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星空が広がるように 1
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水曜日の早朝。薄暗い世界の中見慣れた車が当然のごとくやってきて手慣れた様に猿にはあまり効果のない害獣除けの門をくぐり我が家にやってきた。
待ち構えていた俺はその車を庭の一番奥へと案内して
「おはようございます。着工したと聞いて楽しみに来ました!」
とても徹夜明けとは思えないテンションで飯田さんは車から降りて開口一番そんな挨拶をしてくれた。
「おはようございます。月曜から始まったはずなのに進行は意外にも早いので驚きますよ」
「と言う事は、俺のキッチン出来ましたか?!」
「さすがにまだそこまでは……」
着工して二日で出来るわけがないだろうと思うもあからさまにしょぼんと項垂れた耳としっぽが見えて手を差し伸ばしたくなるのは飯田さんの仁徳と言う物だろう、か?
「それよりも見て見ます?あばらハウスを」
言えば小首をかしげた飯田さんは改築中の家を見て納得するのだった。
周囲には落下して困る物はない。家にあった昔ながらの足場を利用してぐるりと囲み、月曜日には人海戦術で不必要な物はすべて取り去った挙句に基礎をしっかりと直す所まで行ったのだ。と言ってもコンクリを打っているわけでもないので全部木製でまたそのうち腐るだろうと言われている。防腐剤はたっぷりと塗ったとは言ったが雨に打たれるよりも霧に包まれる方が多いこの標高では意味があるのかと思うよりもないよりもまし、と言う前にこまめに塗れと言われてしまった。とりあえず定期的に浩太さんに泣きつこうと言う事にした。
「これは……立派なあばら、ですね」
窓から中が見える範囲でも十分あばら感を感じる事が出来るので中に入るともっとすごいぞと言うのは黙っておく。
「壁と床がなくなってほんとにもうって言う感じ?雨風除けの外壁の頑張ってる感がまたすごいでしょ」
「おかげで辛うじて上に載ってる茅葺屋根がもっさりとしてると言うか……
屋根裏まで行けます?」
「階段は残ってるし、茅を下ろす為の足場だけだけど残してるので屋根裏まで行けます」
「ならいいですか?」
きらきらとした、エサを目の前にした犬の如く輝く目でお願いされたら誰が駄目と言えよう。どうぞと言う代わりに玄関の扉を長沢さんに預けた為に板を置いただけの扉をどければ早速と言う様に三十センチほどある敷居をまたいで家の中に入る。
月曜日に要らない物は出来るだけ取り外した土間は想像したよりも広く、その隅で重低音響かせる業務用冷蔵庫の稼働音が静かに響いている。その家の中に足を入れた飯田さんはぴたりと歩みを止めてゆっくりと室内を見回す。
この小屋の渾沌ぶりを知っているだけに使わなくなった物達を総て運び出したがらんとした室内の大半は床も壁もない見通しの良い物。二階の天井裏に上がり込んだ茅置場で見た一階から伸びる一番太い大黒柱に打ち付けられた和紙の紙の束の跡を見つけた。昔から一瞬のお呪系の何かかと思って居たために見ないふりをして過ごしてきたが、紙の束はこの家の設計図で、内田さんは涙を流し認めてあったおじいさんの名前にありがたそうに感謝をし、その日集まった大工さん達も興味と言うか感心する様に設計図を見て今ある設計図に急きょいろんな変更を加えるのだった。切ったらいけない柱とか抜いたらいけない壁とかがあるらしく、本職だから分かってはいたものの細かな点の注意事項なども書いてあり、多少の変化しかないが安全に代わる物はないと急きょ書き加えられた変更点をどうぞどうぞと承諾するのだった。どうせだめだと言っても俺には決定権はないのだろうしと思っていたりもするし、変更点の一つや二つなんて今更だ。
別にこの家に俺が住むわけじゃないし。
でも居心地良いからたまには別荘として使うのもよし。同じ敷地所で隣の家だけど。
……築数十年の母屋に住む俺がうらやむような愛され様に惹かれるのはしょうがないだろうと心の中で叫んでおく。
ほら、俺、沈着冷静な知的クール系のお兄さんで通ってるから顔には出さないよ。誰だ?陰湿根暗系と言う奴は……まぁ、間違ってはいないが、親切にしてくれる人には親切に対応するぞと心の中で訴えておく。
ギシリギシリと急な角度の階段から足を滑り落とさないようにゆっくりと上り、そして梯子のような階段を上って屋根裏へとたどり着く。
陽がのぼる前の電気もない屋根裏は暗く、でも換気用の通風孔から朝の冷たい空気が通ってくる。茅と埃、時々カビ臭さが混ざり合う何もない空間で俺でさえ低くて立つ事も出来ない天井の屋根裏を飯田さんは俺よりも腰を落してぐるりと見回した後、じっと大黒柱を見上げる。
「この柱一本でこの家を支えてきたのですね」
「それを助ける柱もあります」
言えば暗くても判るぐらい愛おしそうに大黒柱に手を添えて
「この柱が家族の象徴なのですね」
白いシャツを着ているのに汚れる事なんて気にしないと言う様に大黒柱に抱き着いていた。
待ち構えていた俺はその車を庭の一番奥へと案内して
「おはようございます。着工したと聞いて楽しみに来ました!」
とても徹夜明けとは思えないテンションで飯田さんは車から降りて開口一番そんな挨拶をしてくれた。
「おはようございます。月曜から始まったはずなのに進行は意外にも早いので驚きますよ」
「と言う事は、俺のキッチン出来ましたか?!」
「さすがにまだそこまでは……」
着工して二日で出来るわけがないだろうと思うもあからさまにしょぼんと項垂れた耳としっぽが見えて手を差し伸ばしたくなるのは飯田さんの仁徳と言う物だろう、か?
「それよりも見て見ます?あばらハウスを」
言えば小首をかしげた飯田さんは改築中の家を見て納得するのだった。
周囲には落下して困る物はない。家にあった昔ながらの足場を利用してぐるりと囲み、月曜日には人海戦術で不必要な物はすべて取り去った挙句に基礎をしっかりと直す所まで行ったのだ。と言ってもコンクリを打っているわけでもないので全部木製でまたそのうち腐るだろうと言われている。防腐剤はたっぷりと塗ったとは言ったが雨に打たれるよりも霧に包まれる方が多いこの標高では意味があるのかと思うよりもないよりもまし、と言う前にこまめに塗れと言われてしまった。とりあえず定期的に浩太さんに泣きつこうと言う事にした。
「これは……立派なあばら、ですね」
窓から中が見える範囲でも十分あばら感を感じる事が出来るので中に入るともっとすごいぞと言うのは黙っておく。
「壁と床がなくなってほんとにもうって言う感じ?雨風除けの外壁の頑張ってる感がまたすごいでしょ」
「おかげで辛うじて上に載ってる茅葺屋根がもっさりとしてると言うか……
屋根裏まで行けます?」
「階段は残ってるし、茅を下ろす為の足場だけだけど残してるので屋根裏まで行けます」
「ならいいですか?」
きらきらとした、エサを目の前にした犬の如く輝く目でお願いされたら誰が駄目と言えよう。どうぞと言う代わりに玄関の扉を長沢さんに預けた為に板を置いただけの扉をどければ早速と言う様に三十センチほどある敷居をまたいで家の中に入る。
月曜日に要らない物は出来るだけ取り外した土間は想像したよりも広く、その隅で重低音響かせる業務用冷蔵庫の稼働音が静かに響いている。その家の中に足を入れた飯田さんはぴたりと歩みを止めてゆっくりと室内を見回す。
この小屋の渾沌ぶりを知っているだけに使わなくなった物達を総て運び出したがらんとした室内の大半は床も壁もない見通しの良い物。二階の天井裏に上がり込んだ茅置場で見た一階から伸びる一番太い大黒柱に打ち付けられた和紙の紙の束の跡を見つけた。昔から一瞬のお呪系の何かかと思って居たために見ないふりをして過ごしてきたが、紙の束はこの家の設計図で、内田さんは涙を流し認めてあったおじいさんの名前にありがたそうに感謝をし、その日集まった大工さん達も興味と言うか感心する様に設計図を見て今ある設計図に急きょいろんな変更を加えるのだった。切ったらいけない柱とか抜いたらいけない壁とかがあるらしく、本職だから分かってはいたものの細かな点の注意事項なども書いてあり、多少の変化しかないが安全に代わる物はないと急きょ書き加えられた変更点をどうぞどうぞと承諾するのだった。どうせだめだと言っても俺には決定権はないのだろうしと思っていたりもするし、変更点の一つや二つなんて今更だ。
別にこの家に俺が住むわけじゃないし。
でも居心地良いからたまには別荘として使うのもよし。同じ敷地所で隣の家だけど。
……築数十年の母屋に住む俺がうらやむような愛され様に惹かれるのはしょうがないだろうと心の中で叫んでおく。
ほら、俺、沈着冷静な知的クール系のお兄さんで通ってるから顔には出さないよ。誰だ?陰湿根暗系と言う奴は……まぁ、間違ってはいないが、親切にしてくれる人には親切に対応するぞと心の中で訴えておく。
ギシリギシリと急な角度の階段から足を滑り落とさないようにゆっくりと上り、そして梯子のような階段を上って屋根裏へとたどり着く。
陽がのぼる前の電気もない屋根裏は暗く、でも換気用の通風孔から朝の冷たい空気が通ってくる。茅と埃、時々カビ臭さが混ざり合う何もない空間で俺でさえ低くて立つ事も出来ない天井の屋根裏を飯田さんは俺よりも腰を落してぐるりと見回した後、じっと大黒柱を見上げる。
「この柱一本でこの家を支えてきたのですね」
「それを助ける柱もあります」
言えば暗くても判るぐらい愛おしそうに大黒柱に手を添えて
「この柱が家族の象徴なのですね」
白いシャツを着ているのに汚れる事なんて気にしないと言う様に大黒柱に抱き着いていた。
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