だから俺には春が来ない。

入巣 八雲

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12 すると久米 花奈乃は確かにそう言い放った。

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「それじゃあね、しづ兄! また来るから!」

「今度は連絡よこしてから来いよー。」

 日が昇って早々、まだ肌寒さが残る時間に妹は俺の部屋を去っていった。それにしても嵐のように来て嵐のように去っていったな...。
 なんかせっかくの日曜日だったってのに昨日は色々とあって疲れた...。

 まだ1限目の授業までは結構な時間がある。琴葉を送り出すためにいつもより早起きをしたためまだ寝足りない。俺は睡魔に抗おうとはせず、ケータイのアラームをセットすると再び布団へと倒れこんだ。







 その日最後の授業である5限目を俺は気だるながらもやり過ごすと、気は乗らなかったが2日ぶりに生議部へ足を運んだ。

 少し遅い時間になってしまったし、天宮城はもう帰っているかもしれないな。候補探しくらいしかやることが無いわけだし。

 そんなことを考えながら部室まで来てみると、戸が数センチほど空いていた。

 この開き具合は......

「やっぱりか...。」

 部室へ入ってみると、天宮城がノートPCで何やら調べ物をしているようだった。

「入ってきて早々なに? 何か見透したような口ぶりをされて酷く不愉快なのだけど。」

 俺を見ていつもの悪態をつきながら、彼女はマウスを軽く操作してからそっとノートPCを閉じた。

 なんだ? いやらしいものでも見てたのか?
 ふむ、こいつの性癖がどんなものか非情に気になるとこではあるな...。

「そんな深い意味はねぇよ。ただ予想通りお前がいたってだけだ。いつから居たんだ?」

 素朴な質問を問いながら俺は定位置となった席に着く。

「3限が終わってからだから、......2時間半くらいかしら?」

 まじかよ、流石は暇潰し術免許皆伝を自称するだけはあるな...。俺なら間違いなく帰る。

「それより何故私が部室にいると予想したのかしら?」

 そこ気になるとこかよ...。まぁ答えなかった後のやりとりを考えると素直に答えといた方がいいか。

「お前いつも部室にいる時少しだけ入口の戸を開けてるじゃんか。」

「......そう、気づいていたのね。」

 そういった普通ならなんてことないところまで気になってしまうのは単に俺の癖だ。
 おそらく人とのコミュニケーションを避けている分、観察や洞察に集中力を使っているからじゃないかと、自分ではそう思っている。

「じゃあなんで私がそうしてるかは分かるかしら?」

 どうしてそこでクイズになる...。だがここも素直に答えた方が利口だろうな。

 俺はこいつとの数少ない会話から天宮城という女の性格をざっくりと分析し、見解を述べてみる。

「そうだな...。人が近づいてくる気配を感じ取るため...か?」

 この女はところどころで人間不信みたいなところが見受けられる。だから人一倍に接近してくる人間を警戒してしまって、少し戸を開けることで足音だとかをいくらか聞こえるようにしているんじゃないかと推理してみたんだが...。

「やっぱりね...。」

 何が?

 俺には彼女が敢えて疑問を感じさせるよう呟いたように見えた。

「見透かしたような口ぶりで酷く不愉快なんだが...。正解か不正解かぐらい教えろ。」

 同じことをやり返された感があったので俺も同じことを言い返してやった。

「私はあなたに不愉快だと思われることすら不愉快だけれどね。」

 やり返したらやり返し返しされた...。
 お前どんだけ俺のこと嫌悪してんの?そんで俺はなんでこんな嫌悪されながらもこいつと部活しなきゃいけないの?つかお前に俺の自我までどうこう言われる義理はねぇ。

「似た者同士ということよ...。」

 「は?」

 天宮城は虚ろな目で何故か閉じたノートPCに向かってそう語りかけた。
 それは俺とお前がってこと...なのか?
 いや待て、そんなことより俺は正解か不正解かを教えろと言ったはずだが...。それじゃ答えになってないだろ。

「それよりも候補は見つかったのかしら?部員が集まらないことにはなにも始まらないのだけど。」

 お前が堂々と言えた義理じゃねぇだろ。
 そしてまた強引に話を逸らしたな。
 まぁいいさ、どうせまた俺を試したかったとかそんなお遊びのつもりだったのだろう。

「1年に絞ってるんだしそう簡単には見つからねぇよ。大体おれはまだここに入って一週間程度だぞ。あまつさえ人望というものに縁がない俺に期待されても困る。」

「清々しいほどの自虐っぷりね。」

 そんな可哀想なものを見る目で見るんじゃねぇよ。お前の方がよっぽど可哀想な奴だと自覚しろ。

「そりゃお互い様だろ?」

 こいつも先日同じような自虐を涼しい顔で言い放ってたからな。

「そうね。」

 そう言って自重気味に笑った彼女の表情は何故か楽しそうにも見えた。
 こいつほんとに自覚してんのか?

 コンコンッ

 俺たちがそんな互いの足下をすくい合うようなくだらないやりとりをしていると、部室の戸がノックされた。
 吉川先生ならノックしたあと、間髪入れずに戸を開け踏み込んでくるはずなのだが、そうしてこない。
 吉川先生じゃないのか?

「どうぞ。」

 天宮城が許可をだして5秒ほど間が空いただろうかというところでようやく戸が引かれた。

「失礼しまーす。」

 なんとも控えめな声で入ってきたのは見たこともない女だった。
 ライトブラウンに染まったセミロングの髪に俺の鼻ぐらいまでの身長、あどけなさの残る幼い表情は男が見れば誰しも胸が熱くなるのではないかというほどの魅力を帯びていた。

 俺と天宮城は顔を見合わせた。しかし互いに覚えのない表情を確認すると再び入ってきた彼女へ顔を向ける。

「あ、あの、ここって正議部ですよね...。」

 彼女は探り探りに尋ねてきた。

「どなた?」

 この冷徹女は初対面らしき彼女にも容赦なく凍てつく瞳で質問を質問で尋ね返す。

 お前、俺と初めて会ったとき質問を質問で返しちゃいけないとか言ってなかったっけ?
 まぁでも天宮城は警戒しているのだろう。何故ならこの部屋が学生評議部の部室だと知っているのは、俺が話を聞いた限りここの学生の中では天宮城と俺だけのはずだからな。
 そして見るからに彼女はここの学生と見える。

「え?あ、私、一年の久米 花奈乃くめ はなのっていいます!」

 やはり名前を聞いても全く覚えはない。天宮城も俺と同じように見える。

「天宮城さんがいるなんて......やっぱりここが生議部だったんですね!」

 やっぱり天宮城は有名人なんだな...。
 まぁ自分で言ってたぐらいだしな。しかも頭に超までつけて。

「それで久米さん...? 何かご用?」

 天宮城はここが生議部だということを否定も肯定もせず、警戒の眼差しで彼女に用件を尋ねた。

「はい、その......私の願いを叶えてください!」

「え?」
「は?」

 彼女の突拍子もない予想外の発言に俺たちは2人して現状の理解に頭を悩まされる。
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