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一人、二人、そして 10
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チョリの言葉に喜んだのは孫よりも爺さんの方だった。
「さすが稔典だ!
今までずっと頑張って来たのはこの時の為だったんだ!」
そういって稔典君を抱きしめて涙を流しながら振り回していた。
いや、チョリさん。これは責任重大ですよ?
視線で訴えるもチョリさんはひどくまじめな視線で
「だけど今のままでは受かるか受からないか微妙なラインです。住み込みで来てもらっても構わない状況です」
つまり今のままでは受からないという事だろう。
稔典君は気づいてないようだけどそこは妖怪爺さん。チョリの言う事を理解してすぐに真面目な顔をして
「レッスン料や留学先の滞在費はもちろん授業料もそれこそバイオリンも用意しよう」
そういう顔にチョリさんは
「そうですね。お持ちのレッスン用のバイオリンでは話にならないのできちんとしたものをご用意してください。
どこぞの誰かさんみたいにストラディバリウスとかカルネリウス、アマティみたいな名器をご用意しなくても大丈夫です」
そう言って俺をちらりと見る視線は二人分。
なんだよー、なんか文句あるのかよー?
あれは押し売りに負けて買わされただけなんだよー。
一応それでも目的があって購入させていただいたのでお孫さんに譲るつもりはかけらもない。
チョリさんが今の教師の名前を聞いたりといろいろ話をしている間に爺さんは桜井さんを呼び寄せてバイオリンを買ってこいとご命令。留学するのに必要だからそれなりのものを買ってこいと言う大雑把な指示の様子に慌ててチョリはそのスマホを取り上げてこのくらいの金額でと言う指示を出していた。
その金額もびっくりだけど、まだまだ学生が弾く程度なのでこれぐらいでいいという何か目安でもあるのか、あと後日指定の楽器屋に行って弓も作り直したいと音楽家らしい言葉を言っていた。
その合間に爺さんはタブレットを持ってきて孫と一緒にチョリが言っていた学校を調べたり、爺さんは学費などを調べたりと無駄に行動が早くて呆れてしまう。さすが大企業の会長をしているだけある。
そんな様子を見ながら
「小学校を卒業する前に学校変わる事になっても後悔しないのか?」
聞けば
「別に。
だって今の学校は母さんが行かせたくて入った学校だから。
そのくせバイオリンがあるから体育の授業を受けさせないとかレッスンがあるから学校を休めとかもう無茶苦茶でさ。そういうのって、結局学校じゃ浮いて友達いないからやめても何も寂しくないね」
その言葉に爺さんが動揺しないところを見るとずっと相談していた事なのだろう。
「お母さんから離れられるのも良いし、バイオリンの事を話せる環境も良い。
こんな風にバイオリン習わせているくせに将来には必要ないって言うんだ。
要は自慢の息子が弾くバイオリンを母さんの友達に自慢したいだけなんだ。
俺は音楽大学を出てバイオリンで独り立ちできればいいのにって言ってるんだけどね」
今時の小学生はなんてしっかりしているのだろう。
俺もこんな性格だったら少しは…… 変わるわけないな。
俺も問題だけど両親揃って問題だったのだ。
全くお互いに興味を持たない同士が家族をするとこうなるという例が俺の生家の話し。
ここは近い所に話のわかる爺さんがいてよかったなと思う事にしておいた。
「で、爺さんはいつ稔典君の両親に話をするの?」
「もちろんすぐだ。だがここには呼べないから稔典を連れて出かけてくる。
よければ大林君も付き合ってはもらえないだろうか」
「もちろんです」
そこは一人の子供が親のペット化と言う虐待を受けている事を踏まえて力強く頷いてくれた。
なんて恵まれた虐待だろう。
とは決して思ってはいけない。
一切の自由はないし、一切の思考も必要ないとされる。ましてや行動のすべてを監視下に置かれ、それどころか行動制限もされる反抗期を前に押さえつけられて一切の意思を必要とされない精神の否定に頭を悩ませていたのだろう。
むしろなんで母親にカウンセラーをつけないのか不思議だが、子供の教育以外ならいたって普通の母親だという。
それね。
そこでもう普通って言葉じゃない事に気が付かないのかなと呆れるも、大企業の会長さんの息子の嫁なのだ。汚点は作りたくないし、周囲の人間関係のお子さんとの競争もあれば旦那さんのストレスを向けられているなんて考えればこういった行動も理解できるというもの。
決して理解してはいけないことだけど行動原理は納得できる。
いずれも爺さんの会社を受け継いでいくためのステップなのだろう。
当人はバイオリニストになりたいって言っているのに、これだけ本格的に弾かせておいて教養の一つぐらいしか考えてないよそ様の家庭とは言え大変だなと眺めながらあまりの展開の速さに少し温くなった茶を飲み干し、新しい茶が欲しいなと湯呑の底を眺めながら
爺さんとの付き合いが終わる。
そんな寂しさを抱えていたがこうやって世代を超えてまだまだ縁がつながる付き合いになるだろう。
爺さんとの思い出を語れる相手を得たことに少しだけ嬉しく笑みを浮かべる綾人だった。
「さすが稔典だ!
今までずっと頑張って来たのはこの時の為だったんだ!」
そういって稔典君を抱きしめて涙を流しながら振り回していた。
いや、チョリさん。これは責任重大ですよ?
視線で訴えるもチョリさんはひどくまじめな視線で
「だけど今のままでは受かるか受からないか微妙なラインです。住み込みで来てもらっても構わない状況です」
つまり今のままでは受からないという事だろう。
稔典君は気づいてないようだけどそこは妖怪爺さん。チョリの言う事を理解してすぐに真面目な顔をして
「レッスン料や留学先の滞在費はもちろん授業料もそれこそバイオリンも用意しよう」
そういう顔にチョリさんは
「そうですね。お持ちのレッスン用のバイオリンでは話にならないのできちんとしたものをご用意してください。
どこぞの誰かさんみたいにストラディバリウスとかカルネリウス、アマティみたいな名器をご用意しなくても大丈夫です」
そう言って俺をちらりと見る視線は二人分。
なんだよー、なんか文句あるのかよー?
あれは押し売りに負けて買わされただけなんだよー。
一応それでも目的があって購入させていただいたのでお孫さんに譲るつもりはかけらもない。
チョリさんが今の教師の名前を聞いたりといろいろ話をしている間に爺さんは桜井さんを呼び寄せてバイオリンを買ってこいとご命令。留学するのに必要だからそれなりのものを買ってこいと言う大雑把な指示の様子に慌ててチョリはそのスマホを取り上げてこのくらいの金額でと言う指示を出していた。
その金額もびっくりだけど、まだまだ学生が弾く程度なのでこれぐらいでいいという何か目安でもあるのか、あと後日指定の楽器屋に行って弓も作り直したいと音楽家らしい言葉を言っていた。
その合間に爺さんはタブレットを持ってきて孫と一緒にチョリが言っていた学校を調べたり、爺さんは学費などを調べたりと無駄に行動が早くて呆れてしまう。さすが大企業の会長をしているだけある。
そんな様子を見ながら
「小学校を卒業する前に学校変わる事になっても後悔しないのか?」
聞けば
「別に。
だって今の学校は母さんが行かせたくて入った学校だから。
そのくせバイオリンがあるから体育の授業を受けさせないとかレッスンがあるから学校を休めとかもう無茶苦茶でさ。そういうのって、結局学校じゃ浮いて友達いないからやめても何も寂しくないね」
その言葉に爺さんが動揺しないところを見るとずっと相談していた事なのだろう。
「お母さんから離れられるのも良いし、バイオリンの事を話せる環境も良い。
こんな風にバイオリン習わせているくせに将来には必要ないって言うんだ。
要は自慢の息子が弾くバイオリンを母さんの友達に自慢したいだけなんだ。
俺は音楽大学を出てバイオリンで独り立ちできればいいのにって言ってるんだけどね」
今時の小学生はなんてしっかりしているのだろう。
俺もこんな性格だったら少しは…… 変わるわけないな。
俺も問題だけど両親揃って問題だったのだ。
全くお互いに興味を持たない同士が家族をするとこうなるという例が俺の生家の話し。
ここは近い所に話のわかる爺さんがいてよかったなと思う事にしておいた。
「で、爺さんはいつ稔典君の両親に話をするの?」
「もちろんすぐだ。だがここには呼べないから稔典を連れて出かけてくる。
よければ大林君も付き合ってはもらえないだろうか」
「もちろんです」
そこは一人の子供が親のペット化と言う虐待を受けている事を踏まえて力強く頷いてくれた。
なんて恵まれた虐待だろう。
とは決して思ってはいけない。
一切の自由はないし、一切の思考も必要ないとされる。ましてや行動のすべてを監視下に置かれ、それどころか行動制限もされる反抗期を前に押さえつけられて一切の意思を必要とされない精神の否定に頭を悩ませていたのだろう。
むしろなんで母親にカウンセラーをつけないのか不思議だが、子供の教育以外ならいたって普通の母親だという。
それね。
そこでもう普通って言葉じゃない事に気が付かないのかなと呆れるも、大企業の会長さんの息子の嫁なのだ。汚点は作りたくないし、周囲の人間関係のお子さんとの競争もあれば旦那さんのストレスを向けられているなんて考えればこういった行動も理解できるというもの。
決して理解してはいけないことだけど行動原理は納得できる。
いずれも爺さんの会社を受け継いでいくためのステップなのだろう。
当人はバイオリニストになりたいって言っているのに、これだけ本格的に弾かせておいて教養の一つぐらいしか考えてないよそ様の家庭とは言え大変だなと眺めながらあまりの展開の速さに少し温くなった茶を飲み干し、新しい茶が欲しいなと湯呑の底を眺めながら
爺さんとの付き合いが終わる。
そんな寂しさを抱えていたがこうやって世代を超えてまだまだ縁がつながる付き合いになるだろう。
爺さんとの思い出を語れる相手を得たことに少しだけ嬉しく笑みを浮かべる綾人だった。
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