自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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EX1-9:大沢先生と変わり行く日常

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「げっ、今日行く場所に最近よく聞く名前のアイドルがライブをやるのか……人混みは苦手なんだけれどなぁ。仕方がないか、3人ともそろそろ行くぞ」

 新聞をたたんで招集をかけると、やはりと言うかなんというか、昨日の事があってか紅茶々は乗り気ではない。丁度、今から向かう場所でイベントをやって居るのだからその陽気な空気にあてられて元気になるかもしれない。
 
 実際に向かってみると。土台に乗って歌って踊る男性アイドルグループと、その足元で黄色い声を浴びせて居る、主に女性を占める人だかりが、偶像崇拝を思わせる形でそこにあった。
 僕含めて多くの大人が子供に「どこからあんな体力が湧いてくるんだ」何て言うけれど。僕はこう言ったイベントに集う人にも、嘲笑ちょうしょう気味に、答えが「好きだから」で完結するのをわかっていながら同じことを言う。「どこからあんなにはしゃぐ体力が湧いてくるんだ」と。
 
「まぁまぁ、そう言うでない。私はあぁ言うのは好きだぞ? 自身を有り難み事あるごとに歓喜する下々。いつか持って見たいものだ」
「どうしてアイドル目線でかつ、何て願望を持って居るんだ」
 
「祭り上げられると言うのは憧れるものだろう?」
「僕にはわからない感覚だよそれ。祭り上げられるとか僕なら変に緊張して吐く。間違いなく吐く。アイドル目線なら歌いたいとかそう言うのだろ?」
 
「歌うのは好きだが、それが願いになるほどではないかな」
 
 そんな雑談をしながら、彼女達の連れを探す。僕はまず手始めにいつものように携帯端末でネット掲示板を覗き込んだ。なるべく他人と接する時間を減らすために。
 ……掲示板の書き込み、僕の質問を流すくらいにアイドルで持ちきりなんだけれど。まぁイベントとなるとそんなものか。 
 しかし、彼らアイドルがサービス混じりに歌う曲が耳に入ってくるが、最近の曲だなぁという感想しか持てない。これだけではこんなに黄色い声が上がるだろうか、……きっとアイドル自身のルックスが人気の起源なんだろうなぁ。
 馬鹿にするつもりはない。そこから好きになっただけで、離れることができなくなる深みがあるのだろうから。

「大沢先生」
 
 ふと、天城蜜柑が携帯端末をいじる僕の服を引っ張った。
 
「どうした?」
「あの、私、思うのです。もう、探さないでも良いのではないのでしょうかと。もう、このままの生活を受け入れても良いのではと」
 
 ……それはきっと、昨日、紅茶々の思いを聞いてから、今に至るまで天城蜜柑の中で、僕にはわからない思いをせて、悩んだ末に出した言葉だと思う。
 僕の視線を見ようとしてもそれてしまう天城蜜柑の視線がそう思わせる。
 
 色々な所に色んな話を通さないといけないから、今の生活は嫌いではないけれど。僕としては帰って欲しい意見に軍配が上がるけれど、これで実質どう多数決してもこの生活を続けたい者が多くなった。
 恩を売った者として、僕自身の意見を押し通すことはできるだろうけれど、それをやると僕自身が気分になることを僕自身がよくわかって居る。
 これらを理由として、僕は天城蜜柑の言葉を聞いてから、少しの躊躇と深呼吸の後に「蜜柑も嫌か」と口にして観念した。
 
 天城蜜柑は僕を見上げ「それは、どう言う事なのでしょうか」と訪ねたので。僕は「もう帰ろうかって事」と少し遠回しに答えた。天城蜜柑はこれを理解したのか、何処と無く明るくなった。

「はい、帰りましょう!」
 
 天城蜜柑がそう言った途端、音楽が止まる。アイドル達が「僕たちの最後のライブを楽しんでくれてありがとー!」と告げ。「えーどうしてー」などと騒然とする客につられて「なにやら急な事を言ってるみたいだな」と現場を見ると。
 
「どうしてかだって? それは今から僕たちは指揮官の命に従って。この世界の人類と敵対するからさ。
 さぁ指揮官の言を告げる。血が疼いた。であるからして戦おう」
 
 男性アイドル達は自身が持って居る楽器を銃器のように変形させ、4人が客席へ、1人が明らかに銃口を向けた。
 
「大沢先生!」
「うわっ!?」
 
 銃声と共に絶叫が響き渡る。明らかに狙われたであろう僕は、天城蜜柑に足払いされて、抱えられる形で、その場で状況を察した様子のイヴァンナ ・マハノヴァと紅茶々と共にその場から逃走した。振り向く暇もなかったが、後ろから聞こえた多くの命が貫かれた音が嫌に耳に残った。
 
 
 
 
 問いただすべきは安全を確保できてからだと判断して、天城蜜柑にしがみついて居ると、強い光と衝撃が走って僕は、意識を奪われた。
 
 
 
 
「やぁ、気が付いたかな大沢先生」
 
 意識を取り戻すと牢屋の中にいて、外から人型のアンドロイドの様な何かが男の声で僕に語りかけ、覗き込んでいた。
 
「何が……」
「何が? それはつまりはどう言う状況なのかを訪ねて居ると言うことだろう。うむ、良い問いだ。
 今の私は気分が良く、大沢先生が現状を打破することはできないと踏んで答えてあげようじゃないか」
 
 笑って居る様な声色のそいつは、手でジェスチャーを行なって銀髪で長髪の大人びた女に椅子を持って来させて、それに座った。
 
「うむ、桜よもう下がって良い」
「はい、指揮官」
 
「では話をしようか。どうしてこんな事になったのか、それは私が戦いを欲するものとした者として生まれ落ち、戦い奪うためにこちらへ足を運び、楽しく準備をしていたところで。
 私の愛しの配下が、私の愛しの兵器が、君に鹵獲ろかくされたからだ。ありがとう、君のおかげで私は生まれて至高の喜びを得た。私の愛した物が奪われる感覚がこれ程までに昂り、興奮に震えるものだとは知らなかった。
 だが、本当に申し訳が無いことに、至高の喜びをくれた君たちに準備の整っていない今、全力で答えることができない今になって戦いを仕掛けることになった。これは興奮の余りにカジリカンと言うこの世界には無い戦いの国に生まれた者の血が騒いだと言う事で諦めて欲しい。
 許して欲しいとは言わない。戦いはカジリカン人としての性の様なものだからな。そして君たちも嘆くばかりでは無い。私はこの戦い、あまりの準備不足ゆえに私が敗北する側だと確信して居る。君たちは勝利するのだよ」
 
 つらつらと述べられた言葉を総合的に考えて、コレとは価値観が相容れない物だと察し、おおよそコレに捕らえられた自分の状況に絶望した。
  
「……どうして僕を拉致した」
 
 目の前のソレは笑う、酷く笑い転がると。手から光を放ち、どこかで見たSFのホログラムだか確かそんな名前の立体映像が浮かび上がる。そこには、武装して水面をスケートの様に滑る天城蜜柑とヨットに乗るイヴァンナ ・マハノヴァ、紅茶々。そしてウー・チーが映っていた。
 
「簡単なことだ。私が愛した兵器が鹵獲されたこの状況を濃密に楽しむために、意図せず見つけた最愛なる怨敵と戦うためにだ」
 
 過去の僕よ、ほら見たことか。僕は何かに巻き込まれたぞと。僕は現状を嘲笑するほどに、狂える目の前の何かに絡まれて酷く気分が悪くなった。
 
「惜しむべくは、私が女、もしくは君が女ならば。異性であったならば。せめて美を感じる男出あったなら、今ここで犯し倒し、快楽を楽しみ、彼女たちの反応を楽しめたものを。本当に、運命という物は残酷だな」
 
 心の底から、本気で気分が悪くなった。もしそんな事になったら懐にしまい込んだ本物の毒物を……無いな、舌を噛み千切って死んでやる。
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