自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

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7-9:治すための旅へ

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 天月博人は、中田文兵から折り返しの連絡が来るまでの間。
 目に付いた困っている様子である、自身より少し年上に見える女性に声をかける。
 片言であるせいか、驚かれた。
 困っている様子だから力になりたいのだという旨を伝えると女は、少し警戒した様子を見せながら2人の姉を探しているのだと教えてくれた。女から探している人物の特徴を聞きだす。

 1人目の姉、子供の様に背が低く腰までストレートに伸びた白髪、灰色の目をした女性。そのファーストネームは【ポーレット】。
 イギリスの姉という立ち位置の人間は皆、背が低いのだろうか? いや、偶然だろう。
 2人目の姉、ポーレットとは違って背が高く、フンワリとウェーブのかかった髪は肩まで伸びている。眠たげな目をしていて、唯一働いているそうだ。ファーストネームは【ミランダ】。

 身体的特徴を聞き出し、どうなってんだDNAと言いたくなるけれど。孤児出身など、あまり人に痛くない事情があるかも知れ得ないので、それ以上は踏み込まない事にした。

「では手分けして探しましょう、3時間毎にここで集合しましょう」

 特徴を聞き出したので、効率化のためにある程度のルールを示し、行動に移そうとしたところ。裾を掴まれる。

「一緒に探すって言ったのに、なんで離れようとするの?」

 女の唐突な言い分に「えっ……」と声が漏れて、状況を確認する。
 姉を探すと言った時、何かしらの言い方を間違えて、一緒に探すを誤解したのだろうか? いや、ちがう。女の不安そうな目を見れば分かる。この女、寂しいと死にそうになる女だ。
 一昔前にあったウサギのイメージの権化ごんげか何かなのだろうか。ナカタニさんが来る前にと片付けたいので、あんまり時間を使う手段は取りたく無い天月博人は、しばらく悩んだ末に女の寂しがり屋な一面を受け入れ、共に行動することになる。

「私はアンナ、【アンナ・レイン】だよ」と女は名乗り、それに倣うように天月博人も自己紹介を返す。
 ところで先程聞いたお姉様なる2人が、アンナ・レインの確かな家族関係者であるのなら、2人の姓も【レイン】なのだろうか。
 気になったので聞いてみると、姉2人も【レイン】なのだと言う。
 
「有難うね一緒に探してくれて。私、ちょっと抜けてるみたいなんだぁ」
 
 アンナ・レインは自嘲じちょうする様に笑ってそう言った。
 成る程、抜けて居るからこんな所を彷徨っていたのかと思いつつ、あまり傷つけない様に適当な反応を返そうとすると、アンナはふと足を止めた。
 アンナ・レインが足を止めた理由、それは物欲しげな視線を辿れば明白で、そこには飲食店があった。天月博人が飲食店を認識したと同時にアンナ・レインの腹の虫が鳴き声をあげる。
 
「……先に食事にします?」
 
 気を使ってそう提案するが、グッと堪えた様な表情で首を横に振られて却下される。
 
「ミランダお姉様のバイト先で、食事をする予定なんだ。だからミランダお姉様に悪いから御飯はまだ食べられないの」
 
 成る程、それならば他所での食事は間食程度であろうと控えたいだろう。
 それならしょうがないなと納得しかけた所で、ふと(行く所を携帯端末のマップツールとかで検索したら良いじゃん……)と引っかかった。
 
「あの、店を検索したらどこに行けば良いのかわかるのでは?」
「えっ、……あーそうだね、あははは。携帯端末とかでね、検索? をチョッチョイって感じでね。やれば場所がわかるんだね。凄いね現代。うん」

「……もしかして、携帯端末を持ってないんですか?」
 
 アンナ・レインが「そうなんだぁ」と答える。
 答えを聞いた天月博人は、首にぶら下げたゴーグル型携帯端末のレンズを覗き込んで、宙でキーボードを打ち、携帯端末普及率も低くは無いことを確認する。
 すると自ずと目の前の女性は、何かしらの連絡事項を携帯端末を所持して居ること前提としつつあるこの携帯未所持者切り捨て社会で、今時珍しいかもしれない、若者なのに携帯を持っていない人となる。
 
「そう、ですか……」
「うん、ミランダお姉様が、家にはお金が無いし、買っても壊すだろうから私にはまだ早いって言うんだ」
 
 一昔前のウサギの様な性質のアンナ・レインは、一昔前の携帯端末や携帯ゲーム機を子供に与えたがらない親の様な理由で与えられていない様だ。

「酷いよねぇ。私はもう子供じゃ無いのに。
 でもね、それは私を思って言ってる事だからやっぱりミランダお姉様は優しいって思っちゃうんだぁ」
 
 だけれどアンナ・レインはそれ程、不満を持っていないようだ。寧ろ、姉のミランダ・レインの意思を汲み取って、好感を持って居るまである。
 
「あぁ、言ってたら会いたくなちゃった。うぅ、どうしよう……あっ、そうだ。
 ヒロトは携帯端末持ってるの? 持ってたらこう、ポチポチってやって欲しいんだ」
 
 提案した以上、できると思われるのは当然のことだろう。
 だが天月博人の携帯端末はゴーグル型である。これは見られても最新盤のモニターをやって居るんだとほざけば何とかなる代物だろうか。いや、私もモニターやりたいと言われたら積む。
 ではどうしたら良いのだろうか。ヤケクソではあるが簡単だ。アンナ・レインに気がつかれない様にヒソヒソ声で「言われた所を検索してくれ」とニコに頼み。画面に『OK』と文字が見えたら、アンナ・レインに「では検索するので店名、もしくはどんな店なのかを教えてください」と尋ねる。
 そして、返答された要素からニコに場所を割り出してもらい、まるで自身が元々知っていた店だと偶然を装って言い張ればいい。
 
「えっとねー。確か女性の召し使いって感じの服で~?」
「はいわかりました。検索しなくても場所を知ってますから案内しますよ」
 
 コソコソと対策を取っていたのに、本当に知って居る店で無駄にならなければこれでいけたのだ。
 天月博人は心の中で思う、世界を半ば旅行をしている様な状態で思う。(世界狭いなぁ)と。
 
 
 
  メイド喫茶、日を跨がないままに2度も訪れるとは思わなかった場所である。そこにアンナ・レインを案内すると。アンナ・レインは店内を覗きこみ、1人メイド、先ほど聴いたミランダ・レインの特長と合致している女性をみつけると。「ここだ!」と言って、女性に駆け寄る。親を見付けた子供の様で何処か微笑ましい。

「おっと、やっと来たねアンナ。どこ行ってたの? 心配したんだよ?」
「あのねあのねお姉様……えーと……ポーレットお姉様と店に向かってたら。良い匂いがお店屋さんから漂って来てね……お腹が空いてたからつい……」

「うん、余所見しちゃって地図を持ってるポーレット姉様と逸れちゃった訳なんだね。それで、一緒に来た男の人に案内して貰ったって所なのかな。事情は分かったよ。お腹がすいたでしょ? 奥の席でポーレット姉様がまってるから。行きなさい。案内してくれた人も……うん、御礼としては些細ですけれど食事を一緒にしませんか? ここ特製の蒼いバタフライケーキや、ホワイトプディングが美味しいですよ」

 交代したばかりなのだろうか、天月博人がつい数時間前にここで食事をした事に一切触れられないまま、ミランダ・レインが食事に誘ってくる。
 割とそう大したことをしたわけでは無い気がするが、相手が恩を感じ、それを返そうとして居るのに突っぱねるのは、相手に消化不良な思いをさせるのでは無いかと思い至った。
 
「では遠慮なく」
 
 前回はホワイトプディングを食べたから、今回は青いバタフライケーキを食べようと食事をすると決めたら何を注文するかを即座に心に決めながら、案内された席に座る。
 
「ミランダに案内されたと言うことは……アンタがアンナが言ってた。店まで案内してくれた良い人かい?」
 
 お腹が減り過ぎてなのか、飲食店の献立表を今にもかぶりつきそうな剣幕で覗き込んでいるアンナ・レインの隣に、天月博人の元妹、朽無幸よりも背が低い様に見受けられる白髪で長髪の透き通る様な灰色の目を持つ少女が、そう言った。
 
「良い人かと自分で言うのはちょっと変な感じですけれど。そう、なります」
「そうかい。なら、アンナを見つけてくれて私からも感謝を言わせておくれ。有難うね」
 
「いえいえ」
 
 ここまで感謝されると少しくすぐったく思う。
 
「好きなものを頼むと良いさね。星を見るパイとか如何か?」
「見た目からして忌避感を煽るものは好奇心に負けた時にでも。ジブンは青いバタフライケーキを頂きたく」
 
「そうかい、これで貸し借りは無しさね。ほれほれ座って注文しなさいな」
 
 後腐れが無いよう好意のままに席に座って注文をする。
 何か話題があるわけでも無く、のほほんとして居ると。「決めた!」とアンナ・レインが顔を上げ「あれ? ヒロトが何で居るの?」と驚かれポーレット・レインに「今日は抜け過ぎさね」と笑われていた。
 
 料理が運ばれ。割とガッツリしたローストビーフを食べるアンナ・レインを、既に先にスコーンをすでに食べ終えていたポーレット・レインはミルクをチビチビ飲んで癒される様に膝をついて眺めて居る。
 
「……んっ? ポーレットお姉様、私を見てどうしたの? なんかついてる?」
「ヒヒ、付いとる付いとる。口にソースと肉の油がたんまりと付いとるさね。ほれ顔を向けなさい。拭いてやるからねぇ」
 
「んっ。アハハありがと」
 
 この姉妹はきっと仲がいい。
 バタフライケーキを食べている天月博人が本気で(ジブンがこの場にいるのはダメなのでは? ジブンはとっとと首吊って存在を抹消したほうがいいくらいに邪魔では? それにしてもこの青いバタフライケーキいいな。ケーキは着色料に蝶豆バタフライピーと言うものを使用していて味に余計な変化はさせずメインであるミントの味のクリームを邪魔をしない。中々に嫌いではない味である(と心にひどく影響するくらいには、仲の良さを感じられる。
 
(あっ、どうヒロトー。ミランダお姉様もだけど、ポーレットお姉様もね優しいんだぁ。たまに煩いけど」
「煩いとは何だ煩いとは」
「ははは、仲がいいですね本当に」
 
 天月博人的には家族だけの空間で居たらいいものの、アンナ・レインはミランダ・レインを褒めておいてポーレット・レインを褒めていないのを思い出した様に仲良しである事を主張し始める。
 
「小さくて可愛くてー、何をやっても背伸びしてる子供みたいでー」
「私はね、ここで姉妹喧嘩するつもりはないんだよ? 褒めてるつもりだろうけど天然で煽るのはやめておくれ。どう怒ればいいのかわからんさね」
 
 心が温まる感覚がする。家族側気合いする光景が天月博人の降格を緩ませる。

(俺も、家族とこうありたかったなぁ)
 
 少しだけ心が締め付けられる。天月博人には最早、ありえない光景だからだ。
 
 
 ふと、首にぶら下げたゴーグル型携帯端末が静かに振動する。
 覗き込むと『データベースに一致あり。ロロ=イアイギリス支部所属のキョウダイ3G_3Bs_6、2J_2Bs_18、1C_1Bs_113。上からポーレット・レイン、ミランダ・レイン、アンナ・レインと記録された身体的特徴、全一致。違ってても念のため逃げて』と文字が浮かんでいた。
「えっ」と声が漏れた次の瞬間、後頭部に電流が走り、天月博人は意識を失った。
 
 
 
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