自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-7 :クリア、頑張ってね。

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 糸で満ちる空間、張り巡らせた糸に乗っては糸でターザンが如き空中移動を行うピエロはまるで舞うように槍と銃弾を避け、中田文兵たちの頭上に移動すると笑顔の張り付いた男を投下、中田文兵の視覚に映り、認識に入り込む。

「しまっ……おい、盾になれぇ!」
「ぼう!?」

 中田文兵は急いで少女を銃を持っていない方の片手で少女の腕をつかみ持ち上げ肉盾とする。
 すると少女は笑顔の張り付いた男の拳は少女の腹部にねじれこまれる。

「お、おぇ……お前、絶対殺してやるからね!」
「やってみろぉ!」

 少女は痛みに耐えながら足を振るい、中田文兵は拳銃を持つ手を振るい。
 笑顔の張り付いた男の頭部を挟み込んだ。
 笑う男は驚異的な反射かそれとももともとそういう積もりだったのか、首がねじれるその前に視界から消失した。

「見えた、2Cu_21は2Cu_9みたいに糸で防護を固めてるわよ。タイミング的にはたぶん落下中かな」
「ちぃ、綺麗に決めたと思ったんだが……おい、槍をこっちにもってこい! 糸に囲まれてる!」

 中田文兵がそう叫ぶと、少女は槍を暴れさせるのを止めて中田文兵の隣へと移動させる。
 すると中田文兵は少女を持ち上げている腕に座らせるような形で抱え込み。開いた手に拳銃を移し。完全に自由になった腕で槍を握った。

「移動しろぉ!」
「な、なぁ……しょうがないわね。しっかり掴まってなさい」

「てめぇこそ、しっかり掴まってろ」

 槍が中田文兵を引っ張り宙へと運ぶ。瞬間移動めいた動きに風圧で飛ばされそうになるが。中田文兵はそれに耐え「目指すはピエロの後方、決して目前にいくな。笑顔野郎が来るぞ!」と指示を出す。

「イヤァハァ!」

 ニコ、もとい中田文兵の言葉によって槍が操作され。ピエロの背後を摂ることに成功。ピエロはクルリと回って中田文兵を見ようとするがその前に中田文兵が発砲し「移動しろ!」と叫ぶ。回り切ったピエロが糸で編んだ盾を手の平に纏わせそれで防ぐ。銃弾の衝撃にピエロは仰け反りそうになりながら歯お食い縛って耐えた。

「うおっとと。ふぅー……」
「効いてない!?」

 少女が中田文兵から身を乗り出して確認し、無傷のピエロを見てそう告げる。中田文兵が慌てて「頭を引っ込めろ!」と叫けび。「笑顔男は入ってねぇだろうな!?」と確認する。少女が入って居ないというと。中田文兵は安堵して笑い告げる。

「ピエロはさっき仰け反っただろ。つまりは衝撃は通っているってことだ。あいつの糸は防弾チョッキみたいなもんだ。衝撃はしっかり食らってる。ダメージは有るんだ。致命傷がねぇだけで、防弾チョッキを参考に住んなら骨がイカレルくらいのダメージはしっかりあんだよ。あぁ、あぁ安心したぜぇ、ピエロ、テメェは俺みたいに効かねぇわけじゃねぇんだ」

 リロードをしながら満面の笑みでピエロに拳銃を向けて中田文兵は勝利宣言を告げる。

「防御力が防弾チョッキ位なら勝てる。骨に骨折レベルでダメージが来てるはずなんだよ。鉄田大樹に教えてもらった事だ。
 テメェが殺した男に教えてもらった事なんだよ。
 槍は糸で絡みつけても、銃弾は小さすぎて絡みつけてねぇな? あぁ、全部の要素が揃った。
 テメェの対応力にも限界があること。テメェが一見ダメージなしに見えてダメージを受けている根拠、知識。極小で瞬発的な武器。
 全部が揃って、テメェにこのゲームで漸く勝てる道筋が見えたぞこの野郎!」

 中田文兵は少女の槍で高速移動しながら拳銃をピエロに向けて何度も何度も発砲する。ピエロはそれを受け止めるのではなく空中移動で弾丸を躱し始めるがピエロは何所か苦しそうな声を出している。

「さっきまではよぉ。テメェら併合わせて19人を相手していたわけだが、今は笑顔野郎と2人、対してこっちは俺、こいつでイーブン……そんで鉄田大樹が俺の中に宿ってんだ。今この時に限っては数の利はこっちにあるぜ?」
「ふーん、じゃあ減らそっかん」

 ピエロが笑ったその時、蜘蛛の巣状の糸に中田文兵たちは衝突。中田文兵は絡まり、少女は中田文兵のようにはいかず糸には絡まずバラバラになって通り過ぎて行った。

「見ての通り、その糸は鋭利だよん。君はそれに絡まった。だからペナルティ」
「こんの野郎!」

 中田文兵は最早なりふり構わずピエロに今撃てる全ての銃弾を発砲。それに合わせて消滅していく少女の顔面の破片、目がピエロを向き。槍を飛ばす。中田文兵の発砲した銃弾は10発は外れ、2発命中。少女の槍は糸に絡まるものの絡み受け止められた部位が消失したことによって自由になり、ピエロの背後を穿うがち、突き飛ばした。
 音楽が、歌が止んで、ピエロは血を吐きながら落下していく。心底楽しそうに笑顔のままで。

「げ、ゲームオーバー……センキューフォープレイング……クリアおめでとん……」

 そう言って、ピエロは何度も自信の糸に受け止められながら地面に激突した。中田文兵が糸が解けたことによって解放され地上へと戻る。銃弾を装填しながらピエロに拳銃を向ける。万が一でさえピエロが生きている可能性をき消すために

「クリアって言ったのにん。瞬間移動はしないんだねん」
「テメェはルールは守ってやがったからな。テメェを殺し切るときは俺はこの世界に生まれ落ちたただの人間だよ」

「あ、あはは。そっか。そうだよねん。この世界に生まれた……クリア、頑張ってね。
 僕はハッピーエンドが好きなんだ。
大円満を望む者なんだよ」
「テメェが言うのかよ。クタバレ」

 中田文兵はこの世界に生まれた人として、ゴーグル型携帯端末を外して首にぶら下げ。己の裸眼にピエロを焼き付けて、脳天と喉、胸に銃弾を2発ずつ打ち込んだ
 すると笑顔の張り付いた男が出現する。

「テメェも殺す。覚悟は良いか?」

 中田文兵が銃を笑顔の張り付いた男に銃を向ける。だが笑顔の張り付いた男は慌てる様子もなく、しゃべりだす。

「さらば、さらばだ。2Cu_9。我が兄弟。君に世界の真実を告げられ証拠を見せられ震えていた私にこの世界から脱出する手段を得る力を与えながら、それをしなかった我が恩人よ。家族も使命も捨てて自身の享楽きょうらくを選んだ狂人よ。
 もし、この世界に生まれ変わりと言う概念があるならば、君がさらなる楽しみを得ることを心より願う……どこかで、君の魂と私の魂が再び出会えたのなら。また遊ぼう」
「遺言はそれで終わりか? ……いや、テメェ、俺を見て居ねぇな!? 何を見ていやがる!」

 笑顔の張り付いた男は静かな笑みを浮かべ「さらばだ。私はこの世界から脱出する」と言って自信を観測する者。
 この世界に存在しない者の中へと入って行った。中田文兵の目の前から消滅したのだ。
 中田文兵はしばらく意識ある者が周囲に居てその中に逃げたのかと思い、ロロ=イアの残存兵をいつもの調子で殺して探し回っていたのだがついには見つからず。
 生き残った16人の人質の目覚めを待つのだった。



 
「そんなことがあったんですか……ナカタニさん。よく16人の命を救ってくれました」
「おう、犠牲は出たけどな……はぁ、嫌な気分だ。全員救えるなんて思っちゃあいなかったけどよ」

「世の中、うまくいきませんからね。救える命が1人でも多く貪欲であれば貪欲であるほどに零れてしまった時の苦しさたるや思い出したくもないものです。だからと言ってふさぎ込んで今まで救ってきた命、今後救える命の存在を見なくなるのは本末転倒の様に思えますよ」
「……博人はニコが言うように受け入れ切ってんのな。すげぇと思うぜ。鉄田が言ってた楽善の強さと通じるもんがあるんだなぁ。俺なんて肉体だけで精神面はどうにもな……でも確かにそうだなクヨクヨしてらんねぇか」

 育成施設をとうに襲撃し終わった天月博人に携帯型ゴーグルを返して、対ピエロ戦の話をした。天月博人は全てを聞いて、ただ中田文兵を肯定した。
 今回助けられた16人は熊のカルマと共に、最初の拠点で暮らす事になり。少女が毎日沸くからとその拠点にとどまった中田文兵が実質的な拠点のまとめ役となった。
 その翌日、こっちに飯をまともに作れる人がいないと中田文兵が嘆いていたので、屋宮亜里沙の一番弟子である天月博人が食材を持って、朝昼晩の食事を作りに行くことになった。行き来は中田文兵に頼めば瞬間的に行けるので時間の心配はない。

「えーと」

 天月博人が、余った材料で屋宮亜里沙直伝のクッキーを調理していると、ふと視線に気が付く。少女だ。少女が物欲しそうにジーっと天月博人が手に持つクッキーの皿を凝視しているのだ。
 天月博人はその視線がどうも忍びなくなり「これ、ナカタニさんたちに3枚ずつ配ってきて。甘いのが苦手とかで食べない人いたら、残った分は食べていいから」と条件付きで渡した。「いいの?」と尋ねる少女に、天月博人はやり難そうに「良いから良いから」と言ってクッキーの乗った皿を手渡した。

「つまみ食いしないようにね」
「は、はーい」

 元気に皿を持って中田文兵たちのいる空間に行く少女を見送って。天月博人はため息を吐き。大量のクッキーが詰まった袋を開ける。

「帰ったら子供たちと食う積もりだった分から、ジブンの分を抜くかなぁ」
『ヒロー、甘すぎるよほんとー あの子は敵なんだよ?』

「まぁまぁ、毎日倒しても湧くなら、懐柔できるかもって状況に持ち込んだ方が良いでしょ。戦力的にも良心的にもな」

 天月博人はそう言って少女の存在を受け入れていた。また第1拠点に居る16名は半ば少女に助けられているようなものなので彼女のことを受け入れていた。だが全員、甘味が嫌いと言う訳でもないため、天月博人の「残った分は食べていい」と言う言葉を聞いて居たわけでもないので容赦なく3枚ずつ持っていく。
 そして顔に影を落としながら3枚のクッキー、最後のクッキーが乗った皿を、中田文兵に「ほら、ヒロトって人が作ったおやつよ。食べなさい」と強気に差し出す。

「……あいよ」

 少女が気持ちを落ち込ませて俯いて居ると。何かを置くような重さを少女は感じ「えっ」っと言葉を漏らす。皿の上にクッキーが1個と半分、残っていたのだ。

「甘いのは嫌いじゃねぇんだけどな。さっきの飯食いすぎちまったみてぇだ」
「そ、そう。ふーん。じ、じゃあ仕方がないわね。捨てるのはもったいないし私が貰ってあげても……」

「んー腹の具合的に……まだいけるわ。おう、それよこせ」
「うっ……」

「冗談だ冗談。菓子ごときでこの世の終りみたいな顔すんな食えよ
「むー、優しくしなさいよ。この悪魔!」

「だーかーら。しねぇよ。テメェは俺を殺すんだろ? 殺し殺す相手が優しいかも、いい人かもじゃあ辛いだけだろうが、誰も得しねぇよそんなもん」

 1枚と半分のクッキーを大口開けて一口で食べる中田文兵を少女はしばらく呆然と見て「やっぱり、わかりづらいわよそれ」とモゴモゴ言ってから半分になって居るクッキーを食べた。

「でだ。いうタイミングが少し変かもしれねぇけどよ。テメェに名前を付けてやる」
「ふぇ? なま!? ケホッケホ」

 クッキーをちまちま食べている少女が驚いて噎せた。中田文兵はそれに「どんくさいなオイ」と微笑を浮かべる。

「いつまでもテメェじゃあ不便なんだよ。2Ci_30とか名前って認めたくねぇしな……そこで俺が名前を付けてやろうってな。俺は今日からテメェの事をいなむしアヤメと呼ぶ」
「い、イナムシ?」

「そうだ蝗。俺は中田だ。田んぼの点滴ならイナゴってな。そんでイナゴまんまはあれだからまだ苗字っぽいイナムシだ。テメェ虫見てぇに沸いて来るしな。ピッタリだろ」
「お、女の子に虫の名前って……ないわよ。アヤメは?」

「意味合いは俺を殺めて見ろ女ぁ! って事で殺女、んで字面が最悪だったから漢字じゃなくてカタカナでアヤメだ」
「蝗とどっこいどっこい……」

「変える気はねぇぞ? 面倒臭いからな」
「いえ、別にいいわよそれで。お前を殺すって突き詰めたような名前だし。呼び名位気にしないわよ。ちょっと殺意が増すだけ」

「気にしてんじゃねーか!」
「私だって女の子だってのこの野郎!」

 第2拠点に帰ろうとした天月博人は2人の口喧嘩を眺め(あの子……アヤメちゃんの毎日沸く能力上、長い付き合いになりそうだから名物になるかなぁ)と心の中で思うのであった。
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