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春は遠いよどこまでも 7

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 トンネルを抜けたら別世界。
 そんな言葉がふさわしく村と隣町との境界になる山のトンネルを抜けたら道の隅に雪が積もっている程度で道路は乾いてトンネル一つでこんなにも変わるのかと毎年の事だが感心しながら山を下り続けた。
 お寺は麓の町に降りる途中に在る。というか街に入ってすぐ、言い方を変えると街の一番端に在る。
 正直に言えば細い道をくねくねと進まなくて済むのでありがたいものの、この後の買い物を考えると結局同じなのでそこは考えないようにしている。
 山の斜面の、背後に墓地を構える古くからあるお寺を思えば人が側に家を建てたがる理由にはならないだろう。なんせ土葬時代からある寺だ。子供達の肝試しとしては程よい程度と言うと怒られるので言わない。
 あまり広くない駐車場に車を止めて降りれば一組の男女が待ち構えていた。
 何でこんな所にと思うも
「綾ちゃん怒らないでね。命日近いからお参りにこようとしたら住職の奥さんが綾ちゃんが今日お経上げてもらうって、だから一緒にいらっしゃいなんて言ってくれて。
 だけど住職さん代わってたんだね。知らなくて……」
 焦ったような陽菜の弁解と
「連絡入れようと思ったんだが、ずっとお前のスマホ通じなくって……」
 夏樹に言われてスマホを見ればずっと拒否ったままだった。
 しまったなあと思いながらも着歴の多さに顔を引き攣らせながらも
「バアちゃんの為に来てくれたなら俺が断るわけにはいかないだろう」
 親父達だったら一緒にと言うのは無理だが、なんとか関係を取り戻そうと努力する二人に妥協と言う言葉は生まれ始めている。ほぼ陽奈の努力だが。
「今日仕事と学校は?」
「俺はシフトを変更してもらって今日明日と休みを貰ってる。たまには陽菜を家事から解放してやろうと思って」
「私は、学校は十分に出席日数足りてるし、成績も足りてるから少し位さぼっても大丈夫だから。一応学校にも言って休みの理由は伝えてあるし」
 だから問題ないと言う陽菜の黒の礼服はまだ新しく、きっとこの日の為に用意したのだろうと思えばとやかく言う理由は俺にはないなと境内に足を向けるのだった。
「学校の方はどうだ?」
「うん。ちゃんと友達できたよ。家庭科部って言う部活始めたんだ。
 クラス単位の活動がほとんどないから居苦しさもないし、部活の子達はみんなのんびりしてるから問題ないし。ただ、調理場を隣の小学校と一緒に使ってるからなかなか使う期会が無くて殆どがミシンで何か作ったりするの。
 みんな可愛いお洋服作って学校に着て来たりしてるんだ」
 ふーんと少しだけ羨ましそうな声に
「陽菜は?」
 作った奴を着るのかと聞けば夏樹の失笑。
「こいつ裁縫すっごい不得意でさ、もう壊滅的。雑巾縫うのがやっとだ」
「うわぁ……」
 さすがにそれはダメだろう。俺だってボタンつけたりズボンの裾まつったりは出来るぞと言う目で見てしまえば
「うるさい!バイトで溜めたお小遣いでミシンを買ってワンピース作るんだから!
 綾ちゃん知ってる?都会ってすごいね!友達に連れて行ってもらったんだけど生地屋の問屋さんがあって色んな生地があって、そこに一日中居れる位沢山種類があるんだよ!」
「まぁ、俺には一生縁のない所だな」
「なっちゃんと同じ事言わないの!」
 ふてくされる顔は年相応の子供の顔。
「今は毛糸で棒編と鍵編を教えてもらってるの。レースも同じだからって教えてもらってるし。秋に文化祭があったんだけどコサージュ作って売ったんだ。
 来年はキルトでベットカバー作るのが目標!」
 面白い趣味を見つけたと言う所だろうか。
「趣味を持つのは良いが小遣いは足りてるのか?」
 うぐっ吐息を飲むも
「そこはちゃんとバイトのお金の中でやってるよ。二万円なっちゃんに生活費を渡して、一万円を学校の費用として溜めて、お小遣いは一万円。綾ちゃんにお返しする様に一万円残して後は貯金にしてる。髪を切るのも、服を買うのもお小遣いの中からだから、生地を買うのはちょっとだけど、この間の誕生日になっちゃんに一枚の大きなキルトの下地になる奴買ってもらったから、後は問屋で端切れを集めて作るんだもん」
 あのしけた顔の様子からはきはきとした今時の高校生としては趣味は地味だがよくぞここまで復活したと関心をする。もう大丈夫とは思わないが、夏樹に任せておけば良いだろうと押し付けることにする。
 その間に社務所に着けば、すでに賑やかな陽菜の声に住職の奥さんと前住職の奥さんと娘さんが待っていてくれた。
「遅くなりました」
「いえ、楽しそうで声を掛けれなかったから」
 前住職の奥さんがコロコロと笑って俺達を出迎えてくれた。
「今日はお手伝いですか?」
「はい。まだわからない事がいっぱいなのでいろいろ教わってる途中です」
 謙虚な今の住職の奥さんと前住職の奥さんの娘さんと同じ年頃だろうか。俺達を出迎えてくれた後は二人で仲良く案内をして住職を呼びに行ったりと忙しそうに働くのを見てれば
「ごめんなさいね、あの子には吉野の家の事を一応説明したのだけど妙に気を使っちゃって」
「気の使い方間違ってますね」
「ごめんね、ちゃんと言っておくから。でも夏樹君と陽菜ちゃんだったかしら?思ったより良好じゃない」
「まぁ、うちには二度とくるなって言う約束は取りつけているので家以外なら妥協しますよ」
 前住職の奥さんは返信に困るような俺の言葉に困ったような顔をするも
「さぁ、それより寒いから入って。
 お堂しっかり温めてあるからどうぞ」
 勧められてありがたくお堂に入る。
 こじんまりとしたお堂だがここは材木の産地。それなりに立派な作りは歴史と言う風格からの物だろう。品の良い仏像の微かな微笑みも蝋と線香で燻され貫録も見事。
 三つ用意された座布団の一席に座って待てばやがてやって来た住職さんは「お待たせしました」と挨拶をして俺達も挨拶をする。その間に奥さんと前住職の女衆も俺達の後ろに座る。どうやら一緒に手を合わせてくれるらしい。それなりの付き合いなのでバアちゃんとも顔見知りだし、手を合わしに来ないバカ息子三人組の代わり以上にありがたい。
 短い時間だけどありがとうございますと頭を下げるのだった。





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