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冬が来る前に 10

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 庭先は既にまったりとした二次会モードから離れに移って三次会モードに入っていた。
 特別に作ってもらった土間に鎮座する長火鉢を囲んでフランスでの映像を皆で見ていた。
 石造りの小屋の改築にはあまり縁のない建築物だけに皆さん釘付けとなっていた。ちなみに浩太さんと山川さんのヘルメットに付けたカメラなのでぶれまくりに皆さん酔わないように注意してもらいたい。
 だけどそれでも山川さんの鏡面磨きのような美しい光沢を放つ漆喰が塗られればもう興味がないと言う様に、一緒に塗っていた他の職人の腕を見てフランスでの漆喰事情を討論していた。
 何気に山川さんが寂しそうだけど気付かないようにしてスルーしておく。
 あとは何気に今お隣にあるキッチンとそっくりな物が搬入されていく様子に皆さん飯田さんをちらちらと見たりするものの、それをチョイスした俺凄いだろと謎のドヤ顔に反省はないようだ。まぁ、使い慣れた物を導入したくなる気持ちもわかるけどね。俺は苦笑を零しながら荷物を置く屋根裏部屋の改築をビールを貰い、焼かれていた猪の串焼きを食べながら眺めていた。
 そう言えばこの工事の時居なかったなとここは浩太さんが向こうの職人の方と一緒に仕事をしていた。
 見えない屋根裏だからか正直に言うと造りが荒かった。 
 どうやって改築するのだろうかと思うも浩太さんがスマホを片手に一生懸命向こうの人と会話を交わすのが微笑ましかった。
 この面子の中では若手の浩太さんにみんなは微笑ましく笑いながらも浩太さんは鉋を取り出して、床や柱の表面を削り始めた。
 だけどそれは大まかに歪みを削る程度にしてその後を向こうの職人さんがサンダーで磨き上げてくれた。瞬く間に美しい木の色を取り戻し、別の職人さんがニスを塗ってくれる。三人で手分けをして言葉の壁がある事を忘れるようなスムーズな動きに関心をしてしまう。
 やがて総てのニスが塗られる頃、浩太さんは掃除も終えて皆さんと柱や床、そして天井などを養生して漆喰を塗り始めた。
 他の方達と漆喰の塗り方を比べる様に塗る様子は山川さんを師匠とするだけあって美しく均等で滑らかな表面を作り上げていた。だけど二人は漆喰は管轄外だと言う様に初めてだったようで、なんと浩太さんが教える事になっていたのだった。
「ほう?」
 きらりと山川さんの目が光ったのがちょっと怖かったけど、コテの使い方から適量の取り方、塗り方と腕だけではなく、身体を使って隅から隅に塗る様に、同一のスピードが均等に塗るコツだったり、しっかりと踏んばらないといけないとか、早くしないと固まってしまうなど身振り手振りのゼスチャーはもちろん後ろから手を添えてのレクチャーはちゃんと伝わっていて、下地はちゃんと見えないしでこぼこした場所もない。
 最後に養生テープを剥がしてみんなでグータッチ。
 やりきった感はあったけど、脚立が一階優先だったので見上げる視線の天井はぼろぼろだった。
「とりあえず天井は壁が乾いてからにしましょう」
『そうだな』
『ああ、汚れがずっと残るからな』
 それもまた思い出で楽しそうだなと思いながらも三人は階段から降りて養生テープで通れないようにバッテンを描き、向こうの職人さんがメモ。
「漆喰乾燥中に付き注意」
 そう言って浩太さんは次の仕事に向かうべく二人と別れた所でカメラは一度切られるのだった。
 ほら、メモリ大切だからね。
 お昼の時と夜の時にメモリを取り換える様に準備してたから本当はそこまで節約しなくても良かったんだけど、慣れとは恐ろしく、トイレに行く姿までカメラに収めると言うトラブルもちゃんとあった。そこは即行で削除したけどホント注意してほしいと後で注意して回る俺をねぎらって欲しいと思う。
 その次は馬小屋の改築に映像が変わった。
「なんか趣のある馬小屋ですね」
 森川さんの言葉の通り
「俺の前の前の人が乗馬が趣味でここに建てたそうです。
 表側のサッカーコートも元は馬を放す為の牧場だったらしく、ほんと優雅な生活をしていたオーナーさんでしたね」
 結局は馬はオーナーの引退と共に知り合いの牧場に移されたと言う昔の話し。そして次のオーナーさんはそれなりに成功して友達を集めてサッカーを楽しむ社交的な人。馬小屋や裏には見向きもせず表ばかりを整えた……成り上がりだ。俺が言うのもなんだけど。
「二代前のオーナーはとにかく馬に愛情を注いでいたようで、それなりに傷んではいたけど何とか使いまわせそうで人が住めるように作り変えたんですよ」
 馬糞とかなんかがいっぱいあっただろうがそんな物臭いもろとももう土に帰っている。とは言え一応気を使って床材には断熱材を入れたり、湿気が上がってこないようにシートを敷いたり、降雪地域なのでそこは俺の家同様寒さ対策は完ぺきにする。
 ほら、うちの母屋なんてまだ断熱がどうのこうのとか言う以前の建築物だから。
 冬は暖房をつけてても寒いんだよ。
 雪の重みで屋根が壊れた俺の部屋の所だけ直す時に断熱材を入れてくれたけど、まったくの別世界になって俺が部屋に引きこもる原因になるのは当然だと思う。なんせ十一月から五月まで半年以上雪に悩まされる地域だからね。寒さは本当にこりごりだと言う様に暖かハウスに変身させるのだった。
 小さなミニキッチンは一人で過ごすには申し分のないサイズ。そして広い室内にはあの半地下倉庫から持ち出した家具を並べてそれっぽく部屋を完成させた。
 圭斗と宮下のなかなか様になる仕事風景に混ざる俺。もう迷惑としか言いようがなく、自分でも理解している為にネタとして迷惑な事に手伝わせてもらうのだった。かなり強引に。勿論やれることは限られてるのでゴミだしとかゴミだしとか余分な廃材の薪割とかそんな程度。くっ……
 何はともあれ作業途中から俺がああしてほしい、こうしてほしいと言う追加注文に皆様迷惑な施工主だなとブーイング。そんなかいもあって……
「なかなかの快適ぶりにオラスが住み着きました」
 きりっとした顔での飯田さんの説明と共にまったりとワインを傾けながら読書にいそしむオラスの姿はまさしくこの小屋の主。
 あの時はなかったベットを入れて窓際にテーブルと椅子までセッティングしてある。半地下倉庫からサイドボードも発掘してきたようだし、あまり背の高くないタンスも見つけてきたようだ。何より作りつけの暖炉が憎い。馬が寒くないようにと元々あった物だが綺麗に掃除した暖炉は部屋の雰囲気を更にマッチしていた。 
「おかしい、俺の隠れ部屋として楽しむはずだったのに」
 城の主の部屋で厳格な城主として仕事にいそしみ、そして息抜きに隠れ家で花を愛でながら酒をたしなむ、そんな場所にするつもりだったのに……
「まぁ、最近はオリヴィエも入り浸ってるって言ってるから。
 キッチンの方の屋根裏部屋の所に綾人が買った三つ折りマットレスを持ち込んでるらしいよ」
「ふっ、部屋側に窓を作っておいたから悪戯が出来ないのがざまあだな」
「パソコン持ち込んで何やら唸ってるって言うから、何してるか知らないけど有効に使ってくれてるみたいだよね」
 俺よりましな使い方をしてるだと?!
 何だか悔しくて声には出さなかったけど
「へー、ふーん。真面目に作曲活動してるのかなって事でいいのかな?」
 動揺を見せないように真面目だなあと笑って見せるも、何気に後日オラスが撮って送ってくれたオリヴィエとの一時の様子の光景にワインが一本、グラスが二つ映っていた。
 うん。
 まだオリヴィエの年齢ではフランスでもアウトだね。
 飯田さんのように気付いた人がどれだけいたか判らないけどあの子は本当に一生懸命な真面目な音楽家さんだよとオリヴィエを知る浩太さんと山川さんに誉めまくられていた。
 これでオリヴィエがあの小屋に入り浸る理由は理解できたし、オラスもきっとワイン講釈をしたいのだろう。何だか面白い関係が作られていて楽しそうだなぁ。年上の人と気後れせずに関係を作れるオリヴィエの武器はなんだか楽しそうなので俺達の帰国後の様子はいくら動画で見る事が出来てもプライベートの事は一切伝わってこないから。
 こうやって様子がわかるとなんだかほっとするのだった。
 そして実桜さんの立派な職人姿は向こうの人達を指揮する親方そのもの。皆さん酔った勢いで大絶賛しながらも重機をブイブイ乗り回す姿は蒼さんを惚れさせただけあるなと誰ともなく納得し、そして今回フランス旅行の〆の四阿。
 城をバックにたたずむ和風庭園。
 幾ら凄い技術と伝統の大集結とは言えそれだけでも違和感ありまくりだし、四阿の天井の鏝絵に皆様大爆笑。
「これ、向こうでも話題になってて小さな子供が怖がって大泣きしてるんですよ」
 謎な日本マニアの人達が狂喜乱舞する興奮状態やお化け屋敷に行くようにビビる若者。
「なかなかにカオスですね」
「職人の技術の大集結なのにね」
 山川さんも何だか満足げに笑うあたり、こう言った反応を狙っていたのは確かなようで、納得の反応を見て満足したようなのでこれはこれで良しとしようと俺は無理やり自分を納得させるのだった。




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