裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

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顔をあげれば古民家カフェ三日月 5

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 やがてお盆が近づいてもうすぐ夏休みも終わりだと周囲から孫の宿題がまだ終わらなくてと言う会話を良く耳にする頃、ツクツクホウシの鳴き声に理沙も残された課題を篠田の弟君に見てもらいながらこなしていた。
 それを横目に保育園帰りに実桜さんは凛ちゃんを連れてお散歩に来るようになり、水撒きが凛ちゃんのお仕事になった。
 いや、もう水遊び。
 だけどもう少しすれば涼しくなってそれももうできなくなるので今だけでも楽しんでもらえればと思っている。
 お母さんは毎度大絶叫しているけどね。
 実桜さんの悲鳴はもうカフェ三日月の名物となっている。 
 だけど朝は植物のお世話に夕方は水やりとうちの植栽だけどお世話って大変だなあとおもいながら俺も世話の仕方を学んでいた。
「まず難しい事は考えずに表側の階段に葉っぱが落ちてないか、砂が被ってないか確認しましょう」
 僅か数段の階段だけど葉っぱをふんで転んだり、砂で滑ったら大変な事になると言う言葉をメモりながら階段の掃除をする。
「駐車場側にも葉っぱが落ちてたり、雑草が生えてたら抜いてください」
 コンクリで庭を埋めて駐車場にしたけどそれでも植物はコンクリを突き破って育つから注意してねと教えてもらった。
「とりあえずまずはこれぐらいから始めようか」
「つまり、俺に庭を触らせるつもりはないのですね」
「当たり前でしょ?こんなにも趣味のいいお庭、めちゃくちゃにしないでよね?」
 きっぱりと言い切った実桜さんの言葉に泣きたくなったが
「だけど一年を通して園芸部に学ばせた後は園芸部に面倒見させるつもりだから。あの子もだいぶ植木の手入れを学んだからそろそろ担当を持っても良いと思うんだ」
 ただし本職は家作りの方だから合間合間にしか出来ないけどと笑いながら言うも俺から見ればそれこそ趣味の庭いじりとして十分じゃないかと思う。
「楽しんでるなー」
「まあね。恩人だから可能な限りお礼をしたいと言う物よ」
 ふーんと、どんな恩を貰ったのかわからないが、なんだかんだ年上と言う事でいろいろ愚痴を聞いてもらったり相談もしてもらってる実桜さんに

「実はさ、魔王、綾っちに家を建てるお金足りない分を出してもらってるみたいなんだよ。いくら返せばいいか判らないし、本当に良いのか心配なんだけど幾らを目安に包んだらいいと思う?あ、もちろんローンになるけど」

 何て聞けば物凄い微妙な顔をされた。
 何か悪かった?やっぱりあの集団みたいに綾っちといきなり呼んだのが悪かったのだろうかと思うも実桜さんは少し首を傾げて
「私達の家もそうだけど難しく考えなくても良いと思う」
「難しく考えなくて良いってどういうこと?」
 おうむ返しに聞けば少し顔を歪め
「動画で家づくり上げてるでしょ?」
 聞かれればうんと頷いた。店の宣伝も兼ねてって事で三百万人以上の登録者がいる有名動画で紹介されたのはかなり自慢だと思っている。
「あれ、ちゃんと広告収入も入ってるし再生数見てもらうとびっくりするくらいの収益上がってるから。
 多分あの店のリフォーム費用全部そこから出ていると思う」
 うちもそうだったと死んだ目で言われても暫くの間何も理解できなかた。
「確かにあの時お金なかったから助かったよ。多少家の中をネットで見られても時間と共に変るから全然気にしないよ?」
 うちは店側は見せても自宅側は安全から紹介はしてもらうのはやめている。一人暮らしなのでそこは安全の為にと言えば当然のように納得はしてもらえた。
「だけど、安くない値段だし本当にいいのかな?
 何かあった時勝手に家の権利を主張してきたらどうしよう?!」
 と言う事を言えば
「多分それないから。
 麓の家も在るし、他にも近所に家も在るから気にしない方がいいよ」
 それはどういう事かとも問いたかったが
「気にしない方がいいって、じゃあ俺の最初の資金は……」
「それはちゃんと使ってるから。『夜月が支払う事に意味があるから』って言いそうだし」
 なんとなく微妙な魔王の声真似をしてきて笑いを誘うのはやめてくれと笑ってしまうも、確かにあいつならきっちり使うだろうなと思いながら
「だったら全額幾らになるんだろう……」
「あ、私がやった庭の手入れは十万程だったよ。
 処分代や植木の購入費、そして土の入れ替えだったりここが一番お金がかかったね」
「ありがとうございまーす」
 そんなにもしたのかと思うもあれだけ庭を大改造したのだ。むしろその程度で終わって良かったとおもおう。更にプライスレスの庭のお手入れもしてもらってるし、代わりにコーヒーチケットをプレゼントしておこうと思った。

「さて、そろそろ手を洗おうか」
 
 夕方の時間、既にお客様の足は遠のいて暇になっていたので凛ちゃんの水撒きを見守りながら一緒に雑草取りをしていたけどそう言って立ち上がった実桜さんに倣う様に後片付けを始める。
 庭に水道があって助かると言いながら無人の、エアコンの良く効いた店内で二人してお水を飲みながらクールダウンしていれば

 カラン、カラン……
 
 昔懐かし耳に優しい来店のお知らせが静かに響いた。







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