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雪那 由多

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夏を迎える前のアレ 4

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しのさんが用意するテスト対策のプリントは毎日容赦なく増えて行った。
 俺も気になって手に取ってみれば基礎学力のおさらいから始まってからの応用問題と変わる。
 もちろん今回受けるテストに沿った内容にもだ。

「知らない事を学ぶのは楽しいよね」

 借りた教科書と過去の入居者が置いて行ったテスト問題を見て作ったというテスト対策のプリント。
 まじ素晴らしいと思う。
 とは言え瑞己や颯也のテスト対策はほとんど論文がメインだ。
 こればかりは学部も違うしのさんには難しそうだけど

「大丈夫。ポイントとか欲しいキーワードの予測のつけ方は解るから提出する前に見せてもらえば十分だから」
「しのさんどこの大学教授ですか?」
 
 なんて真顔で聞いてしまったのは俺だけではないようだ。

「学生の頃勉強を教えてくれた人が論文なんて求められている事を一つでも多く説明が出来ればいいんだって。
 その要所要所にキーワードになる言葉をちゃんと使えばさらに問題ない。
 あと資料とした情報は漏らさずにちゃんと記入する事。これとっても大切だからそれさえクリアすれば問題ないよ」
「言うは易しだねしのさん」
「ねー、それが難しいのにって言うのにね」

 なんて苦労したという顔をするしのさん。
しのさんもきっとこの判り切っている事をなぜに分からないという様な感じで学んできたのだろうことは想像がつく。

「論文を書くにあたっては本をよく読むのもお勧め。
 物語みたいに順序だてるのは当たり前だし、目的と結論を説明するのもそうだし。
 サスペンスじゃないけど最初に結論を持ってきてその結論にたどり着く前の事を順序だてて検証するのも手法の一つだし。
 後は上手くまとめるだけ、って言うのもまた難しいけどね」
「こればかりは慣れだな。
 バイトばかりしていて出来なかった馬鹿が身に染みてわかっていると思うが」
「しのさーん、修司さんが怖いよぅ」
「じゃあ、修司に怒られないように頑張ろうか?」
 そんな逃げ出したくなるような笑顔。だけど逃げられないのは分かっているから
「とりあえずここまで出来た奴読んでみてください」
 なんてプリントアウトした論文をしのさんに見てもらう。
 黙って提出しなくて良かったと思いながらもしのさんは俺から赤ペンを借りて二人で修正するポイントにチェックを入れるのだった。
 これで颯也も来年は4年生だなとほっとしつつ、俺はご飯を用意する。
 今日はしのさんのリクエストで海鮮あんかけチャーハンになっている。
 意外と味の濃い物も好きなしのさん曰く

「修司の作るあんかけのあんって普通に焼きそばにもかけたら美味しかったよ」

 まあ、あんかけ焼きそばも同じあんなので当然かもしれないけど……
 すでに出来た鍋にたっぷりの海鮮あん。イカやアサリ、エビがたっぷり冷凍食品の安価なすばらしさは本当に助かっている。
 そして黄金色に輝く炒飯の隣にはバリバリの焼きそばが置いてあって……

「そろそろご飯だから机の上を一度片付けろ。あと手伝えー」

 言えばすでに室内いっぱいに漂うご飯の匂いにそわそわしていた皆はあっという間に片付けからのご飯の準備。
 駆け足でご飯を運ぶ様子をほほえましく眺めながら最後に海鮮あんを炒飯と焼きそばの上にかける。
 炭水化物に炭水化物。
 腹ペコの奴らには至上のコンビ。
 本当かどうかは考えてはいけないけど、みんなの目の前であんをたっぷりとかければ目をキラキラとさせていき……

 鍋を置いて戻ってくるまできちんとマテが出来た瑞己たちと一緒にそわそわして待ってるしのさんの様子にも満足して

「では、いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」

 どこのガキかと言うように握りしめたスプーンで幸せそうに勢いよく食べていく景色にこの分なら今回は全員単位落とすことなく後期に向かうことが出来るなと考えながら俺もあんをたっぷりと絡めた炒飯を堪能しながらおこげも良かったなと考えてみるのだった。



「じゃあ、しのさんを駅まで送ってくるから洗い物したら遊んでないで勉強の続きやれよ」
「みんなおやすみー」
「「「「「おやすみなさい」」」」

 そんなここ数日繰り返す日常。
 平和だ。
 車で送ってもよかったけど俺の運動不足解消と言う問題にしのさんに付き合ってもらっている。
 しのさんを送る分には下り坂だししのさんも一緒だからあっという間だけど帰り道は俺一人だから時間が長く感じる。さらに緩やかとは言えど上り坂。
 途中自販機でよく冷えたお茶を買って飲みながらの一人旅。
 10分程度だけど。
 夜になってもしっかり熱い夏の始まり。
 本番はまだこれから。
 街路灯に集まる蛾の多さにもうんざりしながらも

「早く帰ってビール飲みてぇ」

 そんな楽しみもある夏の夜の過ごし方。
 早く家に戻ってエアコンの効いた部屋に飛び込みたいと思いつつ

「縁側でビール飲むのも悪くないな」

 しのさんによって美しく整えられた庭。
 春に丸坊主になったと言ってもいい庭はいつの間にか緑眩しい明るい庭に変わっていて、雑草を育てていたと言ってもいい花壇も畑もこの暑さに負けじと花を咲かせている。既に実ってるトマトやキュウリは朝の食卓の常連となり、毎朝何か収穫できるのが俺の朝の楽しみだ。
 わさわさと実るオクラを収穫してざっと洗う。
 知らなかったけどオクラが生で食べれる事をしのさんから教えてもらって以来鰹節と醤油をかけて食べるのにはまっている。
 〆はキュウリ。さっと塩を振って齧るのがこんなに美味しいとはほんとびっくりだった。

「あー……」

 ほんの一瞬通り過ぎた風の心地よさ。
 風だけに気まぐれに流れて行っただけだけど。
それよりも今はキンと冷えたビールを片手に縁側で月を見上げながらの晩酌。
 風流だ……
 なんて思ったのはビールを一本飲み終えるまで。
 
「あっつー。やっぱむりー!」

 と言いながら新しいキンと冷えたビールを求めて快適な温度の室内に逃げこんでいた。
風流な生活なんて俺には無理な事を嫌ほど理解するのだった。
 
 
 
 
 
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