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それぞれの望み2(エロなし)

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仕事柄大概のことは冷静に対処することに慣れている正臣も、知世の話には絶句するしかなかった。
知世は氷室の出自を聞いた時のことを思い出していた。



その日、叔父の哲郎と知世は二人で食事に来ていた。
兼近に図られてそれまでいた一条ホールディングスの母体の会社から、グループの赤字会社に左遷されたからだ。
叔父のところには男しかいないため、知世のことは自分の娘のように可愛がってくれていた。
しばらく東京に戻って来れないから、といい知世と出かける為に時間を作ってくれた。
「先程、一条の家で冬馬くんに会えてよかった。彼はいい青年になりつつあるな」
その時はまだ氷室は一条家に正式に仕えていなかった。その日何故一条家に来たのかは知らなかったが、知世も彼に会えたことに喜びを感じていた。

「ええ。冬馬さんは素敵です」
小学生の頃から4歳年上の氷室に知世は淡い恋心を抱いていた。恐らく氷室も同じ思いを持っていたのだろう。
表立って会うことは立場が違うため出来なかったが、氷室が高校に進学してからは状況が変わった。
知世が通っている学校法人に氷室は高校からの外部受験で入学したのだ。
幼稚舎から大学まであるため、中途入学の難易度は恐ろしく高い。
「知世さんに会いたくて、この高校に入ったと言ったら笑いますか?」
学校で会った時に祝福の言葉を伝えた知世に氷室は伝えた。
知世は嬉しくてたまらなかった。
月に1、2度学校の図書館で偶然を装い落ち合い、数時間共に勉強をする。とても幸せな時間だった。

「知世は冬馬くんのことが好きなのか?」
「ええ」
頬を薄くピンクに染めて答えた知世に哲郎は難しい顔で腕を組んでいた。
「父には言わないでください。何も行動を起こすつもりはありません。ただ、学生の間の良い思い出として今は彼を想っていたいのです」
「いや、そう言う問題ではない」
そう言うと哲郎は黙りこくる。沈黙に耐えきれなくなった知世が口を開こうとした時に哲郎が低い声で呟いた。
「冬馬くんは、私か兄の子どもだ。そして私達の遺伝子は双子だから一緒だ。戸籍上は問題ないがDNAとしては冬馬くんと知世は……異母兄妹になる」
「え……?」
「すまない」
そう言って哲郎は頭を下げた。
氷室の生い立ちを語る哲郎の声はどこか他人事のように聞こえていた。

哲郎の後妻を兼近が何度も抱いている。 
そのことを哲郎が知ったのは結婚して一年程経った頃だった。
彼女が身ごもった時期は微妙だった。罪悪感に駆られた妻は全て哲郎に打ち明けた。
最初は結婚直前に酔った勢いだったそうだ。
結婚後も何度か兼近にあの時の過ちの口止めとして抱かれていることも。
双子だから仮に子どもが出来たとしてもどちらの子どもかわからないことをいいことに、兼近は哲郎が出張中の時等を見計らって、何度も彼女を犯した。
どちらの子どもか分からないまま彼女は出産し、子どもは養子として氷室家に出された。
そして、哲郎は妻が一生困らない金を渡して離婚した。


「知世、すまない。……大丈夫か?」
気付いたら泣いていた。哲郎が差し出したハンカチで涙を拭うと一つだけ尋ねた。
「冬馬さんはこのことを知っているのでしょうか?」
「いや。知らないし、一生話さないように氷室家にも頼んである。一条の私生児と分かれば彼の人生は大きく変わる。冬馬には一条に関係なく生きて欲しかった。
……この家は闇が深い」
その点は知世も頷く。父は、いやこの一族は一条グループを大きくするためには手段を厭わない。
それは知世もイヤという程知っていた。

「もう、冬馬さんとはお会いしない方がいいですね」
寂しそうに呟いた知世を慰める言葉を哲郎は持っていなかった。



「ずっと彼を繋ぎ止めて置くのか?」
知世を現実に戻したのは正臣の言葉だった。
「目の前で私が他の男に抱かれ、処女で無くなると彼も諦めもつくでしょう。氷室は優秀です。一条に留まる必要もないです。
……それに、あけみさんから藤間さんもそういうプレイがお好きと聞いておりますし」
最後に付け加えられた一言に正臣は苦笑いするしかない。

自分の肉棒を咥えている女を他の男に見せつけるように抱く。それは正臣が最も好むセックスの一つだった。
男女共にお互いに想いあっているなら尚良い。
嫉妬に駆られた男の目の前で、正臣の肉棒によがり狂う女。そして、好きな男の前で正臣に快感を刻まれ、達する女にとてつもない征服欲を満たされる。
知世と氷室は、正臣の欲を満たすには最高の材料だった。

「彼が諦めなかったらどうするんですか?」
知世は恐ろしいほど無垢な笑顔で答えた。
「その時は共に地獄へ落ちて貰います。……私は昔から冬馬さんが欲しくて欲しくて堪らないですから。
……なので、藤間さんも欲しかった」

狂っている。そう思うのに、正臣はその時の知世の顔が今まで見た中で一番美しいと感じた。

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