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安村の気持ち
しおりを挟むシャワーで酒の余韻を流した美咲は、ベッドに倒れ込む。
彩葉の言葉が頭を何度もリフレインしていた。
――告白してみたら?聞いてる限り、安村さんって安易に体の関係持たない人っぽいし――
良い結果になるかもよ、とウインクしながら笑う彩葉に美咲は答えなかった。
気持ちは伝えない。この関係を始めた時にそれだけは決めていたから。
※
「はあっ!?」
久しぶりに会った安村からの衝撃的な告白に、前野は驚きを隠せなかった。
「すまない」
「いや、お前が謝ることじゃ……」
頭を下げようとする安村を手で押し止める。
そうだ、安村が悪いわけじゃない。こいつは自分が悪者になるように話しているが、前野にはわかっていた。
(どうせ美咲が安村の優しさにつけ込んだんだろ)
妹が昔から安村に憧れていたのは知っている。
友人の自分から見ても安村はいい男だ。
長い事失恋を引きずっていて彼女こそ作ってはなかったが、決して女に不自由するタイプではない。
だから何故安村が自分の妹とそんな関係になっているのか、不思議でたまらない。
なおかつ……。
「えっと、……付き合っては、ない?」
「そうなんだ」
「でも体の関係は……」
「……もった。というかもっている」
クラクラしてきたのは、きっと気の所為ではない。
「で、安村はどうしたいんだよ」
内心では、あの美咲!と叫んでいたが、表面上は冷静を装って安村に尋ねる。
安村は、困ったように眉を寄せた。
「どうしたいも何も、付き合おうって言っても断られるからな。……今の僕には選択肢はないさ」
ホロリと片頬で自虐するように笑う。
「あの……バカ妹が!」
今度は言葉になった。
安村が前の恋愛で傷ついていたのを間近で見てきた。
親友として、次の恋人とは幸せになってほしい。そう願っていたのに。
身近な人間が安村を弄んでいるとは。
怒りが顔に出ていたのか、安村が前野を宥める。
「そう怒るなって。キチンと責任は取るから」
安村は笑う。
含みのある言い方と、自信ありげな顔をする安村に、前野は一つの疑問を口にする。
「まさか、安村……。お前……子ども」
一瞬キョトンとした安村は、笑いながら首を振る。
「さすがにその辺はキチンとしてるさ。7つも年下の娘だぞ。万が一はなくはないが、キチンと避妊してるさ」
「そうか。……そうだよな」
自分の子もまだなのに、先に伯父になるのかと動揺した前野は、胸をなでおろす。
じゃあ、安村のこの自信はどこから来ているのか?
尋ねた前野に、安村はニカッと笑った。
「美咲君が僕に惚れているのはわかっているからさ。あとは本音を話せるようになるのを待つだけだ。職業柄こういう扱いには慣れているからな」
安村の言い分に、前野は呆気にとられたのち、吹き出す。
安村の肝の据わった言いように、前野は安心する。
親友の懐の深さと優しさに。そして、妹の男の見る目に。
安村はいいヤツだ。今度こそは幸せになってほしい。
その相手が、あの美咲なのが少々複雑なところだが。
そして深々と頭を下げた。
「バカな妹だが、よろしく頼む」
「こちらこそ、大切にさせてもらいます。お義兄さん」
「やめろっ。生々しい!」
半分……いや、8割本音だ。前野はゾワッと鳥肌が立った腕をさする。
もっとあからさまな会話をしていたはずなのに。
「お義兄さん」と呼ばれる方がよっぽどリアリティがある。
安村はいつものようにニカッと笑う。
人を安心させる笑顔に、前野もようやく笑えたのだった。
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