鉄田。存外にちゃんと覚えてるだろ? へへ……でだ」

 中田文兵は整え終えた銃の安全装置に手を掛けて、部屋の端で座り込む少女に向けた。

「いつまでメソメソしてんだアマ。いつもの威勢は何所に行ったんだよ。なぁ、おい」

 倒しても毎日沸く、ロロ=イアの落とし子である少女だ。少女は銃を向けられているのにもかかわらず「別に。そんなこと気にしてないで何時もみたいに私を殺したら?」と言って落ち込んだ様子を持続させている

「おい、テメェの仲間を殺しに行こうとしてんだぞ。なにくすぶってんだ。進もうとしている奴らに、俺に置いて行かれるぞ」
「どうせ切り捨てて来る人達なんてどうでもいいよ。私なんて道具としてしか見られてないから」

「どうでもいいだぁ? クソピエロの言葉の裏付けしてねぇのに真に受けてんじゃねぇぞクソアマ」
「お前らだって世界消滅とか真に受けてるくせに」

「あ? 真に受けてねぇよ 裏付けに行くんだよ。こんな異常な世界に飛び込まされて身に覚えがある以上、世界消滅すら嘘だなんて吐き捨てることはできねぇ。その確認、および真実だった場合の予防だよバーカ」
「馬鹿って……なん……何だよぉ。今、傷心しょうしんしている時位、優しくしてよぉ」

 ゴニョゴニョと掻き消える声に、中田文兵は舌打ちをして少女に歩み寄り、胸倉を掴んで容赦なく殴り飛ばした。頬を手で押さえ、何の辛みで震えているのかわからないままに中田文兵はまた胸倉を掴んで持ち上げた。

「優しくしてよだぁ? テメェは誰に言ってんだ。
 あ? 顔をあげて確認しろよオイ」

 少女は震えながら、中田文兵を見た。

「分からねぇか? そんなら教えてやる。
 テメェの家族を目の前で殺した男だ。
 テメェの隣にいた兄弟姉妹をぶち殺したあげくにテメェ自身もぶち殺した中田文兵様だぞクソアマ。
 優しくするわけねぇだろが」

 中田文兵はそう言って少女を壁に向かって投げ捨てた。「キャン」と声を出して壁に衝突してそのまま地面にへたり込む。

「ふん、今のテメェには俺の仲間に手を出す気概もねぇ。労力の無駄遣いだ。殺す価値もねぇよ」

 そう言って中田文兵は武器を補完する空間から出て行き、とうに準備が出来ている天月博人と合流しに行った。
 1人部屋に取り残された少女は震える声で「家族……お父様……3Ic_78……3Ic_91」と呟きながら、何かに引っ張られるようにその姿勢のまま移動し、壁をすり抜けて行った。




 移動中、天月博人と中田文兵は会話する事は無かった。ピエロの糸から盗聴を警戒してのことである。また、確認天月博人はゴーグル型携帯端末を中田文兵に預けた。中田文兵の方が新しい情報が得られる可能性、そしてロロ=イアに奪われない可能性が高いとみての判断である。

 天月博人が育成施設に侵入、中田文兵に「行って来い」と言わんばかりに背中を叩かれてから襲撃を始めた。

『糸のような物は見えないんだよ』

 音声を流さず文章で語るニコの言葉に、自身の視界にも糸が映らず「だなー」と適当に返して居ると手首にか細い何かが絡みついて引っ張った。

「うお!?」
「あははは! よく来たねんよく来たねん! おいでおいで、僕はこっちだよん!」

 体を強烈に引きずられながら、ピエロの声を確かに聴いた。瞬間移動して逃れようかとも考えたが。「おいで」と言う言葉に「お望みか丁度いい、出向いてやろうじゃねぇか」と流れに身を任せた。
 何度も岩や木々に衝突しながら、一軒の建物にたどり着く。一昨日目にした忌々しい記憶と一致する。通信施設だ。その玄関には、テレビがポツンと置いてある。あぁ、これも忌々しい記憶だ。鉄田大樹を葬ったその瞬間を映し出すそれを思い出す。


「やぁ、えーと君は中田文兵君……かなん? 資料を見るとー……わぁお! 斬撃打撃電撃毒劇物、極寒灼熱真空空間血液の逆流なんにでも効かないのかなってくらい大きな耐性がある瞬間移動能力者じゃあないかん。……化け物かなん? とりあえず初めましてん」

 コードも何もないその箱に嵌められた液晶が、ピエロを映し出す。

「3Cu_59が来ないと言う事は君にやられたってことかなん? 僕の宝物を壊したのは許せないけどそれはそれとして。ちょっと遊びましょん」

 そう言ってピエロは画面を回す。そして映し出されたのは20人の老若男女無差別に集められた人たちだった。10人は、椅子に座っている。もう10人は棒に掴まってぶら下がっていた。

「救出ゲーム! ルールは簡単。
 勝利条件は君が兵士たちをかいくぐってこっちまで来てこの人たちを助け出せばいいのん。
 この人たちは誰かって? 研究所から頂いた君達の元同僚だよん。
 さてさて時間制限はあるよん。
 砂時計の代わりを買って出たのは棒にぶら下がっているこの方たち。耐え切れなくなって手を放すと棒と首に巻き付けられた糸でスパンっと行っちゃうのん。10人全員いなくなったら時間切れねん。
 そして行動制限もあるのん。異能力は使っちゃあ駄目。
 1回使ったら椅子に座ってる人たちをペナルティとして全員処分するよん。君の場合は耐性能力はどうしようもないかもだから部位の被弾によってペナルティを与えるよん。
 腹部に3回で1人、四肢のどれかに5回で1人、胸部、首、頭に1回で1人だよん。1回瞬間移動したら問答無用で1人を処分するよん。以上! 
 それじゃあグッドラック!」

 テレビの画面が暗闇に戻り、そして玄関の扉が開かれた。

「あんのゲス野郎ぉ……!」

 中田文兵は青筋を立てた。敵であれば殺せるように心構えはとうにできている。だが中田文兵はロロ=イア以外の人の命の危機を見捨てると言う事はどうしてもできなかった。

『画面から考えるに舞台はないが広間である。前回の通信施設に部隊広間以外の広間はなかった情報から間取りの位置として同一の場所にあると推測しました。……どうする? 早速向かう? 人質はやられる前にピエロを倒せば何とかなるかもだし救出を優先するならナカタニさんの瞬間移動で1人か2人は絶対助かるんだよ。他の人質がやられちゃってもヒロが来る前に処理できればわからないから悲しまないんだよ。とりあえず向かうのが一番効率が良いんだよ』
「行かねぇよ。テメェは見知らぬ人となると存外にドライだなオイ。怖えよ。それにこちとりゃあ楽善の奴も博人の奴も悲しむようなことは事はしたくねぇのもあるが、世界を救うだとか息巻いといて目の前にいる救出対象の20人を救おうとしねぇようじゃあ格好つかねぇだろうが」

 中田文兵は拳銃を握りしめ、玄関に足を踏み入れるとピエロの声が「ゲームスタート」と施設中に響いた。

「いいぜぇ、今からただの人になってやるよ。ゲームとやらに参加してやるよ。だからルールは守れよクソピエロ。後だし追加もすんなよクソピエロ。ルールの穴を突いた頓智とんちも効かせるんじゃねぇぞクソピエロ。破ったら地獄の底まで追いかけて甚振り殺してやるからなぁ!」

 そして中田文兵は小声で「気張れや時間制限の救出対象ども。すぐに助けてやる」と呟き。物陰に隠れて拳銃の安全装置を外した。




「おい、2Cu_9。これはあまりにも悪趣味が過ぎるぞ。それに勝手に研究素材を持ち出し、そしてここを危険にさらしたことは明らかにお父様たちの意に反する。お父様たちが怒るぞ」
「あーはん? お父様たちが怒るん? だから何ん?」

「は?」
「こうしろ、ああしろだとか。こうは、ああはするなだとか。面白くないじゃないん。全然楽しくないん。知ってるかなん? 世界はどうせ消滅するのん。この世界のありとあらゆる営み、積み重ねは無意味と化すのん。何をやっても何の意味もない。じゃあせめて、今この瞬間を楽しもうとは思わないん? お父様だとか使命だとか何もかもなんてどうでもいいから自分が良ければそれでいいとは思わないのん?」

「世界消滅がなんだとかは知らないが……お父様たちが望むなら。我らが主が望むのであれば従おう。それが俺等、生み出されし者の幸せだぞ兄弟。目を覚ませ、お前は狂っている」
「僕と2Cu_21からしたら君達の方が狂ってるよん兄弟。おっと敵意を込めた視線を送らないでくれよん。君の能力は夢の統合。夢に舞台を用意してそこで夢でつながったお父様たちや偉いお手伝いさんや兄弟姉妹が情報の共有をする。現実じゃあ何の力もないよねん」

「そのありようは必ず後悔する事に成る。じゃあな。俺には生きて役割を果たさなければならないからここから逃げる。せいぜいお前たちはお父様と主の役に立つんだな」
「バイバーイ」

 ピエロは荷物を持って出て行く男を見送って姿が見えなくなると真顔になって「本当に、何かに縋ってないと生きてる価値を見いだせない詰まんない人達だねん2Cu_21」と言うと笑顔が張り付けられたような男はサムズアップして同意した。



『右の曲がり角に3人いるんだよ』
「あいよ」

 中田文兵は奮闘していた。敵の位置はニコの協力によって把握できたからである。この点は有利なのだが、問題があるとするならば中田文兵自身、銃を扱う能力のつたなさにある。中田文兵の本来の戦闘スタイルは能力に物を言わせた近距離戦であり、中距離が基本になる建物の中での本来の銃撃戦は未経験も良い所であったのだ。

『右に10度なんだよ』
「あいよ。これ……くらいか………………」

『腹部に命中。次、左側、左に80度……腕を下に5度降ろすんだよ』
「よし来た…………っし」

 そんな中田文兵の銃撃戦をニコが補助する。中田文兵の銃を扱う癖を解析し、相手の出方を把握し、中田文兵の姿勢を修正させる。

『体を引っ込めるんだよ』
「うおっと。あぶねぇあぶねぇ」

『1人、裏取りに来てるんだよ。挟まれる前に離脱して。逃走ルートは指示するんだよ。裏取りに来てる奴がやってくる前に後方、突き当り左の角に逃げるんだよ。そっちには誰も居ないし行き止まりでもないから状況をリセットできるんだよ』
「了解っと」

 中田文兵はニコの指示のままに動き、戦闘、逃走を繰り返し、着実に敵を減らしていった。

「ふぅー……博人がニコを俺に預けたのは大正解だったな」
『ニコはヒロから離れたくなかったんだよ。ヒロが言うから仕方なーくナカタニさんに力を貸してあげてるだけなんだよ』

「博人のこと大好きかよ」
『ふふん。ニコの持ち主でお友達だからねー。好きじゃない訳が無いんだよ』

「素直に直球か。甘くて結構結構、仲が良くて羨ましい限りだ。ふぅ……休憩は終わりだ。次のエリアに行こうぜ。広間までの最短ルートの指示を頼む」
『はーい』

被弾は現状0、そして残り時間、および残りの人数は……20人。だが、ぶら下がっている人間の内1人、砂時計がわりのお爺ちゃんが震えて危険域に入っていた。
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