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元カノの影
しおりを挟む「美咲君、遠出しないか?」
安村からそう誘われたのは、秋口に入った頃だった。
「構いませんけど……どこにですか?」
「箱根だ」
「箱根……ですか」
遠出という距離ではない気がするが、という美咲の疑問はすぐに解決する。
「向こうで一泊しようと思う。ついでに言うと、僕の過去の旅行のリベンジを兼ねてなんだ。嫌な思いをされるかもしれないが、君と行きたいんだ。どうだろう?」
「わかりました」
嫌な思いとか、リベンジがなんのことかはわからないが、安村と過ごせるならどこでも嬉しい。
弾む気持ちを気取られたくなくて、ついそっけない返事をしてしまったけど、美咲の心はすでに旅行へと向いていた。
そんな美咲を気にすることなく、安村はいつものようにニカッと笑った。
「ありがとう。手配は任せてくれよ」
※
「昔、行ったんだ。当時の彼女と」
向かっている最中のロマンスカーで安村はそう話した。
事前に知らされていたら行っていただろうか。
美咲は自問するが、答えは出なかった。
唯一の救いは、その話をする時の安村の顔が曇っていたこと。
これで昔を懐かしんだり、楽しそうな雰囲気を醸し出されたりされていたらショックは大きかった。
もっとも、付き合っていない以上、安村を咎めることはできないのだが。
「そう……なんですね」
それでも胸のつっかかりは取れない。歯切れが悪く返事をした美咲に安村は申し訳無さそうにしながら告白した。
「残念ながらいい思い出じゃないんだ。箱根は家族とも友人とも行ったことがあるのに、それきり行けなくなった。正月の箱根駅伝すら未だに見れないしな」
「そんなところに向かって大丈夫なんですか?」
「うん。美咲君となら行ける気がしたんだ。……君がいい気しないのはわかっていたんだが。すまないな」
打診されたときに言っていた「リベンジ」の意味がようやく腑に落ちる。
確かに気分がいい話ではないが、安村と旅行できるのが嬉しいのは事実だ。
それに知らされてないだけで、今まで安村と行った場所のいくつかは前の恋人とも行ったことがあるだろう。
映画館とか、お台場とか。
美咲はすべて初めてだが、安村は違うかもしれないと、いちいち気にしていたらどこにも行けない。
もやもやした気持ちは心の底に沈める。
ふぅ、と呼吸を整えて美咲は安村に笑いかけた。
「じゃあ、いい思い出に上書きしましょうね!」
「あぁ!めいいっぱい楽しもうな」
美咲の笑顔に安心したように、安村の肩から力が抜けた。
そしていつものように、ニカッと笑ったのだ。
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