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雨の惨劇 4
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「おはよう。七緒の様子は?」
「ん?香月か。
九条のおかげでぐっすりと寝てるぞ」
「そうか……」
喫茶店の準備をしていれば裏からチャイムが鳴って香月がやって来た。昨日の夜、お札を張り替えてから半日ほどしかたってないというのにげっそりと疲れた顔はきっと寝ても疲れが取れないくらいに七緒の為に走り回ってくれたのだろう。香月のせいじゃないのに自分の家族のように七緒の事を心配してくれてほんと良い奴だ。だけどまるで自分が原因だというように沈んだ顔をする馬鹿に
「七緒の顔でも見ていくか?」
気になるだろう。寝ているけど会うか?というように聞くも
「いや、やめておくよ。女の子の寝顔を勝手に見るのは悪いからね。
それに下手に接触回数を増やして鯉に目をつけられたら溜まったものじゃない。
まだ番も見つけてないのに、そしてこの鯉たちの怒りを納めなくてはいけないのに心配して顔をちょこちょこ覗いて朔夜にまで迷惑かけられないから」
だから不特定多数のお客のように接近は最低限にするという。
「一応九条から新しいお守りをもらったし、親父たちもお札をもらったとか言っていたから心配はないけど……」
何やら考えるようにぶつぶつ言っていた声は聞き取れなかったけど、心配性の香月の事だからきっと俺達を守るために最善を尽くしてくれているのだろうと思う。
そんなか香月の為にコーヒーを淹れる事にしてお湯を沸かす。
豆を挽いてコーヒーサーバーにセットして……
「飲んで目を覚ましていくか?」
「ここまで準備されたら頂くよ」
こんな時だからこそ少し心にゆとりを持ってもらいたい。
「ここで帰ったら怒るくせに……」
と呟く声が聞こえたけど分かってるじゃんという言葉を聞けて少しご機嫌になれた。
しばらくの間俺は兄弟のような、そして親友の為に黙って一杯のコーヒーを丁寧に淹れる。
開店したら見慣れた顔の常連客であふれてすぐに賑やかになってたくさんのコーヒーの香りで埋め尽くされる店内だけど今はまだその香りは俺達の周りだけに漂っていて、同時にここには今は居ない爺ちゃんを思い出す。
そのころはまだたっぷりのミルクを入れたカフェオレを俺と香月の為に買ってくれたカップで飲んでいた過去につながった。
学校から帰って荷物を置いてすぐうちに集合して、爺ちゃんのカフェオレを飲みながら香月に宿題を写させてもらう……
ささやかな日常の懐かしい思い出だ。
そんなことを思い出していたなんて顔には出さずに
「どうぞ」
「いただきます」
そしてちょうど俺の朝ご飯用のトーストと一緒に香月の分も焼いたトーストも出せば嬉しそうにもらったそばから嚙り付く。
「不思議だよな。家で同じようにパンを焼いてもこの味にならないし」
「ちゃんとパン屋から仕入れているからな。バターもマーガリンじゃないからな。
当然だろ」
何を当たり前の事をと言う様に言えば
「あ、オレンジジャム頂戴。マーマレードじゃない奴」
「お前ほんと好きだな」
「マーマレードに入ってるオレンジの皮苦いじゃん。
あれ不思議な事に大人になっても苦手なんだよ」
「オレンジジャムは食べれるのにな」
不思議だと言いながら出したオレンジジャムをたっぷりと乗せて大きな口で嚙り付く。
カリッと焼けたパンを良い音を立てて食べる子供かという所をいまだ持つ香月に俺はコーヒーを飲みながら同じようにパンを食べる。
いつもは七緒と食べる朝食なのだが……
ああ、こいつはこいつなりに一人になった俺も心配してくれているのかと気が付いた。
心配するべき相手は七緒なのにそばに居るだけの何もできない俺にまで気遣うなんて、ほんと優しい奴めと久しぶりに俺もオレンジジャムをパンに塗って
「あっま……」
「ジャムが甘くなくてどうする」
至極まっとうな言葉にそうですよねーといつもバターオンリーな俺としては突然のジャム攻撃に慌ててブラックのコーヒーを口の中に流し込むも
「あっつ!」
「朔夜落ち着け」
あきれながらもまたたっぷりとオレンジジャムを乗せた上にさらにコーヒーの中にもオレンジジャムを落とした。
「この隠れ甘党め」
「適度な糖分は脳みそにいいんだ」
そう言いながらコーヒーの中のジャムを溶かすようにくるくるとスプーンで混ぜてからゆっくりと口をつける。
「これ、じいさんがやってたの見て密かに一人で楽しんでたんだ。インスタントコーヒーで」
「そういやお前壊滅的に料理だめだったな。よく大学の時一人暮らしできたな」
「米さえ焚ければなんとかなるって実感した」
「いや、お前の大学時代本当にそれで大丈夫だったのか……」
ものすごい不安な言葉を聞いたけど
「お袋がスーパーの総菜でも食べていれば大丈夫だからって言ったからそれを守ってみた。あと週末帰ってたしな」
「週末帰ってたって、俺初めて聞いたぞ」
「あ……」
どうやらそれは秘密だったようだ。
「俺達の友情はここまでだったか」
「いや、なんか会いづらかった時で!」
きっと俺があの時の廃墟探検の時無理やり連れて行って香月の体質を変えた事を思いっきり反省していたのを逆に気遣ってくれての事だろう。
とはいえ4年の大学生活の時間とその後のほぼ工房にこもる修行時代を考えたら……
「なんかお前かわいいなwww」
「うるせー……」
なんて言いながら顔を真っ赤にしてまだ熱いはずのコーヒーを一気飲みして帰っていった香月のおかげでいつの間にか凍え切っていた心が少しだけ元気になっていたことに気が付いた。
七緒が九条によって眠らされてから全然笑えなかったのに……
「ったく、墓場まで持っていく秘密をこんな時にばらすなよ」
こんな慰め方されたら腹の奥から力を入れて背筋を伸ばすしかないだろうと顔を上げて見上げるのは降ったり止んだりの空は今は雨。
だけどその雨に負けないように見上げコーヒーを片手に重い雲を眺めながら少し冷えたコーヒーをゆっくりと味わった。
「ん?香月か。
九条のおかげでぐっすりと寝てるぞ」
「そうか……」
喫茶店の準備をしていれば裏からチャイムが鳴って香月がやって来た。昨日の夜、お札を張り替えてから半日ほどしかたってないというのにげっそりと疲れた顔はきっと寝ても疲れが取れないくらいに七緒の為に走り回ってくれたのだろう。香月のせいじゃないのに自分の家族のように七緒の事を心配してくれてほんと良い奴だ。だけどまるで自分が原因だというように沈んだ顔をする馬鹿に
「七緒の顔でも見ていくか?」
気になるだろう。寝ているけど会うか?というように聞くも
「いや、やめておくよ。女の子の寝顔を勝手に見るのは悪いからね。
それに下手に接触回数を増やして鯉に目をつけられたら溜まったものじゃない。
まだ番も見つけてないのに、そしてこの鯉たちの怒りを納めなくてはいけないのに心配して顔をちょこちょこ覗いて朔夜にまで迷惑かけられないから」
だから不特定多数のお客のように接近は最低限にするという。
「一応九条から新しいお守りをもらったし、親父たちもお札をもらったとか言っていたから心配はないけど……」
何やら考えるようにぶつぶつ言っていた声は聞き取れなかったけど、心配性の香月の事だからきっと俺達を守るために最善を尽くしてくれているのだろうと思う。
そんなか香月の為にコーヒーを淹れる事にしてお湯を沸かす。
豆を挽いてコーヒーサーバーにセットして……
「飲んで目を覚ましていくか?」
「ここまで準備されたら頂くよ」
こんな時だからこそ少し心にゆとりを持ってもらいたい。
「ここで帰ったら怒るくせに……」
と呟く声が聞こえたけど分かってるじゃんという言葉を聞けて少しご機嫌になれた。
しばらくの間俺は兄弟のような、そして親友の為に黙って一杯のコーヒーを丁寧に淹れる。
開店したら見慣れた顔の常連客であふれてすぐに賑やかになってたくさんのコーヒーの香りで埋め尽くされる店内だけど今はまだその香りは俺達の周りだけに漂っていて、同時にここには今は居ない爺ちゃんを思い出す。
そのころはまだたっぷりのミルクを入れたカフェオレを俺と香月の為に買ってくれたカップで飲んでいた過去につながった。
学校から帰って荷物を置いてすぐうちに集合して、爺ちゃんのカフェオレを飲みながら香月に宿題を写させてもらう……
ささやかな日常の懐かしい思い出だ。
そんなことを思い出していたなんて顔には出さずに
「どうぞ」
「いただきます」
そしてちょうど俺の朝ご飯用のトーストと一緒に香月の分も焼いたトーストも出せば嬉しそうにもらったそばから嚙り付く。
「不思議だよな。家で同じようにパンを焼いてもこの味にならないし」
「ちゃんとパン屋から仕入れているからな。バターもマーガリンじゃないからな。
当然だろ」
何を当たり前の事をと言う様に言えば
「あ、オレンジジャム頂戴。マーマレードじゃない奴」
「お前ほんと好きだな」
「マーマレードに入ってるオレンジの皮苦いじゃん。
あれ不思議な事に大人になっても苦手なんだよ」
「オレンジジャムは食べれるのにな」
不思議だと言いながら出したオレンジジャムをたっぷりと乗せて大きな口で嚙り付く。
カリッと焼けたパンを良い音を立てて食べる子供かという所をいまだ持つ香月に俺はコーヒーを飲みながら同じようにパンを食べる。
いつもは七緒と食べる朝食なのだが……
ああ、こいつはこいつなりに一人になった俺も心配してくれているのかと気が付いた。
心配するべき相手は七緒なのにそばに居るだけの何もできない俺にまで気遣うなんて、ほんと優しい奴めと久しぶりに俺もオレンジジャムをパンに塗って
「あっま……」
「ジャムが甘くなくてどうする」
至極まっとうな言葉にそうですよねーといつもバターオンリーな俺としては突然のジャム攻撃に慌ててブラックのコーヒーを口の中に流し込むも
「あっつ!」
「朔夜落ち着け」
あきれながらもまたたっぷりとオレンジジャムを乗せた上にさらにコーヒーの中にもオレンジジャムを落とした。
「この隠れ甘党め」
「適度な糖分は脳みそにいいんだ」
そう言いながらコーヒーの中のジャムを溶かすようにくるくるとスプーンで混ぜてからゆっくりと口をつける。
「これ、じいさんがやってたの見て密かに一人で楽しんでたんだ。インスタントコーヒーで」
「そういやお前壊滅的に料理だめだったな。よく大学の時一人暮らしできたな」
「米さえ焚ければなんとかなるって実感した」
「いや、お前の大学時代本当にそれで大丈夫だったのか……」
ものすごい不安な言葉を聞いたけど
「お袋がスーパーの総菜でも食べていれば大丈夫だからって言ったからそれを守ってみた。あと週末帰ってたしな」
「週末帰ってたって、俺初めて聞いたぞ」
「あ……」
どうやらそれは秘密だったようだ。
「俺達の友情はここまでだったか」
「いや、なんか会いづらかった時で!」
きっと俺があの時の廃墟探検の時無理やり連れて行って香月の体質を変えた事を思いっきり反省していたのを逆に気遣ってくれての事だろう。
とはいえ4年の大学生活の時間とその後のほぼ工房にこもる修行時代を考えたら……
「なんかお前かわいいなwww」
「うるせー……」
なんて言いながら顔を真っ赤にしてまだ熱いはずのコーヒーを一気飲みして帰っていった香月のおかげでいつの間にか凍え切っていた心が少しだけ元気になっていたことに気が付いた。
七緒が九条によって眠らされてから全然笑えなかったのに……
「ったく、墓場まで持っていく秘密をこんな時にばらすなよ」
こんな慰め方されたら腹の奥から力を入れて背筋を伸ばすしかないだろうと顔を上げて見上げるのは降ったり止んだりの空は今は雨。
だけどその雨に負けないように見上げコーヒーを片手に重い雲を眺めながら少し冷えたコーヒーをゆっくりと味わった。
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