人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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夏の向日葵の如く背筋を伸ばし顔を上げて 9

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 俺の事はさておき、陸斗が何かしたいと言ったのだ。何とかしてやりたいとスマホで調べれば同じように先生も調べていて
「受験資格が緩和されてるな」
 先生の一言に俺も「あ」と声を上げる。
「大学の建築学科で指定科目を治めて卒業すれば一級建築士の受験が出来るって」
「マジか?!」
 喰い付いたのは圭斗。そう言って自分でも調べ始め
「二級建築士はすぐに一級建築の受験が出来るだと?!」
「圭斗は二級建築士の資格もないでしょう。それに一級建築士の資格は国土交通省が認可する国家資格だから、陸斗、お前の頭じゃまず無理だ」
 ガーンと言う顔を隠せずにショックを受ける顔を見ながら
「それに圭斗、建築に関する学歴のないお前には七年以上の実務経験が必要。既に三年やってるんだからあと四年頑張れ」
 さらにガーンと言うショックを受けた顔はさすが兄弟そっくりで、先生と一緒に顔を背けて笑ってしまう。
「どのみちお前達にはレベルが高すぎる。
 まず圭斗は地道に経験を積んで二級建築士を目指す。陸斗は専修学校に行って二級建築士の受験資格を取れ。その後一級建築士の資格を目指す。これが先生が提案するお前たちの学力に沿った進路だと思う。
 緩和されてこのレベルだからな。森……何だっけ?
 今より難しい条件で一級建築士の資格を取ったんだ。浩太さんでさえ未だに取れないって事は近道なんてないって事だろ?こつこつ地道に腕と知識を磨いて必要な資格に向かって頑張るしかないだろう。
 専修学校だって高卒の資格が必要だろうし、一級建築士のレベルとしては弁護士とかと引けを取らない難易度なんだから仕事しながら通信で勉強するのも必要な手だな」
 提案する内容の濃さに驚いてしまうもそれ以上に圭斗の顔色の方が悪い。どのみちお金がかかる事は確定で、高校を卒業させるのはともかく大学もしくは専門学校、そして通信教育、いろいろとお金のかかる話に自分が目指すどころの話しじゃないと、陸斗の父親になると決めた圭斗は今にもプレッシャーに押しつぶされそうな顔をしている。
 当然兄弟ならすぐに気付き
「どこか働きながらって言うのは……」
「今時高卒の資格は最低限だ」
 言って先生は二人の顔を眺め
「何を焦っているか判らんでもないが、まずはだ。
 圭斗は自分の家を直し仕事を再開する。陸斗は高校をちゃんと卒業する事を考える。目の前の事をきちんと一つ一つこなす事が今お前達に出来る精一杯の事じゃないのか?」
 呆れたように近道なんてないと言う先生の言葉がよほど堪えたのかしょぼんとする姿もさすが兄弟、笑いたくなるのを堪えなくてはいけないほどそっくりだ。
 そんな俺に対してか先生は呆れたように息を零して
「それでもお前達が明確な目標を持ってくれた。今はそれで十分すぎるほどの内容だ。
 今は急いで未来を考えるな。一つ一つ着実に地に足をつけて進め。先生から言えるのはこれぐらいだ」
 珍しくまともに進路指導する教師らしい姿を不覚にもかっこいいと思った。
 仕方ない。俺の時は全部が異常だったのだ。学校に来ないと思ってたら家に引きこもって株を転がし税金問題に頭を悩める高校生というのは先生すら想像もできなかった為に投げやりな進路指導についぞ先生を教師として見た事はなかった。それは現在進行形でだ。他の教師よりは信頼しているが、先生かっこいいなんてフレーズは頭に思い浮かんだ瞬間はなかった。
「陸斗はただでさえ勉強が遅れている。綾人にしっかりと教えてもらってこの夏の間に高校一年のレベルまでなれ。
 そして綾人、お前は自分が怪我人だと言う事をちゃんと理解しろ。抗生物質飲んで解熱剤も利用していた立派な怪我人だ。化膿したらどうする?緑膿菌でも拾ってきて緑色の膿をまき散らしてみるか?
 高校の時からだがお前はもっと自分を大事にしろ!」
 こんな時にマジになって言うなよと、誰も真剣に俺の事を心配してくれないのでこの貴重な優しさに少し嬉しく思いつつこの話はもう終わりだと話をそらす。
「妙に具体例が具体的すぎるね」
「うちの死んだじーさんががんの末期の時になったんだよ。あの時緑膿菌なんて知らなかったからマジビビってよ」
 そんなトラウマからのご忠告にテレビのドラマだけの病気だと思っていたが意外に身近な所で起きるんだととりあえず迫力に飲まれてはい判りましたと返事をする。

「とりあえず俺達は明日も仕事だから戻る。
 陸斗、この馬鹿をしっかりとベットに放り込んでおけ。
 そして次に病院行く時に熱が上がった事を報告、良いな?」
「はい」
 陸斗に約束を取り付けた所で先生は立ち上がってタオルを取り出す。
「じゃあ圭斗、先生風呂入るからお前も入ってから帰るぞ。遅くなるから一緒に入るぞ」
「綾人、シャワー借りる!さすがに先生と一緒はヤダ!」
 誰が先生と一緒に入るかと言う真剣な眼差しに
「諦めろ」
 容赦なく入ってきてしょっちゅう一緒に裸の付き合いをさせられている身としては無理やり広くはない五右衛門風呂をご一緒しろよの刑を浴びろとひきずられていく様子に手を振って見守ってしまう。
「締まりがないですね……」
 陸斗がポツリと言うも今の先生はもう先生モードを辞めてただのおっさんと成り果ててていた。もう別人だと言う事を覚えればいいだろうと言う光景に俺は陸斗に
「陸斗も今のうちにシャワーを浴びておいで。包帯巻き直して湿布を取り換えよう」
 言えばコクンと頷いて二階に上がって着替えを取りに行き、丁寧にお風呂頂きますとぺこりと頭を下げる様子に良い子だなぁと、ビールが飲めないのでお茶をすするのだった。

 
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