裏路地古民家カフェでまったりしたい

雪那 由多

文字の大きさ
77 / 84

キリマンジャロとモンブラン 8

しおりを挟む
 狭い町と言うのはあっという間に噂話が広がって行く。
 そして噂と言う物は大体当人の耳に入る頃にはほとんどの人が知っている。
 田舎恐ろしい……
 ただでさえ夜月の孫と言う名前が既に知れ渡っていると言うのに今回の噂と言う物は

「あら燈火ちゃん、まだケーキメニューにならないの?」
「美園さんの所のケーキは美味しいからな。。和栗のモンブラン食べた事あるか?まだなら是非一度食べると良いぞ?」
「所でケーキはいつ始めるんだい?
 私あそこの大納言シュークリームが好きなのよ。
 お抹茶のクリームと何より美園屋さんの餡子は絶品だから。それが合わさってとっても罪深いのよ?」

 圧が半端ないです。
 こういう時は
「綾人助けてー!」
『あ、悪い。今フランスだから無理』
 つい先日まで我が物顔で店のロフトを占領していた自由人は何の予告もなく海外に出かけていた。
 隣の県にある最寄りのケ〇タッキーに買いに行くようなノリでフランスに行くのかよとイラッとしながらも
「美園さん所のケーキを三日月でも取り扱うって言う噂が広まってるんだけど」
「あー……」
 想像しながら途方に暮れているようだが
「まぁ、そうなったらお客様の希望に応えるのも仕事だ。
 飯田さんに連絡しておくから一度飯田さんと全種類食べてみて考えてみても良いと思う」
「そうなるとトーストが売れなくなる」
 必死に練習したワッフルのあのがんばりは必要だったかと今更ながら考えてしまうが
「みんながみんなケーキを切望しているわけじゃない。
 朝っぱらからケーキが食べたいって言うのはまずいないだろうからな。
 時間限定、曜日限定、そう言うのを考えて美園屋さんにも無理のないようにお願いするのも一つの手だと思う。
 数とかが分らなければ委託販売と言う形で売れた数だけ買い取りをしても良いと思うし、そこは美園屋さんと相談すると良い。ただあの夕希だっけ?何を言い出すか判らないから相談する時は飯田さんを必ず連れてご主人と話すように」
「ああ、うん。もう師匠に頼る事にする」
「そうだな。一人で考えるよりはましな判断だ」
 店主なのに店の運営権に関与する権限が一切ないのは俺の不徳とする所。一応専用のPCを用意して綾人が教えてくれた経理のソフトで閉店後事務処理をする。
 数少ない行程だが的確な指示が書いてあるので既に暗記しても確認してしまう悲しい性。その後は明日発注する物の確認などなど。やる事はたくさんあって大体終わる頃晩飯に炊いたご飯が出来る頃合い。そしてお風呂も沸いた。
 ほっとする時間を迎えた所であさりの味噌汁と宮下が差入れしてくれた謎肉の角煮を貰うのだった。
 肉質は豚に近いが……
「イノシシかシカならオッケー。大丈夫。食べ慣れたし美味しい奴」
 なんて言いながらも一口食べた所陥落するのもお約束。
 判って入るんだ。
 宮下家の食卓は世間一般とは変わっているかもしれないが美味いのは確定だ。更に飯田さんが来た時に差入れしてくれるご飯は何を出されても絶対おいしいって言う神飯。ただし食材が不明と言うのが怖いだけで……
「負けるな俺。気にしたら負け」
 人生の中で今一番野菜を食べてる気もするが、それでも美味しく食べられるのだから野菜幾らでも持って来いって言えてしまう。
 いや、別に母さんのご飯がどうのとか言う話しじゃないんだよ?
 生まれてから高校卒業するまでずっと母さんのご飯食べて来たけど母さんのご飯も大好きだぞ?
 ただ飯田さんのごはんがおいしすぎる罪料理なだけなんだよ?
 母さんだって飯田さんの料理食べてタッパーに詰めて持って帰った人でなしなんだぞ?って言うか、俺の飯持ってかないでください。切実に訴えるも奪いに来る時は変りにカレーとかを持ってくるようになって、交換すればいいって話しじゃない。俺の飯返せ、だ。
 とりあえず今日は神飯ではない宮下家のお袋の味なので母さんの味とは違う味付けを味わいながらネットでニュースをチェックしていれば店電が静かに騒ぎ出した。だけど暫くして閉店のアナウンスが流れる物のその向こうで人の声が聞こえた。
「あー、お店もう閉まっちゃってたか」
 聞こえたのは夕希さん。
 というかアナウンスが流れてても向こうの話し声って聞こえるんだと言う方が衝撃だった。
「まあ、いいか。明日会いに行けばいいよね」
 なんてぼやいた所で電話を切ったらしく音声も終わった。
 時計を見ればまだ非常識と言うには微妙な時間。
 だけど綾人に言われている。
 二人きりでは会うな、と。
 どうしたもんかと思うも困った時はご近所さんがいるじゃないか!
 ご飯を食べ終えて後片付けをした所で
「篠田ー、今から会えるー?」
「んー?飯なら食べた後だぞ?」
「いや、俺も食べたし」
「じゃあ、来ても良いぞ」
「いや、その基準ってどうよ?」
 苦笑しながら俺は少し涼しくなりだした空気に薄手の上着を一枚はおり、冷蔵庫からビールを何本か手にして篠田の家へと向かうのだった。
 



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...