自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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EX1-4:大沢先生と変わり行く日常

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 イヴァンナ・マハノヴァは指揮官とやらに言われて、同胞の一部と班を汲んで行動しているのだそうだ。指揮官、同胞。一体どういう集団なんだと思うがそこまで首を突っ込むと大きな何かに目を付けられそうで自重する。
 だが、自重したとしても大きなものに巻き込まれそうで怖くて、理解しがたい何かがありそうで。とても気分が悪い。現にイヴァンナ・マハノヴァ曰くロロ=イアと言う組織の襲撃に巻き込まれたんだこれからも不愉快なことが起きる可能性は容易に存在する。早くイヴァンナ・マハノヴァの問題を解決し。僕一人だけの生活に戻りたい。
 ……嫌な気分にここ最近何度もなりすぎて体の中が淀んでいる気さえする。そろそろ発散するべきだろう。そう思って僕は身体が治るのを待ち続けて凡そ2週間で退院し。イヴァンナ・マハノヴァが寝静まったころに気分を発散させた。

「はぁ~……おはよう大沢先生。……何を食べているのだ?」
「カリフラワーの一種であるロマネスコを茹でたものだ。まだいくつかあったと思うから1つ食べるか? 中々おいしくできたと思うんだ」

「朝食にそれを丸ごと一個、バナナのように齧るのは……遠慮しておこう」
「なら、冷蔵庫にホットケーキの粉があるから。作って食べといて」

「わかった。ありがたく頂くとしよう。ところで大沢先生、昨日は呻き声を上げていたようだが。どうしたんだ? まだ、体が痛むのか? ……にしてはスッキリした顔をしているが」
「ちょっと気分転換をしていただけだ。気にしないでくれると助かる。さて、朝食も食べ終わったし、それじゃあ今日も行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 これをやると、何もかもを忘れて体の中の不純物をすべて吐き出しスッキリすることが出来る。苦痛を伴う事にはなるが、つかの間の生まれ変わった様な解放感は全てにおいて代えがたい。悪癖……と言われてしまえば悪癖であろうこれの始まりは小学生頃のただの好奇心だったか。今となっては止め難い存在になって居るとはかつての僕は想像できただろうか。
 
「大沢せんせっ。おーはよ」
「うおっ……芳奈か。朝から会うとはね。待ち構えていたのか?」

「私がそんなことをするわけないじゃないか。だって私は待ち構えて必然的に出会うよりは、偶然出会った方が運命的で好きだからね。だからこの朝の出会いは運命的な物だよ」
「運命ねぇ。究極的には運の話じゃないか馬鹿らしい」

「うわー、大沢先生ロマンが無いねー」
「ロマンは基本的な男と基本的な女の感性から考える者が違うと思うけどね。僕はロマンと言われると家にあるモデルガンとか持ち出す事に成るよ?」

「あーなーるほっどねー……大沢先生、なんか顔スッキリしてないかな?」
「気のせいだろ」

「気のせい……じゃないね。間違いはない。……またやったんだね。身体に悪いって言ってるのに」

 僕の悪癖を知って居るのは地元に居る昔ながらの友人たちと家族が居るが、今の環境ならば……目の前にいる女、木下芳奈ただ1人だけが知っている。

「昔からやって居るんだ。今更止められないし止めるつもりもない。僕はただ育てて、それを食べてるだけだ。どこに悪い事がある? 君にとって残念なことに無いとも。覚せい剤だとか大麻だとかそう言う類か物ではないしね」
「だけど、絶対おかしいよ、好き好んで毒物を摂取するなんて。汗や涙は噴き出る。吐き気も下痢ももよおす。命を削ってるよそれ!」

「体の不純物全部出せてスッキリするんだよ。それに……なんだ。こんな誰でもどことなく生きづらいと思うような社会で僕は長生きするつもりが無いから命を削るなんてこと別に気にしないよ。早死に? 上等さ」
「……私は大沢先生のそういうところ、苦手かな。でも……はぁ、さいごまで私は着いて行くから。おいて行かないでね」

「今の流れでのその発言はちょっと重いよ」
「重くてけっこー。男の人は背中にしょってるものが軽いより、重い方が格好いいと思うからね。重荷に思ってくれてもいいよ」

「はぁ……僕は君のそういうところが苦手だよ」
「ふふ。その発言は負けを認めたってことかな? なら今日は私が大沢先生を言い負かしたわけだ 」

「言い負かされはしたけど毒を飲むのはやめないからな……そんな顔をするなって、今日何か奢ってやるから」

 木下芳奈、全く持って彼女は僕にとって厄介な存在だ。




「タケノコ……タケノコ……冷蔵庫の中を見ればなんかいっぱい詰まってるからと、己自身の餌を買い込むのをサボり続けてしばらく……食事に出るのは僕の育てたものを消費しなければタケノコのフルコース……」

 イヴァンナ・マハノヴァが「大沢先生……そろそろタケノコご飯が食傷気味になって来たぞ」と苦しむ様に言ったため、仕方がないなと冷蔵庫を開いて僕は絶句した。
 タケノコだけがそこに詰まっていたんだ。朝昼晩おやつと四食分が毎日善意によって供給されるタケノコ。朝は朝食代わりに丸ごと茹でて齧っておけばいいが、問題はおやつ分。最初はフライドポテトの様にスティック状にして食べていたが、いつのまにか億劫になってやらなくなったためにその分貯蔵されていったタケノコがそこに在った。

「これは……、由々しき事態だ。えぐみが酷い事に成らないうちにタケノコパーティでも開いて知り合いたちに消費するとして。……食材、タケノコ以外の食材を買いに行くから荷物持ちとして手伝いを頼めるか?」
「あい、わかった! 私たちの豊かな食事の為に協力は惜しまぬぞ!」

 僕たちはパンダではない。人間なんだ。そんな強い意志を持ってスーパーマーケットへ足を運ぶ。すると当たり前の事なのだが肉、魚、果実、野菜とタケノコ以外にも食材がそこに在った。冷蔵庫のタケノコ色に染まった中身とは違う鮮やかな光景が。自身がここ最近のタケノコの味が慣れ切ってしまい無味無臭に感じ始めていること。タケノコ生活以前の食生活は色とりどりの味があったのだと色、味、香りがあることを理解させる。
 好物である肉料理か、それとも純日本人らしく魚料理か、タケノコ生活によって偏った栄養を正すために果実か野菜をメインにした料理か……いっそのこと全部使った鍋でもいいかも知れないと、いつの間にか乾いていた食欲が沸いて何を食べようかと思いをせていると迷子のアナウンスが聞こえる。ふと、イヴァンナ・マハノヴァを見ると彼女は隣にいた。

「出会いが出合いとは言え、大沢先生は私にどんな印象を持っているんだ……私はこれでも理性ある人だぞ」
「問題が解決しない尊大なポンコツ」

「お、おぉ……君、隠さなくなってきたな」
「一言いえば外面全部削げる君よりはとても隠してると思うけどね」

 彼女がアナウンスされた迷子ではないのか弄りながら、食料を籠の中へと入れていると。僕の隣を髪の長い少女が涙声で息を漏らしながら走り抜けた。
 後ろには後を追いかける親らしき存在は居ない。女の子だし話しかけなくていいやと食材選びを続行。しばらくしているとまた、迷子のアナウンスが流れた。先ほどの少女だろうか、そう目星を付けながらも冗談交じりにイヴァンナ・マハノヴァを見ると、彼女はそこに居なかった。
 ……どこにはぐれる要素が? 食材を睨んでいる間に一体何が起きた。そう疑問に思って困惑するが少し見渡して探した気になり、置いて行く選択肢があるのでは? 僕は解放されるのでは? と脳裏に浮かんだ頃に。イヴァンナ ・マハノヴァが「黙って居なくなってすまん」と言いながら戻ってくる。その両手に泣きじゃくる赤毛の少女と、涙目の長い黒髪の少女の手を取って。
 猛烈に嫌な予感を感じて「なにその子達」と尋ねると。イヴァンナ ・マハノヴァは申し訳なさそうな顔で。「天城……こっちの女の子が横切っただろう?」と言いながら長い黒髪の少女に視線を送り。「その、感じる物があって。追いかけてみたら同じ所属で、境遇が私と同じでだな……」と続けた。
 え? 君達の組織って逸れる人間で形成されてるの? なんて悪態をつきたくなる。元の場所に戻して来なさいとペットを拒むお母さんになりたくなる。だが、迷子センター……スーパーマーケットに有るのかは知らないが、それに類似した場所から2人の少女を引き取り、2人の少女はそれを特に拒まなかった事を、手をつないでいる現状の3人が物語っている。
 普通の人だったらこの時どうしていたのだろう。やはり問答無用で警察に届けるのだろうか。僕には行動の答えが分からない。

「えっと……大沢先生。この2人も保護してくれぬか?」

 あぁ。ここで首を横に振れたならどれだけ楽なのだろう。イヴァンナ・マハノヴァは背景を知らないまま僕自身で首を突っ込んだから何が起きても僕から首を突っ込んだことだから仕方がないと自分に言い聞かせて無理にでも納得はできる。だけれど人数が増えて負担が倍加するのは辛い。またそれが少女となれば許容し難い。事案として見られる前に放り捨てたいところではある。
 でも、目の前の少女が泣いている。明確に互いを認識した今、放り投げたら人生の節々で刹那的に思い返すことになって、あの時放り投げたあの子たちはどうなったのだろうと引っかかって、きっと僕はそれからの人生を本気で笑えなくなるのが己自身ながらにみて取れた。それは、非常に好ましくない。
 
「はぁ ……タケノコが増量されたら無理矢理消費させるからな」
「おぉ! 感謝するぞ大沢先生! 良かったなー2人とも、。おっと、ほら、お礼を言うのだ」
 
「あの、外だと事情を知らない無銘の善意達が怖いからそう言うのは家でやろうか」
 
 だから、僕は。少女2人を見捨てないことにした。イヴァンナ ・マハノヴァに関連するらしい2人なら、ギリギリ赤の他人の少女ではないしね。
 それはともかくとして、今晩は紫陽花《あじさい》の葉を煎じて飲もうと思う。
 

 
 
「この度は、保護……? で良いのかな……えっと、助けて頂き有難うございます。私、天城あまぎ蜜柑みかんと申します。しばらくの間、よろしくお願いします」
「おぉ……ご丁寧にどうも。よろしくお願いします。僕も、僕の知り合いも手伝いますから、安心してください。ちゃんと家に帰してあげますから」
 
「うむうむ……で、なんで先に迷子になって実質的に探し回って迷子になった蜜柑を巻き込んだ形にした元凶は何を呑気にタケノコを齧っているのだ?」
 
 天城蜜柑に、感謝と共に自己紹介をして貰っていると。君の立場は一体何なんだと言いたくなる反応をしているイヴァンナ ・マハノヴァが席について、塩茹でにしたタケノコを黙々と食べる赤毛の少女を見た。
 僕的には最大の元凶は君なのだがと言ってはいけないのだろうか。
 
「……えーと。食べる? 一杯あるよ?」
「タケノコが一杯あるのは知っとるわ! そうではなく、蜜柑の様にだな。自己紹介と感謝をせんのか」
 
「んー? あっ」
 
 一瞬、なにを言われているのか理解できなかった様で、赤毛の少女は首を傾げて目で状況を確認。僕と目が合うとなにを言われたのかを理解した様で。皿の上のタケノコを口の中にかきこんで。水を飲んでから椅子から飛び降りて僕を正面に捉える。
 
「わたし、くれない茶々ちゃちゃって名前です。よろしくお願いします!」

 元気でよろしい。うん、この子の事は紅茶って呼ぼう。
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