自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

文字の大きさ
88 / 92

EX2-8:ピーちゃんと居なくなった人たち

しおりを挟む
 シャキンシャキンと草を刈り取る様に躊躇なく、動物に見える植物を切り刻む光景は、普通に恐怖を感じた。
 どれだけ毒針が刺さろうと、倒れて消滅するまで突き進む子供達の狂気も去ることながら。
 切り刻めば切り刻むほどに、青みがかった半透明な液体を傷から撒き散らすのが、現状の異質さをさらに彩る。
 
「……力を蓄えてたやつ、前に狩り過ぎたかな。
 絞り滓みたいなのしか出てこない」

 倒されても再度、子供たちが出現するのに対し。なんかよくわからない植物性動物はぐったりとして小さな、米粒ほどの光の玉を吐き出す。
 その光は、雛が触れると指先から染み込むように雛の中へと入りこんでいるけrど、どうやらああやって集めているようだ。
 ある程度この場を片付けると、クマジロウに触れて光を流し込む。

「……やっぱり足りない」

 だけれど、クマジロウに何らかの変化はなく。雛はその事実に機嫌を悪くする。

「ここで狩ってても得られるのは雀の涙程度っぽいから。もう先に進もう」

 自分でとどまるって言っておいてと少し悪態をつきたくなる態度ではあるけれど。別に得しなさそうなので黙っておく。
 
「ね、ねえ2人とも。
 行く前に聞いて欲しいんだけど」
 
 さぁ、さっさと行こうなんて空気を出す雛を遮る様に、動揺の色を乗せたシャーちゃんの声が聞こえる。
 
「か、体が軽いんですけど……。すっごい絶好調な感じなんですけど。
 だ、大丈夫これ? 私、今から成仏する感じ?」
 
 シャーちゃんの方を見ると、シャーちゃんは不安げにそんな事を言いながら、雛が狩をやめた事で余裕で取りこぼしている植物を、軽やかにバットでかっ飛ばして居た。
 私、女の子が最初可愛いって言っていたなんか変なのをバットでかっ飛ばしちゃあ色んな意味でダメだと思うの。
 
「……あー、力が弱過ぎて、現段階で空の魂に触って吸収しちゃったら、成長が早いんだ。
 おめでとう、貴女はこれから普通に戦力として数えられるくらい私の中で株が上がったよ」
 
 おう、勝手に1人で納得しないで。
 私は状況をいまいち理解していないんだから。
 
 
「狩を続行しようね。
 貴女を質のいい、肉盾にまで強化してあげる」
 
 ……教えてくれないから自力でどういうことか導き出したよ。
 つまり、シャーちゃんは魂を取り込んだら、少しの量でも成長するんだね?
 それで、そんなシャーちゃんをニクタテ? 多分漢字は肉盾かな? ……よくわかんないけれど、脳内漢字変換候補から考えて碌でもないものに仕立て上げようとしている気がする。
 
 
 そんな私の予感は……多分、これは……当たったんだと思う。
 へこんでいた筈のバッドは修復され、振るわれるたびに重い風邪を切る音を響かせる。
 一度バッドを振るえば、植物の化け物は砕け散りながらもホームランされるか、背後にいる他の植物達に向かって、ショットガンの如くぶち当たることになる。
 足音響くほどに踏み込み、力強くバットを振るうその姿は、アマゾネスやらゴリラやらを飛び越えて、まるで兄貴が持っていた漫画に出てくる棍棒を持った巨人を感じさせる。
 シャーちゃん、それでいいの? シャーちゃんの女の子としての在り方を卒業するどころか終わらせる勢いなんだけれど。
 
「そろそろ成長が遅くなってきたね。
 切り上げ時かな」
 
 そう言われてシャーちゃんは名残惜しそうに「お、終わり?」と尋ねる。
 バトルジャンキーにはならないで……お願いだから。
 
「成長の方向性は精神よりも身体方面に大きく傾いてるかな。
 幽霊だから身体なんて無くて、なんかちょっと違う気がするけど」
「へ、へぇ……何となく強くなった実感はあるけど。
 私ってどれくらい強くなったの?」
 
 とりあえず。
 か弱い乙女とは言えないくらい強くなってるよ。
 
「うーん、格闘技のチャンピョン3人に囲まれたらやっと危なくなるかなってくらい」
 
 つっよ。えっ? 本当に言ってる? まだ1時間も経ってないのに強くなりすぎでしょ。

「生まれ持っての素質、成長による力の割り振りと一度の成長による……多分早熟型だから今だけ得られるかなりの成長量が貴女をそこまでにしたんだよ」
「へぇーすっごいねこれー! ピーちゃん見てよ! 結構な高さまでジャンプできるよこれ」

 そう言ってシャーちゃんはジャンプする。
 本当に自分の身長の2倍くらいの高さまでジャンプした。
 そんなどこか楽し気なシャーちゃんを見ている横で、小さな声で「……妬ましくなるくらい羨ましいね。私も少しでも身体能力の方に行ってくれたなら……」と雛が言って居るのが聞こえた。
 理由は想像できるけど。きっと私が彼女を慰めるのは逆効果で、……勘だけど私には彼女を慰める資格はないのだと思う。

「と、ところで私もここで力を付けれられたり・……」
「は? やらないよ。
 お前を強化するなんて虫唾が走るし、無駄でしかない。
 それじゃあ此処は毛様が無いからさっさと次に行くよ」

「そんな意地悪言わないで。ピーちゃんも強くしてあげようよ」
「ちょっと力を付けたからって私に意見しないで。 やれることはやったんだから行くよ」

 ……本当に嫌われてるなぁ、私。 


 進めば進むほどに狂っていく空間。もはや蠢いてないものなんてない。
 怖い怖いと当初喚いていたけれど、いい加減疲れたし多少慣れて来たので何とか脚は動き続ける。
 人工物は既に植物に飲まれて見る影もなくなっていくのだろうかと考えていたところで、駅が見えてきた。
 駅の隣には古ぼけた井戸があった。

「覗き込む? きっと面白い物が見えるよ?」

 雛が悪戯っぽい笑みを浮かべて井戸を指さす。
 あぁ、絶対嫌な物が有るんだろうなぁと思って首を振って拒否する。
 そんな私の代わりにシャーちゃんが言度を覗き込むと、シャーちゃんは顔をしかめて口を手でふさいだ。

「……何も面白くないよ。
 何なの彼……手も足も折れてるみたいで……体が切り刻まれてて……め、目が合ったんだけど」
「あれ? 生きてたんだ。 それとも霊体化したのかな。 追い打ち気味に聖水放り込んだのに」

 雛はそう言って、鋏を持った少年を出現させた。
 少年は「あははは!」と笑って言度の中へと飛び込んでいく。
 ……鋏で肉を切り刻むような嫌な音が聞こえる。嫌な叫び声が聞こえる。
 そんな嫌な物を耳にしながら、私とシャーちゃんは一体どう言う事か説明を求める。

「彼は生きて居乍らこっちに来た人。
 自分を家の王女だとでも思っているかのような傲慢な母親を持ったがために、父親には逃げられ、生活が出来なくなったと怒りの矛先を向けられた可哀想な人。全身を椅子で殴られて、全身の骨が折れたから、井戸に捨てられてしまった子供。
 彼はそこまでされても母親と同じく割と頑丈な体だったから死ねず。
 井戸から出ようにも力が出ないしそもそも骨が折れてる、無暗に人差し指の皮がむけるだけ。
 彼にできたのは、井戸の中、わずかに残っていた水に体を冷やしながら死ぬまで、己を残して逃げた父となにもかものげんいんであるははを憎んで恨んで呪う事くらい。
 そんな彼を、事の元凶は死ぬ前に拾い上げて利用した。この異常な空間を作り支える予備の核にするためにね」

 ……ほんの少しだけ、気分が悪くなった。
 怖いというよりもかわいそうと言うか、悲惨と言うか。そんなものを感じて気分が悪くなったんだ。

「さて、ここからはお前の仕事。 この駅の中は進めば進むほどに私たち幽霊は身体が重く感じて動けなくなっていく。
 頑張って私たちを最奥まで引っ張って連れて行きなよ。最奥に行けば一夫報いるくらいはしてやるから」

 あー、此処からなのかぁあああ、いやだなぁあああ。

「……ところでどうやって生きてるのは大丈夫だって解ったの?」
「中に居るゴキブリがなんでか生きてて尚且つ超元気だから。
 顔面に直接突撃してくるから……うん……うん。
絶対に許さない」

 ……ゴキブリ居るの? 嫌な要素が増えたなぁ、行きたくないなぁあ。

「無視居るのかぁ……ピーちゃんじゃないけど、行きたくないなぁあああ」

 此処に居る3人は全員虫嫌い……と言うかゴキブリ嫌いのようだ。
 何であの生物本能的に無理なんだろうね。この2年見かけた覚えないけど、たぶん見かけたら即日アシダカグモかゲジゲジを買いに行ってると思う。
 ……よくよく考えればアシダカグモやゲジゲジって見た目きもくて怖いのに、想像してもゴキブリと違って寒気がしないな……記憶をなくす前の私ってもしかしてお世話になってたり?

「まぁ、行きたくないなんて言ってもしょうがないよ。さて、行こうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...