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鯉と猫と俺様と 2
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スマホ越しに俺のもとにやって来た式神はいつの間にか俺の肩に張り付いていて、九条が来たことでスーッと移動して側で浮いていた。なんか態度が違うのが釈然としないが
「それ、助かったよ。ありがとう」
効果があったのかどうかわからないが一人でいるよりましだった気分にはなれた。九条は俺にポケットから取り出した新しいお守りを目の前に出してくれて
「交換だ」
慌てて受け取ってシャツの下に隠してあるお守り袋を取り出せば今にも風化しそうなくらい劣化していて……
「どれだけお守りの力使ったんだか」
「お守りの使い方なんて知らないよ。なんだか依頼人に会いに行った行き来だけで俺の周辺の車が事故ばかり起こして……」
「……良く生き残れたな」
お願いだから真顔で言わないでください。
だけどその表情で下手したら依頼人の息子さんと同じ姿になっていたかと思えばぞっとしてしまう。
言いながらもサマージャケットの内ポケットから何枚からお札を取り出し、息を吹き付けてから結界の要の所に張り付けた。
この部屋の結界を強化するとでも言わんばかりに外にあふれ出しそうな黒い靄は無理だという様に抑え込められて、また別のお札を取り出したかと思えば同
じように息を吹き付けて同じように投げれば一瞬に燃えて、炭になってしまった。
どういう原理だろう……
何度も繰り返して黒い靄が闇となった室内だったはずなのにいつの間にかもやがかかった程度にはなったが……
「足りなかったか」
ちっと舌打ち。
高校時代の九条はいかにもいい所のおぼっちゃまと言うような優等生を絵にかいたような人物だったのに意外と口も悪ければ態度も悪い、むしろ俺達の方が注意しないといけないような人格かと思うも、ただ取り出した数珠と真言だろうか。良く知らんが低く強く、そして室内に響き渡るも朗々と呪を紡ぐ口調に九条が今戦っていることは理解できた。
そしてこのような貴重な場を目の当たり出来る事に感謝できた。
愛された古道具にまつわる多種多様な謂れに放棄する事も出来ず移譲することで我が家にやって来たモノたちを鎮めるためにと言うのは何度も聞いてきた。
親父は今までその場に一度も俺を同席させなかったけど、今回初めて同席させてもらってこの異様なまでの空間であまりに無力な俺はこの場に居る価値もないほどただの無力な人間だったことを思い知った。
親父が俺に継がせたくない理由はきっとこの体とこの空間とではあまりにも相性が悪いからだ。
頭から汗を滴り落とす九条の様子、呼吸の合間に舌打ちをしたそうな表情。
きっと俺がいなければとっくに解決できたのだろうと想像すれば……
これを見せるために親父と九条はこんな危険に俺の夢がどんな現実化を見せるなんて……
知らず知らずに涙がこぼれ落ちていた。
そっと差し出されたんはミニタオル。
隣の親父が思考が追いつかない俺の代わりに涙を拭いてそれを握らせてくれた。
だけど部屋を出て行けとかそう言った事は言わず、ただ少し俺の側に寄り添う事で安心を与えてくれて……
試されているのは今。
ここで逃げ出さずに最後までこの結末を見守る事が俺達の役目だと悟った。
なるべく邪魔をしないように親父と結界の要近くにおとなしくしているも再会したのに側に寄り添う事の出来ない番の悲しみの方が強く悲鳴のような叫び声が俺に伝わってくる。
悲しみに共鳴してその心に同調しそうになるけどそのたびに先ほど九条が俺を守るために与えた式神が顔面に張り付いてくれて一瞬だけどその同調が途切れる。
ほんのわずかな時間だけどそれでも取り戻した自分にすでに一時間近く戦う九条の様子を見守る。
同調にも共鳴にも慣れるくらいのどれだけの時間が経ったのだろうか。
九条の頭から汗が、いや、シャツも汗で肌に張り付いている。
集中力は途切れてないようだが、肝心の声が枯れかけている。
水一滴も飲まず枯れかけた声でなおも鯉たちに語りかける。
ああ、九条は払うとか滅するとかではなく延々と対話をしていたのか……
ふとそのことに気付いた。
欠伸も出ないような緊迫する空間の中、肩で息をするようになった九条。
だけど二匹の鯉は再び寄り添うことが出来ない悲しみだろうか。
九条に攻撃的な態度は改めたもののそこは一歩も引かない。
そして限界の近い九条。
何かを模索するように視線が少し彷徨っている。
他に手があるのなら、なんて思うけど……
きっとそれは二匹の鯉に対する悲しみしかない事を俺は理解してしまう。
不思議なことに今なら九条の心にも同調ができる。
少し焦っていて、だけど何かを探るように、そして深い決断を下す、そんな心。
きっとどころか鯉にとって良くない結末しか九条は差し出すことが出来ないのだろう。
ここまで頑張って来たのに。
悔しさが俺にも伝わってきて……
だけどその結末を目を閉ざしてみない、そんなことはできるわけもなく。
ただただ寄り添っていたい、そんな二匹の小さな、でもそれがすべての願いを断ち切る様に振り上げられた腕。
その腕に自分たちの悲劇をりかいしたのか並べられた切れ目越しに寄り添う二匹。
あまりにも悲しすぎる結末と永遠の愛を体現する二匹は九条に力にひれ伏したようにおとなしくなり……
「お、お客様!
そちらは困ります!」
「知るか!約束の時間から何時間待ったんだと思ってるんだ!
どんなくそ病院でもこんなにも待たされるなんて聞いたことないぞ!」
「ですがお客様!そちらは……」
「そちらがなんだ!
こんな臭ぇ所で待たされる身にもなれ!」
なんか豪快なまでにお怒りのお客様が乗り込んできたようだ。
こんなモンスターなかなかいないな、なんて思うも一応ここは封印の間。内側の物があふれ出さないように守られた結界と万が一外から侵入して持ち出されないようにと二重の結界となっている。
そもそも今九条が鯉を逃がさないように封印を強固にしたばかり。
九条の意思がなければ開けられない状態になっていると隣に居る親父がぼそりと教えてくれたから安心はしていたけど……
スパーーーンッッッ!!!
九条の意思なんてどうでもいいというくらいに気持ちいいくらい襖が両開きに広げられた。
突如差し込んだ雨空の下の光でもくらり、軽く光に慣れずにまぶしさにくらむもそこに居たのはあの日すれ違った着物を着た人だった。
「おい暁、いつまで俺を待たせる気だ。
これ以上帰るのが遅れるとみんなが心配するだろう」
なんかよくわからない理屈だけど……
「お前はなんでおとなしくしてくれないんだ……」
「これ以上は夕飯が遅れるからな。お前の都合何て優先する意味もないとなればおとなしくする意味なんてないだろう」
本当によくわからない一方的な理由に九条も大変だなと一瞬で疲れ切った背中に頑張れとエールを送った。
「それ、助かったよ。ありがとう」
効果があったのかどうかわからないが一人でいるよりましだった気分にはなれた。九条は俺にポケットから取り出した新しいお守りを目の前に出してくれて
「交換だ」
慌てて受け取ってシャツの下に隠してあるお守り袋を取り出せば今にも風化しそうなくらい劣化していて……
「どれだけお守りの力使ったんだか」
「お守りの使い方なんて知らないよ。なんだか依頼人に会いに行った行き来だけで俺の周辺の車が事故ばかり起こして……」
「……良く生き残れたな」
お願いだから真顔で言わないでください。
だけどその表情で下手したら依頼人の息子さんと同じ姿になっていたかと思えばぞっとしてしまう。
言いながらもサマージャケットの内ポケットから何枚からお札を取り出し、息を吹き付けてから結界の要の所に張り付けた。
この部屋の結界を強化するとでも言わんばかりに外にあふれ出しそうな黒い靄は無理だという様に抑え込められて、また別のお札を取り出したかと思えば同
じように息を吹き付けて同じように投げれば一瞬に燃えて、炭になってしまった。
どういう原理だろう……
何度も繰り返して黒い靄が闇となった室内だったはずなのにいつの間にかもやがかかった程度にはなったが……
「足りなかったか」
ちっと舌打ち。
高校時代の九条はいかにもいい所のおぼっちゃまと言うような優等生を絵にかいたような人物だったのに意外と口も悪ければ態度も悪い、むしろ俺達の方が注意しないといけないような人格かと思うも、ただ取り出した数珠と真言だろうか。良く知らんが低く強く、そして室内に響き渡るも朗々と呪を紡ぐ口調に九条が今戦っていることは理解できた。
そしてこのような貴重な場を目の当たり出来る事に感謝できた。
愛された古道具にまつわる多種多様な謂れに放棄する事も出来ず移譲することで我が家にやって来たモノたちを鎮めるためにと言うのは何度も聞いてきた。
親父は今までその場に一度も俺を同席させなかったけど、今回初めて同席させてもらってこの異様なまでの空間であまりに無力な俺はこの場に居る価値もないほどただの無力な人間だったことを思い知った。
親父が俺に継がせたくない理由はきっとこの体とこの空間とではあまりにも相性が悪いからだ。
頭から汗を滴り落とす九条の様子、呼吸の合間に舌打ちをしたそうな表情。
きっと俺がいなければとっくに解決できたのだろうと想像すれば……
これを見せるために親父と九条はこんな危険に俺の夢がどんな現実化を見せるなんて……
知らず知らずに涙がこぼれ落ちていた。
そっと差し出されたんはミニタオル。
隣の親父が思考が追いつかない俺の代わりに涙を拭いてそれを握らせてくれた。
だけど部屋を出て行けとかそう言った事は言わず、ただ少し俺の側に寄り添う事で安心を与えてくれて……
試されているのは今。
ここで逃げ出さずに最後までこの結末を見守る事が俺達の役目だと悟った。
なるべく邪魔をしないように親父と結界の要近くにおとなしくしているも再会したのに側に寄り添う事の出来ない番の悲しみの方が強く悲鳴のような叫び声が俺に伝わってくる。
悲しみに共鳴してその心に同調しそうになるけどそのたびに先ほど九条が俺を守るために与えた式神が顔面に張り付いてくれて一瞬だけどその同調が途切れる。
ほんのわずかな時間だけどそれでも取り戻した自分にすでに一時間近く戦う九条の様子を見守る。
同調にも共鳴にも慣れるくらいのどれだけの時間が経ったのだろうか。
九条の頭から汗が、いや、シャツも汗で肌に張り付いている。
集中力は途切れてないようだが、肝心の声が枯れかけている。
水一滴も飲まず枯れかけた声でなおも鯉たちに語りかける。
ああ、九条は払うとか滅するとかではなく延々と対話をしていたのか……
ふとそのことに気付いた。
欠伸も出ないような緊迫する空間の中、肩で息をするようになった九条。
だけど二匹の鯉は再び寄り添うことが出来ない悲しみだろうか。
九条に攻撃的な態度は改めたもののそこは一歩も引かない。
そして限界の近い九条。
何かを模索するように視線が少し彷徨っている。
他に手があるのなら、なんて思うけど……
きっとそれは二匹の鯉に対する悲しみしかない事を俺は理解してしまう。
不思議なことに今なら九条の心にも同調ができる。
少し焦っていて、だけど何かを探るように、そして深い決断を下す、そんな心。
きっとどころか鯉にとって良くない結末しか九条は差し出すことが出来ないのだろう。
ここまで頑張って来たのに。
悔しさが俺にも伝わってきて……
だけどその結末を目を閉ざしてみない、そんなことはできるわけもなく。
ただただ寄り添っていたい、そんな二匹の小さな、でもそれがすべての願いを断ち切る様に振り上げられた腕。
その腕に自分たちの悲劇をりかいしたのか並べられた切れ目越しに寄り添う二匹。
あまりにも悲しすぎる結末と永遠の愛を体現する二匹は九条に力にひれ伏したようにおとなしくなり……
「お、お客様!
そちらは困ります!」
「知るか!約束の時間から何時間待ったんだと思ってるんだ!
どんなくそ病院でもこんなにも待たされるなんて聞いたことないぞ!」
「ですがお客様!そちらは……」
「そちらがなんだ!
こんな臭ぇ所で待たされる身にもなれ!」
なんか豪快なまでにお怒りのお客様が乗り込んできたようだ。
こんなモンスターなかなかいないな、なんて思うも一応ここは封印の間。内側の物があふれ出さないように守られた結界と万が一外から侵入して持ち出されないようにと二重の結界となっている。
そもそも今九条が鯉を逃がさないように封印を強固にしたばかり。
九条の意思がなければ開けられない状態になっていると隣に居る親父がぼそりと教えてくれたから安心はしていたけど……
スパーーーンッッッ!!!
九条の意思なんてどうでもいいというくらいに気持ちいいくらい襖が両開きに広げられた。
突如差し込んだ雨空の下の光でもくらり、軽く光に慣れずにまぶしさにくらむもそこに居たのはあの日すれ違った着物を着た人だった。
「おい暁、いつまで俺を待たせる気だ。
これ以上帰るのが遅れるとみんなが心配するだろう」
なんかよくわからない理屈だけど……
「お前はなんでおとなしくしてくれないんだ……」
「これ以上は夕飯が遅れるからな。お前の都合何て優先する意味もないとなればおとなしくする意味なんてないだろう」
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