人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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始まる季節に空を見上げ 4

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 土間を広げて水道やトイレやらを内田さんと話していれば
「邪魔するぞ」
 遠くからの声に玄関から先生の家の方を見れば長沢さんがそこに居た。
「あれ?長沢さん……」
「吉野と篠田?」
 長沢さんにも予想外だったらしく顰める顔が物語る。
「どうした、こんな所に……」
「来たか!そっちよりこっちに来い」
「鉄治は人を呼び寄せておいてからこっち来いとはどう言うことだ!」
 ぶつぶつと小言を呟きながらも俺たちのいる家に入ってこれば
「良いのか?勝手に入って」
「どこのガキだ」
 内田さんは呆れて俺の肩に手を回して
「綾人君がこの家と隣を合わせて買ったそうだ」
「綾人君はまた奇特だなあ」
 長沢さんの呆れた声にやっぱり先生の家なんて買うんじゃなかったと思ったが
「何でも恩師の自宅を手放したくなかったそうで」 
 圭斗まで悪ふざけではないがしれっと俺の本音の一つを暴露する。
「け、圭斗……」
 何を言い出すんだい?と思った時はすでに遅かった。ニヤニヤしたジジイ二人が俺の顔を見ながら笑う。居心地悪い……
「いずれ冬の間の住処にしようと思って」
 表立った理由を言えば既にこんな言い訳を見透かした二人に圭斗も諦めろと視線で訴えてきた。分かってはいるが、居た堪れなくて逃げ出したいが、がっちりと組まれた肩を掴まれた手からは逃げ出せそうにもない。
「なら、どうするつもりだ」
 長沢さんが家の中を見回しながら言えば
「ここは遊び場っていうか、二階の縁側も外して採光を多くして温室みたいな感じにして明るくして」
 しどろもどろと希望を言う。
「ほう、縁側を外して二階に廊下も外すか。奥まであかりが届いて明るいだろうなあ」
 そんなかんそうを言いながら内田さんに土間を広げてと俺たちの構想を長沢さんに伝える。話を聞きながら俺をチラチラと見ながらなにか言いたそうに見ている。だけどそれを邪魔するように内田さんが長沢さんを連れ歩く。
「長沢さんのとこと西野さんのとこを真似したのバレたかな?」
「長沢さんの家作ったの内田だから」
 圭斗の言葉にい嫌でも察するしかない。この家がどんな使われ方をするつもりかなんてバレバレすぎて
「くあーっ!!!
 なんか今になってすっごくはっずいんだけど!!!」
 低い天井に向かって吠えてしまえばいニタニタと笑う年寄りコンビに背中を向けて顔を覆ってしまう。
「けど喜八は吉野の家で引退したんじゃないのか?」
 内田さんは更にの人の悪い笑みを浮かべてひょっとして仲間の入りたいの~?なんて言うようにより人の悪い笑みを浮かべる。
 そういやそれっぽいこと言ってたな。チラリと二人を見ればいつの間にか睨むような長沢さんは俺達が思っているよりも沸点は低いようだ。
「テメーが手を入れた家にテメーが手を入れるのは当然だ!
 新規は受け入れなくてもテメーの仕事には死ぬまでテメーが責任をとるって言うのが吉野の教えだ!
 鉄治に指図されつ謂れはねえ!」
 顔を赤くして声を張り上げる様子にお爺ちゃんかわいいなあと自滅仲間に妙な仲間意識を覚えてしまえば
「吉野の!何かして欲しい事は?!」
「ええと、隣の家の建具のメンテナンスと二階の窓の所を居心地がいいように!」
「ふんっ、道具を取りに行く。昼から仕事に入るぞ」
「え、えー……」
 さすがにそこまで即と言う考えはなかった。
「鉄治!この床抜いたら工房にもってこい!この家で復活させるぞ!」
「おうおう、年寄りが頑張るな」
 楽しそうに挑発する内田さんに鉄治さんは買いを真っ赤にして
「はんっ!
 隣もこの家もさわらせてもらえなかったガキが!
 吉野の家と語ってみろや!」
 二人揃ってガキだなと呆れれば良いのか仲良く見守れば良いのか、間に割って入る勇敢ながなかったので庭に出て草むしりをして時間を潰す綾人と圭斗であった。



 
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