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EX2-2 ピーちゃんと居なくなった人達
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学校に登校すると。昨日、もう帰ってこれないんだとか言っていた男子生徒が登校していなかった。
先生曰く、猫ちゃん達を探しに行くことにした猫ちゃん達の親御さんと、何人かの警察に同行して。みんなで居なくなったらしい。
絶対に北の通りなんて行かないって。私は心に誓った。
だけれど、ほかの人たちはそうでもない様で、日に日に人がいなくなって行く。男子生徒と同じ野球部である男子が「あいつにいなくなられたら困るんだよ。あいつ以外誰が俺のバッテリーをやるんだ?」何て言って明日には消えた。
「おいおい神隠しってマジな話かよ」なんて言っていた授業中に煩い男子が中心の、頭に脳みその代わりにゴキブリ詰まっていそうな男女混合パリーピーポーなグループが消えた。
数人の先生と担任が消えた。学校に来る意味が消失して、学校に来なくなる人たちが増えていく。
人が消えていく日常の中で私は、いつしかクマジロウを抱えて過ごす様になった。
「……私たち、だけになっちゃったね。この学校に来るの」
「うん……」
私はクマジロウを強く抱きしめて、震える。
私しかいない家にいるのも辛いから、何と無くで学校に来ていたけれど、もう登校するのをやめようかなと思ってしまうほどに怖い。
「……シャーちゃんって。今、えーと、ちょっと聞き辛いけど、市営住宅でお兄さんがいなくなったから実質1人暮らしだよね?」
「えっ……う、うん。そうだけど……何?」
「なーんかさ。最近変なことが立て続けに起きてるし。ちょっと怖いから私が住んでる寮に泊まりに来て欲しいなーなんて」
チラリと、彼女は許可を求める様に私を見た。私は戸惑い、「えーと」なんて言いながらクマジロウと目を合わせて(どうしよう)なんて1人会議を行う。
本当なら迷いなくその提案を飲むと思う。
だけれど私は、彼女が何処と無く怖いのだ。
即断即決は難しい。
「……ピーちゃん?」
返事の遅い私に、彼女はしびれを切らしたのか私の顔を覗き込んでくる。大きな瞳が怖くて「ご、ごめん! 家で何かやり残しなかったかなって。残ってなかったら問題ないから遠慮なく行こうかなーなんて考えてたり……」と、咄嗟に言い訳まがいの事を言ってしまう。
……お腹が痛くなってくる。
「家での用事ー? なら私、手伝うよー? バリバリ手伝っちゃう。思い至ったら善は急げなんて言葉もあって、今日はどうせ授業もない。だからもう帰っちゃおうか」
「帰るのは賛成だけど。手伝ってもらうのは悪いよー」
「えー良いじゃん」なんて彼女は言うけれど。やっぱり無理。怖いから。……お腹が痛い。
「ご、ごめん。
ちょっとお手洗い行ってくるね」
逃げるように、私が教室を出ようとすると彼女は、私の手を掴んで止める。背筋に寒気が走る。
「私も、ついて行こっか?」
「大丈夫だよ。すぐに済むって」
「そう? 行っちゃった。抱えられるくらいの人形持ってお手洗いってどうすんのよ
私はそう言って、彼女から逃げる様に離れた。……本当に逃げるなんて事はしない。流石に可哀想だと思うから。でも、落ち着くための時間がほしくて、私は彼女から離れたのだ。
コツリ、コツリと廊下に私の足音が響く。私がやって来たことでセンサーが反応して先が暗い廊下を照らして行く。
閉じこもりたい、この状況がとても恐い。
トイレに行こう、トイレで落ち着くまで引き籠ろう。私はそう思って宣言通りお手洗いに向かっていると、ふと、廊下を明るくする照明の具合が悪くなっているのか薄暗くなり明滅している事に気がついた。
息を飲む、教室に戻ろうかと考え怖気づいて、踵を返そうとコツンと靴を鳴らす。すると少し遅れてコツンと足音が聞こえた。
何かがいる。そう思って怖くなり。私は振り向けなくなって、そっと足を戻す。
「誰かいるの? ……シャーちゃん?」
返事はなく、コツンと足音が近寄る。
「な、何なの? ねぇ、何が面白くてそんなことするの?」
コツンと足音が近づく。
「ど、ドッキリ……とか? だったら成功だからさ……やめてよ」
コツンと、足音が真後ろから聞こえた。……今、何かが後ろに居る。
「な、何してほしいの?」
足が動かない、体が震える。それでも、無理やり言葉を吐き出して、今にもこぼれ落ちそうな勇気を何に使うかを探る。
すると嫌に聞き覚えのある声で「話すときはせめて向き合えってお兄ちゃんに言われてたよね?」と、親に言われたと言うのならまだしも、まるで私にピンポイントで兄貴がいることを知っているようなことを呟いた。
その発言で、私の感情は恐怖からなんでわかるの? と言う疑問に塗りつぶされて、振り返る。するとそこには。笑みを浮かべる私がいた。
……正確に言ってしまえば目の前にいる彼女は、どこか、面影を感じるとかそんな位に私に似ているだけで、私よりも不健康に細く、青白く、そして私と違って左目の下に泣き|黒子があった。けれど私には彼女が、反転する鏡に映った私よりも精巧に私を映し出しているように見えて、思わず息をのむ。
彼女は不気味に歯の隙間から「シーーー」と空気を吹き出すように笑う。
不気味に笑って不器用な喋りで「ここから出ていけ、この区画から出ていけ。
出ていかないなら……シーーー、私は、お前が大っ嫌いだから。嫌なことしてあげる」と言って、指を私に、と言うよりもその後ろに向けて指す。するとゆっくりと証明が消えて、窓から漏れる太陽光だけが廊下を照らす。
学校内から、人が作り出した明かりが消えていくと、私と……現状は私に似た彼女、シャーちゃんぐらいしかいないはずの校舎内から全体に響き渡る放送の様に「鬼ごっこする人この指とーまれ。
はーやくしないと指切っちゃうぞー、指に止まらない人しーらんべ」と少年の声が聞こえる。
その少年の声に集まるように「鬼ごっこやる!」と賛同する子供たちの声がざわめき始める。
恐怖がぶり返して、どこから聞こえるのだろうと周りを見ると、先ほどまで目の前にいたはずの私に似た彼女は視界を外した瞬間にはいなくなっていて。ある程度数が集まったのだろうか「鬼ごっこはーじーめ」と声が上がる。
とバタバタバタバタ、小学校の時によく聞くようなイメージがある。いくら注意されて求めるつもりがないような廊下をかける靴音が、上の階、下の階から聞こえて。私は包囲されたような感覚にとらわれる。
「何……何が起きてるの?」
困惑、何もわからない。それらの感情がすべて恐怖に直結して私は、動けずに小さく喚いた。バタバタバタ。足音が聞こえる。
足音の中で、大きくなっている足音がある。大きくなる足音は上からどんどん迫ってきてそして、視界の奥から、子供の姿を得て足音はこの階に、私がいる場所に辿り着いた。
「みぃつけた!」
子供は私を見つけると指をさして、走り寄ってくる。
ここは中学校のはずで小学生なんているわけがないなんて言うもっともな疑問よりも先に、子供の手にハサミが握られているのを発見する。
理解できる。捕まったらやばいと。だから、私は子供が見える方から反対の方を向いて、良識ある中学生と言う肩書をかなぐり捨てる勢いで走り出した。
バタバタバタと後ろから聞こえる。時折、シャキンとハサミを虚構で試し切りする音が聞こえる。居る。居る。後ろを追いかけてきている。
階段まで逃げて、さっさと学校を出ようかと思うけれど、上からは1人分、下からは3人分くらいの、コツン、コツンと足音が聞こえる。
(怖い、怖いぃ)
下におりようにも3人居ると思うと足が震える。
……それでも、上に行ってこの時間を伸ばすよりも、下に行って突き抜けば直ぐに脱出できるかもと考えると1段だけ階段を降りる。
すると、ふとシャーちゃんがこの階にいる事を思い出して直ぐに足を引っ込めた。
(怖い、怖いけれど……助けないと。だ、大丈夫かなシャーちゃん)
息を飲んだ。怖いけれど、とても怖いけど。それでも私は、見捨てることができないから恐怖を飲み込む。
階段を駆け上がって、廊下に出る。すると誰もいない。
ただ太陽光だけで照らされたなんとも言えない雰囲気の廊下だ。
後ろから走る足音が聞こえる。追いかけている少年だろう。成長して長くなった分の足で大差はついたみたいだけれど、さっさと移動したほうがいい。
私は急いで向こう側の階段に向かう。その感誰とも出会わなず。後ろからは足音が聞こえなかった。どうやらまいたようだ。
階段では、上から2人くらいの足音が、下からは4人位の足音が聞こえる。……鬼ごっごは何人でやっているんだろう。
そんな事を思ったけれど、シャーちゃんと別れた教室へと向かう。
教室の扉のガラスから、教室を覗き込む。……誰も居ない。ストラップやシールでわかる私のカバンがあることから、覗き込んだ教室が正しい事はわかる。
ゆっくりと戸を開けて入る。その時、私はしっかりと警戒心を持っていた。持っていたけれど。教室に入ってしっかりと持っていた警戒心が、しっかりと教室を見渡そうとした瞬間。
何かが、小さな何かが……小さな女の子が私に飛びついた。
「タァチ」
女の子の手にはハサミ、私は思わず女の子を突き飛ばそうとすると。女の子はハサミを開いて、突き飛ばそうとした右手の人差し指を受け止める。
「指切った」
鈍い音とともに、酷い痛みを残して何かが無くなって、ボトリと私からソレは落ちた。……痛い、痛い痛い痛い痛い。
一瞬思考が止まった私は痛みに喚き、少女を蹴り飛ばして、教室から追い出すと教室の扉を施錠した。
教室の扉はもう1つある。私は右手の人差し指の切られた跡を抑えながら。その扉を急いで施錠する。
バンバンと扉が叩かれる。
開けられたらどうしよう。
壊されたらどうしよう。
そう思いながらしゃがんで無くなった人差し指の後を抑えて、私はただ痛みに震えて、飲み込んだ恐怖を口から、声にならない声で叫んだ。
決して放すことが無く手に持っていて、今は抱える形になっているクマジロウにしか聞こえない叫びを、叫んでいた。
もうダメだ。勇気を出してみたけれど、怖いのを我慢してみたけれど、指を切られた瞬間、頑張っていたものが全部折れた。
だから、廊下側からバンバンと扉を叩く音が聞こえていながらも、私が意識を無くすまでにそんなに時間はかからなかったと思う。
気が付いた時、教室の光景は一変していた。太陽は沈んで居て、机がバリケードのように、それでいて、いざとなれば上の窓から脱出できるように階段状に積まれて居る。
階段状の一番下の段に位置する机の上には、牛乳瓶に入ったラベルにも書いてあるし多分、乳酸飲料と3つのおむすびだった。
おむすびを包むプラスチックには髪が貼り付けられていて、それぞれ『辛子明太子』『天ぷらおむすび』『ツナマヨ』と書かれている。どれも私が好きな具だ。
そして、私の右手人差し指は茶色い糸で接合、縫合と言った方がいいのだろうか。
……ともかくとして繋ぎ合わされていた。じんわりとした痛みは残って居るものの出血は止まって居る。
動かそうとすると酷い痛みが走るけれど、なんとか動くみたいだ。
(何が起きたんだろう……)
混乱する。でもそこから動こうとする気持ちはなくただ呆然と座り込む。
するとふと、クマジロウが少しほつれて見えた。
「兄貴……」
すがる。兄貴の手紙にはクマジロウは何かと助けてくれると思えるようなそんな内容だった。だからもしかしたら、私が眠って居る間守ってくれたのは、もしかしたらクマジロウと考えると。すがらずには居られなかった。
落ち着いてきた。……さて、ここからどうしよう。今は静かだから教室から出るべきだろうか。それとも今は夜で暗いから明るくなるまで待ったほうが良いのか。……できれば、できるのなら。あんな痛い思いを、怖い思いをするくらいなら動きたく無い気持ちがある。
……お腹が減った。とりあえず何故かそこにある。多分私のために用意されたおむすびを食べよう。
先生曰く、猫ちゃん達を探しに行くことにした猫ちゃん達の親御さんと、何人かの警察に同行して。みんなで居なくなったらしい。
絶対に北の通りなんて行かないって。私は心に誓った。
だけれど、ほかの人たちはそうでもない様で、日に日に人がいなくなって行く。男子生徒と同じ野球部である男子が「あいつにいなくなられたら困るんだよ。あいつ以外誰が俺のバッテリーをやるんだ?」何て言って明日には消えた。
「おいおい神隠しってマジな話かよ」なんて言っていた授業中に煩い男子が中心の、頭に脳みその代わりにゴキブリ詰まっていそうな男女混合パリーピーポーなグループが消えた。
数人の先生と担任が消えた。学校に来る意味が消失して、学校に来なくなる人たちが増えていく。
人が消えていく日常の中で私は、いつしかクマジロウを抱えて過ごす様になった。
「……私たち、だけになっちゃったね。この学校に来るの」
「うん……」
私はクマジロウを強く抱きしめて、震える。
私しかいない家にいるのも辛いから、何と無くで学校に来ていたけれど、もう登校するのをやめようかなと思ってしまうほどに怖い。
「……シャーちゃんって。今、えーと、ちょっと聞き辛いけど、市営住宅でお兄さんがいなくなったから実質1人暮らしだよね?」
「えっ……う、うん。そうだけど……何?」
「なーんかさ。最近変なことが立て続けに起きてるし。ちょっと怖いから私が住んでる寮に泊まりに来て欲しいなーなんて」
チラリと、彼女は許可を求める様に私を見た。私は戸惑い、「えーと」なんて言いながらクマジロウと目を合わせて(どうしよう)なんて1人会議を行う。
本当なら迷いなくその提案を飲むと思う。
だけれど私は、彼女が何処と無く怖いのだ。
即断即決は難しい。
「……ピーちゃん?」
返事の遅い私に、彼女はしびれを切らしたのか私の顔を覗き込んでくる。大きな瞳が怖くて「ご、ごめん! 家で何かやり残しなかったかなって。残ってなかったら問題ないから遠慮なく行こうかなーなんて考えてたり……」と、咄嗟に言い訳まがいの事を言ってしまう。
……お腹が痛くなってくる。
「家での用事ー? なら私、手伝うよー? バリバリ手伝っちゃう。思い至ったら善は急げなんて言葉もあって、今日はどうせ授業もない。だからもう帰っちゃおうか」
「帰るのは賛成だけど。手伝ってもらうのは悪いよー」
「えー良いじゃん」なんて彼女は言うけれど。やっぱり無理。怖いから。……お腹が痛い。
「ご、ごめん。
ちょっとお手洗い行ってくるね」
逃げるように、私が教室を出ようとすると彼女は、私の手を掴んで止める。背筋に寒気が走る。
「私も、ついて行こっか?」
「大丈夫だよ。すぐに済むって」
「そう? 行っちゃった。抱えられるくらいの人形持ってお手洗いってどうすんのよ
私はそう言って、彼女から逃げる様に離れた。……本当に逃げるなんて事はしない。流石に可哀想だと思うから。でも、落ち着くための時間がほしくて、私は彼女から離れたのだ。
コツリ、コツリと廊下に私の足音が響く。私がやって来たことでセンサーが反応して先が暗い廊下を照らして行く。
閉じこもりたい、この状況がとても恐い。
トイレに行こう、トイレで落ち着くまで引き籠ろう。私はそう思って宣言通りお手洗いに向かっていると、ふと、廊下を明るくする照明の具合が悪くなっているのか薄暗くなり明滅している事に気がついた。
息を飲む、教室に戻ろうかと考え怖気づいて、踵を返そうとコツンと靴を鳴らす。すると少し遅れてコツンと足音が聞こえた。
何かがいる。そう思って怖くなり。私は振り向けなくなって、そっと足を戻す。
「誰かいるの? ……シャーちゃん?」
返事はなく、コツンと足音が近寄る。
「な、何なの? ねぇ、何が面白くてそんなことするの?」
コツンと足音が近づく。
「ど、ドッキリ……とか? だったら成功だからさ……やめてよ」
コツンと、足音が真後ろから聞こえた。……今、何かが後ろに居る。
「な、何してほしいの?」
足が動かない、体が震える。それでも、無理やり言葉を吐き出して、今にもこぼれ落ちそうな勇気を何に使うかを探る。
すると嫌に聞き覚えのある声で「話すときはせめて向き合えってお兄ちゃんに言われてたよね?」と、親に言われたと言うのならまだしも、まるで私にピンポイントで兄貴がいることを知っているようなことを呟いた。
その発言で、私の感情は恐怖からなんでわかるの? と言う疑問に塗りつぶされて、振り返る。するとそこには。笑みを浮かべる私がいた。
……正確に言ってしまえば目の前にいる彼女は、どこか、面影を感じるとかそんな位に私に似ているだけで、私よりも不健康に細く、青白く、そして私と違って左目の下に泣き|黒子があった。けれど私には彼女が、反転する鏡に映った私よりも精巧に私を映し出しているように見えて、思わず息をのむ。
彼女は不気味に歯の隙間から「シーーー」と空気を吹き出すように笑う。
不気味に笑って不器用な喋りで「ここから出ていけ、この区画から出ていけ。
出ていかないなら……シーーー、私は、お前が大っ嫌いだから。嫌なことしてあげる」と言って、指を私に、と言うよりもその後ろに向けて指す。するとゆっくりと証明が消えて、窓から漏れる太陽光だけが廊下を照らす。
学校内から、人が作り出した明かりが消えていくと、私と……現状は私に似た彼女、シャーちゃんぐらいしかいないはずの校舎内から全体に響き渡る放送の様に「鬼ごっこする人この指とーまれ。
はーやくしないと指切っちゃうぞー、指に止まらない人しーらんべ」と少年の声が聞こえる。
その少年の声に集まるように「鬼ごっこやる!」と賛同する子供たちの声がざわめき始める。
恐怖がぶり返して、どこから聞こえるのだろうと周りを見ると、先ほどまで目の前にいたはずの私に似た彼女は視界を外した瞬間にはいなくなっていて。ある程度数が集まったのだろうか「鬼ごっこはーじーめ」と声が上がる。
とバタバタバタバタ、小学校の時によく聞くようなイメージがある。いくら注意されて求めるつもりがないような廊下をかける靴音が、上の階、下の階から聞こえて。私は包囲されたような感覚にとらわれる。
「何……何が起きてるの?」
困惑、何もわからない。それらの感情がすべて恐怖に直結して私は、動けずに小さく喚いた。バタバタバタ。足音が聞こえる。
足音の中で、大きくなっている足音がある。大きくなる足音は上からどんどん迫ってきてそして、視界の奥から、子供の姿を得て足音はこの階に、私がいる場所に辿り着いた。
「みぃつけた!」
子供は私を見つけると指をさして、走り寄ってくる。
ここは中学校のはずで小学生なんているわけがないなんて言うもっともな疑問よりも先に、子供の手にハサミが握られているのを発見する。
理解できる。捕まったらやばいと。だから、私は子供が見える方から反対の方を向いて、良識ある中学生と言う肩書をかなぐり捨てる勢いで走り出した。
バタバタバタと後ろから聞こえる。時折、シャキンとハサミを虚構で試し切りする音が聞こえる。居る。居る。後ろを追いかけてきている。
階段まで逃げて、さっさと学校を出ようかと思うけれど、上からは1人分、下からは3人分くらいの、コツン、コツンと足音が聞こえる。
(怖い、怖いぃ)
下におりようにも3人居ると思うと足が震える。
……それでも、上に行ってこの時間を伸ばすよりも、下に行って突き抜けば直ぐに脱出できるかもと考えると1段だけ階段を降りる。
すると、ふとシャーちゃんがこの階にいる事を思い出して直ぐに足を引っ込めた。
(怖い、怖いけれど……助けないと。だ、大丈夫かなシャーちゃん)
息を飲んだ。怖いけれど、とても怖いけど。それでも私は、見捨てることができないから恐怖を飲み込む。
階段を駆け上がって、廊下に出る。すると誰もいない。
ただ太陽光だけで照らされたなんとも言えない雰囲気の廊下だ。
後ろから走る足音が聞こえる。追いかけている少年だろう。成長して長くなった分の足で大差はついたみたいだけれど、さっさと移動したほうがいい。
私は急いで向こう側の階段に向かう。その感誰とも出会わなず。後ろからは足音が聞こえなかった。どうやらまいたようだ。
階段では、上から2人くらいの足音が、下からは4人位の足音が聞こえる。……鬼ごっごは何人でやっているんだろう。
そんな事を思ったけれど、シャーちゃんと別れた教室へと向かう。
教室の扉のガラスから、教室を覗き込む。……誰も居ない。ストラップやシールでわかる私のカバンがあることから、覗き込んだ教室が正しい事はわかる。
ゆっくりと戸を開けて入る。その時、私はしっかりと警戒心を持っていた。持っていたけれど。教室に入ってしっかりと持っていた警戒心が、しっかりと教室を見渡そうとした瞬間。
何かが、小さな何かが……小さな女の子が私に飛びついた。
「タァチ」
女の子の手にはハサミ、私は思わず女の子を突き飛ばそうとすると。女の子はハサミを開いて、突き飛ばそうとした右手の人差し指を受け止める。
「指切った」
鈍い音とともに、酷い痛みを残して何かが無くなって、ボトリと私からソレは落ちた。……痛い、痛い痛い痛い痛い。
一瞬思考が止まった私は痛みに喚き、少女を蹴り飛ばして、教室から追い出すと教室の扉を施錠した。
教室の扉はもう1つある。私は右手の人差し指の切られた跡を抑えながら。その扉を急いで施錠する。
バンバンと扉が叩かれる。
開けられたらどうしよう。
壊されたらどうしよう。
そう思いながらしゃがんで無くなった人差し指の後を抑えて、私はただ痛みに震えて、飲み込んだ恐怖を口から、声にならない声で叫んだ。
決して放すことが無く手に持っていて、今は抱える形になっているクマジロウにしか聞こえない叫びを、叫んでいた。
もうダメだ。勇気を出してみたけれど、怖いのを我慢してみたけれど、指を切られた瞬間、頑張っていたものが全部折れた。
だから、廊下側からバンバンと扉を叩く音が聞こえていながらも、私が意識を無くすまでにそんなに時間はかからなかったと思う。
気が付いた時、教室の光景は一変していた。太陽は沈んで居て、机がバリケードのように、それでいて、いざとなれば上の窓から脱出できるように階段状に積まれて居る。
階段状の一番下の段に位置する机の上には、牛乳瓶に入ったラベルにも書いてあるし多分、乳酸飲料と3つのおむすびだった。
おむすびを包むプラスチックには髪が貼り付けられていて、それぞれ『辛子明太子』『天ぷらおむすび』『ツナマヨ』と書かれている。どれも私が好きな具だ。
そして、私の右手人差し指は茶色い糸で接合、縫合と言った方がいいのだろうか。
……ともかくとして繋ぎ合わされていた。じんわりとした痛みは残って居るものの出血は止まって居る。
動かそうとすると酷い痛みが走るけれど、なんとか動くみたいだ。
(何が起きたんだろう……)
混乱する。でもそこから動こうとする気持ちはなくただ呆然と座り込む。
するとふと、クマジロウが少しほつれて見えた。
「兄貴……」
すがる。兄貴の手紙にはクマジロウは何かと助けてくれると思えるようなそんな内容だった。だからもしかしたら、私が眠って居る間守ってくれたのは、もしかしたらクマジロウと考えると。すがらずには居られなかった。
落ち着いてきた。……さて、ここからどうしよう。今は静かだから教室から出るべきだろうか。それとも今は夜で暗いから明るくなるまで待ったほうが良いのか。……できれば、できるのなら。あんな痛い思いを、怖い思いをするくらいなら動きたく無い気持ちがある。
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