人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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大変恐縮ではございますがお集まりいただきたく思います 3

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 植草さんは俺が思うよりも早く決心してくれた。
 むしろ早く話を詰めようじゃないかというぐらい生き生きした顔に俺も爺さんも苦笑しっぱなし。そこには浅野さんの協力も必要なので
「とりあえず一番気にしている事の給与面はさすがに現状維持というわけにはいかないのでキリがいいところで年一千万。これなら今の生活を維持していけると思いますが問題はありませんか?」
「十分すぎます」
 躊躇いのない返事に逆に申し訳なく思うくらいだ。
 本日裕貴さんは他の依頼人の所に行く事を約束しているので欠席。さらに桜井さんも会社のお仕事で来られないという。
 仕方がないので大まかな取り決めを決めて改めて契約書にするという運びになっている。
 軽く1.5倍以上を貰っていただけにこれだけの減額にどういうか不安だったがお金の問題があっさり解決したのでこっちとしては拍子抜けだった。
 いいのですか?なんて確認作業なんてせず

「一応今何件か会社を立ち上げていて、そのグループの一つに入る事になります。
 M-worksという社名でフランスのレストランをはじめ、動画運営のバックアップなどをしている会社などがあります。基本何か特定の活動はありませんが、俺のプログラミングや株の運営などそれにまつわる弁護士、税理士の活動もこのグループの中に入っています」

 最初こそ別々だったけどフランスのオリオールのレストランの立ち上げの時に沢村さんに相談して日本の会社を母体としてM-worksを設立した。
 『works』の意味は仕事や働くという意味だけじゃなく名詞として芸術作品を意味したりもするように長沢さん、内田さん、オリオールを筆頭とした顔ぶれならば間違いないし、追従する宮下、圭斗、それに飯田さんがいることを思えば妥当なところだろうと決めたのだ。奇抜な名前は遠慮したいので無難と言った所だろうか。
 ちなみに『M』はもちろん深山のMだ。
 決してマゾのMではないという事を言っておく。
 
「今回植草さんは新たにこのグループの中でこの屋敷の管理、そして当面は何ができるか模索して実行してもらう事をお願いしたいと思います」
  
 さすがにあまりに漠然とした言葉に目を見張っていたが、ある程度こちらの意見を通させてもらう。
「そこの棺桶に足を入れかけている爺さんを最後までこの屋敷で可能な限りのお世話のサポートをしてもらいたいと思っています。
 その後は植草さんが定年希望するまで、とは業績によりますがなるべくこの屋敷を維持しながらできる可能性と植草さんが希望する事を遂行してみたいというチャレンジをしたいと思っています」

 決して投げやりな判断とは思ってほしくない。
 一日住んでみてわかったがこの家は暮らす人にとてもやさしい作りになっている。
 玄関から足を挙げる高さから廊下の幅、ドアの広さはもちろん空間を快適に感じる広さにこの狭い空の地域でも採光の不足を感じない室内の居心地の良さだけを求めて作り上げた設計と投資にはただお邪魔しただけじゃ感じる事のない安らぎを感じたのだ。
 ルームツアーから感じていたがさすが本物の金持ちの家は総てにゆとりがあって余裕があり、深山の家と同じくらいの解放感を感じていた。まあ、景色はそれほどでもないが、そのギャップを埋めるような手の込んだ庭はすぐにでも手を入れたい状態。
 それをぐっと我慢をして整える程度で治める俺、できる男?と意識を明後日のほうに飛ばして刈り入れたい衝動を押さえつけた俺、立派な大人だと一人感動してみる。ちょっとむなしい。
 だけど植草さんは難しい顔をして
「そのような事でよろしいのですか?」
 真剣なまでのその視線に俺はそうだよなと植草さんの求める質問に対して
「俺が用意したふもとの家の隣ではかつての職人が復活して何年先までの注文を貰う職人がいる。フランスには有名レストランのシェフが第二の人生を謳歌するレストランを経営している。同じ場所で一度取り上げられたバイオリンでもう一度バイオリンに打ち込む人生を手にした子供もいる。イギリスに残した家では志の高い学生をサポートしながら自らも夢をかなえるために勉学に励む道を選んだ奴もいる。
 植草さんはこの屋敷を手にして何ができるかすでに考え出していると思います。
 だけど勘違いしないでください。
 俺は才能ある方にそれらを託してきて、みんなそれなりの実績を残しています。
 植草さんには少しレベルを上げさせていただいて自ら企画そして運営をしてもらいたく思っています。
 それだけの実力があると見込んでの雇用です」
 そのような事程度で納められる問題ですかと逆に問いただせば
「となると予算が必要です。さらに木下様が暮らすとなるといろいろ条件があるでしょう」
 なんてすでに考え出している思考を邪魔しないように
「そこは爺さんと話して決めてください。
 あと金銭的な問題は気にせずに起こしてください。振るい分けは俺の方でさせていただきます。相談はそれからにいたしましょう」
 そこで室内を見渡し
「この屋敷に劣るようなものは容赦なく落とさせて貰いますので確り勉強をしてきて下さい」
 きっと植草さんが危惧した言葉の逆を突く俺の指示に目を見張り、そして丁寧に俺に頭を下げる様子を見て爺さんの笑う声がひどく満足げなものに俺も笑みを浮かべるのだった。









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