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EX1-10:大沢先生と変わり行く日常
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指揮官と名乗ったそれは、立体映像を遠目に展開して、僕と共に映画を見るような姿勢をとる。あまりにも舐め腐っている。だけれど僕は、どれだけ腹に据える物があっても捕らえられている以上は無力で、ただ。その映像を、音声を見て聞く事しかできない。
──系みんなが水の上を……きっと海である場所を移動している。
『本当に、海の向こうに元凶、お前たちが言う指揮官とやらが居るのだろうな!』
『あぁ、居るとも。保証する。何故ならば、私たちはそこから来たのだから。帰巣本能だよりではあるがな』
『気騒音のなら俺にもあるから、同族と同じ匂いを持つ君らのその発言は信用する。だが、そこに大沢先生がいる保証はないんだろ?」
『根拠はないけれど。指揮官のところに大沢先生がどこに居るかの情報はあるはずだから!』
……彼女たちの会話から察するに、僕は今、指揮官のいる場所。海の向こうのどこかに居るようだ。……知りたくなかったよそんなこと。状況的に僕はもう帰れないかもしれない。そうなると木下芳奈に怒られそうで嫌だ。
「さぁさぁ、かちあうぞ。始まりの時だ」
指揮官がそう言うと、彼女達が止まった。理由は目に見える。嫌でも目に入る。軍勢がいた。その誰もが武装しており、天城蜜柑の様に水面にに浮く者、宙を舞う者で構成された軍勢が居たんだ。
『やぁ、3人ともお帰り。ところで蜜柑よ海を走る感覚はどうだ? 君にはまともに走った記録何て刻まれていなかったと記憶しているが、新鮮に感じるだろう?』
『指揮官……お出迎えには少々人数が多すぎないでしょうか?』
天城蜜柑が言った事は聞き違いだろうか、僕の耳がおかしくなって居ないのならば映像の中で他が天城蜜柑のような武装をしている中でたった1人だけ全身メタリックな奴を指揮官と呼んだような気がする。じゃあ、僕の目の前に居る指揮官って呼ばれていたこいつなんだよ。
……いや、まて確かカジリカン人と名乗って居た筈だ。そしてウー・チーの発言を思い出せばカジリカン人とやらは高い技術を持っていてウー・チーの同族の細胞から人間を作ることが出来る。つまりは人間を作り出す技術がある事で……なるほど、どちらかの指揮官はクローンか、本人何所だよと新たな疑問が出たがひとまず自己解決した、
「壮観だろう? これが今、出動できる海軍部隊なのだよ。特にあの中での自慢は私が装備している海用スーツだ。
32時間もの潜水機能を搭載し。足裏から給水する事によってこと海上であれば永続的に射出し続けることが可能となって居るウォーターカッターと接近専用の超振動刀。そして背負っている2つの球体は60キログラム機雷として運用できるスーツのエネルギー源である小型原子力発電機。この世界の表に存在するもののみ再現し運用するという自信に貸せた制限を護りつつも、中々に凶悪な物が出来たと思うのだ。
遠くからは海であればどこでもウォーターカッター。
海の無いエリアまで誘い込まれてしまえば超振動刀。そして死なば諸共、切り札である機雷での自爆だ。
ゾクゾクしないか?この世界は先進国だろうが若き男は闘争心に溢れこのロマンを理解できるものが多いと聞く。どうだろうか? その様子だとそれどころではないか、うむ、残念だ」
この男は勘違いをして居る。世の中の闘いを望む平和ボケどもは自身に命の危機が無いという無意識の下にある大前提があるからこそ平然と闘争を娯楽として楽しめるのだ。本気っぽい状況でそんなものを見せられても恐ろしいだけだ。……少なくても、僕はそれなんだよ。
『それはそうだろう? 私は今この状況を、これから始まる戦いを。今までの戦友達の苦労と10はくだらない年月の準備が、何もかもが無意味となって徒労になっても構わないと思うほどに心躍らせ、楽しむつもりなのだから』
映像の中に居る指揮官がそう言って右腕を構えると。指揮官が何かをする前にウー・チーが袖をめくって赤い腕輪をさらけだす。瞬間、赤い腕輪は変形し鋭利な突起物となって指揮官に向かって突出する。それは指揮官にたどり着くまでに幾つも枝分かれして、指揮官の周囲を囲む配下たちを襲い、穿《うが》っていく。
『ふむ、我らが親愛なる怨敵、実りの民の男よ。擬人兵はいわば武装した強化人間なのだが、それを容易く貫くか。手がけた身としては少々気を落とすぞ?』
『多くの配下が死に絶えたというのにその態度。同胞が、友が、家族が爆散しようが拷問にかけられようが平然とするカジリカン人そのものだ。指揮官とやら、やはりお前はカジリカン人か! ここで打倒してやる』
色々と思いがあるのだろう険しい顔で睨みつけるウー・チーにとって大本命であっただろう指揮官に向けた攻撃は、指揮官を貫く事は無く、指揮官はとっさに両腕からブレード。先ほど聞いた超振動刀とやらだろうものを出現させて。それで防いでいた。
『全ての生命体にとって害でしかないお前の命を終わらせてやる』
ウー・チーがそれを感知して可腕輪を下の状態に戻して、そこから槍の形状へと変形。それを構えてヨットから飛び出し、徐々に沈みながらも海の上を水面に触れた途端に跳躍して、また触れては跳躍してを高速で繰り返し指揮官に襲い掛かる。
やっぱり普通の人間では無いなこいつ。
『ははは! 来い! 私は君とも戦いたい! さぁ、血肉舞い踊る戦いをしよう!』
指揮官は水面を抉り水柱を上げる勢いで放水し、ウー・チーの動きを読んで焦点を合わせ、結果として直撃。ウー・チーは膨大な水圧により弾き飛ばされるが、傷そのものは薄皮一枚切れただけの様で、すぐに体制を整えて、潜水、赤い突起物を複数伸ばして牽制しながら、再度攻撃を図る。
『生身の人間であれば当然、毛に絡まった土と、分厚い脂肪。二重の鎧を纏った猪であれば、今の1薙で参考書に乗せられると豪語できる程に見事な断面図が仕上がるというのに。流石だ実りの民よ』
ウォータカッターで迫り来る突起物をさばき、至近距離まで近づくにつれて腕輪の形状を再び槍にしたウー・チーを相手に、自身も潜水して超振動刀でさも当然のように弾き弾かれの競り合いの白兵戦はじめる。
この2人を前に呆然としている迷子3人組は悪くないと思う。水中で白兵戦を行う2人にどう割り込めと、どう支援しようというのだこんなの。
『指揮官!』
女の声と共に発砲音が聞こえる。すると、ウー・チーはとっさに戦闘をやめて、腕輪の槍を盾にしながら、槍越しに指揮官を蹴飛ばしてその勢いで離脱。ウー・チーがいた場所に弾雨が降った。場面が一転し映し出されたのは、女だ。
『指揮官! ご無事でしょうか?』
『おぉ、コレはコレは桜ちゃんじゃあ無いか。よく私の下まで来たな』
……この桜と呼ばれた女、どこかで見た様な……思い出した。見た様なもクソも何も無い。さっき目の前の指揮官に椅子を運んだ銀髪の女だ。
『はい、遅くなって申し訳ありません。……配下達は如何なさいましたか?』
『あぁ、とても残念なことに1人残らず海に沈んでしまったよ。そこに居る実りの民によってね』
『そんな、あの男が……』
桜とやらは怒りの表情をウー・チーに向ける。迷子3人組を見ているから違和感はなんら無いのだが。声色から考えて残念そうではあるが怒りも悲しみも感じてそうも無い指揮官とは仲間意識にずいぶん違いがある様に感じた。
『蜜柑、茶々。指揮官よりも大沢先生がいる場所を知っていそうな奴が来たぞ』
『えっと……わたし、この人に会ったこと無いよ?』
『茶々さんは気を失っていましたからね。ですから教えます。あの方は、私達を攻撃して大沢先生を連れて行った人なのでございます』
成る程、僕は桜って人に連れてこられたのか』
『そっかー……おい、そこの女の人! どうして大沢先生を攫ったんだ! 大沢先生はどこに居る!』
桜がどうしましょうかと言いたげな視線を送ると指揮官は愉快そうな声で『私が応えよう。安心したまえ、大沢先生は今、生きて牢に閉じ込められ、陸担当の私と共にこの状況を観賞しているとも。それは、文字を覚えた実りの民の男であれば察しがついているのでは無いかね? ……先程から君は私との会話をつなげようとしないことに残念な気持ちになるよ。では代弁してもらえなかったので代わりの代わり、従来通りに答えてあげよう。カジリカン人としての血が闘争を求めてしまったのだ。
現状のことは悦び、勢い余って果てようとしている最中とでも考えればいい』
……なぜわかり辛く、それでいて最低なシモの例えをすたのだろう。
『3人とも武器を構えろ、足手纏いになるかもと思ったのならせめて防護体制をとれ……自身の配下ですら戦う対象の様だ』
『……あ、あの指揮官。私たちは敵対するつもりは毛頭ありません。で、ですがどうにか大沢先生だけは安全を保障していただけませんでしょうか?』
『却下だ。この世界出身の彼を用いれば、多くの戦いの火種として使えるかもしれないからな』
『……ふぅー……わかりました。で、ではこうお持ちかけいたしましょう。指揮官、大沢先生を捕虜、もしくは生きた戦利品として扱うのはどうでしょうか』
……なんて事を言うんだと一瞬、そう思ったがすぐにそれが僕を生かしたいがための発言なんだろうかと思い直し。一瞬苛立った己自身を僕は恥じたくなった。
……何というかここまで擁護されると。同じタケノコを突いたあの日々が、劇的なものはなかったけれど、積み重ねによって彼女達の中……天城蜜柑の擁護しかわからないが、多分彼女達の中で確かな絆として育まれていたのだと思うと、何というか照れ臭く思う。
『今の状態が捕虜の様なものだ。却下。そして戦利品として扱うかどうかだが。標本などにするのではなく生きた戦利品としてか……蜜柑よ。君はきっと私にそれを提案したことを嘆くことになるぞ。そう、もう殺してやってあげてくださいと泣き崩れ懇願するほどに』
天城蜜柑は小さな声で「そんな」と零した。まぁ過ごした日々が決して長いわけではなかったのだから仕方がないけれど。僕は、もう苦しまない様にと自殺を図る人間性だぞ。そんな事態になることはないと思う。
『うむ。良い顔だ。思わず許可しようと言いたくなりそうだ。だが却下だ。
この戦いには戦利品は要らないからだ』
指揮官は敗北を確信している様だからな。戦利品はいらないよなそりゃあ。
『だから、諦めて私達と戦うことだな。愛しの愛しの鹵獲された我が兵器達よ』
『……ふー、わかりましたウーさん、イヴァンナ さん、茶々さん。先に行ってください。ウーさんは先ほどの様に倒せるなら桜さんをついでに倒していただきたく思います。私はせめて、海の敷居感をここに留めてみます』
イヴァンナ ・マハノヴァ、紅茶々、桜と言う名の女が何か言いたそうにするが、指揮官が腕を上げてそれを制止する。
『君にとって、それほどまでに充実した日々だったかな?』
『はい、申し訳ございません指揮官』
『そうか』
ウー・チーがトビウオの様に水面へと飛び上がりヨットに乗って移動を始める。
『桜、空の私と共に迎える準備をしてあげなさい。私は蜜柑との戦いを楽しむとしよう。何、終わり次第、合流するさ』
『……了解』
桜は一瞬、イヴァンナ ・マハノヴァ達を睨みつけた後。ウー・チーが盾として扱ったために、手元から離れ、水面に浮かぶ超振動刀に切り刻まれた赤い腕輪でできた槍が、枝分かれしながら伸び、桜を無数に貫こうとするが、桜はそれを翻って躱し、帰って行った。枝分かれした槍は躱されきるとその時点で諦めたのか、ウー・チーの手元にまで伸び出して、元の腕輪の形となる。
回避性能高いな……と言うか指揮官には空バージョンも居るのかよとゲッソリする。何人いるんだ。
『外したか! ちぃ、天城! ここは任せた! おい2人とも案内を頼む』
『……わかった。蜜柑。無理はするなよ』
『はい、と言いたく思いますし。私自身死にたくはありませんけれど。状況的に難しいですヴァーニャさん。ですから言うこと、今日は聞けません。
後で、私の言うことが聞けないのかと泣いて……いつもの少し面倒臭い所を見せてくださいね。
指揮官、行きますよ。私は未完成に終わった兵器。人としての形だからこそ肉弾戦が行えます。そんな指揮官でさえ、私でさえ情報も癖も知らない。想定外だらけの動きに翻弄して見せましょう』
天城蜜柑はそう言って。覚悟を決めた様に身構えた。
──系みんなが水の上を……きっと海である場所を移動している。
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『あぁ、居るとも。保証する。何故ならば、私たちはそこから来たのだから。帰巣本能だよりではあるがな』
『気騒音のなら俺にもあるから、同族と同じ匂いを持つ君らのその発言は信用する。だが、そこに大沢先生がいる保証はないんだろ?」
『根拠はないけれど。指揮官のところに大沢先生がどこに居るかの情報はあるはずだから!』
……彼女たちの会話から察するに、僕は今、指揮官のいる場所。海の向こうのどこかに居るようだ。……知りたくなかったよそんなこと。状況的に僕はもう帰れないかもしれない。そうなると木下芳奈に怒られそうで嫌だ。
「さぁさぁ、かちあうぞ。始まりの時だ」
指揮官がそう言うと、彼女達が止まった。理由は目に見える。嫌でも目に入る。軍勢がいた。その誰もが武装しており、天城蜜柑の様に水面にに浮く者、宙を舞う者で構成された軍勢が居たんだ。
『やぁ、3人ともお帰り。ところで蜜柑よ海を走る感覚はどうだ? 君にはまともに走った記録何て刻まれていなかったと記憶しているが、新鮮に感じるだろう?』
『指揮官……お出迎えには少々人数が多すぎないでしょうか?』
天城蜜柑が言った事は聞き違いだろうか、僕の耳がおかしくなって居ないのならば映像の中で他が天城蜜柑のような武装をしている中でたった1人だけ全身メタリックな奴を指揮官と呼んだような気がする。じゃあ、僕の目の前に居る指揮官って呼ばれていたこいつなんだよ。
……いや、まて確かカジリカン人と名乗って居た筈だ。そしてウー・チーの発言を思い出せばカジリカン人とやらは高い技術を持っていてウー・チーの同族の細胞から人間を作ることが出来る。つまりは人間を作り出す技術がある事で……なるほど、どちらかの指揮官はクローンか、本人何所だよと新たな疑問が出たがひとまず自己解決した、
「壮観だろう? これが今、出動できる海軍部隊なのだよ。特にあの中での自慢は私が装備している海用スーツだ。
32時間もの潜水機能を搭載し。足裏から給水する事によってこと海上であれば永続的に射出し続けることが可能となって居るウォーターカッターと接近専用の超振動刀。そして背負っている2つの球体は60キログラム機雷として運用できるスーツのエネルギー源である小型原子力発電機。この世界の表に存在するもののみ再現し運用するという自信に貸せた制限を護りつつも、中々に凶悪な物が出来たと思うのだ。
遠くからは海であればどこでもウォーターカッター。
海の無いエリアまで誘い込まれてしまえば超振動刀。そして死なば諸共、切り札である機雷での自爆だ。
ゾクゾクしないか?この世界は先進国だろうが若き男は闘争心に溢れこのロマンを理解できるものが多いと聞く。どうだろうか? その様子だとそれどころではないか、うむ、残念だ」
この男は勘違いをして居る。世の中の闘いを望む平和ボケどもは自身に命の危機が無いという無意識の下にある大前提があるからこそ平然と闘争を娯楽として楽しめるのだ。本気っぽい状況でそんなものを見せられても恐ろしいだけだ。……少なくても、僕はそれなんだよ。
『それはそうだろう? 私は今この状況を、これから始まる戦いを。今までの戦友達の苦労と10はくだらない年月の準備が、何もかもが無意味となって徒労になっても構わないと思うほどに心躍らせ、楽しむつもりなのだから』
映像の中に居る指揮官がそう言って右腕を構えると。指揮官が何かをする前にウー・チーが袖をめくって赤い腕輪をさらけだす。瞬間、赤い腕輪は変形し鋭利な突起物となって指揮官に向かって突出する。それは指揮官にたどり着くまでに幾つも枝分かれして、指揮官の周囲を囲む配下たちを襲い、穿《うが》っていく。
『ふむ、我らが親愛なる怨敵、実りの民の男よ。擬人兵はいわば武装した強化人間なのだが、それを容易く貫くか。手がけた身としては少々気を落とすぞ?』
『多くの配下が死に絶えたというのにその態度。同胞が、友が、家族が爆散しようが拷問にかけられようが平然とするカジリカン人そのものだ。指揮官とやら、やはりお前はカジリカン人か! ここで打倒してやる』
色々と思いがあるのだろう険しい顔で睨みつけるウー・チーにとって大本命であっただろう指揮官に向けた攻撃は、指揮官を貫く事は無く、指揮官はとっさに両腕からブレード。先ほど聞いた超振動刀とやらだろうものを出現させて。それで防いでいた。
『全ての生命体にとって害でしかないお前の命を終わらせてやる』
ウー・チーがそれを感知して可腕輪を下の状態に戻して、そこから槍の形状へと変形。それを構えてヨットから飛び出し、徐々に沈みながらも海の上を水面に触れた途端に跳躍して、また触れては跳躍してを高速で繰り返し指揮官に襲い掛かる。
やっぱり普通の人間では無いなこいつ。
『ははは! 来い! 私は君とも戦いたい! さぁ、血肉舞い踊る戦いをしよう!』
指揮官は水面を抉り水柱を上げる勢いで放水し、ウー・チーの動きを読んで焦点を合わせ、結果として直撃。ウー・チーは膨大な水圧により弾き飛ばされるが、傷そのものは薄皮一枚切れただけの様で、すぐに体制を整えて、潜水、赤い突起物を複数伸ばして牽制しながら、再度攻撃を図る。
『生身の人間であれば当然、毛に絡まった土と、分厚い脂肪。二重の鎧を纏った猪であれば、今の1薙で参考書に乗せられると豪語できる程に見事な断面図が仕上がるというのに。流石だ実りの民よ』
ウォータカッターで迫り来る突起物をさばき、至近距離まで近づくにつれて腕輪の形状を再び槍にしたウー・チーを相手に、自身も潜水して超振動刀でさも当然のように弾き弾かれの競り合いの白兵戦はじめる。
この2人を前に呆然としている迷子3人組は悪くないと思う。水中で白兵戦を行う2人にどう割り込めと、どう支援しようというのだこんなの。
『指揮官!』
女の声と共に発砲音が聞こえる。すると、ウー・チーはとっさに戦闘をやめて、腕輪の槍を盾にしながら、槍越しに指揮官を蹴飛ばしてその勢いで離脱。ウー・チーがいた場所に弾雨が降った。場面が一転し映し出されたのは、女だ。
『指揮官! ご無事でしょうか?』
『おぉ、コレはコレは桜ちゃんじゃあ無いか。よく私の下まで来たな』
……この桜と呼ばれた女、どこかで見た様な……思い出した。見た様なもクソも何も無い。さっき目の前の指揮官に椅子を運んだ銀髪の女だ。
『はい、遅くなって申し訳ありません。……配下達は如何なさいましたか?』
『あぁ、とても残念なことに1人残らず海に沈んでしまったよ。そこに居る実りの民によってね』
『そんな、あの男が……』
桜とやらは怒りの表情をウー・チーに向ける。迷子3人組を見ているから違和感はなんら無いのだが。声色から考えて残念そうではあるが怒りも悲しみも感じてそうも無い指揮官とは仲間意識にずいぶん違いがある様に感じた。
『蜜柑、茶々。指揮官よりも大沢先生がいる場所を知っていそうな奴が来たぞ』
『えっと……わたし、この人に会ったこと無いよ?』
『茶々さんは気を失っていましたからね。ですから教えます。あの方は、私達を攻撃して大沢先生を連れて行った人なのでございます』
成る程、僕は桜って人に連れてこられたのか』
『そっかー……おい、そこの女の人! どうして大沢先生を攫ったんだ! 大沢先生はどこに居る!』
桜がどうしましょうかと言いたげな視線を送ると指揮官は愉快そうな声で『私が応えよう。安心したまえ、大沢先生は今、生きて牢に閉じ込められ、陸担当の私と共にこの状況を観賞しているとも。それは、文字を覚えた実りの民の男であれば察しがついているのでは無いかね? ……先程から君は私との会話をつなげようとしないことに残念な気持ちになるよ。では代弁してもらえなかったので代わりの代わり、従来通りに答えてあげよう。カジリカン人としての血が闘争を求めてしまったのだ。
現状のことは悦び、勢い余って果てようとしている最中とでも考えればいい』
……なぜわかり辛く、それでいて最低なシモの例えをすたのだろう。
『3人とも武器を構えろ、足手纏いになるかもと思ったのならせめて防護体制をとれ……自身の配下ですら戦う対象の様だ』
『……あ、あの指揮官。私たちは敵対するつもりは毛頭ありません。で、ですがどうにか大沢先生だけは安全を保障していただけませんでしょうか?』
『却下だ。この世界出身の彼を用いれば、多くの戦いの火種として使えるかもしれないからな』
『……ふぅー……わかりました。で、ではこうお持ちかけいたしましょう。指揮官、大沢先生を捕虜、もしくは生きた戦利品として扱うのはどうでしょうか』
……なんて事を言うんだと一瞬、そう思ったがすぐにそれが僕を生かしたいがための発言なんだろうかと思い直し。一瞬苛立った己自身を僕は恥じたくなった。
……何というかここまで擁護されると。同じタケノコを突いたあの日々が、劇的なものはなかったけれど、積み重ねによって彼女達の中……天城蜜柑の擁護しかわからないが、多分彼女達の中で確かな絆として育まれていたのだと思うと、何というか照れ臭く思う。
『今の状態が捕虜の様なものだ。却下。そして戦利品として扱うかどうかだが。標本などにするのではなく生きた戦利品としてか……蜜柑よ。君はきっと私にそれを提案したことを嘆くことになるぞ。そう、もう殺してやってあげてくださいと泣き崩れ懇願するほどに』
天城蜜柑は小さな声で「そんな」と零した。まぁ過ごした日々が決して長いわけではなかったのだから仕方がないけれど。僕は、もう苦しまない様にと自殺を図る人間性だぞ。そんな事態になることはないと思う。
『うむ。良い顔だ。思わず許可しようと言いたくなりそうだ。だが却下だ。
この戦いには戦利品は要らないからだ』
指揮官は敗北を確信している様だからな。戦利品はいらないよなそりゃあ。
『だから、諦めて私達と戦うことだな。愛しの愛しの鹵獲された我が兵器達よ』
『……ふー、わかりましたウーさん、イヴァンナ さん、茶々さん。先に行ってください。ウーさんは先ほどの様に倒せるなら桜さんをついでに倒していただきたく思います。私はせめて、海の敷居感をここに留めてみます』
イヴァンナ ・マハノヴァ、紅茶々、桜と言う名の女が何か言いたそうにするが、指揮官が腕を上げてそれを制止する。
『君にとって、それほどまでに充実した日々だったかな?』
『はい、申し訳ございません指揮官』
『そうか』
ウー・チーがトビウオの様に水面へと飛び上がりヨットに乗って移動を始める。
『桜、空の私と共に迎える準備をしてあげなさい。私は蜜柑との戦いを楽しむとしよう。何、終わり次第、合流するさ』
『……了解』
桜は一瞬、イヴァンナ ・マハノヴァ達を睨みつけた後。ウー・チーが盾として扱ったために、手元から離れ、水面に浮かぶ超振動刀に切り刻まれた赤い腕輪でできた槍が、枝分かれしながら伸び、桜を無数に貫こうとするが、桜はそれを翻って躱し、帰って行った。枝分かれした槍は躱されきるとその時点で諦めたのか、ウー・チーの手元にまで伸び出して、元の腕輪の形となる。
回避性能高いな……と言うか指揮官には空バージョンも居るのかよとゲッソリする。何人いるんだ。
『外したか! ちぃ、天城! ここは任せた! おい2人とも案内を頼む』
『……わかった。蜜柑。無理はするなよ』
『はい、と言いたく思いますし。私自身死にたくはありませんけれど。状況的に難しいですヴァーニャさん。ですから言うこと、今日は聞けません。
後で、私の言うことが聞けないのかと泣いて……いつもの少し面倒臭い所を見せてくださいね。
指揮官、行きますよ。私は未完成に終わった兵器。人としての形だからこそ肉弾戦が行えます。そんな指揮官でさえ、私でさえ情報も癖も知らない。想定外だらけの動きに翻弄して見せましょう』
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