隣の古道具屋さん

雪那 由多

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鯉と猫と俺様と 3

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 先日すれ違った人は今日も品の良い着物を着て現れた。
 だけど今日は光の玉は一つだけ。しかも庭を見てポンポンと飛び出して行ってしまった。
 あれは何なのだろうという前に普段から着物を着るなんてどんな家の人だろうと思えばなぜかその手にははたきが装備されていた。
 俺はもちろん親父も九条もその手に注目。
 クイックルーなんて言うタイプではなく古式ゆかしきタイプのはたき。
 あんなのうちにあったんだと店で見かける母さんお気に入りのオーストリッチの羽のはたきとは大違いだなと思っていれば
「お前は人様の家の物を勝手に持ち出して……」
 いつも人を下に見るような九条が頭を抱えるように俺だってわけがわからないこの状況。そして品の良い着物にはたきと言う何とも言えないミスマッチ。
 確かに取り上げた方がいい絵面だなと思うもその人はいきなり部屋の中でそのはたきを振り回し始めた。
 ではなく掃除を始めた。
「ったく、なんで案内された店で長時間待たされた上にどぶ川のくっさい臭い、コンクリで蓋をしとけよレベルの公害ってなんだよ。
 挙句視界も覆いつくすってもうスモッグだな。ほら、見てないで外にポイポイしろよ」
「……ポイポイ?」
 ってなんだ?
 思わず九条を見るも頭を抱えたままありえないと何とも言えない奇声を上げて頭を掻きむしっていた。
 初めて見るその光景もだが育ちの良さが目立ちまくる九条のその行動にも怖くて声もかけられずにいればいつの間にか視界が晴れてきて、部屋の隅に黒い靄がへばりついているだけだった。
 だけど着物の人はそれさえ許さず、そして押し入れや戸棚の中まできちんとチェックしてからちらりと机の上に置かれた二枚の鯉の絵へと視線を落とした。

「何だこれ。
 やたらとなまめかしい絵なのに構図がでたらめだな」
 
 ひょいと覗けばその落ちた陰に鯉たちは逃げた。
 柳の木の陰や水草の陰に脅えるように。
 だけどこの御仁、驚くどころか
「おお! これどういう仕掛け?」
 好奇心も合わさり机の周りをくるくると歩いては逃げる鯉を追いかけていた。
 やめてあげて。
 ストレスに負けちゃうよ。
 そう声をかけてあげたくても相手は人を呪う鯉。人間様も怖いんだぞという事を学習する場にはもってこいだと黙って見守っていたけど
「おい、何鯉と遊んでいる」
 どっと疲れたような九条がいい加減にしろと言えばその男は鯉の絵が一番よく見える位置に渋々という様に座り
「時間をつぶしてたんだよ。
 待たされた挙句掃除もしてあげたのに茶の一杯も出さないとはさすがに思わないからな」
 そんな時間の猶予だと言う太々しさ。
 親父は俺に目配せするから少し席を外させてもらい、お袋に頼んでお茶の準備をお願いした。
「なんかすごい人ね。
 声がこっちまで聞こえたけどああいう人と係るの母さん怖いからお願いね」
 そういって出した茶菓子は五色豆。親父の好物な辺り頑張ってねとの応援だという事だと思う。
 って言うか茶菓子に五色豆ってどうよと思うもそもそも客人じゃないからいいかと開き直って封印が壊れた封印の間で初めてお茶を出せば
「五色豆だ!これ、バアちゃん好きだったんだ」
 さりげない嫌がらせだと思ったのにご機嫌になって口へと運ぶ様子に九条はただ今は熱い茶がありがたいという様にすすっていた。
「って言うか、こんな面白いもの相手に待たされたのは納得だけど、これ一体何?」
 なんてぼりぼり五色豆を食べながら聞く着物の御仁に
「もとは一枚の屏風絵だったんだ。
 持ち主の息子がこれを掛け軸に仕立て直してから怪異を起こし始めたんだ」
「へー、まあ、こっちの絵の腹の膨らみ具合、番かな? 良く描写されているけどこいつらにとったら切り離されたらそら怒るわな」
 フーンといいながらお茶を飲んで手に付いた五色豆のかけらを
「ほら、食べるか?」
 なんて絵に落とす始末。
 おま、何やってるんだ?!なんて思わず立ち上がるも雄の方がすい~とやってきてぱくりと食べてしまった。
「やだ、かわいいw 五色豆はもったいないから鯉の餌はない?」
「あるわけないだろ……」
 あきれる九条だけど俺も親父も食べるのか?!なんて驚く。そういうものかと九条に聞こうとするももう目がどこか虚ろとしていてこれ以上声をかけるのは憚れるという様に俺と親父は沈黙を選んだ。
 だけど五色豆とお茶を飲み終えた所でまた側に置いてあったはたきを持ってさっと絵の上を払う。
「ところでこの絵から無限に出る黒いの、いったい何?」
 うっとうしいという様に開け広げられた襖から庭に吹き飛ばし、それは雨に叩き落されるようにして霧散して消えていった。
「一言で言えば呪いだな」
 ものすごい簡単な説明だけど
「え、なに? ひょっとして屏風絵から掛け軸に仕立て直した表紙に番と別々にされて激おことか? まあ、怒るわな。で、呪っちゃったんだ」
「人も一人亡くなっている」
「あー、それぐらい怒ってるんだ。だけど命奪うまでか?」
 聞けば二匹の鯉は途端に水面をバシャバシャと暴れだして水のしぶきを俺達にかける。
 地味な嫌がらせだなと思うもそのしぶきを受けた着物の御仁はふむと頷き
「絵は切りとられて一つに戻れない以上二匹は一緒になれない、そんな当然の恨みね」
 なるほど、そんな風に言う顔はどうでもいいというもの。人が亡くなっているというのに男は水面をつつきながら鯉を怯えさせて笑っている。

『九条、この人早く引き取ってよ』
『こいつが俺のいう事聞くと思ってるのか?』
 
 小声で言い合っていれば

「失礼します。平田様がお見えです」

 お袋が開け放たれた封印の間に驚くように目を見開くものの案内された平田様は鯉の呪いに真っ黒で姿も見えない状態。よくぞ辿り着いた言う状態だった。
 だけどそこは着物の御仁。

「この部屋に入るな」
 
 そういって必殺のはたきを持ってそう言えばお袋がそのはたきをどこで見つけたの?! なんて焦るように、でも声は出さずにあわあわと慌てていたのが今の俺達には癒しだった。
 仕方がないじゃないか。
 内縁を通ってやってきた平田様をいきなりはたきで曰くポイポイを始め……
 俺の目には平田様は黒い靄ですでに誰かもわからない状態だったのに瞬く間にしっかりと平田様の姿かたちを取り戻していて……

「なんではたきであの穢れが払えるんだよ……」

 九条の常識も追いつかない超常現象を目の当たりにしていたのだとよくわからないままとりあえず

「お袋、お茶、お替り」
「あ、五色豆、お替りあったらお願いします」

 俺も動揺していたのだろう。たどたどしい言葉でお袋をこの場からとにかくこの男に関わらないように離れてもらうようにお願いしたら当然のようにお替りをお願いする当たり文句は九条に言うしかないと心に決めるのだった。
 



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