隣の古道具屋さん

雪那 由多

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雨の惨劇 1

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 電車で訪れた店へと今度は車で向かった。
 勉強だと言って親父と共に何度も足を運び、店主と言葉を重ね、顔も覚えてもらった店。
 店の前に立って愕然とした。
 先日お伺いした時は真っ黒にだった店が綺麗に何の淀みがなくなっていたことに身動きが取れなかった。
 酷く嫌な汗が流れ落ちる。
 近くの駐車場に車を止めて店の前に立った目の前の文字に思わず言葉として読み上げてしまう。

「臨時休業
 しばらくの間お休みさせていただきます。迪林堂」

 そんな張り紙が一枚貼ってあっただけ。
 その文が言い表すようにレースのカーテン越しの店内は電気もついてなかった。
 思い出したように周囲を見てこの店から延びた…… ではなくこの店にやってきた痕跡もなくなってしまっていた。
 更に、あの腐敗臭も消え去ってしまっていた。
 考えられる理由は二つ上げられる。
 一つは浄化されて消え去ってしまったという例。
アニメや漫画、小説にもあるけど実際に跡形もなく失くしてしまうらしい。
 そんな話見た事がなければ信じられないけどその方法もざっくりと二つに分かれている。
 天に還すか消滅させるか。
 俺が知るのは後者で、それを教えてくれた奴はそれを得意とする人物だった。
 助けてもらっておいて言うのもなんだけどもうちょっと穏便な方法はないのかと当時の俺は恐怖をごまかすために聞けば

「何かの物の中に封じてその存在が消え去るまで何百年と時間をかけて監視する方法もあるが割に合わないから消滅させる方が手っ取り早くていいだろう」
 なんて合理的な事で返された時はこいつとは友人にはなれないと思ってしまった。
 だけど今回偶然とはいえ来てくれた事には感謝したけど
「知ってるか? 俺達の世界には偶然なんてないんだよ。
 誰かが何か企んでて、俺達はこのタイミングで引き合わされたんだ」
 なんてどんな恋愛漫画のセリフだと聞きたかったけど俺が知る九条史上最悪だという顔にこの事件に九条はこれからも深くかかわっていくという事をなんとなく理解した。
 その予感がこの事件に合わせて再会したというように

「なんで巻物の修復を依頼に来てこんなことに巻き込まれないといけないんだ……」
「巻物なだけに巻き込まれたんだろうな」
 しょうもない言葉で返せばなぜかものすごく哀れなものを見る目で見られていた。
「分かってないな。お前も巻き込まれたんだよ」
「なんに?」
 九条が言いたいのはこの事件ではないという事だろう。さっきまで俺達を虫けらのような目で見ていた目が思いっきり同情するような目に代わっていたのだから本当にいい事でない事は理解した。
「今うちの客人が来ているんだが、そいつがものすごく態度のでかい奴でな。人使いが荒くて傲慢でおまけに人を人とも思わない魔王のような男なんだ」
「九条に言わせるなんてすごいな」
 思わず感心してしまった。
「しかもうちに来て引いたおみくじの願い事の部分を見てあいつは言ったんだ。
 『この願い事って奴いつも望みのままにって出るんだけどこれ以外出た事ないんだけどおみくじってこういうものか?』
 って、それを体現する奴とこれからかかわることになるんだぞ」
「さすが九条の知り合い。変な奴だな」
 素で返してしまえば軽く頭を振って口を閉ざしてしまったが……
 
 暗い店内をガラス越しに覗いていれば奥から一人の女性が姿を現してカギを開けてくれた。
 
「佐倉さんの……」
 
 奥様が出てきてくれた。
 息子さんたちはすでに別の店舗を切り盛りしているし、娘さんも嫁いで育児に励んでいると聞いている。店の中に入れば遠くから声が聞こえるあたり帰ってきてるのだろうとぼんやり考えてしまっていた。
 よどみのなくなった綺麗な店に招き入れられてから頭を軽く下げる。
「この度は……」
「ごめんなさいね。これからお通夜ででバタバタしていて」
 突然だったという様に喪服ではなく黒の礼服をまとっている奥様に
「先日お会いしたばかりなのに突然の事、お悔やみ申し上げます」
 言えば
「ご丁寧にありがとうございます」
 そういってお互い深々と頭をさげる。

 奥様のやつれた姿を見て鯉は浄化されたわけでもない事を悟った。
 目標を達成してこの場から去ったのだとこちらも最悪の結末に向かっていることを理解した。
 そう、ここに持ち込まれて掛け軸に作り変えられ売られたのだ。
 その者を怨み殺せば次に向かうのは屏風絵を持ち込んだ男、依頼人の息子の所だろう。
 そして家族へと広がって、番を求めていつかはわが家へとたどり着いて父や俺を恨んで殺すのだろう。
 その執念のすさまじさに冷や汗が流れる。
 今頃になってこの事の大きさに九条が怒りまくるのを納得すれば

「佐倉の若様、せっかく来ていただいたのですが主人は斎場に居まして、家族葬になりますので……」
「でしたら後日落ち着いたころまた父とご挨拶に伺います」
 家族を亡くす、ましてや長年連れ添った伴侶を突然亡くなれば心も追いついていかずという様に疲れ果てた顔色にここにはもう用はないという様に店の外へ出ようとすれば……
「あの……」
 そういって俺を呼び止めた。
 まだ何かあったかと思うも
「主人が亡くなる前の晩に佐倉のご主人に手紙を書き残していて、よろしければ」
 そう言って一通の封をした封筒を渡してくれた。
「これは……」
「私にも。ただ、近いうち佐倉が来るだろうからって言って書いた後神棚の中に片付けていたもので」
 慎重な手つきで俺に封筒を差し出してくれた辺り迪林堂の主人の身に起きた事をある程度は理解しているようだ。
「度々そう言った事はありました。
 ですが、こんなにも素晴らしい古道具を誰の目にも止まらずに処分されるのはもったいない。何かあるのはそれだけ愛された証拠だ。愛した人と別れた悲しみはまた同じように愛してくれる人と出会うことでしか解消できない使ってこその道具。
 これだけ素晴らしいものなのだから正しい主が迎えに来るまで少し耐えてくれといつも言われていましてね」
 そういって静かに笑い

「ですが、あんなにもむごい最期を迎えるなんて……」

 ボロボロとついに溢れた涙に
「いったい何が……」
 聞けば
「店で展示している日本刀を覚えてますか?」
「すごく厳重なケースに入れられていたやつですよね?」
 間違っても倒れないようにしっかり壁に固定してあるこの店には不釣り合いなほど頑丈な作りのケースだった。しかも万が一に備えてケースの中の刀もがっちり刀を抜けないように封じられていたのを見ていけ好かないオヤジだけどその点はしっかりしすぎるほど管理をしていて尊敬をしていた。
「そのケースが倒れ、鞘から抜けた刀が主人の手足を切り取り、さらに……」
 その後は言葉にならなかった。言葉にならなかったところがあるという事はそれ以上の事態もあったのだろう。
 綺麗に片付けられた床にぽっかりと何もなくなってしまった場所。だけど警察が来たのか事件性がないか調べた痕は流れ出た大量の赤も消えないという様に残っていた。



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