自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-9 :クリア、頑張ってね。

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 研究施設内、その地下牢に入り込んだのを確認して、中田文兵が「そんじゃあ、殲滅せんめつしてくる」と言って、天月博人を置き去りに瞬間移動する。
 
「さて、ジブンは天月博人。天に浮かぶ月と書いて天月、博学の人と書いて博人の天月博人です、ロロ=イアに抵抗するレジスタンスのリーダーです。皆さんを救いに来ました」

  天月博人は救助隊所に「誰だお前は」と尋ねられる前に自信がどういった存在なのかを語った。

「お、俺たちを救いに?」
「はい、この施設に居るロロ=イア勢力そのすべてを殲滅、安全を確保した後。保護します。もう安心ですよ」

 天月博人の言葉に救出対象たちは信じていいのかという疑心の顔と、これを信用する安堵の顔、そして動揺の顔を見せた。

「殲滅……殲滅っておい。皆殺しにするってことか? そうなのか?」

 救出対象による突如の鬼気迫ったかのような問いに。天月博人は首をかしげて「はい、そうなりますけど……問題が?」とその真意を確認すると。救出対象の男が声を張って答えた。

「あんたらの言葉が本当なら、あんたらが本当にここの奴らを殲滅できるってんなら……どうか、どうかお願いだ! 巫女っちゃん……ここの奴らが3Ic_35って呼んでいる女の子は見逃してやってくれ!」

 救出対象の1人が「助けてもらえるなら、巫女っちゃんは諦めようぜ?」といさめようとするが。その腕を払いのけて主張する。

「あの子は悪い子じゃねぇんだ。なんでこんな組織の中で生まれちまったんだって泣きたくなるくらい一生懸命で、ドジな……ただの女の子なんだよ!」

 天月博人はその声を聴いて、そう主張する救出対象の1人である男の牢の前で屈み。のっぺらぼうの仮面五指に、ゴーグル型携帯端末越しに男の目を見つめ「ジブンはそれを仲間に伝えるためにここを離れなければいけなくなります。
 つまりを殲滅できていないのにもかかわらずジブンがここを離れ仲間に伝えるまでの間、皆さんを敵から守ることができないということです。命をけてもいいと言うのなら。
 今アンタの周りにある同じ救出対象の命をその間、背負えるというのならば……お話、聞きましょうか」と尋ねた。



「ひ、ひぃ」
「オイオイ、オイオイオイオイ。さっきの威勢はどこ行ったんだよなぁ、オイ。テメェのご自慢の異能を強奪する能力で? 俺から瞬間移動能力と全耐性能力を奪いたかったんだろうがよぉ。
 俺の全耐性能力には強奪耐性があるみてぇだなぁ? それで? テメェの能力が効かねぇとわかれば自慢の異能力に粋がっていた奴が逃げてるってわけだ。
 なっさけねぇなオイ」

 時間がたつほどに、ロロ=イア陣営も各施設のレジスタンスへの抵抗力を上昇させているようで、ロロ=イアの落とし子の設置人数を引き上げ、職員たちに持たせている自己防衛用の装備の質を上昇させていた。
 だが、中田文兵には並大抵のそれでは太刀打ちできていない。いくら抵抗力を上昇させても、命中しなければ意味はなく。
 命中したとして効かなければ意味がない。
 現に出会って当初、意気揚々と能力の行使をしてきたロロ=イアの落とし子の1人を。中田文兵は弄ぶように追いかけまわし、そして腰が抜けて中田文兵に恐怖に恐怖し「た、助けて……おとうさ……」と心から救いの言葉を漏らしているところを背後から頭部を打ち抜いた。

「返り血は……浴びてねぇな。血が付いたら怒られるからなぁ……あん? 何だこのにおい……獣臭?」
 
  また、中田文兵が獣臭に気が付いて見渡すとロロ=イアは異能を持つ落とし子、武装意外にもう1つ。抵抗力を用意していた事を理解する。

「なーるほど、こういうのを用意してきやがったか」

 中田文兵が目にしたのは廊下に数匹、少なくとも中田文兵が知らない未知なる猛獣がそこに居た。巨大化した昆虫というべきかなんというか、毛の生えた巨大なカマキリのような生命体が蔓延はびこっていたのだ。

「カマに当たる部位は爪か何かかねぇ? 俺が持っている情報から考えるに。ロロ=イアが釣ったいわゆる人口生命体。もしくは別世界からの生き物か。面白れぇ生き物を飼ってんなぁ」

 中田文兵はおちゃらけながら拳銃をカマキリのような獣の1匹に向けて「ボール遊びしようぜ。犬でもできるんだテメェらもできるだろ。これ弾な」と言って瞬間移動し、ほぼ零距離で発砲した。「へいポチぃ……玉を取ったら返さないと。仕方ないなぁ、もっかい投げるぞ?」と言ってもう一度発砲。頭部へ、胸と思わしき場所へ、腹部へと倒れ伏して死ぬのだと確信できるほど動きが鈍るまで何度も撃ち込んだ。

「適当撃って8発か……こんなもんか。頭部が1番苦しんでいたように見えたし、今度は頭部を重点的に狙うか」

 そう言いながら銃弾を装填すると。目についていたもう1匹の前に瞬間移動して。有無を言わさず1発撃ち込み、怯んだのでその隙にもう1発。中々元気に苦しんでいたのでさらに1発と計3発、カマキリのような獣に銃弾を撃ち込んだ。

「生き物ならば頭は急所であるべしってな。3発なら見つけ次第うげって声は出ねぇな。問題は頭がちいっせぇから俺の銃の腕だとちょっと離れたら外れるってことだが。あんまり気にならねぇかな」
「頭も心臓も股間も急所でも何でもないお前が言うと違和感あるわねそれ」

「へへ、こういう異能力者の特権だよ。博人の異能力に関する話を聞いて、もしかしたら次の瞬間にはなくなるかもしれねぇなんて可能性を知ったからなるべく被弾はしねぇようにしてるけどよ」
「やたら瞬間移動するやつにようやく攻撃が充てられたと思ったら傷一つない時の絶望感知らないわね?」

「知るかそんなもん。さて次だ次」

 殲滅されていく。殺そうとして殺され、隠れて居たら見つかって殺され、逃げ惑っていたら追いつかれて殺される。ロロ=イアの理不尽な研究により生まれた理不尽によってみんなが殺されていく。
 そしてまた一人。

「どうした、逃げんのやめて。諦めたのかよ」
「さっきからさ。僕の思った通りになるんだよ」

「あん?」
「逃げた先がさ、僕の記憶では行き止まりなのに逃げ道よあれって思っていたらないはずの逃げ道があるんだよね。
 入るのにカードキーが必要なのにことごとく開いているんだよ。
 時間稼ぎできる奴がいますようにって思えば異能力を持った奴だったり、外来種がいるんだよ……ふとそれに気が付いてさ。
 僕のことをバカにしていたあの女が死にますようにって、僕のことを顎で使ってた先輩が死にますようにってお願いしたら……すぐ曲がり角ですれ違って、僕を追いかけているお前に殺されたんだよね……どうやら、僕はこんな土壇場で世界を思い通りにできる力を手に入れたみたいだ……頭がすっきりしてる。
 何でもできる。
 世界を改変することも、時空さえもゆがませられる。
 みんなの認識も思うままだってのが僕の能力で理解できる。
 なぁ、君……僕にもう戦意はないはずだ」

「いや、普通に戦意というか殺意はあるぞ。しかしいいねぇ。
 死ぬ土壇場にとんでもねぇ異能力が覚醒したってわけだかっくいいー。俺、ロロ=イアと闘って何回主人公みたいな奴と出会ったっけな」
「は!? ……であれば殺そう。弾けろ! そしてお前だけを潰すブラックホールよ来い! ついでに後片付けもしてやる」

「うお!? ……あっやべ!……とと…………弾けねぇしテメェが掌に出した俺専用の無限重力玉で俺がつぶれることもねぇなぁ」
「なっ、なんで!」

「急に冷静になった顔がまたゆがんでんぞ……まぁ何だ。俺の耐性能力が、テメェの世界を改変できるほどの能力で作り出した俺がはじけるっている現象や、無限の重力にも耐性があったってことだろ。そんじゃあ」

 窮地きゅうちに追い込まれ、世界を自身の思った通りにできるという能力を覚醒させた男も、中田文兵に拳銃を向けられて自信が風呂王不死の存在だと思う前に撃ち抜かれたのであった。

「お前の能力ってほんっとインチキ極まりないわね」
「うっせぇよ。俺でインチキなら。
 俺の全耐性能力を抜けて存在を忘却させてくるウチのリーダーを見たら失神するぞそんなんじゃあ」

「えっ、ヒロト君ってそんなすごいの?」
「すごいぞー。3回は貫通してっからな。たぶんテメェも気には止めなかっただけで忘れてたぜ?」

「まぁ、そうよね。お菓子くれる善い人ってイメージが出来るまで……あっ居たのくらいにしか思ってなかったし」
「ウチのリーダーそう思われてんのか……てかテメェにも菓子分けてんのかよ。
 野郎、甘すぎねぇか……注意した方が良いかねぇ……でだ。雑談交じりに探して居るが……蹂躙じゅうりんは終わったとみるべきか……この時はアイツが便利だよなぁ……ここいらでリーダーと交代………」

 生き残りを探して居る中でコツンと足音が聞こえ。中田文兵は口を開くのを止めた。

「ばっか3Ic_35! お前のせいで! ちぃ……!」
「アグ!?」

 廊下の曲がり角、巫女装束を羽織り、腰に竹筒を背負った少女が突き飛ばされるように登場した。
 中田文兵は瞬間移動して少女に接近、蹴飛ばして、少女が飛び出た廊下を見る。同じ位の少女の後ろ姿が奥の曲がり角へ消えていくのを見届け、そして再び腹部を蹴られてうずくまる少女を見る。
 少女は、震えて泣いていた。

「あら、今の名前……3Ic_35ってもしかして……たしか3Ic_78ちゃんが言ってた……ゴミの子?」
「何だ知り合いか?」」

「コード:Ic。私と同じ場所で生まれた姉妹よ。生まれた時に、Ic第3世代にしては低い能力と身に着けた異能が使い勝手も凡庸性も私以上に悪いから、ゴミとして適当な家に送られて雑用してるなんて聞いて居たけどここにいるなんてね……それで? 殺すの?」
「殺すとも。だが……さっき逃げた奴は、こいつよりも先に甚振った方が良い顔見れそうだ。何で無能よりも私が先にってな」

 中田文兵はそう言って少女の髪を掴み上げて、そして瞬間移動をした。「ほんとに、悪役ね」と中田文兵の瞬間移動に置いて行かれた蝗アヤメが呆れた痕。1度消滅して、中田文兵の身近に再出現した。
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