ああ、スライム。君はなんておいしいんだ!

空兎

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スライム、みっけ!

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食べる。食べる。食べる。それが、俺の全てだ。

昔から食べることが好きだった。おいしいものを食べると幸せになる。人の三大欲といわれる食欲、睡眠欲、性欲のうち俺にとって大切なのはただ、ひとつ。食欲だ。

色々な物を食べた。ゴブリンもコボルトもオークも、ワイバーンもクリスタルドラゴンも龍王も色々な魔物を食べた。

どれも美味しくて幸せな気持ちになれた。だけれども俺は知らなかった。それらのものよりも最高においしい食べ物があるということを。

それは割とよく食卓に並ぶ素材だった。捕まえるのが簡単だからよく子どものおやつ代わりにもなっている。

ただ、俺の生まれ育った村にはあまりいなかったことと機会に恵まれず今まで口にしたことがなかった。ああ、今俺は思う。はっきりと断言できる。

今までそれを食べることができなかったのは人生を損していたと。

「というわけでミツバ、俺は冒険者になるよ」
「全くもって意味がわからないのです。どういうつもりなのです?」

俺の親友件恩人であるミツバに冒険者になることを伝えるとほんの少し眉間に皺が寄った。すごい、いつもほぼ無表情であるミツバから呆れと困惑が伝わってくる。よっぽど衝撃を受けたのだろう。

正直俺の言いたいことはもう全て言った感はあるのだが、我が友が理解できないというのなら説明するのもやぶさかではない。俺の熱い思いをしかと聞いてくれよ。

「好きな物を好きなだけ食べる為には冒険者が手っ取り早いと思ったんだ」
「そんなことしなくともエアトの好物は何処にでも売っているのです。わざわざ冒険者になる必要があるのです?」
「いや、でも最近店で品薄なんだよ。値段も高騰しているし、俺は1日に10個は食べないと落ち着かないのにないなんて本当につらいわ。というわけで不足分は自分で狩りまする」
「…きっと品薄になったのは1日に10個も食べる奴がいるからなのです」

そしてミツバがふーっと息を吐く。そしてガラス玉みたいに透き通った目で俺を見上げる。

「そんなに気に入ったのですか?冒険者になるくらいに?」
「うん、ないと生きていけない」
「驚きなのです。だって、ただのスライムなのに」

ふーっと再びミツバが息を吐く。

そう、俺は冒険者になる。それは最高で最上で至高の食べ物、

スライムを捕まえるためだ。

スライムはとてもおいしい。あのプルプルとした食感を口の中に入れると、滑らかに蕩けて舌を楽しませてくれる。

それに堪らず歯を入れるとプチプチと筋を切るような感覚があり、甘い蜜をかけて食べるとこの世のものとは思えない幸福感を得ることができる。スライムはとてもおいしい。

スライムが好きだ。愛している。スライムを一生、お腹いっぱい食べ続けていたい。

「……冒険者は新人の3割が一年以内に行方不明になる職業なのです。エアトは錬金術師です。今まで通り下級ポーションを売った方が良いのです」
「だってそれだけじゃ足りないんだよ。大丈夫、スライムしか狙わないから。俺はスライムハンターになる!」
「それ、冒険者になる必要あるのです?」

ミツバは首を傾けていたが、『…世の中自己責任なので勝手にするのです』と賛成してくれた。放置プレイともいう。何はともあれ我が友ミツバに俺は自分が冒険者になることを伝えたのだった。

というわけで早速冒険者ギルドに行って手続きをする。別に難しいことはなにもない。冒険者ギルドは万年人手不足だからね、犯罪歴がなければ基本的に誰でもなることができる。

……何故万年人手不足かは聞いてはいけない。世の中には不幸な人がたくさんいるということなのだよ。

ギルドカードをもらって道具袋と小ナイフを持って森へ出かける。スライムを狩るのは勿論なのだが俺の本業はポーションを売ることなのでついでに良さげな薬草があったら採取しておこう。スライムを買うためにお金はいくらあってもよい。

森に着いた。スライムは水辺によくいるらしいから水辺を探す。だけど土地感ないからか水辺は見つからない。仕方ない、森の中のスライムを探そう。

スライムを探す。スライムは見つからない。薬草は見つかった。採取する。

スライムは見つからない。薬草を摘む。スライムを探す。薬草は見つかった。

……あれ?スライム全然いなくない?そんな珍しいモンスターではなかったと思うんだけどなんでこんなに見つからないんだろ?

あれか、スライム食品の値が高騰しているから乱獲されているということか?おのれ、いったいどこのどいつがそんなにスライムを食べまくっているというのだ。許さん、俺の貴重なスライムを!!

俺のスライムを奪った者にふんぬ、と怒りを抱きながら、さらに探すこと30分。この森に来てからはだいたい2時間くらい経った頃、ついに俺はその姿を目にした。

丸いフォルムに頭に尖った小さなツノ、手のひらに収まりそうなほど小さな水色のゼリー状の生き物がノソノソと草の中を歩いていたのだ。

うおおおっ!!スライム、みっけぇぇー!!

他の人に取られる前に全力ダッシュでその塊にダイブする。手の中に柔らかな感触、よっしゃー!スライムゲットだぜ!

ああっ!ここまで来るのにとんでもなく苦労したよ!まさかスライム1匹に2時間もかかるなんて!手の中の柔らかな塊に頬ずりする。では早速!

スライムに噛り付いた。だが歯が通らない。口の中で逃げる。逃げる。むにむに。

おまけに味がない。感触はおいしいのだがなんというかゴム噛んでいるようで味気ない。あれ?スライムって甘くて濃厚な味がするんじゃなかったつけ?これ本当に食べもの?

いや、落ち着け俺。甘くておいしいのはスライムゼリー。本物のスライムではなくスライムをコトコト煮詰めて作ったゼリーなのだ。スライム自体は甘くないのだ。

それにいくらスライムが好きだからといってそのまま丸かじりするのは紳士として間違ってますね。ちゃんと料理してから美味しくいただきましょう。

じゃあこのスライムにとどめを刺してスライムゼリーを作ろうと思ったが、ふと留まる。

俺はこのスライム1匹を捕まえるのに2時間もかかった。ということは10個集めるのに20時間かかるってこと?そんなの1日が終わってしまうじゃないか!

そう考えるとこのスライムをスライムゼリーに変えるのは惜しい。確かスライムは自己分裂して増えるモンスターじゃなかったっけ?

つまり1匹が2匹に、2匹が4匹に、4匹が8匹に、と行った具合に倍々に増えていくということ?

え、それもう一生スライムには困らないじゃん。よし決めた。このスライムは飼おう。そんでもってどんどん増えてもらおう!

だがこのまま手のひらでふるふる揺れているスライムも放っておいたらそのうち逃げられてしまうだろう。

うん、じゃあテイマーになろう。モンスターテイマーになったらモンスターを使役できるんだよね?スライムを使役してスライム増やしてスライム食べる。よし、そうしよう。

というわけで街に戻ってテイマーのスキルを買いに行くことにする。その際スライムは空いていた薬瓶に入れたのだが意外とあっさり入ってくれた。なんかあんまり抵抗などない感じ。ん?懐いているのか?かわいい奴め。スライムは美味しいだけではなく可愛くもある。

街に戻ってスキル屋さんでテイマーのオーブを買った。店のおっさんに『本当にテイマーになるのか?』と三回くらい念を押されたが『俺だけのスライム天国を作るために必要なので』というと納得された。というか諦められた。

テイマーのオーブは人気がないから安くしといてやると言われて買ったのにむっちゃ高かった。ほぼ有り金全部突き込む羽目になった。不人気のスキルでもこんなに高いのかよぉ、つらい。今日はもうスライムゼリー買えないです、しくしく。

だけれどもこれからは俺にはスラりん(命名)がいる!スライムがいる生活か、なんと夢のある生活なのだろう。

家に帰って早速オーブ使ってスキルを習得する。これでテイマーになったはず。ということで早速スラりんに向かってスキルを使う。

「スラりん、《‐テイム‐》!」

そうスラりんに向かって叫ぶとなんとなく成功した感覚があった。スラりんがすりすりと俺の手に擦りついてくる。かわいい奴め。お腹すいたけど食べるのはやめておこう。

その代わり買い置きのスライムゼリーを食べ至福に浸る。

水色のゼリーがスプーンに掬われ口の中へと入った瞬間、世界が輝く。果実水で煮込まれたのだろうスライムは、甘くて濃厚なのに上品な味わいである。スライムは浸透性が高く果物の味をよく染み込ませているのだ。

おまけに感触がこよなく良い。滑らかでプルプルとしているのに歯を立てた瞬間ぷちぷちとほどけていく。

ああ、ユートピアはここにあったのだ。俺は今天国にいます。

そんな感じでスライムゼリーをパクパクと口に運んでいる時にふと思った。

スラりんは何を食べるのだ?

森にいたってことは草や木の実を食べるのか?そう思ってスラりんに薬草を与えてみる。食べた。どうやら草を食べるというのでいいらしい。

俺はスライムゼリーを食べてスラりんは薬草を食べる。たくさん食べてどんどん大きくなってねスラりん。これからどんどんスライムが増えていくのだろう。実に楽しみだ。

こうしてスライムがやってきての1日目が終わった。
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