氷の魔法使いは愛されたくて

sweetheart

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「く……クロムウェル伯爵……!?」
「魔法省特別監察官として来ました。
リアナ・オルグード・アルディオン嬢への不当な扱いについて報告を受けています」

彼が差し出した書類には

「魔法教育基本法違反・未成年虐待容疑での捜査開始」

の文字。
私は信じられない気持ちで固まった。

「クロムウェル伯爵殿……これは……誤解です……!」
「誤解? 昨夜、魔法を使ってリアナ嬢を傷つけるよう指示していたことは、彼女自身から確認が取れています」

クロムウェル伯爵は淡々と言い放つ。
父の顔が土気色になる。

「な……何故それを……!」

震える声で父が問うと、ミセス先生が薄く笑みを浮かべた。

「私は……魔法記憶鑑定も可能ですの」

先生の右手がゆっくりと持ち上がる。
掌に淡い光の球が浮かぶ。

「アルディオン卿が昨夜、使用人を通じてリアナ嬢に『水鏡』を使うよう命じた……その記憶を、ご自身で思い出されれば宜しいかと」

光がパチンと弾け、空中に映像が投影された。

『アルディオン家の名に泥を塗る愚か者が……水鏡で己の無能ぶりを見せつけてやれ!』

怒鳴る父の声。
冷や汗をかいている使用人の姿。
私は呆然とそれを見上げた。

(先生……これをずっと調べてたの?)

ミセス先生はそっと私に微笑む。

「だから大丈夫だと言ったでしょ? レディ?」

そういいながらクロムウェル伯爵にこう告げた。

「彼女について、まだ魔力コントロールが出来ていない、それとクロムウェル伯爵すまないが立ち会い人を願えるだろうか? 彼女の父親はかなりの横暴の様だから、彼女を保護するために私いいや、俺、ミセス·アルフレル·アルディオンが彼女の婚約者となると」

そう言われてクロムウェル伯爵は驚いた顔をする。

「おいおいそれって、さすがに不味くないか? お前がそれを述べてしまったら……」

そういいながらため息を着くといきなり姿勢を正して敬礼した。

「この国の王命とあれば誰も逆らわないだろうよ」

そういいながら苦笑される。

「お、王? ミセス先生が?」
「知らなかったのか、嘘だろう?」
「いや、こいつ、自分からあまり言いたがらないからな」
「まぁ、確かに」
「えっ、あの、お父様? これってどういうことですの?」

私は混乱しながらも問いかける。
父は完全に萎縮し、膝を折りそうな勢いだった。

「わ……私は……アルディオン家の当主として……」

だがクロムウェル伯爵が静かに遮る。

「アルディオン卿。貴方がどれだけ一族を誇りに思おうと、魔法王国の原則は『能力あるものを保護せよ』です」

伯爵はゆっくりと私の方へ向き直った。

「リアナ嬢。あなたの氷魔法は希少でかつ強力だ。本来なら魔法学院の特別課程で学ぶべきレベルだ」
「でも……私は学校で……暴走させてしまって……」

言葉が詰まる。
するとミセス先生が私の手を握った。

「暴走させたのではないよ。あなたの中の『冬の精霊』が目覚めたんだ」

先生の優しい声に涙が零れそうになる。

「それに、君がコントロールできないのは『恐怖』によるものだ。安心したまえ、俺が君のそばにいる限り、もう誰も傷つけさせない」

クロムウェル伯爵が小さく笑った。

「まぁ、性癖は悪いけどな」
「どういう?」
「意地悪でそいつ俺様だぞ? 結構女泣かせだし」
「ちょっと、バラさないで貰えますか? 彼女には純粋に紳士に見せかけていたのに」
「何いっているんだ、お前、バレてたって」
「えっ?」
「あのな、アルディオン嬢の気持ち考えてみろ、それなのに」
「……」

そういいながら頬が赤くなる。

「こ、子供みたいなやり方、あいつが嫌いな事も知ってるぞ?」
「何が?」
「君の事好きな癖に、わざと意地悪する癖とか」
「!」

そういいながら顔を見れば赤面している。

「ち、違います」
「はぁ」
「とにかく、この度の、婚約は受けます、但し、あの家の家督が無くなった場合は、私に譲ると誓約書書いて下さい」
「誓約書? 分かった」

そういいながら書類にサインすれば立ち上がりこう宣言したのだ。

「ところでアルディオンってなんで2家あるんですか?」

王族もアルディオンだったなんて知らなかった。

「こっちが本家そっちが分家だな」
「はぁ」

納得してしまう。
ミセス先生がミセス·アルフレル·アルディオンだっただけでも驚きなのにである。

「先生王様っていつ業務しているんですか?」

いくらなんでもスクールの仕事もあるのだ。

「ん、しているよ、ちゃんとこいつが」

そういいながら苦笑する。

「リアナちゃん、このバカに言ってくれないか? 王城に戻れって俺が許したのはスクールの兼任だけだこんなに開けるのは、論外なんだよ」
「困っているみたいですよ、ミセス先生?」
「お前が私と王城に戻ると言うのなら考えるけど……堅苦しいから嫌だ」
「先生……」

呆れて物が言えない。
そういえば昔からそんな節があって自由奔放すぎて、臣下一同悩まされていたとか聞いたことがある。

「では、帰る、執務はしない、私はここで暫く生活します、もちろん彼女を保護して育てていきますので」
「わ、分かった」
「では、失礼します、さぁ、おいで」
「はい、ミセス先生」
「いや、これからの家ではどう呼んでくれるのかな?」
「あっ」

そういいながら顔が赤くなる。

「そ、そんな事は今聞いても、な、なんて呼べば」
「私の名前は?」
「ミセス·アルフレル·アルディオンだからミセス先生ですよね」

「今は、仕事をしていない、2人きりの空間だ、妻と夫では? 君が卒業したら結婚式するんだし」
「えっ?」
「驚いたかな? まぁ、君の将来に希望をもって婚約したのだから、仕方ないからね? 折角保護したんだし」
「ひ、保護ですか……」
「嫌かな? それなら、無理矢理……」
「いえ、違います、ありがとうございます、ミセス先生」
「その名は、魔法を使っている時だけにしましょうか?」
「はい、ありがとうございます、先生」

そういいながら笑うと抱きつかれる。

「あんまり可愛い顔見せないようにね? 私の理性壊れそうだから」
「そ、そんな、私の顔なんて」
「可愛くない? こら、こっち向いて?」

そっと指で顎を持ち上げられるとそっとキスをされる。

「愛しているよ? リアナ?」
「はい、ミセス先生も愛しています」
「んー、まぁ、それはおいおい変えていくとして、お母さんに挨拶いくよ? 戸籍上の私の母親だけど」
「はい、先生」

そういいながらそっと手を取ると歩き出したのである。

アルディオン家から馬車で10分ほど走らせた所にある住宅街、その一角の古びた建物の前に立つ。
表札には「アルフレル」と刻まれていた。
古びた煉瓦造りの二階建ての館は、長い年月が染み込んだ深い色合いをしている。
庭先には色とりどりの花々が植えられた鉢植えが並び、まるで時間が止まったかのように静かに佇んでいる。
窓際に吊るされた風鈴が微かに揺れ、夏の夕暮れの余韻を涼しげに切り裂いていた。

(先生のお母さんか……どんな人なんだろう?)

期待と不安が入り交じりながら、私はミセス先生の後ろを歩く。
扉をノックすると、軽やかな足音とともに若い女性の声が返ってきた。

「はい、どちらさまですか?」

扉が開くと、そこにはミセス先生と同じ金の髪を持つ少女が立っていた。
彼女は愛らしい青い瞳を細め、小柄で華奢な体型をしているが、その眼差しには確かな芯の強さが宿っている。
柔らかな微笑みとともに彼女は軽く会釈した。

「まあ……リリィ坊や? おかえりなさい」
「ただいま帰りました、母上」

(え? この人が先生のお母さん……?)
あまりの若さに思わず目を丸くする。
年の離れた姉妹にしか見えない。

「そちらは……リアナ様ですね? 初めまして、わたしはセレナ・アルフレル、アルフレル侯爵家当主であり、リリィ坊やの母です」

セレナは上品にカーテシーをすると、透き通るような声で自己紹介をした。
その仕草には気品が漂い、同時にどこか儚げな印象を与える。

「はじめまして……リアナ・オルグード・アルディオンと申します……よろしくお願いいたします」

緊張しながらも丁寧に挨拶を返すと、セレナは目を細めて優しく微笑んだ。

「噂は聞いていますよ? とっても賢くて素敵な女の子だって。わたしも会えて嬉しいわ」

セレナがそっと私の手を取り、両手で包み込むように握ってくれた。
その掌から伝わる温もりに、安堵の息が漏れる。
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