人生負け組のスローライフ

雪那 由多

文字の大きさ
683 / 976

歩き方を覚える前に立ち方を覚えよう 10

しおりを挟む
 ケリーの家は庭の手入れが行き届いた一軒家だった。
 クリスマス休暇に案内されたウィルの家よりもさらに大きな家だった。
 事前情報としてケリーの家は裕福で、亡き祖父が騎士爵を持っていて、家族仲は良いらしい。歳の離れた兄がいて、ケリーは随分と可愛がられて育ったと言う。 
 歳が離れて兄弟っぽくないと言っていたが、結婚はまだまだ先らしい。
 厳格な父と物静かな母。マナーはそれなりに厳しく、父の言葉は絶対だった。
 うん。
 これで家族仲がいいと言うのは少々疑問を持つが、当人がそう言うのだからそう言う物だろうと思っていた所で親子喧嘩からの家を飛び出してきた事件の勃発。
 聞きようによればなる所になっただけだと言う所だろう。
 車でケリーの家まで来れば訪問するには早すぎる時間。緊張しているケリーの顔を無視してチャイムを鳴らす。想像通り朝から名器までばっちりと決めたお母さんだろう女性が出迎えてくれた。
「ケリー!」
 たとえ昨日の出来事とは言え家を飛び出して来たなんて初めて見ただろうお母さんはケリーの姿を見た途端飛び出して来て抱きしめていた。
「飛び出して返ってこないから心配したんだから!」
 ほろほろと涙を流してケリーを抱きしめている様子にケリーは戸惑いながら抱き返して「大げさなんだから」と苦笑していた。俺としてはこれはなんと言う茶番なんだと突っ込まずにはいられない。
 小学生になって初めて決められた門限からかなり遅くなって返ってきたお子様ぐらいの年齢だったら理解できるが、今のケリーは大学に通うのに一人暮らしをしていてしかも飛び出す前はカレッジのアパートに戻るとも言っていたのにこの大げさぶりはないだろうと盛大に突っ込みたい。そして見方に依れば子供を心配する母親と言う像が出来上がるのだが……
「帰って来たか」
 この一連の騒動に今から仕事に向かうのかびしっとスーツを着た父親まで迎えに来た。そして俺は見逃さない。
 その声と共に現れた気配にびくりと怯える様に方が跳ねた事を。
 もうそれだけで十分だ。
 綾人はとりあえずこの茶番劇を傍観する事に決めた。
「飛び出してすみませんでした」
「心配をかけたのを理解しているのならいい。
 あと後ろの彼は誰か紹介しなさい」
 気持ちいい位の上から目線あざーっすと心の中でとは別に笑顔を浮かべていれば
「彼が今回フランスに招待してくれたアヤト・ヨシノだ。飛び出した俺を心配捨てくれて昨日は彼のアパートでお世話になって、こうやって連れて来てくれた」
「ケリーがお世話になったみたいでありがとう。
 こんな事したの初めてだから驚いちゃって、変な姿を見せてごめんなさいね」
 目尻に浮かぶ涙を化粧が崩れないように拭いながら
「さあ、遠くからようこそ。お茶でも飲んでいきなさい。朝食はどうする?」
「ありがとうございます。朝食は済ませたのでお茶だけ頂きます」
 初めましてしながら簡単な挨拶と自己紹介を済ませながら案内された客間に向かう途中
「帰って来たのならもう安心だから、私は仕事に行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
 代わりに出掛けて行く姿を見送れば
「父さん、迷惑かけたから帰って来たけど、学校の準備があるから今日にもまた戻るから」
「そうか。勉強に励みなさい」
 そう言って上質な皮の鞄を持って車に乗り込んで仕事に向かう姿を見送ればほっとしたかのような顔をした母親が
「美味しいケーキがあるの。良かったら食べて行って」
 そう言って出されたのがビクトリアケーキだった。朝からヘビーだなあと確かにシンプルで惜ししいけどね朝から重いバターケーキはかなりしんどく紅茶のおかわりを貰うのは喜んでいると思われるらしいので容赦なく頂きながら
「まぁ、一つ分かったんだが、お前随分苦労して来たんだな」
「あー、母さん甘いもの好きだから」
 話がかみ合わないと言うか朝からバターケーキはこの家ではよくあるのかケリーも苦戦しているのかと思いながら案外このずれ具合が家族仲が保っていた事を理解して
「お前の家崩壊してるな」
 うすうすは気づいていたのだろう。困ったような笑みを浮かべ、どこか泣きそうな顔で黙ってしまった事を俺も見ないふりをして置いた。









 
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ここは異世界一丁目

雪那 由多
ライト文芸
ある日ふと気づいてしまった虚しい日々に思い浮かぶは楽しかったあの青春。 思い出にもう一度触れたくて飛び込むも待っているのはいつもの日常。 なんてぼやく友人の想像つかない行動に頭を抱えるも気持ちは分からないでもない謎の行動力に仕方がないと付き合うのが親友としての役目。 悪魔に魂を売るのも当然な俺達のそんな友情にみんな巻き込まれてくれ! ※この作品は人生負け組のスローライフの811話・山の日常、これぞ日常あたりの頃の話になります。  人生負け組を読んでなくても問題ないように、そして読んでいただければより一層楽しめるようになってます。たぶん。   ************************************ 第8回ライト文芸大賞・読者賞をいただきました! 投票をしていただいた皆様、そして立ち止まっていただきました皆様ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...