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俺達山の留守番隊 7
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「先生が召喚されたとか……」
「せいぜい一緒に行くだろうなとは考えたけど、ないわー」
俺と宮下がおやつを買って戻れば植田の報告に頭を抱えるしかない状況だった。
「一応大和さんがお昼の時に見に来てくれたんですが、上島がみんなの分のラーメン作ってくれたので大丈夫でした」
「まぁ、まずいだけだから水野メシで全員倒れる事はないだろうが、綾人が悪かったな」
一応代わりに謝っておく。
「綾っちは俺らの師匠だから大概の事には慣れたつもりだったけどさすがに今回はやっぱりイっちゃってるなってびびったっす。
でもよくよく考えれば先生みたいな暇人にご飯だけ食べさせて遊ばせるわけないから、妥当と思えば妥当っすよね」
植田よお前……
「綾人の思考に感化され過ぎだぞ」
「ああ、うん。なんかさ……」
「学校の奴らが俺達が一人暮らしだからって遊び場にされかけてて。特にゲームが揃ってる植田の部屋に。
騒ぐわ食べ散らかすわ食料喰い付くすわで付き合いやめたんだけどね。
まぁ、綾っちと知り合う前だったら友達を選ぶって言うか切り捨てるって考え方なかっただろうから。外面が良い植田がこんなのになった理由っす」
ふいとそっぽを向いたのはそれなりに上手くやろうとしたガマンが吹っ切れた状態だからだろう。
「いいんですよ。綾っちを見習って資格取ってバリバリ稼ぐから」
稼ぐと言っても綾人の稼ぎ方は見習いたくても見習えない物だからとは言わなくても理解しているだろうから
「身の丈にあった稼ぎ方をしろ。じゃないとプレッシャーに負けるぞ」
「うす。綾っちみたいになれないの判ってるけどご口授ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるあたり、今何の漫画に嵌ってるのかと宮下はつっこむが、その前にだ。
「今夜の晩飯はどうなってる?」
「上島達が三年達にカレーを作らせてる。卒業したら一人暮らしするだろうから練習だってさ」
「植田達も綾人に鍛えられたからね」
「おかげで今苦労してないです。って言うか、田舎より都会の方が食材安くて助かります」
「競合店同士の凌ぎあいがあるからな。まぁ、上手くやってるようで何よりだ」
そう話を締めくくれば
「圭斗、俺風呂沸かして来るから母屋のお風呂掃除お願い。
陸斗、悪いけど烏骨鶏達そろそろ小屋に入れてもらえる?下田達も休憩代わりに一緒にお願いな」
宮下ののんびりとした声に陸斗のどこか疲れたような返事とフォローする声は何所までも賑やかで
「宮、俺も手伝う」
「ありがとう、薪をこっちの棚に追加して、細かいのあったら持って来てほしいな」
なかなかお湯の温度が下がらなくてもこの人数と朝から汗だくの俺達の風呂の回数は常に水の追加とお湯を沸かす作業に追われていて通り過ぎる長谷川さん達が昔も一日中風呂を沸かしていたと笑って通り過ぎて行く。
「俺達は帰るが後二、三日で完成するが、倒木した木を何とかしておいた方が良いからもう少しお邪魔するな」
「うす、手伝いはあるので薪にしやすいようにしてもらえるとありがたいです」
「さすが吉野の子分、ちゃっかりしてる」
カカカと笑う長谷川さんの親分与市さんに息子、従業員合わせてドンビキしていたが
「長谷川さん、綾人に取ったら長谷川さんも十分使える労力に認定されてるんだから。覚悟しておいた方が良いっすよ」
火を熾しながら何他人事のようにと呆れながら言う宮下にこそこの場全員が引いていたのを炎を見つめている宮下だけが知らない事だった。
綾人が居なくても山の日常は続いて行く。
綾人一人で上手く回らせていた仕事を俺達は全員がかりでこの文明にどっぷりと慣れ親しんでしまった常識のない非日常をこなして行く。
沢山の人に教えてもらったり、迷い込んだ野生動物に大騒ぎしながら追い返したり、この山の達人の先生が居なくなった三日目にして如何に綾人がこの山でうまく立ち回っていたのかを改めて知る。
「あちゃー、今日もやられたか」
空を見上げながら天然記念物に連れ去られる烏骨鶏を眺めながら三連敗の悔しさに宮下に何がいけないんだろうと呟けば
「圭ちゃん、烏骨鶏出す時間遅すぎるよ」
「陸、そう言う事はもっと早く教えて」
いつの間には少なくなってしまった烏骨鶏に参ったなーなんて呟けば様子を見に来た大和に
「だったら少し増やそうか。知り合いから雄を借りて来るよ」
「うーん、綾人が帰って来る前までに間に合うか間に合わないかぐらいだよね」
「何だったらうちで増やしてリリースするか?」
「それー!」
決定とハイタッチする兄弟にそれでいいのかと圭斗は顔を引きつらせるが
「どのみち圭斗が頑張って覚えてもらわないといけないからな。少し大きくなるまで面倒見るから負担は少ないよ」
大変だけど頑張ろうなと大和さんは俺の頭を撫でながら
「それよりも少し山菜取って来いって母さんが言うから上にあがらせてもらうよ」
「うす、柵はほとんど貼ってあるけど東側ノーガードだから一応気を付けて」
「うん。だから鉈ももって来たから」
大きな鉈はまるでこれから何かの討伐に出掛けるようなそんな出で立ち。
ピンとホックをはずして手慣れた動作でベルトにくくりつけた皮のカバーから引き抜いて構える動作に植田と水野はかっこいいと大喝采。
「ふふふ、これぐらいここに住んでたらみんなできるようになるから」
草の汁が染みついた鉈だけに使い込んだ感はあるが、何故か謎のポーズを決める大和さんに
「大和さんFFFのエドリック使いですか?!」
「三週目に突入したぜ!」
いきなり植田との謎の会話にチラリと水野を見れば
「夏休み入った頃に発売されたゲームっす。名前は長くて覚えきれませんでした。廃人になりかけてた頃ここにゲーム断ちに親に放り込まれたので」
盛り上がる会話に二人のテンションは最高潮。
止まりそうもないので止めるよりも建設的に
「上島、とりあえず飯の準備だ」
「うす、ご飯が炊ければ食べれますよ」
「なら残りの奴起こしに行って来い」
「っす」
とりあえず上島が居れば十分宮下の代わりになるなと改めて先生とバトンタッチするまでにこいつらを鍛えなくてはと心に決める圭斗だった。
「せいぜい一緒に行くだろうなとは考えたけど、ないわー」
俺と宮下がおやつを買って戻れば植田の報告に頭を抱えるしかない状況だった。
「一応大和さんがお昼の時に見に来てくれたんですが、上島がみんなの分のラーメン作ってくれたので大丈夫でした」
「まぁ、まずいだけだから水野メシで全員倒れる事はないだろうが、綾人が悪かったな」
一応代わりに謝っておく。
「綾っちは俺らの師匠だから大概の事には慣れたつもりだったけどさすがに今回はやっぱりイっちゃってるなってびびったっす。
でもよくよく考えれば先生みたいな暇人にご飯だけ食べさせて遊ばせるわけないから、妥当と思えば妥当っすよね」
植田よお前……
「綾人の思考に感化され過ぎだぞ」
「ああ、うん。なんかさ……」
「学校の奴らが俺達が一人暮らしだからって遊び場にされかけてて。特にゲームが揃ってる植田の部屋に。
騒ぐわ食べ散らかすわ食料喰い付くすわで付き合いやめたんだけどね。
まぁ、綾っちと知り合う前だったら友達を選ぶって言うか切り捨てるって考え方なかっただろうから。外面が良い植田がこんなのになった理由っす」
ふいとそっぽを向いたのはそれなりに上手くやろうとしたガマンが吹っ切れた状態だからだろう。
「いいんですよ。綾っちを見習って資格取ってバリバリ稼ぐから」
稼ぐと言っても綾人の稼ぎ方は見習いたくても見習えない物だからとは言わなくても理解しているだろうから
「身の丈にあった稼ぎ方をしろ。じゃないとプレッシャーに負けるぞ」
「うす。綾っちみたいになれないの判ってるけどご口授ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるあたり、今何の漫画に嵌ってるのかと宮下はつっこむが、その前にだ。
「今夜の晩飯はどうなってる?」
「上島達が三年達にカレーを作らせてる。卒業したら一人暮らしするだろうから練習だってさ」
「植田達も綾人に鍛えられたからね」
「おかげで今苦労してないです。って言うか、田舎より都会の方が食材安くて助かります」
「競合店同士の凌ぎあいがあるからな。まぁ、上手くやってるようで何よりだ」
そう話を締めくくれば
「圭斗、俺風呂沸かして来るから母屋のお風呂掃除お願い。
陸斗、悪いけど烏骨鶏達そろそろ小屋に入れてもらえる?下田達も休憩代わりに一緒にお願いな」
宮下ののんびりとした声に陸斗のどこか疲れたような返事とフォローする声は何所までも賑やかで
「宮、俺も手伝う」
「ありがとう、薪をこっちの棚に追加して、細かいのあったら持って来てほしいな」
なかなかお湯の温度が下がらなくてもこの人数と朝から汗だくの俺達の風呂の回数は常に水の追加とお湯を沸かす作業に追われていて通り過ぎる長谷川さん達が昔も一日中風呂を沸かしていたと笑って通り過ぎて行く。
「俺達は帰るが後二、三日で完成するが、倒木した木を何とかしておいた方が良いからもう少しお邪魔するな」
「うす、手伝いはあるので薪にしやすいようにしてもらえるとありがたいです」
「さすが吉野の子分、ちゃっかりしてる」
カカカと笑う長谷川さんの親分与市さんに息子、従業員合わせてドンビキしていたが
「長谷川さん、綾人に取ったら長谷川さんも十分使える労力に認定されてるんだから。覚悟しておいた方が良いっすよ」
火を熾しながら何他人事のようにと呆れながら言う宮下にこそこの場全員が引いていたのを炎を見つめている宮下だけが知らない事だった。
綾人が居なくても山の日常は続いて行く。
綾人一人で上手く回らせていた仕事を俺達は全員がかりでこの文明にどっぷりと慣れ親しんでしまった常識のない非日常をこなして行く。
沢山の人に教えてもらったり、迷い込んだ野生動物に大騒ぎしながら追い返したり、この山の達人の先生が居なくなった三日目にして如何に綾人がこの山でうまく立ち回っていたのかを改めて知る。
「あちゃー、今日もやられたか」
空を見上げながら天然記念物に連れ去られる烏骨鶏を眺めながら三連敗の悔しさに宮下に何がいけないんだろうと呟けば
「圭ちゃん、烏骨鶏出す時間遅すぎるよ」
「陸、そう言う事はもっと早く教えて」
いつの間には少なくなってしまった烏骨鶏に参ったなーなんて呟けば様子を見に来た大和に
「だったら少し増やそうか。知り合いから雄を借りて来るよ」
「うーん、綾人が帰って来る前までに間に合うか間に合わないかぐらいだよね」
「何だったらうちで増やしてリリースするか?」
「それー!」
決定とハイタッチする兄弟にそれでいいのかと圭斗は顔を引きつらせるが
「どのみち圭斗が頑張って覚えてもらわないといけないからな。少し大きくなるまで面倒見るから負担は少ないよ」
大変だけど頑張ろうなと大和さんは俺の頭を撫でながら
「それよりも少し山菜取って来いって母さんが言うから上にあがらせてもらうよ」
「うす、柵はほとんど貼ってあるけど東側ノーガードだから一応気を付けて」
「うん。だから鉈ももって来たから」
大きな鉈はまるでこれから何かの討伐に出掛けるようなそんな出で立ち。
ピンとホックをはずして手慣れた動作でベルトにくくりつけた皮のカバーから引き抜いて構える動作に植田と水野はかっこいいと大喝采。
「ふふふ、これぐらいここに住んでたらみんなできるようになるから」
草の汁が染みついた鉈だけに使い込んだ感はあるが、何故か謎のポーズを決める大和さんに
「大和さんFFFのエドリック使いですか?!」
「三週目に突入したぜ!」
いきなり植田との謎の会話にチラリと水野を見れば
「夏休み入った頃に発売されたゲームっす。名前は長くて覚えきれませんでした。廃人になりかけてた頃ここにゲーム断ちに親に放り込まれたので」
盛り上がる会話に二人のテンションは最高潮。
止まりそうもないので止めるよりも建設的に
「上島、とりあえず飯の準備だ」
「うす、ご飯が炊ければ食べれますよ」
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