自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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5-10 :クリア、頑張ってね。

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「俺は異能のおかげでな、逃げても容易に先回り可能なんだわ」

 幾度の瞬間移動の末に、中田文兵は逃げた背の高い少女を先回りする形で出現した。
 背の高い少女は驚きのあまり尻餅をつき、体を震わせていた。

「震えるなよ、それでも異能を持った落とし子かよテメェ」

 中田文兵が戦意を煽りながら背の高い少女に手を伸ばそうとしたその時。
 中田文兵が連れてきた巫女装束の少女が咳き込み始め、中田文兵の視線が自然とそちらへと向く。
 巫女装束の少女は皮膚炎を起こし全身から血をにじみ出させている事に気がついた。

「や、やっぱり効いてない」

 背の高い少女がそう言った事によって、巫女装束の少女がそうなっている原因が彼女にあると理解し。彼女がとうに無差別攻撃を中田文兵に向けて行なっており、そして効かないことに震えていたのだと理解する。

「なるほどなるほど……テメェは仲間を捨ててまで逃げたかったわけだ。やっぱりつう事はコレが効かねぇって予想がついていたもんなぁ」

 中田文兵は巫女装束の少女を壁際へと投げ捨て。背の高い少女へと歩み寄った。

 

 阿保、馬鹿、鈍間のろま、ドジ、クズ、間抜け、役立たず。少女の家族にとってこのような罵詈雑言は、もはや少女の名称であった。
 少女は指示されるまでは何もせず。いざ指示すれば不器用で居ない方がマシだと言われる。
 他の兄弟姉妹達と同じく持っていた父の役に立ちたいという信念は、いつしか誰かの役に立ちたい思いへと変貌へんぼうし、そしてことごとく空回りしていった。
 幼き頃より既に、愛する兄弟姉妹は勿論、敬愛する生みの親にすら期待されなくなり、適当にあしらわれるようになった。
 そして少女は適当にあてがわれた雑業をこなしながら、遠くから己ができない事をやる仲間たちをただ羨ましく思いながら、観察するのが日課になるまでそう時間はかからなかった。
 病にて自身の全てが終わりそうなこの時も、ボンヤリとした目を開けて、仲間の最期、その始まりから終わりまでを、最早癖になっている日課を行う様に、目で追いかけ回した。




「ありゃ、死んだか……効かねぇって解ってんなら受け入れればいい物を。変に抵抗しやがって。銃弾が服に穴を開けやがった。怒られるんだよなぁ……それで、元凶が死ねば症状は治まるか。楽になって来たところ悪いが、次はテメェの処分だ」

 中田文兵が病発する少女を処分し終り、巫女装束の少女に銃を向ける。

「役に……役に立たなきゃ……私は……私はまだ……」

 少女は震える両手を地面に着いた。「なんだ? 降参か? 無駄だぞ。俺はテメェを知らねぇ。テメェが命を得るには俺はテメェを知らなすぎるんだよ。だからこのまま処理する」中田文兵とその行為は意味はないと引き金を引こうとするが、少女の頭は沈み、射程から外れる。

「あん?」

 中田文兵は沈んだ原因をみる。少女が両手で触れている地面。それがドロリと溶けて少女を沈めていた。中田文兵は行動させまいと再度引き金を引くが。どろりと溶けた地面から槍や剣が刃先から飛び出し。中田文兵の腕を持ち上げて射線を変更、その隙に少女はどろりと溶けた地面の中へと全身を浸からせ、液体となったそれと下の階へと落ちて行った。

「だぁ畜生! 服が!」

 中田文兵は剣や槍によって切り裂かれた服の部位を見て顔をしかめ、穴が開いた床に目をやり。すぐさま下の階層へと瞬間移動をする。逃げ去ろうとする少女の背後が見えたので更に瞬間移動。真正面に登場しようとするが。少女がその前に壁に触れたことによって溶けだし、大量の槍を出現させ。中田文兵の瞬間移動する地点をずらされる。

「よく対応できたなオイ」

 中田文兵は想定の位置に出現できなかったために銃の発砲は外れ、少女に向けようとした頃には少女は床に触れて溶けだした床と共にさらに下の階層へと落ちて行った。

「こう……こう……こう……こう……こう……」

 少女は腰に抱えた竹筒の蓋を外し。鋼色の塊に触れ槍、方天戟《ほうてんげき》を形成し。それを思いっきり魔の前に丁度出現した中田文兵の拳銃を握る手に向かって振り上げた。中田文兵は突然の衝撃に手を放してしまい、拳銃が宙を舞う。それを少女が掴み取りドロリと液状化させる。これで接触的な攻撃しか現在少女を殺す手段がなくなった中田文兵に少女は間髪入れずに方天戟で突き飛ばし、逆方向へと逃げる。おいて行かれた中田文兵は深く深呼吸して「蝗ィ!!」と叫んだ。自身が病気に侵されたことを近くして一旦消滅した蝗アヤメがその声に反応して「な、なによ」と言いながら出現する。

「アイツ俺の動きを読んできやがるぞ。どこが馬鹿だ。あぁ!? それともそう言う能力か?」
「し、知らないわよ。私が知ってる話って仲が良かった子の又聞きだし……それにあの頃の私は自分に自信が持てないから一杯一杯で周りを見てる余裕がなかったし……って、人に聞いといて居ないしあの阿保ぉ!」

 中田文兵はアヤメが「知らないわよ」と言った時点で少女を追いかける作業に戻る。たとえ動きを読まれても大丈夫だ。追いかけまわしていつか疲弊し力尽きた所を狙うのだ。

「ふーふー」
「疲れてるねぇ……ほらぁ頑張って逃げろよぉ……死ぬぞ? このままだと死んでしまうぞぉ?」

 そう切り替えて、中田文兵が少女を追いかけ回す事、十数分。中田文兵は永遠と同じ距離を保ち、常に少女を全力で走らせ続けた。荒んでいく呼吸。弱りゆく動き。完治したとはいえ削れていた体力。少女の終りが近づいていく。

「い、やです。い……やです……はぁ……はぁ……」

 終わりに抗う少女に。無情にもその終りを贈る者の足音が近づいていく。

「いやぁ、俺はいくらでも走れるんだよ。疲労耐性てのもあるみてぇだな。いやぁここまでインチキだと笑えてこねぇか? 悉くテメェらの戦力が意味を成してねぇもんなぁ。でもよぉ。この能力な。テメェらが俺で実験した産物なんだよなぁ」

 絶望、どうあがいても勝ち目のない、逃げきる事もできない状況。それでも少女が走り続けるのは。純粋に死にたくないから……ではなく。誰かの役に立ちたいから……実はこれもほんの少し違う。

「巫女装束と言うより巫女配色なだけだが……多分あの子だな。はぁ漸く見つけた……ん? あっやっべナカタニさん止まってください」
「あん? おーリーダーじゃねぇか。救出対象の護衛は?」

「その救出対象に1人だけ、殺さないでくれと言われましてね……おいアンタ。もう逃げなくていい……挟まれて動けなくなってらっしゃる?」
「いや違う。オイ、地面に触れんじゃねぇ! 助かるもんが助かんなくなるぞ!」
「ヒゥ!?」

「脅さないであげてください。だからアヤメに悪役って呼ばれるんですよ……アンタ。
 3Ic_35であってますかね?」
「……い、い……はい」

「そうか、アンタは幸運だ。アンタには弁護人がいたんだ。それに……よくナカタニさんから生き延びた。頑張ったな。アンタは生きててもいいんだ……アンタがロロ=イアを裏切ってくれるのならの話だけど」
「嘘……あぁ……」

 少女はただ。誰かに褒められたかったのだ。よく頑張ったと言われたかったのだ。天月博人と中田文兵はこの時、死ななくてもいいのだと涙したのだと思ったが、少女は生まれて初めて、見知らぬ人からではあるが褒められたことに、自身が確かに頑張っていたことを褒められて、頭を撫でられて感極まり涙していたのだった。

 この後、残滅を確認し。少女と救出対象たちは第1拠点に保護された。

「へーナカタニさんの動きをそんな風に……っよ……っほ……っふ……ナカタニさん」
「あん?」

「この子、ジブンが動くよりも先に視線を結果の場所に動かしてます」
「つまり?」

「人の行動結果……と言うよりも人の動きの一歩先を見ているんです。視線がジブンよりも先に動いているんでわかりやすいですよ。この子相手にジブンが普通に闘えば負けますね。闘いにおける師匠のような人がこんな感じなので覚えがあります」
「マジか……闘いにおける師匠ってなんだ……」

「そこらへんは追々、とりあえずこの子は人の動きを読むことに関しては天賦てんぷの才があるんですよ」
「天賦の才?」

「天才ってことです。アンタには才能が有る」
「そ、そうですか?」

「ウイ、自信を持って良い。君は天才だ。もしかしたら闘いの天才かもね」

 そして少女は、天月博人に鬼の様に強い子になるという期待を込めて鬼童、そしてこの世界の一員となりますようにと世界。鬼童世界おにわらべ せかいと名付けられ。
 自身を褒めてくれた天月博人に懐くのであった。



「やっだ。可愛い!」
「そ、そうでしょう……ッム!?」

 第1拠点に屋宮亜里沙が新しく来た子たちがどんな子なのかと見に来て。早速、鬼童世界の頭部を自身の山脈に抱えて沈めさせた。

「あの人はいつからタガが外れたんですか……可愛いと思ったら絶対愛でるお姉さんになってますけど……」
「テメェが何でも受け入れるからだ。ほら、責任持って止めてこいよ。世界のやつがタップしてんのに気がついてねぇぞあの人」

「か、勘弁を……」

 どうやら鬼童小日ノ丸は、屋宮亜里沙のお気に召した様だ。
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