隣の古道具屋さん

雪那 由多

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鯉と猫と俺様と 10

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 気づけば吉野様と九条の姿がなくなって慌てて一階に下りればそこには今にも帰ろうかと言うような二人がいた。
「もう帰るのですか?」
 階段を一気に駆け下りればドアを開けて帰ろうとする二人の姿。
 止める俺に振り向いてくれたけど
「いい加減帰らないとご飯が一番おいしい瞬間に食べられなくなる」
 今一つ分からない事を言ってくれた。
 だけど鞄から嫌な思い出しかない木の箱を取り出したと思えば俺に押し付けてきた。
 思わずという様に受け取ってしまったが

「太郎、菖蒲出て来い」
 
 鳥肌が立つほどの強い言葉。
 九条が俺達に逆らうなと言う時の似たような声質にぞわりと鳥肌を立てれば目の前には

 ぽん! ぽぽんっ!!

 音を立てながら二匹の鯉、改めて金魚が現れた。

 いや、金魚って?
 なんで金魚?
 どうして金魚?

 わけわからん、そこは九条も同様で目の前に浮かぶ金魚に吉野様も目を点にしていたが
「こう来たか……」
 さすがに想像してなかったという口ぶり。
 だけど少しだけ遠い目をして目の前を主人となる吉野様を中心に泳ぐ金魚改め太郎と菖蒲。
 二匹合わせても手のひら以下の小サイズ。
 それにはさすがの吉野様もすぐに反応が出来なかったけど一度だけ深呼吸して

「散々迷惑をかけたんだ。
 急激に変わった体質に困ると思うからお前たちがこいつの成長を手助けしろ」
 
 そんな細やかな俺へのフォロー。
 やだ、この人いい人と少しだけ感動。

「太郎は人をお前の仲間にしようとしたのか?それとも菖蒲の代わりにしようとしたのか?
 そこは問わないが人を呪った罰と菖蒲は人を殺したんだ。
 生涯…… 付喪神に生涯なんて定義があるかは知らんが……人一人の命。
それに代わる償いをこの香月の佐倉一族と共にしろ」
 
 なんか急に俺が巻き込まれた。と言うか俺のまだ見ぬ子孫も巻き込まれた。
 いや、全然意味がわかんないんだけど……

「俺の側じゃないことに不満はあるだろう。
 だけど俺が使役した奴らはみんな俺の側から離れて別の所で俺が与えた命令をこなしている」

 他にも使役している付喪神がいるとかこの人いったい何なんだろうと思うも

「そんなときにちょうどここに未熟な人間がいる」
「急に飛び火が来た」

 嫌な予感しかしない状況に思わず声に出たけど華麗に無視されてしまった。
 少し寂しい……

「こいつを悪意あるモノたちから守る様にお前たちが面倒を見ろ」

 金魚に面倒を見られる理由なんてわかんないけど

「こいつは散々悪いモノに目をつけられてきた。
 これからはないと思うが、それでも絡んでくる奴らからお前たちが守るんだ」
「金魚みたいな弱い存在になにさせるんだよ……

 九条も何も言わないし牙も爪もない奴に何させるんだと思うも

「幸い太郎と菖蒲は付喪神としてとても賢いから俺の言わんとすることを正しく理解していると俺は思っている」

 ぴしりと空気に緊張が走った。

「わかるだろ?
 こいつがいかに弱くてやっと立ち上がることが出来た赤ん坊だという事。
 だけどそんな弱さに付け入る奴らがいるから、お前たちが守るんだ。
 それが人一人の命をお前たちの都合で殺してしまった贖罪だ。
 俺に使役された時点で太郎と菖蒲には拒否権はない。
 だからこの赤ん坊をお前たちが一人前に育て、その結果お前たちのような存在で誰かが悲しむようなことがないように三人で協力しながらお前たちを預ける家を守ること、それが俺からの命令だ」

 それはつまり太郎と菖蒲を吉野様の庇護下に居ながら俺と言う偶然にも手に入れた目と耳を持った存在を守るために二匹のすべてを預けるという……
 太郎と菖蒲がもたらすだろう何かをすべて俺に譲る、とても術者らしかぬ考え方に驚いてしまうも吉野様は俺を見て

「香月、ただ太郎と菖蒲を預けてお前だけが得する条件じゃないぞ」

 ひたりと俺の目を見て少しだけ低くなった声につばを飲み込めば

「代償としてお前は太郎と菖蒲に食事と安らぎの場を与えることが条件だ。
 良き隣人というように太郎も菖蒲もお前同様この世を生きる存在。
 俺からの命令はお前を守り育てる事だが、その恩恵を受けるお前だって二匹に感謝を返してもらいたい。
 腹を満たして安心して過ごす寝る場所の提供。
 俺から提案するのはそれだけだが、お前はただ恩恵を受けるだけの人間か?」
 
 問われればすぐに頭を横に振る。 
 その程度俺だって判断できるという様に反応すれば吉野様は満足げな笑みを浮かべ

「一度結んだ約束、生涯忘れるなよ」
 
 そう言って

 ちょうど雨が上がったばかりの空の下を九条を連れて店を出て行くのだった。



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