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うちの隊長はちょうどこのころ宮廷騎士の鎧を支給されてましたがテンションは上がりませんでした

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 恐怖に身体が振るえる。
 斬り付けられた、それだけの恐怖ではなく得体の知れないバケモノと遭遇した。
 髪も瞳も光さえ吸い取るような怨念渦巻くそんな色に背筋が凍え、息さえまともに出来なくなる。
 腰が引ける……
 あの日初めてこいつと遭遇した時を思い出して怪我で足に力が入らない状況でも本能が逃げ出そうと滑る地面を何度もけりつけていた。
 逃げろ!
 そう叫ぼうとするも声は出ず、辛うじて振り返ってヴァルターを見れば俺を置いて逃げ出そうとするところだった。

「見たかホルガー、あれがあのクソの正体だ。
 いくら可愛がっていようがいくら大切だ、兄弟だ、家族だと言ってもあいつはお前を見捨てて逃げたんだ!
 どれだけ年月が経とうがクソだ!結局自分の命が大事なだけのカスだ!」

 まるで何かの希望を持っていたかのような涙ながらの雄叫びに俺は理解した。
 こいつは心の底でまだ何か期待していたのだと。
 その叫びを聞きながらへっぴり腰で逃げて行く様子はギルドを出てここに向かって来た時の姿はもうどこにもない。
 
「ああ、結局お前も見捨てられたなホルガーよぉ。
 こんなにもひでぇ怪我したのに捨てられて可哀想になぁ」

 懐からヴォーグの薬を取り出して一口飲む。
 残りは少ないのにと舌打ちしながらも傷が見る間に癒えて行くのを収まる痛みに理解してゆっくりと立ち上がり

「お前は判ってないなぁ。
 あいつは元々この場に居るのは不釣り合いなくらい弱ぇんだ。
 ここから逃げてもらった方が俺達の方にはありがたいだろ?」

 ニヤリと笑えば俺が絶望する事を期待していたバイロンは理解できないという顔をしてから憤怒に染め上げて

「お前は見捨てられた!捨てられたんだ!」
「違うな。あいつは退避した、それだけだ」

 ブーツの中に隠し入れていた二本の短剣を両手に持ち

「取り方一つでこうも差が生まれるとは、人間とは判らんな」

 漆黒の男が不意に城を見上げ

「私は向こうに行く。
 シュヴェア、ドバリーは遊んでやれ」
「待て!」

 静かにたたずみあがら城を見上げる男に二本の探検で襲い掛かるもその姿は黒い霧となって揺れて

「お前程度の剣が当たるほど私は弱くない」

 耳元で、耳の奥に張り付くかのような呪に身体がすくみ、膝が今にも崩れ落ちそうになる合間にも目の前の男は消えて何処かへと、城へと向かって行ってしまった……

「まぁ、ヘヴェデスとやり合いたいのは判るよなぁ。
 俺だってやり合えるのならやり合いたいし。
 でも、まぁ、あいつあれでも六魔将軍バンドラーの直属の部下だからな。
 あいつの部下の俺達でもそれなりに楽しめるもんだと思うぜ?」

 まるでどこにでもいるような青年のような魔族はそれでも瞳に狂気を孕んでいた。
 
「ああ、俺は狩りの方を楽しんでくるなぁ?
 ペットも欲しいし、ああお前」

 言いながらバイロンの背後に立ち
 
「お前じゃこいつに勝てないだろうからいい物やるよ」

 首筋の頸椎あたりに何やら黒い種のような物を押し付けた。
 
「な、んだ?」

 驚くバイロンに

「こいつは魔界の何とかって言う種でよ。
 通称魔物の種。
 人間の負の感情に反応して宿主に寄生して支配するって言うおもちゃなんだ」

「手が勝手に……」

 焦るような声とは別にバイロンが持つ剣は次々にホルガーへと繰り出していた。

「おい!この種を外せ!
 俺はヴァルターを!あのギルドの奴らを!」

 叫ぶ声とは別にホルガーが距離を取ればそれより近い場所にいたバイロンの仲間へと切りかかっていた。

「バイロンてめぇ!
 裏切るつもりか!!」
「違う!手が勝手に、動くんだ!!」

 焦るようかの悲鳴に種を植え付けた男は笑っていた。

「この国を滅ぼしたいんだろ?
 だったらお仲間なんて必要ねえじゃん。
 気に入らん奴らもどうでもいい奴らも、そして仲間もみんなこの国の物なら総て滅ぼすのがお前の意志じゃねーのか?」
「違う!
 俺は見返したかったんだ!
 俺はちゃんとあいつらをのうのうと生きてる奴らを裁きたかったんだぁ!」

 悲痛の悲鳴の合間にも仲間だった者達を次々に斬り付けて屠って行くのを眺めながら魔族の二人は楽しそうな顔で

「そりゃ嘘だ。
 じゃなきゃ魔界の種がそんなにも育つわけねーよな?」

 何時の間にだろう。
 種から根っこのような物が伸び、バイロンの腕の力を強化するように巻きつき、足にも同様に巻き付いていた。
 背中も腹も頭も宿主を守るかのように根が蔓延り、何故かかおだけが無防備にもさらされていた。
 だけどその顔は恐怖にゆがみ助けてと願う物。
 それを見た魔族は満面の笑みで

「いい顔してお前可愛いなぁ。
 怨嗟、恨み、辛み、恐怖に苦痛、更に絶望なんて俺達のご馳走だぁ」

 ぺろりと舌なめずりする魔族に

「ああ、安心しろ。
 これだけ恨んでいればお前の力は魔王クウォールッツ様の力になる。
 人間すら裏切るんだからお前は立派に魔族としてやっていける素質があるぜ」

 笑いながらホルガーへと向けて背を押した。
 たたらを踏むかのような足取りは魔物の種でしっかりとした物へと変り、正面に立って二本の短剣を構えるホルガーに

「ホルガー、助けてくれよ……」

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔には理性と心からの感情が浮き上がっていた。

「体が言う事聞かねーんだ!
 この変なヤツを剥がしてくれ!」
「剥がすってどうやって?
 そいつはもうお前の体の一部だ。
 ああ、立派な魔物になったな」

 テンションの高くない方の魔族が何を今更と言うように言い不思議そうな顔で

「これでお前の望みが叶うじゃないか。
 何を今更嫌がるんだ?
 かき集めた仲間を焼き殺してここに来るまでどれだけの数を殺してきた?
 魔族に引けを取らない事をしておきながら何を今更嫌がる」

 理解できないという魔族の疑問にバイロンは視線だけを自分達が来た方向へと向けて唇を震わせていた。

「あ、あ…あ……」

 やっと自分がしていた事を理解したのだろう。

「間違った正義に取りつかれて見えてなかったのか?
 だけどなバイロン……
 お前はもう許されない所まで来た事ぐらいは理解してるか?」

 ホルガーが問う間にも勝手に動くという体は何度も切りかかって来るが、本来のバイロンの動きとは違い緩慢で単調で

「助けてくれ……
 こいつを取ってくれ……」

 尚も生きたいという願いは絶望に彩られているもののホルガーと言う希望に縋りついていた。
 だけどホルガーは首を横に振り

「悪いが助ける義理はねぇ」

 二本の短剣で緩慢な動きの攻撃を捌きながらも理性と感情だけは残されたバイロンに向かって言う。

「見えるだろ?
 お前がして来た事はもう人じゃねぇ。
 そしてそれを取る事ももう無理だという。
 なら俺がしてやれるのはお前に人間としての心が残っている間に殺してやる事だ」
「嫌だ!いやだ!イヤダ!
 まだ死にたくない!!!」
「お前はそう言う声も無視して糧にしてここまで来たのだろ?
 だったら俺が責任とってお前の悲しみぐらいは解放してやる」
「まだ生きたいんだ。
 最後に姉さんに会いに行きたいんだ……」

 ぼろぼろと涙を零して願う顔に俺は首を横に振る。

「それは叶えてやれない。
 お前に最後の願い望んで引き裂かれた人達の数にお前だけが希望を叶える事なんて許されると思うのか?」

 引き攣った顔はそれでも懇願する様に俺を見るが、俺はそっと視線をそらして種が何も守らない唯一の場所へと剣を突きつけて反対側に在る種へと向かって貫いた……
 
 どんな場所からでも魔核を貫くという訓練をさせられた。
 それがこんなに悲しい事なのかと思いながらも最後まで希望に縋りつく顔から目を背けながら剣を構え直す。

「次はお前らだ」
「ヘヴェデスの目に留まるだけはあるな」

 感心するかのように値踏みをする男と

「やっぱり魔物の種じゃ強化は出来てもやっぱり中身は人間じゃ楽しめても結果は出せないな。つまんねー」
「所詮はその程度のおもちゃだ。
 だけど、あちらさんはその気になってくれたから楽しめるぞ?」
「おれあんな暑苦しいのパス」
 
 適当によろしくと言って街中に行こうとした姿が突如前に進む姿のまま吹き飛んで俺の横をかすめて行った。

「な、なんだ?」

 俺も魔族も突然の出来事と改めて通り過ぎて行った魔光の残滓に何かの魔法だったのかと理解すれば

「ホルガー大丈夫か?!」
「こちらはあらかた捕獲したわ!」
「逃げれる人は今すぐ逃げて!」
「魔族が二体もいたのか?!」

 駆けつけてきた仲間の顔に何だか無性に泣きたくなった。
 だけど何とか辛うじてそれを抑えて

「もう一体いる!城の方に行っちまった!
 例の奴だ!」
「マジか?!
 とりあえずこっちの二体を仕留めよう!」
「境界線を引くわ!」

「おいおい、何だ?
 お仲間か?
 さすが群れるのが得意な人間、仲間がいるとなると途端に元気なるもんだなあ」

 関心と言う顔でドバリーは言うも

「ってー!
 だれだ!このシュヴェア様に魔法の矢何てぶっ放つバカは!殺す!」

 シュヴェアは頭に羊の良な角を出して鋭い目つきの凶悪な顔で腹を撫でながら広場に戻ってきた。

「お?シュヴェアはやる気か。
 だったら俺も本気を出さないとな」

 言いながらも頭からヤギのような角を生やしたドバリーは何時のまにか蹄の足に変わった物で地面を何度か踏み鳴らして笑みを浮かべた。

「魔族にこの姿を曝させた意味に恐怖しろ」

 本気の戦闘態勢に俺達は改めて武器を構え直し、俺は弾き飛ばされた剣を構え直すのだった。










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