自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

文字の大きさ
38 / 92

5-8 :クリア、頑張ってね。

しおりを挟む
 ある日「君たち本当にそれで良いの?」と屋宮亜里沙が物申した気に言う。天月博人は「これが良いんです」と返し。中田文兵と共に全身を披露する。
 天月博人は深い緑のオーバーコートを羽織り、同色の中折れ帽を被っており、花の髪留めを腕に身につけ手袋で隠す。
 そして極め付けにはのっぺらぼうの仮面の上にゴーグル型携帯端末を身につけている。色は天月博人自身の好みであるが、それ以外は鉄田大樹、そして桑原真司の要素を身にまとった風貌ふうぼうとなった。
 中田文兵は当初の予定通り、スーツ姿。1つ変更点を上げるのならば装飾として鉄田大樹の左右の大きさが非対称の丸サングラスをかけていることだろうか。

「ぶー、可愛くなーい!」
「俺に可愛さを求めるな」

 体をねじったり肩を回したりして着心地、動きやすさを確認する。それに耐えきれなくなったのか蝗アヤメが「ただでさえ悪党みたいな言動なのに、それじゃあ悪党そのものと見られてもおかしくないわね!」と笑っていた。その隣で針城誠子が「博人君も特撮の怪人にしか見えない」とその風貌の感想を口にした。
 笑い声に苛立った中田文兵は「屋宮、アヤメを着せ替え人形にしていいぞ」と反撃した。

「いいの!? ウッヘヘ、アヤメちゃん可愛いから着せたい服いっぱいあるんだぁ」
「ちょっと! 私のことを文兵が勝手に決めないでよ! ……ところで着せ替え人形ってどういうこと??」
「屋宮に任せれば全部わかるらしいぞ。行ってこい」

 フヨフヨと疑問に思いながらのちに屋宮亜里沙についていくことになりそうな蝗アヤメに憐れみを覚えながら、天月博人は腰をねじって「そんなに怪人っぽいですかね?とレジスタンスの仲間たちに見せつける。

「私服として使うのは控えてほしいかなと思うくらいには」
「ヒロト兄ちゃんこわーい!」
「正義のヒーローって感じじゃないよなー。むしろ特撮の怪人って感じ」

 だがどう見せても、レジスタンスの仲間たち。
 その中でもちびっこ連中には不評であった。
 自信の今の容姿をどことなく格好いいと思っている天月博人にこれらの反応は少し辛かったようで「そうかなー。ジブンはカッコいいと思う思うんだけどなー」と落ち込み気味に言うと、1人の子供、キョウがが天月博人の手を取って見上げ「僕はカッコいいと思う」と言った。
 天月博人はそのキョウの言葉にまるで異国の地で日本人と出会ったような感動を覚え「キョウちゃんは可愛いなぁ!」とゴーグルとマスクを外して頬ずりして喜んだ。

「お、おぉ……、リーダー。ちょっと苦しい……」
「お、おっと。ゴメン。いやぁ可愛くってなー」

「屋宮ぁ! リーダーにテメェのスキンシップがうつったぞ! 何とかしろ!」
「えっなんで!? ウチのスキンシップってなんか変なの!?」
「あ、あはは。屋宮さんのスキンシップは少し熱烈なんですよ」

「そうかなー?」
「うん、涼香りょうかちゃんのほっぺたをムニムニする自分の手を見ればその片鱗は見れると思う」

 屋宮亜里沙は自信の手を見る。
 そこには「ほあぁぁああ」と頬をムニられる少女が居た。
 屋宮亜里沙はしばらくそれを堪能した後。
 顔を赤く染めて手を放し「か、可愛いのが悪い! って言いたいけど……もしかして自重したほうがいいのかしら? あ、あはは……」とはにかんで笑った。

「博人君なら全部受け入れてくれるから。そっちに行くなら自重しなくていいぞ」

 天月博人はその会話を聞いて「やめてくれよ……」と言いたげな表情になるが、屋宮亜里沙のもの欲しそうな顔を見て諦めて受け入れた。「ジブンは別にいいですけど。ご一緒に誠子さんもどうですか? きっと可愛いですよ?」と針城誠子を道連れにしながらではあるが。

「どうしてそこで私を巻き込む。ロリアラサーにだって羞恥心はある。
 大人の尊厳くらいあってもいいはずだとは思わない? ……屋宮、そんな顔で見ないでほしい。
 別に嫌だとは言っていないから」

 針城誠子に睨まれるが、天月博人はそっと目をそらした。
 
 天月博人、針城誠子、蝗アヤメが屋宮亜里沙の着せ替え人形と化した後、一通り気が楽になった状態で楽善二治が意思の再確認の為、「今後、どうしたいですか?」と簡単に尋ね、「私は、当初言ったようにロロ=イアと闘いたく思います。
 どこにロロ=イア職員がいるかもわからない世の中を安心して暮らせる世の中にするために。
 そしてあのピエロさんが言っていた世界消滅の件、これの真意を確認したく思っています。
 もしこれが本当ならば、私は世界を救うために奮闘したく思います」と例を出すように発言した。すると誰が指名したわけでもなく、中田文兵が語りだす。
 
「俺も戦うぜ? ロロ=イアを滅ぼすまでは最低でも、この意識だけは曲げねぇよ。
 世界を救うって大義名分ができたのと鉄田のやろうにケツを叩かれたんだから尚更だ。
 たとえどれだけ純真無垢だろうと、善性だろうと、事情を知ればレジスタンス側に寝返るかもしれなかろうと。
 こっちがその人間性を知らない限りは、知ったこっちゃねぇと吐き捨てて叩き潰してやる。
 だから楽善よ。うまく俺を使いな」
 
 中田文兵のロロ=イアと闘うという意思は変わらず。
 ロロ=イアと徹底抗戦する意思を見せた。
 だがその言葉の奥を見れば、ロロ=イア陣営の人間でも、相応の意思を見せれば仲間にしたいということである。
 桑原信二という敵のスパイでありながら最期にはこの世界と、実質的にレジスタンスの仲間であろうと下前例を知っているためか、この場に居る誰もが、蝗アヤメ以外は難色を示すことはなかった。
 次に通堂進が「次は僕ね」と手をあげる。
 
「僕は、このレジスタンスとロロ=イアの闘い、事の顛末を見守る事にしたよ。
 僕的にはもう引き返せないところにまで来てるからね。
 だけど仲間達の中では考えは変わらずそうもいかない人たちは居る。
 だからそういう人達の為に帰る手段を見つけたら、帰るか帰らないかの選択を全員に迫る方針は変えない。
  それと、これに加えて、戦いからは逃げないけど、家族や友人に会いたい、生存報告をしたいって人はいるだろうからそこらへんも考慮してあげてほしいね」

 レジスタンスの仲間たちを気にかけた意見で、楽善二治がこれに聞き入った。誰もが戦いたいわけではないというのを理解しているがゆえに。

「それで、博人は? 俺らレジスタンスのリーダーはどうしていきたい?」

 中田文兵が天月博人に発言を促す。この場に居る全員が天月博人に視線を向ける。

「ジブンの意思は、簡潔に言えば先ほど出た3人の意見のごった煮です。
 ジブンはこのレジスタンスという組織を見捨てたくない、そしてロロ=イアに報復したいという気持ちがあってこの戦いそのものからは降りる気はありません。
 ですがそれと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、生まれ故郷に残してきた血のつながらない姉と血のつながっている妹が、世界に穴が開いていることと異能があることを知った場所で養父となってくれた父が気がかりではあるため、手段が見つかり次第、1度帰りたくも思うのです。
 ……ごめんなさい、戦いから降りないという最初の意見に捕捉をさせてほしいです。ジブンは、汚れました。どうしようもないほどに汚れました。家族に、友人に、ジブンが好いた人に、ジブンを好いてくれた人に申し訳なく思うほどに汚れてしまいました。きっと帰っても、ジブンの居場所がないように感じると思うんです。ですから帰る手段を見つけても、確認をするだけ、何かあれば裏で手助けをしたいように思うだけで、帰る気自体はもうないのです。
 きっとジブンが関われば、汚してしまうから、不幸にしてしまうから。ロロ=イアとの戦いに巻き込んでしまいそうだから」

 ほんの少し、空気が暗くなったような気がした。だが、これが天月博人の意思なのだ。そして天月博人のどこまでも正直な報告によって手がどれだけ汚れているのかも、また、赤毛で褐色のゴスロリ少女による別の要因での汚れも皆、知っているため下手な励ましの言葉すらかけることは許されない空気になっていた。

「それでは皆さんの意思を確認できましたね。取り敢えずは帰還手段、世界消滅の証拠を見つけるまではロロ=イアと闘うことになります。それらがどうか、ご協力お願いします」

 楽善がそう言って、頭を下げたことで会議は終了した。





 おおよそ同日の夜。とある研究施設の地下牢獄、サービスワゴンで運んできた食事を研究人材のために巫女の様な服装をしており、腰に横向きの竹筒を持った黒髪ポニーテールの少女があわただしく運び入れる。

「み、皆様、御飯ですよ! お、おっとと」
「アブねぇよ巫女っちゃん。俺の飯が無くなるところだったじゃねぇか」

「ご、ごめんなさい」
「たはは! いいさいいさ、巫女っちゃんは不器用だってのは俺たちはよーく知ってんだから。ほかの奴らより可愛げがあっていい。巫女っちゃん的には雑用ばかりで辛いかもしれねぇけどさ」

 ひとしきり冗談めいた空気を作っていた、牢屋の中に居た住人の1人が静かに口にする。どうして、お前みたいな子がこんなことをしてる場所に居るんだ? と。少女は簡潔に「お父様たちに、命をいただいたからです。私たちは、その恩に報いるためにあります」と答えた。

「役立たずとあんなに虐げられていてもか?」

 少女は少しの沈黙の後、とても大丈夫ではなさそうな辛そうな笑みを浮かべて「はい」と答え、「おい3Ic_35! いつまでそこに居る!?」と呼ばれるまでそこに居た。

「さて、ひっさしぶりの研究施設襲撃だ。俺がいる拠点の人数が広さに対して少なくてな。どんな出会いがあるか楽しみだ」
「私は協力しないわよ。優先度は低いけど一応、私にとって家ではあるから」

「わーってるって。テメェには邪魔しねぇことしか望んでねぇよ。おい、行くぞリーダー」
「ウイ、まずはいつも通り、地下牢へ行きましょうか」

 中田文兵が天月博人に触れて諸共に瞬間移動し、一、研究施設の中へと入りこんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...