自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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7-2:治すための旅へ

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「ふぅ……ご馳走さん」
 
 ほんの少し、ほんの微かにだけ質が上がった小麦粉の塊を温めてヤケクソトマトスープにしたトマトジュースで流し込む。
 腹持ちは良いけれど、栄養価は悲しい事になっているんだよなぁ小麦粉の塊。食事を疎かにしていると母役になってくれた屋宮亜里沙や師匠達に小言を言われてしまいそうだな。何て思いながら少女と関わる。
 
「ま、毎度ありがとうございます」
 
 怖いのだろう、不思議なのだろう、不気味なのだろう、不安なのだろう。およそプラスの感情が宿っているとは思えない震えた視線を送ってくる。
 ふと、元妹の朽無幸を安心させる時の癖で撫でそうになったり、屋宮亜里沙の影響で抱擁ほうようしそうになったけれど。自重する。天月博人は彼女とは商人と顧客の関係でしか無い初戦は他人の関係、弁えるべきだ。
 
「律儀に来てくれてありがたい限りだ。腹を満たすのに丁度いいしお金の無いジブンにとって財布に優しいからな。
 明日も来るといい、また買ってあげる」
 
 他人であればあからさまに取り入ろう何て行動はしない方がいいだろう。軽い商人と顧客のやり取りだけして天月博人はその場を去った。

「兵器擬人の討伐が終わるまでに救えると良いんだがなぁ」
『難しいかもねぇ。
 あんまり島を空けるのはダメだから、それすなわちここに長居できないってことだからね。商人とお客様の関係から仲を深めて問題を聞き出すって方法は気が長いかな』

 首にぶら下げたゴーグル型携帯端末とやり取りをする。それのカモフラージュに日本群島の百均で購入したイヤホンマイクを身に着ける。最近の世の中はこれを身に着けているだけで独り言を口にしていてもなんだかんだ納得できるのだ。はたから見ると怖いがな。

「だけれど他に方法がなぁ、ジブンの結構足りてない頭では思いつかないな」
『それに他にもやる事が多いし、そもそもの話、その他の事はあの子よりも事の重要度が高いからいざってなったら切り捨てるしかないかなぁ。それとヒロ、誠子さんの自虐癖がうつっているんだよ』

 (相変わらずニコはジブンとその身内みたいな仲間以外にはドライだなぁ)なんて思いながら、
 情報収集に行動を移す。ニコにネットの深海に潜って貰い、その間、天月博人は人通りがありそうな裏道、路地裏にある何かしらの店を探す。

(酒場を見つけてマスターに聞き出そうにもお金が足りんな……本場だしロシアンルーレットでもやってお金稼ぐか……ジブン生き返るから無限に稼げるな……一考の余地があるんじゃないかこれ? あの子の問題が解決したらやってみよう)
 自信に何かしら良い感情を持っている人々に怒られそうな発想を展開させながら、探し続けていると。ふと、肩を叩かれたのだった。
 

 翌日、少女が手袋をした左小指の無い男達に絡まれた。やれ最近、俺の縄張りで勝手に商売してんだとかそんな感じで絡まれていた。
 
「あのー、退いてもらえませんかね? クッキーを買いたいんですけど」
 
 そんな中に天月博人が割り込む。
 そこから所謂いわゆる肉体言語を用いた話し合いに発展するために路地裏へと少女とともに連れ込まれその後、少女の目をつむり。
 耳を塞いで恐怖に耐えているのを横目にしながら、天月博人の戦闘経験、花の髪留めによって向上した身体能力、天月口也に与えられた加速能力の一端を用いて男たちを返り討ちにした。
 最後に意識があった男が目で「ここまでやるなんて聞いてない」と訴えかけるが天月博人は「そもそも手を出したのが間違いだったな」と口にして気を失うまで踏みつけて終わる。

 正直に言ってコレはマッチポンプだ。
 昨日、アジア人だな? と声をかけられ、ここら見かけない顔との事で旅行客だと思われていた様でカツアゲされそうになったところを返り討ちにした。
 その後、持ち物から住所を特定して、財産を奪おうとしたのだからと財産を奪おうとしていたところを、カツアゲ男が繋がっていた男達を家に召集、ただの人間に負けるものかとコレを返り討ちにし、全員縛って財力を奪い財産を奪う範囲を拡大。
 怒り狂う男達からリーダー格が居ると聞いたので下の教育が悪いから同罪と見て会いに行き部下共々のして、小指をへし折り捻って千切っていると、ふとマッチポンプをしたら少女から信頼を得られるのでは? とそう思い至った。
 思い至ったが吉日、男達に協力を要請、どこか歯切れが悪かったので、最初にカツアゲに来た男の実家を他の男達から聞き出し、実家の親を子供の教育を誤り、道を修正できなかった者として拷問にかけ、氷柱で処理してからカツアゲ男を処理した。
 次はアンタらの番だなと言うと、彼らは快く今回の件で協力してくれると言った。
 そして現在、のされた男達は、育てた親の後に処理される運命にある。
 天月博人には悪人としか認識されていないがために、天月博人は鏡の如く彼らにとっての悪人となるのだ。
 
「と、とても強いんですね」
「いつか気が向いた時に本でも読んでみるといい。
 怪し気な中国人とか普通にこんな事するから」
 
 複数人のいかつい男を相手にできる強さの人は、造作物だけの話と言われたらおしまいかも知れないが、いかんせんこの世界だ。探せば中国人に限らず絶対にいる。と言うか異能力なしで師匠達が天月博人の中でその筆頭である。
 
「ところでクッキーを売ってくれ。ゾブンは元々クッキーを買いに来たんだ」
「あっ、はい。ど、どうぞ。今日は、お、お金は大丈夫です。助けていただいたお礼です」
 
「……折角の好意だ。ありがたく頂くとしよう」
 
 小麦粉の塊を頬張る。今日のは昨日よりもまた一段とマシになった気がする。

「うん、一昨日に比べたら見違えるくらい食えるクッキーになってる。
 これは変える頃には最高級クッキーにも勝るとも劣らない腕前になってそうだ」

 言い過ぎだろうか、いや、子供が何かを成したなら過剰に褒める位が丁度いと思うから、そうでもないだろうか。

「それじゃあ、また明日頼むよ。でも気を付けなよ? 今日みたいに変なのに絡まれるかもだからね」

 コーンスープを飲んで小麦粉の塊を流し込み、そして今日も普段通りに少女に別れを告げてその場を去った。
 その後、のめした男たちを親共々吹雪の中に投入、それに紛れて銃を持ったターゲットの兵器擬人と思わしき男たちを処理、その後投入した生き残りを処理し大本の目的が完了した。

「あれ? 行けると思ったら行けた……現地の仲間と交代して見張って頑張った兵糧攻めが効いたのか動きが鈍かったし……終わった……えー、帰るのはまだ早いよなぁ……うん、死体処理の手伝いをしてるってことでここは1つ」
『はぁ、突発的に実行するの止めようよ。今回協力してくれた海豹アザラシ猟師の人も怒ってたじゃん、予定が崩れたーって。……それであの人たちから奪った財産はどうするの?』

「その辺は詳しい琉衣子さんに渡して、出どころが分からない様に綺麗なお金にしてもらう。綺麗にする際に6割位は使う事に成るらしいから残りは4割のこって、その内の1割を手数料で琉衣子さんへ、残った3割が手元に来るけどその時はまだルーブルだから、日本円に両替にする際にもうちょっと減るかな。本当、財布がちょっと潤ったくらいの稼ぎだなぁ。お金が足りない」

 悪人を財布になりえる使い捨ての道具としてしか見ていないレジスタンスのリーダーとその補佐であった。天月博人がここまで悪人に非常なのは敵意があれば倒せ、禍根かこんが残らない様に縁深い者たちもだという。ニコと中田文兵の思考が天月博人にうつったのだろうか。であれば、かろうじて後々禍根になりそうな子供がいた場合、施設送りにするのは楽善二治の影響だろう。

「何はともあれ、今は情報収集だ」
『ニコ的にはあんまり無理しないでほしいんだけど。止めるつもりないだろうからサポートするんだよ』

 とりあえずロシア残留中は、善人、もしくは無垢だと認識うつしている少女を含めての情報収集に専念する事に成る。
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