人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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番外編:山の暮らしにバレンタインは意味をなすのか

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「綾人さん宮下さんの奥さんから荷物を預かっていますよ」

 宮下家の前に郵便ポストを置いてある理由は冬場の週一配達が無理な事と以前みたいに郵便局まで取りに行くのが面倒なのとどのみちそこまでくるのなら預かるよとの宮下家の心遣いに定着しているシステムだ。法律もあり郵便局員は渋い顔をするものの、ポストがあれば良いじゃんと言う理由で無理を通させてもらっている。配達員には喜ばれるしポストも宮下のDIYで費用は0円で俺にも喜ばれている。でも宅配は冬季以外はきっちりうちまで届けてもらっているが、こんな田舎で郵便物を盗む奴なんていないだろうと思っていたらリスが巣材に持ち逃げしたり、鳥がポストの中で子育てをしていたりと郵便局員が嫌がる理由を初めて理解するのだった。
 そんな荷物を週一で山を降りる時にもらったり、飯田さんが受け取ってくれたりとなかなか便利だとは思うが

「段ボール箱?」

 簡単にガムテープで止められただけの箱を覗き見れば色とりどりのラッピングの箱と甘い香りに

「あー、おばさんからバレンタインのチョコレートだ。そうか、今日は二月十四日か」

 お馴染みアルファベットが描かれたチョコレートに貼り付けられたメモを見て日付を確認するのだった。
「いいえ、残念ながら十五日です。十四日だったら青山が休ませてくれませんよ。ですが、こちらは懐かしいですね?」
 早速と言うように袋を開けて飯田さんと一緒に口へと運ぶ。ほんのりビターで飾り気のないチョコレートはお年寄りに大好評の為にうちでは常備していた事を思い出しながら
「バアちゃん、ジイちゃん、宮下のおばさんからバレンタインのチョコをもらったからお裾分けです」
 チーンとおりんを鳴らし手を合わせてなんまんだー。ゆるい報告と義理はこれで終了。
 その後ゆっくりチョコレートだと思うものを見れば見覚えのある差出人の名前がずらり。
「ああ、皆さんお元気そうで」
 嫌がらせのごとくかわいらしいメッセージカードも添えられていて飯田も馴染みのある名前達に俺はラッピングを外して中身を確認。
「あいつらわかってるなあ」
 ニンマリとしながらGの字マークでお馴染みの世界的ブランドのチョコレートを口に運ぶ。
「無事卒業できる事に感謝するならってバレンタインにはこのチョコレートをってねだった甲斐がありますね」
「ふっふっふっ、あいつらに都会の洗礼としてバレンタイン売り場の特設会場に突入してこい命令が未だに有効なのが俺にはウケるんだけどー!」
 どんな顔をして買いに行ったのか想像して笑う。勿論今は通販を利用すると言う知恵をつけたのでわざわざ買いに行く事はないだろうが、それでも今もこうやって送ってくれるのがくすぐったいほど嬉しくて可愛い奴らだよなとホワイトデーのお礼は座布団のようなステーキと決めている。チョコレートでステーキが食べられるのなら安いものだと送ってくるのが理由だと理解する飯田はそれでも皆さん忘れずに交流を続けてくれているので微笑ましく眺めるに留めていた。勿論飯田も美味しいチョコレートにありつけると言うのも理由の一つだが。
 だけどこう言った交流を続けていくと思わぬ弊害というか手抜きではないだろう金額の笑いを取りにくる奴らもいる。
「誰だよ!板チョコ1ボールで送ってくるやつは!!」
 ゲラゲラ笑い転げる綾人から板チョコを取り上げて
「せっかくだからこれでホットチョコレートを作りましょう?」
「ぜひお願いします!」
 そう言って綾人は部屋から動画用のカメラを持ち出して台所にセッティングする間に飯田は料理の準備を始めるのだった。



「材料はチョコレートを好みの分量、牛乳を一人前170cc、生クリーム適量、バター、好みで砂糖やラム酒をどうぞ。
 美味しく作るコツはとにかくチョコレートをきざむ。
 アヤさんがんばってー」
 一通りの材料を説明した後に綾人はもらったチョコレートをひたすらきざまされた。板チョコにして二枚分そこまでいらないだろうと思いながらも刻みながら湯煎を張った鍋に刻んだチョコレートを入れたボールを温めながらヘラでゆっくりと溶かしていく。
「この時に好みでバター一欠片を今回入れていきます。
なくても問題ありません。
バターを少し加えるだけでこってりとした仕上がりになります。
無塩有塩は好みでどうぞ。
今回はほんのり塩味を隠し味になるように有塩を使っていきます」
 言いながら溶けかけたチョコレートにバターを入れながら
「チョコレートを湯煎で溶かしていくとどんどん冷えていくので溶ける前に固まりかけてしまう時は新しいお湯に切り替えてください。今回は電気コンロで60°で熱を加えながら溶かしています。さらに面倒と思う人は電子レンジでチンしてください」
 言えばタイミングよく電子レンジがチンとなった。
「俺の努力は?!」
「美味しいホットチョコレートという結果で納得しましょう?」
 なんて笑いながらスルーしたところで全部溶けたころ合い。二つのチョコレートを混ぜ合わせた。
「これぐらいに溶けたら牛乳を加えます。だけど思ったより量が多いので適当に減らします。足りなかった時飲む時に追加できるし、いちごに絡めて食べても美味しいです。
 温めて湯気が立ち出した頃の牛乳を三回に分けるようにして注いでください。冷たいままですとチョコレートが固まって分離したようなホットチョコレートになるので温度には注意してください」
 言いながら三分の一ほどの牛乳を注ぐ間も一生懸命綾人は泡立て器に変えて混ぜ合わせる。
 何とか混ざったところでさらに追加、そしてまた追加。
「このような感じでうまく混ざったら混ぜている間にも冷えていくのでもう一度温め直します。牛乳を入れているので沸騰しないように注意してください。温度が高くなると牛乳も膜を貼るので貼らない程度が適温です」
 適当な感覚料理だけど、コツさえ間違えなければ美味しい事は保証済みなので意外にも好評な事はコメント欄が語っている。最も動画を見ながら作っても飯田さんが作ったみたいに美味しくならないのが不思議だが、そこは飯田さん曰く
「そこがプロとアマチュアの差なのですよ」
 と笑うのが毎度悔しくていつか美味いと唸らせるのが密かな目標だ。
 後はいつの間にホイップしていた生クリームを飾って飯田さんが削ったチョコレートを更に振りかけてシナモンスティックを添えていざ実食。
「やばい。ホットチョコレートってこんな美味しいものだったっけ?」
 生クリームの髭を作りながらそっと火傷しないように口をつけて飲んだ一口目の濃厚なチョコレートの味は驚くほど華やいでいるものに変わっていた。
 生クリームの髭を消してシナモンスティックでクルリと生クリームを溶かすように混ぜてさらに一口。
「うわっ、シナモンで混ぜただけでもう味が変化してる!!」
「そこにラム酒を加えると更に美味しくいただけます。アルコールに弱い人はご注意下さい」
 アドバイスと注意事項を混ぜての説明を受けながら一匙分のラム酒を加えてくれて更に香り高くなる。期待が膨らむように口をつければ飯田が作るホットチョコレートは期待を裏切る事はなかった。
「くあーっ!
 こんなの出されたら惚れるしかないだろう!」
「一杯千五百円でどうです?」
「高っ!いや、チョコレート自体が一枚千円弱だから寧ろ安いのか?」
「板チョコ一枚100gですが、今回沢山チョコレートを頂いたので多めにチョコレートを溶かしました贅沢な一品です。半分ほどでも十分美味しくいただけますので分量はお好みでどうぞ」
 飯田の説明の横でうまー何て一心不乱に飲む動画はバレンタイン前に見たかったと言う女性達の悲鳴と早速試してくれた人たちの報告はバターの存在に賛否両論。でも新しい味覚を発見したという人もいるが、このレシピは何百年前からあると言うもの。
「フランスの冬も寒いのではっきりしたくどいぐらいにコッテリとした甘さが求められますので」
「この国じゃ受け入られ難いかも」
 そうなのですと困った顔の飯田だけど、電子レンジから漂う甘い香りに俺は期待の目を向ける。
「溶かしていただいたチョコレートの残りをパウンドケーキに混ぜてみましたマーブルケーキです」
「いつの間に」
 仕事が早いなあと感心するも綾人さんがチョコに苦戦する合間ですとしれっとした顔で言い返されてしまう。料理に関しては勝てる気がしないと悔しく思うも飯田の料理を独占する一時の時間がある事で綾人は満足するのだった。
「さあ、焼けるまでもう少し時間がかかります。その間に片付けちゃいましょう」
「うぃー」
 飯田の気合に綾人も元気な、でも照れ隠しのようなマヌケな返答。
 体の中から温めてくれたホットチョコレートは鬱になりがちの長い冬山生活に年に一度の楽しみを与えてくれるアイテムとなるのだった。



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本編が終わったので再再復活です。
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