隣の古道具屋さん

雪那 由多

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雨の惨劇 2

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 おびただしいその色に恐ろしい事が起きたのだと理解すれば血の気が引いていく音を耳にしてそちらに目が奪われた一瞬、俺の肩に奥さんの指が、爪を立てるように食い込んで
「主人は一体何をしたのでしょう! あれほど大切にして愛した古道具にここまでされる理由は一体何がっ! もし知っていることがあればっ!!!」
 泣き叫ぶ悲鳴に気付いてバタバタと足音がやってきてぎょっとした顔で白髪交じりの人が俺にすがる奥さんを力任せに離してくれた。
「ええと、母が申し訳ない」
 情緒不安定な事を知っての言葉なのかと理解すれば
「佐倉古道具店の佐倉香月です。
 この度はご愁傷さまです。心よりお悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます。
 こんな事件がありまして、あまりに酷い姿になってしまい保存も難しく病院に向かってのまま火葬の許可をもらって……
 あまりに心の準備ができないまま形ばかりの葬式を出すことになりましたのでちょっと……」
 頭を下げてからその先は何も言わずに泣きじゃくる母親をしっかりと抱きしめていた。
「佐倉さんの事は父からお噂を兼ねがね。同じ古道具屋として一度ゆっくりお話をしてみたいと思っていましたが今は喪中ですので……」
「はい、お忙しい所お時間をいただきありがとうございました。では私はここで……」
 そう言って逃げるようにこの店を後にして慌てて止めてあった車の中に逃げ込み……



「親父?いま迪林堂さんの所にいるんだけどすでにご主人が亡くなれて……
 手紙を預かったんだけど……」
 スマホ越しのおやじはこの報告に言葉が出ないという様にしばらく返事が出来なかったけど
『一度戻ってきなさい。時間はないけど思ったより厄介なことになった』
 強張る声で
『依頼人の息子さんが車の事故で大けがを負ったと今こちらも連絡をもらった。
 きっと我々も他人事ではいられないから安全運転で気を付けて帰ってきなさい』
 ぞっとするような寒気に襲われたと同時にさっきまでもうすぐで上がりそうな雨空がまた暗くなり、雨脚が強くなって……
 水に強くかかわりあいのある相手だけに逃さないぞと言われているような気分だった。
 俺には黒い糸のような靄はまだついていない。
 飲み込まれて、黒が濃くなればなるほど向こうの呪いは完成されていくのだろう。

 相思相愛

 鯉たちの思いの深さは想像以上だったことを思い知る。
 特に雌の執着はすさまじく、親父が俺に仕事の手伝いを頼んだその夜には迪林堂さんのご主人は儚くなり、そして依頼人の息子さんも入院するほどのケガをしている。
 そして雌の方は会った事がないからまだその影響はないが、うちには雄の方がいる。すでに七緒を殺そうではなく取り込もうとする雌とは違う絶望を俺達に与えようとしている。
 そして七緒の後は…… 雄を封じ込めてる親父、そして血を受けつぐ俺。雌が見つからなければさらに母、そして手近な俺達の周囲の人達、例えば朔夜とか会う頻度の多い奴から。そもそも頻度が多いから七緒を真っ先に呪ったのだ。不確定の相手ではなく確実に対象者を絞るあたり知能の高さにも驚かされるがこの先俺は生き残れるのだろうかと不安を感じれば……

 ああ、そうか。
 こんな日が来ることを九条は心配して親父に何度も進言してくれたのだろう。

 だけど親父は俺が自分から辞めると言い出すまで俺の気持ちを尊重してくれていて……
 九条もこんな俺の為にお守りを作って俺に与えてくれたのだろう。
 俺がこのお守りのことに気付いて自らただ憧れで進むには限界のある道のりを自ら断つ日を願ってお守りを親父に渡していたのだろう。
 初めてお守りを受け取ってから十数年。
 仕事の時たまに顔を合したぐらいで一緒に茶を飲んだ事もない相手だけどずっと心配してくれていて……

 恥ずかしくて穴があったら入りたい気分。
 だけど今はそれより大切な事がある。
 親友が妹のようにかわいがり、たった一人頼れる人しかいない七緒の明るさに助けられている俺がいて。
 俺を守ろうとしてくれている親父や九条には悪いがこの件だけは俺は降りたくない。
 俺が巻き込んでしまった以上どんな終わり方をするか分からないが最後まで付き合うという心構えができた。
 きっと想像以上に被害が出るのだろう、俺を含めて。
 ビビってるわけにはいかないと思えばちょうど九条の家の寺がある地域のそばを通っていたことに気付いて車を目的地駐車場に止めた。そこで

「九条、すまないが例のお守りはできたか?」
『っち、なんてタイミングだ。丁度できた所だ。っくそ、この為か?!』
「は?」
 何を言ってるのだろうか。それとも怒らすようなことがあったかと心当たりしかない過去だしと思っていれば
『今からで良ければ持っていくが……』」
「いや、ちょうどオマエんところの寺の駐車場に居て、取りに行っていいか?」
『この状況でよくほっつき歩けるな。一応気を付けてうちの敷地内から出ないように社務所に来い』
 そんな命令口調の似合う九条様。喜んで行かせていただきますと言ってスマホを切って車を降りる。
 敷地を出ないように駐車場から直接神社に続く通路を辿って向かえば観光地とあってにぎわっている中に一人の人物に目が行った。

 俺より少し年下だろうか着物を着た男性が歩いてるというそれだけの印象。そんな人物ならこの街では日常的なまでによく見る光景なのは親父自体が店に出る時着物を着ているからだろうか。
 とかく気にする人物ではなかったが、目が追った理由は理解できた。
 着物の男には二つの白い光の玉がふよふよと随行しているのだからこれは珍しいと驚いてしまった。
 鯉たちが黒い気配を放つように白い気配を放つモノもいる。
 神の使いやそれに並ぶ者たち。
 まあ、ここならそういった類は多いだろうと思っていたが、この神社と関係のなさそうな人がしかも二柱も寄り添っているとなるとよっぽどの人か術者なのだろう。
 居る所には居るんだなと逆に強すぎる人から俺は自分の中途半端さを隠すように急ぎ足で社務所に、その人の隣を通り過ぎないといけない場所にあるのが心理的にしんどいが、向こうも俺の存在なんて気づいてないという様に通り過ぎた所で

 わんっ!

 神社内で犬の鳴き声が聞こえ驚いて振り向くもどこにも犬なんて居ない。
 ただなんかよくわからないが不思議な体験をした、そんな気分になれば見えた社務所の前で私服のままものすごい目で俺を睨む九条がいた。



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