自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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6-8:夢幻の様な今

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 すべてのレジスタンスの仲間たちが集い、中田文兵が捕らわれていた意識の世界での事を話す。
 その話の中でピンと来たのか天月博人は近場の穴倉から1人の眠った男を担ぎ込むんで見せ「もしかして、この人?」と尋ねた。
 遠目からでしか見たことがない中田文兵は首をかしげるだけであったが、想いの海にたたずむ者は「そう、この人だよ」と断定し、眠る男の頬に触れた。
 名前も知らないその男は想いの海に佇む者曰く、もう決して目覚めることはなく、世界中に大きな波紋を呼んだ罪を償うことはない。
 想うところはあるけれど、想いの海に佇む者は「甚振るのはやめてあげてね。その子の力を利用する方法があるならそれで有効活用……とかなら目をつぶるけれど。
 それ以外ならただ燃やしてあげてほしいな。消滅しちゃっただろうから成仏する事は無いけれどさ」と言って諌め、空をみて「彼が空けたこの穴は世界の寿命は世界的に見るのなら誤差の範囲よ。
 でもこと地球の寿命は本来の半分以下になったとみていいと思う。
 服に空いた大穴は少しの力で広がりやすいと考えればわかりやすいかな」と穴が開いた事でどんな問題が生じているのかを語る。

「あの、質問宜しいでしょうか?」

 これに楽善二治が手を上げて「はい、なにか質問があるみたいだね。いいよ。何が聞きたいのかな?」と了承を得てから問う。「世界が消滅する前提で進んでいますけれど……本当に消滅するのでしょうか?」と。

「うん、このままだと消滅するよ。虫食い状に空いた穴が、広がっていく宇宙に引っ張られて拡大し、他の世界たちに侵食されるように、古いフィルムのノイズが大きくなるように消えていくんだよ。
 信じられないかも知れないけれど、コレは本当の事なんだ。
 その……パッとでの人間もどきな私の言葉だけど……信じてくれるかな?」
「証拠はありませんが証言は2つ……いえ、博人君の広がる穴の話を入れれば3つですか。言質げんちとして見るならば……わかりました。私は、世界が消滅するという言葉、信じます」
「ジブンはピエロから聞いて元々信じていたので……ここで違えるような選択肢はジブンにはありません」
「楽善と博人がそうなら俺はその選択に合わせるぜ? そもそも俺は空の上のあそこからテメェに助けられたんだしな。恩……人? を蔑ろにはしねぇよ」

 誰よりも、この3人が想いの海に佇む者の言葉を信用したことによってレジスタンスの流れがすでに定まる。通堂進と針城誠子を筆頭に2、3割ほどが信用しきったわけではないと釘を刺し。彼女をロロ=イアの敵、とういうより世界を救う協力者としてその言葉を現実味あるものとして受け入れた。

「よかった。信じてくれてありがとうね」

 想いの海に佇む者はこれに感激し、震えるように笑った。いまさらながら何とも不思議な存在である。曰く、人間を辞めた理由は昔馴染みの大親友の1人である【遥かあ高みへの先導者】に「人類が更なる高みへ踏み出せるかも知れない。先ずは僕たちで実験しよう」誘われたからだとか。
 曰く、オリジナルの【想いの海に佇む者】は昔馴染みの大親友である【遥か高みへの先導者】【幸福に満たす者】【原則への乱逆者】【虚像に身を隠し才能を探す者】【体験し焼き付ける者】【背中を押す蛮勇者】【善性を見出す者】との遊びに失敗して、その結果として8人全員が合体したという。
 本体である想いの海に佇む者を含む8人の本体達はこの時に、これは拙いと突貫で生み出したのが分霊、今目の前にいる想いの海に佇む者が生み出された8人の分霊の内の1人なのだそうだ。
 
 それから数日間、非日常な状況下で送られる日常の中で想いの海に佇む者は自身の現実でできる力を見せてくれた。
 【眠りに誘う力】【夢や意識の中に入る力】【意識をはっきりさせる力】【感情、または思考を読み取る力】【催眠術をかける力】【記憶を映像として映し出す力】【自身含む誰かの思考と誰かの思考を一時的に繋げる力】など。コレでも意識世界に居る時よりもできることは大幅に減っているのだとか、本体は夢も現も関係なく全ての力を行使できる上に、分霊よりも出来ることが多いのだと言うのだから恐ろしい。
 だがコレで、想いの海に佇む者さえ信じる事が出来たのならば、レジスタンスの中に桑原真司のようなロロ=イアの刺客や、前例はなくとも可能性があるレジスタンス内部で悪事を働く者、もしくは働こうとする者を判別できるようになった。そして、レジスタンスにとって1番の目玉となった彼女の能力は、【思考と思考を繋げる力】であった。この能力は想いの海に佇む者曰く、能力の所持者である彼女を中点にオリジナルの22%の出力である直径3.000キロメートルの範囲に存在する者の思考を、同じく範囲の中に存在する者の思考を繋げる事ができる力。所謂いわゆる念話であり。つまりは通信手段として用いる事ができる力なのだ。
 楽善二治はこの能力に歓喜しつつ、想いの海に佇む者に使用の許可を「いいよ」の二つ返事で貰うと急遽。会議を開いた。
 
「助けを求めますか? それとも情報を渡しますか?」
「僕としては今のところ範囲に入る色んなところに世界消滅だとかロロ=イアの存在だとかの情報を渡すだけでいいと思う。
 制圧していない施設のロロ=イア人員が対空、対潜の武器やらを持ってるかもしれないからね。
 それが解決して救助を求めるにしても自衛隊とか武装してる人たちに要請してほしいかな。救出要請を求めたのならあの子、ピンク髪ちゃんには救出に来てくれた人たちの思考を読んでほしいかな。
 研究所とかに送るよう上に命令されているかもだからね。映画か何かで非道な人体実験やら研究やらを見たから一応この辺りは警戒したく思うんだ」
「自衛隊だとか軍隊だとかと争うのは面倒だな。俺の能力上、核撃ち込まれようが勝てるがよ。出来れば相手したくねぇななぁ……俺も今は情報を渡すだけでいいと思うぜ? そんで提案なんだがよ。俺たちレジスタンスでこの島にいるロロ=イアを滅ぼして襲撃される恐れが無くしてから、武装しない救助を求めようぜ? 時間はかかるだろうが、その間の世界が消滅はどうするって話は世界各国に任しとけばいいしよ」
 
「成る程……お2人は先ずは情報の提供から、救助は後回しの方針ですね。天月君はどうでしょ? 何か意見はありますか?」
 
 通堂進と中田文兵から意見を聴くと楽善二治は天月博人に言葉をパスした。
 
「あの。ジブン達は特殊な状況下に会い、異能力を発現させている異能力者がなまじ居る為、原理解明したさに実験や研究されるのを警戒している形でいいですよね? 通堂さん」
「うん、そうなるね」
 
「ならばジブン達が異能力者だと言っても受け入れてくれそうな場所……とても難しいかもしれませんが、ジブンの第2の故郷と言える日本群島の様な地図に載っていない島を探すのもアリだと思います。そこでは、少なくともジブンが居た日本群島では異能力者という存在が認知されていて、普通に住民として過ごしていましたから異能力者だ! 研究させろ! みたいな事にはなりにくいかと思います」
 
「ふむふむ……無難に考えるのなら今は情報のみ渡し、救助は後にの形ですね。
 現在呼んでしまえば下手をすると救出に来てくださった方々とロロ=イアが争う事に成り。それにロロ=イアが勝てば地獄、負けてもその後救出されるであろう私たちは要求を断りがたくなると……そして天月君の提案は運、本当に奇跡を願わないと無理ですね。
 ですがここが地球の何所かわからない以上は……可能性はゼロではないですね。
 解りました、その可能性を一考したうえで通信を試みましょう。
 仲間たちがここに連れてこられるまで最後に居た地が日本であるから日本が近いことを期待しつつ。本土であれば情報を提供し、群島、またはそれに類する場所と繋がれば、少人数ずつ逃げ出したい。帰りたいという者だけを募って隠密に救助していただくという形でお願いする……これでどうでしょう?」

 通堂進が「日本群島の異能力者への扱いを信用してないというか勘ぐりたいところだけれどどうしようもないか。後半のを通信した腕一考するのなら僕はそれでいいよ」と賛同し、続いて天月博人、最後に中田文兵がこれに賛同して決着をつけた。

「おっしゃ。まずは島の淵にある施設を全部ぶっ潰せばいいか! なるべく早い方が良いだろ。おい博人! 準備しろ、ちゃっちゃか殴殺しに行くぞ」
「ウイ、了解です」

「今からですか?」
「おうよ。話は決まった。なら思い立ったが吉日って奴だ。施設を潰す速度を上げる。分担はせずに俺が上から、博人が下から攻めていくつもりだ。もちろん研究施設は除くぞ。それじゃあまた明日」

 中田文兵はそう言って天月博人の肩を叩いてともに姿を消した。
 
「はい、また明日……では、残った私たちで想いの海に佇む者さんの立場をしっかりと仲間だと知らしめるために構築しましょうか」
「はいはい。協力するよ……ところでその呼び方はくどくない? 本人があだ名付けていいよって言ってるしピンク髪ちゃんとかそう言うのをさ」

「あ、あはは……私、どうもあだ名とは縁が無い人生を送って来たもので……」
『子供たちにピンキーってあだ名付けてもらったから。何も思いつかなかったらピンキーを使うのをお勧めするよ』

「わっ!? 驚きました。えっとこれは念話……はい、そうしますピンキーさん」
「……今の反応はもしかして」

「……はい、聞かれてますね。いえ、別に悪い事とは思いませんけれど」
「僕としては盗み聞きっていい事でもないと思うけどねー」

 想いの海に佇む者には隠れて何かをするというのは不可能だと理解しながら、楽善二治と通堂進も会議室を後にした。
 
 
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