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王都を目指して(20〜)
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さて、ゴブリンを追い掛けて小さな森に入ったミハルたち。
すぐに巣を見付けて軽く一掃するつもりだった。ところが、そうはならなかった。突き止めたゴブリンの巣の規模があまりにも大きかったためだ。その巣はもはや「巣」と呼べるものではなく、森の中の岩山を掘削して築き上げたらしい「要塞」というべき代物であった。
岩山の表面には器用に斜面を掘り下げて作った道が通っており、その道沿いに全部で四つの洞窟がある。洞窟の大きさからして、オークよりもさらに大きな体躯の持ち主が居るであろうことが推測できる。また、洞窟の内部に松明が見えることから、火の魔法を使うゴブリンメイジの存在も確実である。
周囲で見張り役のゴブリンがうろついている。オークキングか、他に役割分担をさせられる知能と統率力を有している個体が居る証拠だ。
とてもこの人数で挑める相手ではない。ミハルと兵士らは、要塞を見た瞬間に撤退を決めた。
──が、同時に森に潜んでいた一体のゴブリンが耳をつんざく雄叫びを上げた。
森の中を兵士らと逃げるミハル。馬はよく走っているが、怯えからか御し難い。さらに森の中は障害物が多く、ついに先頭を走っていた兵士の馬が転倒し、兵士が投げ出された。
ミハルは他の兵士の制止を聞かずに馬から飛び降りると、倒れた兵士に駆け寄った。すぐに他の兵士らも集まって防陣を形成する。
一団は、数十体ものゴブリンやオークに取り囲まれた。馬の殆どは逃げていってしまった。転倒した馬が三体のホブゴブリンに殴り殺されるのが見えた。
杖を握りしめるミハルの目に涙が浮かぶ。落馬した兵士を見捨てていれば、他の兵士たちは助かったかも知れない。
(ごめんなさい、皆──)
ミハルの頬を伝った涙が地面に落ちる──その瞬間。
強烈な気配が途轍もない速さで近付いてきた。
刹那、空が黒に染まった。少なくとも、ミハルや兵士らの目にはそうとしか映らなかった。
ドン、というような、とにかく凄まじく恐ろしい破壊音があった。吹き荒れる猛烈な暴風に立っていることが出来ず、人もゴブリンたちも一斉に宙に飛ばされる。さらに、弾かれた礫や木片が容赦なく襲いかかり、ごく短い時間だったとはいえ竜巻に巻き込まれたかと思うような酷い状況だった。
やがて風が止み、恐る恐る目を開けたミハルが見た光景は想像を絶していた。そこにあったはずの森が、大勢の魔物ごと消え去っていたのである。
木々が生えていた一帯は大きく──それも干上がった泉かと思うほどに大きく地面が抉れている。また、何かが抉り取った地面の縁に生えている木々は、普通の火ではありえない高温で焼かれたと見えて、すっかり炭と化している。
「なんなのよ、これ……」
と、ミハルが呟いた直後に、今度は少し離れた場所でさっきと同様の音が響き渡った。その方向に目をやると、濃い土煙が立ち昇っているのが見える。オークキングが居ると思われる要塞のあった方角だ。
「ミハル! 手を貸してくれ!」
兵士の声に我に返ったミハルは、散り散りになって逃げようとしていたゴブリン数体を火の魔法で討伐した。兵士たちも次々と近くのゴブリンやホブゴブリンを斬るが、結局五体ほどは取り逃がしてしまった。
しかし、他に数十体も居た群れは何かの一撃のもとに死体すら残らず消えたのだ。自分たちはこれで助かったのだろうか、と薄ら思いつつ、今さら恐怖のあまり全身の震えが止まらない。
二頭の馬が泡を吹いて倒れている。礫に当たったからではなく、あの気配のせいだろう。
(戻ろう……、戻らなくちゃ)
ミハルは、放心状態の兵士らになんとか声をかけて歩きはじめた。
一行が爆走してくるグランツと合流したのは、それから間もなくのことであった。
すぐに巣を見付けて軽く一掃するつもりだった。ところが、そうはならなかった。突き止めたゴブリンの巣の規模があまりにも大きかったためだ。その巣はもはや「巣」と呼べるものではなく、森の中の岩山を掘削して築き上げたらしい「要塞」というべき代物であった。
岩山の表面には器用に斜面を掘り下げて作った道が通っており、その道沿いに全部で四つの洞窟がある。洞窟の大きさからして、オークよりもさらに大きな体躯の持ち主が居るであろうことが推測できる。また、洞窟の内部に松明が見えることから、火の魔法を使うゴブリンメイジの存在も確実である。
周囲で見張り役のゴブリンがうろついている。オークキングか、他に役割分担をさせられる知能と統率力を有している個体が居る証拠だ。
とてもこの人数で挑める相手ではない。ミハルと兵士らは、要塞を見た瞬間に撤退を決めた。
──が、同時に森に潜んでいた一体のゴブリンが耳をつんざく雄叫びを上げた。
森の中を兵士らと逃げるミハル。馬はよく走っているが、怯えからか御し難い。さらに森の中は障害物が多く、ついに先頭を走っていた兵士の馬が転倒し、兵士が投げ出された。
ミハルは他の兵士の制止を聞かずに馬から飛び降りると、倒れた兵士に駆け寄った。すぐに他の兵士らも集まって防陣を形成する。
一団は、数十体ものゴブリンやオークに取り囲まれた。馬の殆どは逃げていってしまった。転倒した馬が三体のホブゴブリンに殴り殺されるのが見えた。
杖を握りしめるミハルの目に涙が浮かぶ。落馬した兵士を見捨てていれば、他の兵士たちは助かったかも知れない。
(ごめんなさい、皆──)
ミハルの頬を伝った涙が地面に落ちる──その瞬間。
強烈な気配が途轍もない速さで近付いてきた。
刹那、空が黒に染まった。少なくとも、ミハルや兵士らの目にはそうとしか映らなかった。
ドン、というような、とにかく凄まじく恐ろしい破壊音があった。吹き荒れる猛烈な暴風に立っていることが出来ず、人もゴブリンたちも一斉に宙に飛ばされる。さらに、弾かれた礫や木片が容赦なく襲いかかり、ごく短い時間だったとはいえ竜巻に巻き込まれたかと思うような酷い状況だった。
やがて風が止み、恐る恐る目を開けたミハルが見た光景は想像を絶していた。そこにあったはずの森が、大勢の魔物ごと消え去っていたのである。
木々が生えていた一帯は大きく──それも干上がった泉かと思うほどに大きく地面が抉れている。また、何かが抉り取った地面の縁に生えている木々は、普通の火ではありえない高温で焼かれたと見えて、すっかり炭と化している。
「なんなのよ、これ……」
と、ミハルが呟いた直後に、今度は少し離れた場所でさっきと同様の音が響き渡った。その方向に目をやると、濃い土煙が立ち昇っているのが見える。オークキングが居ると思われる要塞のあった方角だ。
「ミハル! 手を貸してくれ!」
兵士の声に我に返ったミハルは、散り散りになって逃げようとしていたゴブリン数体を火の魔法で討伐した。兵士たちも次々と近くのゴブリンやホブゴブリンを斬るが、結局五体ほどは取り逃がしてしまった。
しかし、他に数十体も居た群れは何かの一撃のもとに死体すら残らず消えたのだ。自分たちはこれで助かったのだろうか、と薄ら思いつつ、今さら恐怖のあまり全身の震えが止まらない。
二頭の馬が泡を吹いて倒れている。礫に当たったからではなく、あの気配のせいだろう。
(戻ろう……、戻らなくちゃ)
ミハルは、放心状態の兵士らになんとか声をかけて歩きはじめた。
一行が爆走してくるグランツと合流したのは、それから間もなくのことであった。
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