自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-5 :クリア、頑張ってね。

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 ゲームが始まって一刻、中田文兵は奥に行けば行くほどに集結するロロ=イアの兵士たちに足止めを食らっていた。

『体を引っ込めて!」
「うおっ……あっ。腕に被弾した。畜生!」

『これで右腕に3発なんだよ。腹部1発。右脚2発。左脚1発。左腕1発。ちょっと厳しいんだよ』
「厳しくてもやんだよ」

『右腕がこれ以上被弾したら4つの急所を抱えることになるんだよ。だから撃ち辛いと思うけど3発被弾するまでは左手で売った方がいいと思うんだよ』
「おし来た」

  中田文兵は制限時間的に苦戦している。





「ふっふっふー。お爺さん、辛そうだね。そりゃあそうだよね。筋力が衰えているのに、体重は中々だもんねん」
「い、いやだ。た、助けてくれよ。お兄さん。お、俺、まだ死にたくないんだよぉ」

 皆が怯えて声も出せない静寂せいじゃくな広間の中で、しわがれた懇願こんがんの声が、身体震わせているお爺さんの存在を目立たせる。

「なんで死にたくないのかなん? 十分長生きしたと思うけどん? あっもしかして」

 ピエロが糸で紙束を引き寄せて、めくっていく。

「みーつけたん。何々? あっお爺さんって康太って名前の息子が居るんだねん。それでそれで……その息子には奥さんがいて……妊娠していたとー……ほうほう、日付的にー……お孫さん、もう生まれてるかもねん」
「あっ、あぁ……」

「お孫さんの顔が見たいんだねん。それならがんばれがんばれん。死んじゃったら会えなくなっちゃうよん」
「しに、死にたくない……」

 自身の体重と衰弱している筋力にお爺さんは苦しみの声が、時折息子の名前と、康治と言う孫と思わしき名前を呼ぶ声と混ざって漏れる。死にたくない、だって息子に会いたい、まだ見ぬ産まれたばかりの孫の顔を見たいから。
 そんな救いを求める気持ちが声に乗って漏れる。
 だが、その声は……手を差し伸べられる者に届かなければ意味が無く。
 その声はただ、同じ境遇の者たちの傷を広げ、ピエロを笑わせた。
 耐えかねたのか、椅子に座る10人の中、1人の男が「やめてくれよ……」とささやいた。

「んー? 何かなぁ?」

 ピエロがそれを聞き逃す訳も無く、囁いた男の顔を覗き込む。

「や、止めてくれよ……何でこんな事するんだよ」
「え? 楽しいからだよん?」

「た、楽しいって……」
「あらん、わからないん? もしかして小さい子が虫を弄ぶの見た事無い人ん? あははは! 面白い顔、想像もしてなかったけどなんとなく理解できる。そんな感じだねん?」

「な、なぁ……提案なんだけど……俺と爺さんを交代を」

 男がそう言った時には、ピエロが深い層に冷ややかな声をあげる。

「中田文兵君ごめんねん。君はルールを破って居ない。だけどねん。1人が命なんていらないみたいだから処分するねん」

「え? いや、そうは……」

 男が抗議しようとしたところで、男の首はストンと地面に落ちた。
 
「自分が良ければいいのに、他人を思うなんて無駄も無駄。それも詰まんないことに、こういう人は同じ行動をするのん。何の面白味はないのん」

「あ、あぁ……こう」

 その光景に、腰をぬかしてしまったのだろうか。恐怖で強張っていた手が開き。お爺さんが息子か孫か、きっとどちらかの名前を口にしようとしたところで首が切り落とされた。

「砂時計、一粒落ちたよん」

 ピエロは無情にもそれをアナウンスした。



 中田文兵が広間にやって来た時。目に見えて生存者、死者の人数が嫌でもわかった。生存者は18人、死者は2名。ゲーム中に聞いたアナウンス通りである。

「畜生畜生畜生畜生! くそ! やっぱり爺さんだったか! おい、おいピエロはどこに行った!」

 銃を構えながら部屋に飛び込んできた中田文平は、怒りを覚えながらピエロを探す。だがその姿はどこにもなく、椅子に座っている1人が「さっき、出て行ったよ」と疲弊した声で発言した。中田文兵は逃げたのかと怒りそうになったが、「さっき」の言葉に引っかかる。
 さっきということは。近くに入るのだ。遠くへは行っていない。であれば探し出して倒すことが可能だ。

「お、おにぃちゃん……助けて」
「クソが……ちょっと待ってろ。
 全員その首の糸を切ってやるから」

だが、ピエロを探し出すその時間は、人質を助ける時間として中田文兵は費やした。1人1人の糸を切り。彼らを解放したのだ。

「有り難う……」
「礼なんていい。結局2人は死んじまったからな」

「それでもだ。2人で済んだ。私たちはあなたに助けられた。だからお礼を言わせてほしい」
「そうか……そうか……」

「貴方の名前は?」
「あん? あぁ、中田でいいよ」

「中田さんか、本当に助けてくれてありがとう」
「はぁ、どういたしまして」

 視界に居るニコが静かに文字を浮かび上がらせて選択肢を迫る。『彼らを保護するのを優先する? それともピエロを追いかける?』と。すでに先ほどの行動で一度選択していたものだ。先ほどと違うとするならば、彼らは解放された。確かな抵抗が可能となった状態にあるということだろうか。
 中田文兵は考える。今ならピエロに追いつくかもしれないと。もしかしたら中田文兵自身が倒し切れていないロロ=イアの兵士と遭遇して一掃されるかもと。

「とりあえず細かい自己紹介だか感謝の言葉だかは後にして俺についてきてくれ。ここよりましな場所へと案内してやる」

 そして中田文兵は、最後まで救出する選択をした。

「畜生畜生、気を引くも何もピエロのやつは待ってやがった。
 そんなのわかってりゃあ最初っから博人のやつと2人で探してりゃあよかった。
 そうしたら救助と追跡。あそこで役割分担できたのによ」
『過ぎたことを嘆いたってしょうがないんだよ。こっちが知らない相手の思考なんてどうしようもないんだよ』

「くそ……わかってるよそんなことは。まずは救出対象を安全な場所に連れて行くのが先決だ。畜生畜生。最悪だ、ピエロの野郎の足取りが掴めなく……」
「お、おい中田さん! 危ない! 避けてくれ!」

 中田文兵が元来た道を戻ろうとしていると。救出した1人の男が名前を叫び。中田文兵が振り返ろうとしたところで頭部に強い衝撃が走り、飛んだ。

「なにすんだよ……吃驚びっくりしたじゃねぇか。あ゛ぁ?」

 中田文兵が体を起こして、苛立ちを覚えた顔で原因と思わしき男。
 己が座っていたであろうパイプ椅子を持った男を睨みつけた。
 だがその苛立ちはすぐに収まり、パイプ椅子をもった男の様子に「どうしたんだ?」と案じた。
 男は震えていたのだ。
 得体のしれないものを体験しているような、そんな恐怖を顔に張り付かせて。

「す、すいません。身体が、勝手に……あ、頭の中に何かが動く感覚が……!」

 パイプ椅子を持った男の弁明の言葉に、中田文兵はゴスロリの能力を思い出し、そしてひどく嫌な予感を感じていると。どこからともなく音楽が流れ、ピエロの声が聞こえる。

「頭に被弾しちゃったねん。それじゃあペナルティだよん!」

 楽し気で、恐ろしい声が広間に響き渡ったその時。後方にいた女が倒れ、じんわりと鼻、口、目、耳から血が滲み出た。
 ブツリと、中田文兵の中で何かが切れた。

「この、ドグサレピエロガァァアアア!!! クソが! クソが! クソがぁ!! 糸は切っただろうがぁ! これでゲームクリアじゃねぇのか、あ゛ぁ!?」

 中田文兵の怒号にピエロは怯むどころか笑い声をあげる、

「あー怖い怖いん。ではでは質問に答えて上げようねん。
 腹の底から笑うピエロは嘘を吐かないからねん。
 糸を切ったら救出したことになるん? ないない。
 だって、僕の糸。切り離しても操れるからねん。
 僕を倒さないとむーりむーり」

「てめぇ……地獄に叩き落してやるからまってろぉ」
「あははは! 僕はまだ近くにいるよん? さぁどうする? どうするん? 攻撃を受けれたり反則したらペナルティ。
 反撃したらきっと彼らは死んじゃうのん。
 敵は殺せるのに。
 敵じゃないはずの人は殺せないのかなん?」

「な、中田さん……」
「クソ、安心しろ。助ける。助けてやるから。テメェらが諦めても俺は見捨ててやらねぇからな」
「ごめんよ、ウチ達なんかの為に……」

 中田文兵は救出対象と間を摂りながら、どうするべきかを思考する。打開策は? ピエロはどうやって殺せる? 助けるには? と必死に頭を回す。だが、中田文兵にはにも浮かばずニコに助言を求める。

『熱源2つ感知……広間の隣……物置に当たる場所……多分ピエロ……ピエロがルールを厳守すると信じるのなら。……1人の救出対象が前に陣取ったあの扉を通らなきゃあ駄目なんだよ。ニコとしてはあの扉の前に陣取った人を倒して進んだ方が良いと思うな』

 中田文兵は、どうしようもないのかと舌打ちをする。

「手を出さないねん? 中田君はy刺しい人だなぁ、でも時間が過ぎちゃうよ? いつまでたっても終わらないよん? 空腹や体力の消耗で衰弱して全員死亡。中田君の負けーってなっちゃうかなん?」

 どうしようもない、誰も救えない。中田文兵は窮地をノーリスクで脱する方法が思いつかず。羽織を食い縛り。アハハと笑う声にクソと言って悪態をついて居ると。

「そいつが負けるのは困るよ」
「アハハ……は? だ、れ」

 突如入る耳障りな女の声、その声に驚くピエロが声をあげたその瞬間。扉が破壊されるほどの勢いでピエロが広間の中へと吹き飛んできた。

「今ので貫けなかったの? かったいわね……でも、中田ほどじゃあないわ。いい? 中田を負かしていいのは私だけ。勝って良いのは私だけなの。誰にも譲らない。私はそいつに仲が良かった家族を奪われて、私にはもうそいつしか居ないの。うらがれた結果もう、そいつだけ。だから、それさえも奪おうとするなら、家族でも殺すわ」
「なっ。この声は……て、テメェ、なんで」

 破壊された扉の奥から、笑顔の張り付いた男を貫く一本の槍が抜かれ、オニヤンマを連想させる瞬間移動めいた飛行をして広間に入って漂う。すると空間から薄っすらと浮かび上がって実体化した少女、中田文兵に毎度、津突っかかるあの少女が出現して空中にゆっくりと落下しながら、竹箒たけほうきほどの大きさになって居る槍に腰掛けた。

「お前の為じゃないから。お前が負けたら困るってだけの話よ。助けてもらったとか勘違いするんじゃないよアーホ。
 絶対にいつか、お前を完膚なきまでに殺して、家族のお墓を作ってその前で私が倒したんだぞって見せびらかすんだから。
 それが私の夢、今ここに立つための生きがいなの。それなのに世界が無くなったとかくだらない理由で果たせなかったら我慢ならないから協力してあげるって話」
「っち。そう言う事にしてやる」

「それで、ゲームのルールだっけ? 中田に課せられたやつはロロ=イア所属の私、3Ic_30に適応されないよね。2Cu_9?」

 ピエロはせき込みながら体を起こし。「うーん……セーフだよん。でも、愉快じゃないなぁ3Ic_30」と面白くなさそうに言った。
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