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鯉と猫と俺様と 1
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ボロボロと涙を落とし依頼人は床に頭を押し付けながら
「一度は売ったものですが怪異を見てその手の詳しい方に相談させていただいた時知り合いの蒐集家に高値で買い取っていただける話を聞き、敦が売り払った先の迪林道で買い戻し……」
はいつくばった姿勢のまま病室のロッカーを開ければ水たまりが出来たロッカーに置かれた鞄があった。取り出したのは水をたっぷりと吸った桐で誂えた箱。掛け軸を収めるにふさわしい大きさだった。
「昨日、ちょうど商談がまとまった蒐集家の人に渡しに行くために車を走らせてこのような事が……
二つに切り分けたもう一つの絵が佐倉さんのお店でも認定されたというのが蒐集家の皆様には一種の認定として……
ですが、このような事件が起きたのでさすがに断られました」
欲が出たのだろう。
俺は何とも言えない痛々しいその息子の姿と純粋に後悔と心配に涙を流すただの父親の姿の依頼人を罵る言葉も出すことが出来なかった。
それはかつての俺と親父の姿だったから……
だけど軽く頭を振って今はこの絵の事に集中する。
「絵はそろいました。平田様には後ほど店まで御足労をお願いすることになります。
敦様の怪我は病院にお願いしてご自身をご自愛ください」
そんな挨拶と共に頭を下げて早々に病室を後にした。
そう。
家にある掛け軸の鯉の気配を感じたのか受け取った鯉の気配が強くなった。
番の気配を確認するように、そして恋しいという様に黒い糸が俺に巻き付いていく。
番は何処だという様に。
「すぐ家に戻って番に会わせてやるからな」
そんなことを語り掛けながら病院内を走って怒られるのだった。
ハンズフリーの車は便利だ。
運転しながら電話を掛けられる。
そして……
「目的の物は手に入れたようだな。
ああ、電話越しでも嫌な気配がこっちまで漂ってくる!
頼まれていたものは用意したから店で合流だ」
九条の察しの良さと言うか電話越しでさえ俺の状態が手に取る様に分かっているようだ。
「悪いがうちの結界が壊されそうで……」
「そんなの結界を張った俺が一番分かってる!」
まさかの九条の作。
あの事件からほんとうちに関わりが深いんだなと今頃になっていろいろ知って申し訳なさが溢れるが
「今からお前の所に式神を飛ばす。変わった気配が付きまとうが心配するな」
「もう鯉の気配でマヒしてるからわかるかな……
それに付きまとわれても俺じゃあどうしようもないし」
払う力なんてない。ただ感じる程度の能力。そして周囲のマイナスな力を増幅させる呪われた俺。未だに人として生きていられるのはシャツの下で揺れる九条が作ってくれたお守りのおかげだ。
そんな俺がこの主張するような鯉の気配に九条のいうような気配が分かるかと思えばホルダーに置いていたスマホの画面からいわゆる人型の白い何かが飛び出してきて……
「すげー。俺でも形が分かる」
あまりに非現実過ぎて声に感情を込めることが出来なかった。
普段はまるとかふんわりとした輪郭なのに、映画とかで見る形そのままだと感動してしまえばその人型はダッシュボードにちょこんとつかまり立ちををして車の進行方向を見ていた。
うん。
これはさすがに想定外だなと何とも言えない緩さに口元がほころびかけるも車のスピーカーからは絶叫が聞こえてきたりする。
どうやら向こうは向こうで忙しいらしい。
というかこの悲鳴は九条か?
いつもクールぶってる九条の悲鳴ってものすごくレアだなと思うもいったい何が起きているのか知りたいけど怖くて聞けないという様に沈黙を保っていれば
「あとで行くからその時ついでに依頼と紹介したいのがいるから、気を付けて帰れよ」
それだけ言って電話は切れた。
依頼? 紹介? 何それ。
それより九条は大丈夫か?
一応心配はするけど今真っ先に心配するのは自分自身。
相変わらず一生分の交通事故を見たというのに今も俺の車の周辺では謎の自損事故が多発している。
どれだけ俺を殺したいんだろうと思うも俺は負けじと冷静に交通ルールを守って運転をして、そして楽しそうにドライブを楽しむ式神の後ろ姿に癒されながらなんとか家にたどり着いた。
「親父!帰った!」
「無事ならそのまま部屋に行け!」
その時はすでに体の半分が真っ黒になるくらいに連れ帰った鯉から延ばされた黒い糸にからめとられていたけど玄関で待っていた親父に庭から連れられてそのまま真っ直ぐ封印の間へと向かった。
謎なくらい水があふれ出るのでペットシーツを敷いた上に置かれた預かった掛け軸は本体自体は濡れていないという怪現象と言うか不思議を見せていた。
とはいえすでに番の気配を感じ取ったのか嬉しそうに水しぶきを飛ばしながらはしゃぐ姿、絵の中から飛び出してその実体さえ姿をさらしていた。
そんなにも嬉しいんだと頑張った意味があったとそっと嬉しさに拳を作って喜んでしまう。
さっそくという様にその隣に俺は番の掛け軸を取り出して広げ……
二匹はお互いを確認したいという様に紙の縁を何度も行ったり来たり、確かめるという様に泳いでいるも寄り添いあう様に泳ぐ、なんて姿は見れずに逆に苛立たし気に縁を何度も行ったり来たりしている様子に
「なんで……」
あれほど恋しがって会いたがった二匹だというのにと思えば
「なんでとか、そんなもの判ってるだろ。
迪林道の店主が仕立て直す時のトリミングで二匹の間の空間も切りとったのだろう。
絵の世界がすべてのそれに二匹の間を切りとられたら交わる事が出来るわけがないだろう」
声がした方を向けばそこには九条がいて……
「人の恋路を邪魔するとじゃないがこの淀みには納得だな」
清廉な空気をまとって黒い糸で埋め尽くされた闇の中で希望の光と言わんばかりに立っていた九条だが相変わらず口は悪かった。
「一度は売ったものですが怪異を見てその手の詳しい方に相談させていただいた時知り合いの蒐集家に高値で買い取っていただける話を聞き、敦が売り払った先の迪林道で買い戻し……」
はいつくばった姿勢のまま病室のロッカーを開ければ水たまりが出来たロッカーに置かれた鞄があった。取り出したのは水をたっぷりと吸った桐で誂えた箱。掛け軸を収めるにふさわしい大きさだった。
「昨日、ちょうど商談がまとまった蒐集家の人に渡しに行くために車を走らせてこのような事が……
二つに切り分けたもう一つの絵が佐倉さんのお店でも認定されたというのが蒐集家の皆様には一種の認定として……
ですが、このような事件が起きたのでさすがに断られました」
欲が出たのだろう。
俺は何とも言えない痛々しいその息子の姿と純粋に後悔と心配に涙を流すただの父親の姿の依頼人を罵る言葉も出すことが出来なかった。
それはかつての俺と親父の姿だったから……
だけど軽く頭を振って今はこの絵の事に集中する。
「絵はそろいました。平田様には後ほど店まで御足労をお願いすることになります。
敦様の怪我は病院にお願いしてご自身をご自愛ください」
そんな挨拶と共に頭を下げて早々に病室を後にした。
そう。
家にある掛け軸の鯉の気配を感じたのか受け取った鯉の気配が強くなった。
番の気配を確認するように、そして恋しいという様に黒い糸が俺に巻き付いていく。
番は何処だという様に。
「すぐ家に戻って番に会わせてやるからな」
そんなことを語り掛けながら病院内を走って怒られるのだった。
ハンズフリーの車は便利だ。
運転しながら電話を掛けられる。
そして……
「目的の物は手に入れたようだな。
ああ、電話越しでも嫌な気配がこっちまで漂ってくる!
頼まれていたものは用意したから店で合流だ」
九条の察しの良さと言うか電話越しでさえ俺の状態が手に取る様に分かっているようだ。
「悪いがうちの結界が壊されそうで……」
「そんなの結界を張った俺が一番分かってる!」
まさかの九条の作。
あの事件からほんとうちに関わりが深いんだなと今頃になっていろいろ知って申し訳なさが溢れるが
「今からお前の所に式神を飛ばす。変わった気配が付きまとうが心配するな」
「もう鯉の気配でマヒしてるからわかるかな……
それに付きまとわれても俺じゃあどうしようもないし」
払う力なんてない。ただ感じる程度の能力。そして周囲のマイナスな力を増幅させる呪われた俺。未だに人として生きていられるのはシャツの下で揺れる九条が作ってくれたお守りのおかげだ。
そんな俺がこの主張するような鯉の気配に九条のいうような気配が分かるかと思えばホルダーに置いていたスマホの画面からいわゆる人型の白い何かが飛び出してきて……
「すげー。俺でも形が分かる」
あまりに非現実過ぎて声に感情を込めることが出来なかった。
普段はまるとかふんわりとした輪郭なのに、映画とかで見る形そのままだと感動してしまえばその人型はダッシュボードにちょこんとつかまり立ちををして車の進行方向を見ていた。
うん。
これはさすがに想定外だなと何とも言えない緩さに口元がほころびかけるも車のスピーカーからは絶叫が聞こえてきたりする。
どうやら向こうは向こうで忙しいらしい。
というかこの悲鳴は九条か?
いつもクールぶってる九条の悲鳴ってものすごくレアだなと思うもいったい何が起きているのか知りたいけど怖くて聞けないという様に沈黙を保っていれば
「あとで行くからその時ついでに依頼と紹介したいのがいるから、気を付けて帰れよ」
それだけ言って電話は切れた。
依頼? 紹介? 何それ。
それより九条は大丈夫か?
一応心配はするけど今真っ先に心配するのは自分自身。
相変わらず一生分の交通事故を見たというのに今も俺の車の周辺では謎の自損事故が多発している。
どれだけ俺を殺したいんだろうと思うも俺は負けじと冷静に交通ルールを守って運転をして、そして楽しそうにドライブを楽しむ式神の後ろ姿に癒されながらなんとか家にたどり着いた。
「親父!帰った!」
「無事ならそのまま部屋に行け!」
その時はすでに体の半分が真っ黒になるくらいに連れ帰った鯉から延ばされた黒い糸にからめとられていたけど玄関で待っていた親父に庭から連れられてそのまま真っ直ぐ封印の間へと向かった。
謎なくらい水があふれ出るのでペットシーツを敷いた上に置かれた預かった掛け軸は本体自体は濡れていないという怪現象と言うか不思議を見せていた。
とはいえすでに番の気配を感じ取ったのか嬉しそうに水しぶきを飛ばしながらはしゃぐ姿、絵の中から飛び出してその実体さえ姿をさらしていた。
そんなにも嬉しいんだと頑張った意味があったとそっと嬉しさに拳を作って喜んでしまう。
さっそくという様にその隣に俺は番の掛け軸を取り出して広げ……
二匹はお互いを確認したいという様に紙の縁を何度も行ったり来たり、確かめるという様に泳いでいるも寄り添いあう様に泳ぐ、なんて姿は見れずに逆に苛立たし気に縁を何度も行ったり来たりしている様子に
「なんで……」
あれほど恋しがって会いたがった二匹だというのにと思えば
「なんでとか、そんなもの判ってるだろ。
迪林道の店主が仕立て直す時のトリミングで二匹の間の空間も切りとったのだろう。
絵の世界がすべてのそれに二匹の間を切りとられたら交わる事が出来るわけがないだろう」
声がした方を向けばそこには九条がいて……
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清廉な空気をまとって黒い糸で埋め尽くされた闇の中で希望の光と言わんばかりに立っていた九条だが相変わらず口は悪かった。
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